7月4日(金)より3週間限定で全国リバイバル上映される『海がきこえる』。この度、著名人14名の推薦コメントが発表されました。
岩崎太整(音楽家)
1993年5月5日の夜、中学2年の僕は初放送を見逃した。
正確には途中でチャンネルを変えてしまった。
杜崎拓と武藤里伽子の悩みが、焦りが、青春そのものが、当時の僕にはまだ理解出来なかった。
それから30余年たった今でも、彼らは未だに僕よりも年上に感じる。
まるでサイダーの泡が弾けるような瑞々しさを湛えたまま、いつでも僕をあの夜に連れて行ってくれるのだ。
かつてマルセル・プルーストが書いた、紅茶に浸したマドレーヌ。
本作は僕にとって、いつの間にかあのマドレーヌになってしまっている。
枝 優花 (映画監督・脚本・写真家)
もう戻らないから美しくて愛しいなんて、嫌だ。
本当に大切だったら思い出なんかにしちゃいけない。
海がきこえたそのときに抱きしめないと
今は今しかないんだよと
この映画を観てすぐさま思い出美化委員会へ
反旗を翻したいと思ってしまった。
まあそれも含め結局は監督の掌の上で
転がされているのでしょう。
岡本真帆 (歌人・作家)
狭い世界で見えなかったものが、時を経てやわらかく輪郭を変えてゆく。たった一晩の、めちゃくちゃで不器用な時間が、後になって“特別”になる。再会のシーンが胸を打つのは、記憶と解釈の“変化”を私たちも知っているから。
小川紗良 (文筆家・映像作家・俳優)
「ひどい東京旅行になっちゃったわね」と微笑んでみせる里伽子のことが、わたしは大嫌いで、大好き。吉祥寺駅のホームに立つたび、ふと彼女のことや、過ぎ去りし日々のことを思い出してしまう。そういう存在がいる人には、きっと刺さる映画です。
小原晩(作家)
言葉というものは、往々にして間に合わない。まして小さな混沌となると、なおさら。いくつもの気配がほどけもせずに折り重なって、なのに、空気はさわやかである。若さというのは、そういうものなのかもしれない。それがまた見るに耐えないほど頼りない。そうして私は、なぜかしら、しんみりとした。
カツセマサヒコ(小説家)
東京の街ですれ違う男女を描こうとすると、全て『海がきこえる』になってしまう時期がありました。
時が経っても色褪せない、圧倒的な魅力を放つ青春譚。
このストーリーは、僕が考えたことにしたかったです。
SAITOE (イラストレーター)
高校生という子供と大人の狭間の時期は人生の中で一番もどかしいと思っていて、「海がきこえる」はまさにこのもどかしさを巧みに描いているな、と。そして制作期間が限られている理由で静止画の場面が多いのも逆にこの作品のノスタルジックさを強調しており、なんだか自分も同じ経験をしてきたかのような懐かしさを感じる事ができる。
柴田ケイコ (絵本作家・イラストレーター)
この映画は「距離」そのものから生まれるストーリーでした。その舞台が「高知」「東京」。あの携帯もネットもない時代背景に10代高校生が感じる地方から東京への憧れや嫉妬、東京から感じる地方への隔たり。親との距離。これから大人世界へと進む距離。友人との距離。そして好きな子との距離。いろんなものが繊細ではがゆいその距離を高校生の目線で表現している物語でした。あの頃のあの頃ではないと感じないいろんな感情。今となれば大切な足跡、そんな距離を思い起こしてくれる物語でした。
TaiTan(ラッパー)
過去は強すぎる。
だから警戒していないと勝手にピカピカと輝き出す。
過去を懐かしみだしたら老いのはじまりで、
過去を美化し出したら終わりのはじまり、といつも思う。
が、そんな過去とのじゃれ合いもこの映画をみてる間は、許されたいし、楽しみたくなる。
そういう作品。あまりに魅力的。
玉置周啓 (MONO NO AWARE)
こんな高校生活を送った覚えはないのに、どうしてか懐かしく思えてくるのは、この映画に描かれた影が濃いからだ。思い出の影はいつも濃い。育った風土や青春の景色がどれほど違っても、影だけは同じように濃い。午後の教室、川沿いの通学路、知らないビーチ、どこをとっても影に目が行く。俺には海が、影からきこえた。
はくる (バー『西瓜糖』オーナー)
この映画のヒロインである里伽子は、無難に弁えていくことよりも感情を直視することを選び、惨めでも手触りを求める葛藤で体が動き、誰かにお茶目な皮肉だって言えて、時間が掛かっても遠くにあっても本当は何かを信じたくて、異物となってしまった自分を自分で救いに行ける女の子。彼女の不器用な切実さが、ひりつくような孤独をはらんだ美しさが、映像の中で潮風に吹かれてなびいている。
濱田英明 (撮影業)
1990年代前半に17歳だった拓と里伽子とはほぼ同世代だ。だから、あの時代の空気感が手に取るように分かる。映画の中で確かにその時を生きている二人の瑞々しい存在は、30年以上たった今でもずっと眩しいままだ。「海がきこえる」は時代が変わっても新しいままなのに、不思議といつまでも懐かしい。
堀 未央奈 (俳優・モデル)
運命はきっとあるのだと思う。離れてくっついてまた離れて、初めはどうしたらいいかわからないのに気づけばその不器用さと冷たさが愛おしくて分かりたくなる。そうして大人になっていく。私がこの作品を何度も何度も観たくなるのは複雑なのにまっすぐで、そんな生き方を忘れたく無いからだと思います。上手に生きる必要なんてない、ただ大事なことに気づければいいのだと。
三宅香帆 (文芸評論家)
① 30年前の作品なのに、むしろいま一番お洒落な映画!
② 気の強い女の子と過ごす夏が、いちばん輝いて見える映画。