東京汚穢合戦

宮崎駿監督が、トイレの話を構想していたのをご存知ですか?
その名も『東京汚穢(おわい)合戦』。いわゆる、うんこのお話です。舞台は江戸時代、貧乏長屋の便所にある肥やしをめぐる物語で、みんなが笑って楽しめる短編作品を考えていました。



これは是非、ジブリ美術館の短編として作ってもらいたい作品です。

それでは、1997年にNHKで放送された『トップランナー』に宮崎駿監督が出演したときのお話をご紹介します。

江戸のうんこのリサイクル『東京汚穢合戦』

宮崎:
20億円、30億円って金を掛けて、いつでも回収しなければいけないっていうのじゃなくて、うんと僅かなお金だけで好き勝手なことやって、「回収ゼロで気持ち良い」とか、そういうことをやってみたくなるんですよね。

――楽しみながらやれそうなモチーフはありますか?

宮崎:
いっぱいありますよ。映画館に掛けたって絶対客が来ないなっていうやつが。

――そういうのを教えてください。

宮崎:
『東京汚穢合戦』とかね。汚穢ってわかります? うんこですね。
江戸時代の本を読むとですね、便所の肥やしを汲むっていうのは、汲むほうがお金を払ってるんですよ。お百姓さんが。大事な肥料だから。
それを貧乏長屋だと、長屋の家賃の収入よりも、その汚穢を汲むときに貰うお金のほうが高かったんですよ。
うんこ製造機を置いておくようなもんなんですよ。そういう時代があったんです、本当に。その肥やしを誰が汲むのか、千葉のお百姓と、多摩のお百姓がモメたりして。
ぼくらの時代でも、季節になると汲みに来るお百姓さんが、大根を持って来てくれたり、「汲ませてもらって、どうも」って。それが、あるとき要らないモノとして、肥やしじゃなくなったんです。化学肥料を使うようになったから。それで、海に流したりし始めたんですね。
便所の歴史とはどういうものか、ということも含めてですね、実に短い短編で「ガハハ」と笑いながら観て、「あぁ、そうだったのか」っていうくらいの映画は存在し得るかとか。結論としては、存在し得ないかもしれないですよ(笑)。
でもそれを、化学映画とか教育映画として作ると、お役人といろいろ相談しなければいけないとか、学者さんの意見を聞かなきゃいけないとか、面倒くさいでしょう。だから、「ギャハハ」と笑いながら観るようなもので作れないかな。そういうのを作って、回収ゼロって。小気味良いっていう。
そういう話が、けっこういくつかあるんですよ。こんなこと話してると、一晩中喋ってることになりますから。これを本当に作れるかどうかは別にして、そういうことは今までプロダクジョンに属しているときには、念頭に浮かんでも真面目に検討する気は起きないですけど、やって良いんだっていう。
そういうことを実現したほうが、ぼくらの年齢の役割からいったら、ハラハラ、ドキドキをこんなジジイになってね……。それは、若い人がやれば良いじゃないですか、冒険活劇なんてのは。

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