海がきこえる

スタジオジブリが、若手の台頭を期待して、若手スタッフを中心に制作した『海がきこえる』という作品があります。
本作は、1993年5月5日16時に日本テレビで放映された、ジブリ初のテレビ用作品です。



これまでに放映されたのは、たったの2回で、極端に少ないため、ジブリファンの中にも観たことがない人や、存在自体を知らない人もチラホラ見受けられます。
ということで、あまりにも知名度が低いので、本記事ではこれでもかと『海がきこえる』をご紹介いたします。

実は高視聴率の『海がきこえる』

本作がなぜそれほどまでに放映回数が少ないのかというと、まず72分という尺の短い作品であったことや、未成年が喫煙や飲酒するシーンが描かれているという、近年特有の問題もあって金曜ロードショーでは扱いにくいようです。

海がきこえる

他のジブリ作品と同様にコンスタントに放映されていれば、同じように多くの人に愛される作品になっていたと思われるので、残念でなりません。

ちなみに、1回目の放送では視聴率17.4%を記録しています。16時から放送されたことを考えると、かなりの高視聴率です。その後は、2011年に19時から放送され、このときは7.2%でした。

原作は氷室冴子の同名小説

海がきこえる

本作は、等身大の高校生が主人公で、『耳をすませば』よりも先にファンタジー要素のない学生の物語を描いた作品です。

氷室冴子さんが「月刊アニメージュ」で連載していた同名小説が原作で、挿絵を描いていたのはアニメでも作画監督を務めていた近藤勝也さん。アニメージュの1990年1月号から1992年2月号にかけて、全23話が連載されました。詳しくは、こちらのページをご覧ください。

海がきこえる

当時、集英社お抱えの流行作家だったという氷室さんを、徳間書店の編集者・三ツ木早苗さんが引っ張り込んで、アニメージュでの連載を勝ち取ったそうです。鈴木敏夫さんの話によると、三ツ木さんも氷室さんも大のお酒好きで、アルコールの力で繋がったのだとか。

そして、三ツ木さんは、当初からスタジオジブリでアニメーション化することを目論見、氷室さんに連載のお願いをしていたといいます。

そんなことを露知らず挿絵を描いていたのは、近藤勝也さんです。

すべては雑談から始まった

海がきこえる

スタジオジブリでは、宮崎駿監督と高畑勲監督を中心に作品を発表してきましたが、徐々にお二人の年齢が高齢化していることもあり、鈴木さんは「社内の若手スタッフに、何か1本制作を任せてみますか」と、宮崎監督に提案します。それはちょうど、『紅の豚』のダビング作業中の雑談から始まったといいます。

宮崎監督は、『海がきこえる』がどんな作品かよく分かっていなかったそうですが、『紅の豚』の制作で疲れ果てていたため、よく分からないままジブリの次回作として了承。無事に、ジブリの次回作『海がきこえる』の制作が決まりました。

本当は作りたくなかった近藤勝也

海がきこえる

ところが、作画監督を打診された近藤勝也さんは、アニメーション化には反対します。こんなアニメーションに不向きな作品をなぜ作るのだと。さらに言ってしまえば、制作期間が短かったこともあって、そんなインスタントに作るべきではないと反対します。

しかし、やらないのであれば他の人間を探すと言われ、他人に荒らされるくらいなら自分でやる、と近藤勝也さんは引き受けることになります。

この辺の勝也さんの恨み節エピソードは、『海がきこえる』のDVD・Blu-rayの特典映像で見ることができます。めちゃくちゃ面白いので、お勧めです(笑)。

青春アニメの名手・望月監督

海がきこえる

そして、いよいよ制作が始まった『海がきこえる』。監督には、ジブリ外から望月智充さんが招聘されました。望月監督は、青春モノのアニメーションとして『めぞん一刻 完結篇』や『きまぐれオレンジ☆ロード あの日にかえりたい』を手がけており、鈴木さんにその手腕が評価され、抜擢された形となります。

監督:望月智充、作画監督・キャラクターデザイン:近藤勝也、美術監督:田中直哉、脚本:丹羽圭子(当時は中村香名義)、プロデューサー:高橋望。主要スタッフの5人が揃い、『海がきこえる』の制作が始まります。今ではベテランで、重鎮ともいえる5名ですが、この当時は若手で、クレジットにも「スタジオジブリ若手制作集団」と記載されました。

ジブリ作品のプレッシャー

海がきこえる

本作は、スタジオジブリとしては初めて宮崎駿監督と高畑勲監督が関わることなく制作された作品となりました。
鈴木さんも、宮崎監督が若手スタッフに口出しをしないよう、『風の谷のナウシカ』の漫画を描くよう仕向けて、制作現場から遠ざけていたそうです。

さて、制作現場のほうですが、望月監督は元々スタジオジブリ出身ではないため、宮崎駿・高畑勲両監督のお膝元で作品を作ることに、そうとうなプレッシャーを感じていたそうで、十二指腸潰瘍を患ってしまいます。ある日、貧血で倒れて、半日ほど気絶してしまったそうです。その後入院し、2日後には現場復帰したものの、病院で点滴を受けながら作品の完成を迎えました。

原作との違い

海がきこえる

出来上がった作品はというと、72分という中編だったこともあって、原作のエピソードをすべて盛り込むことは出来ず、若干ストーリー展開が異なっています。
原作においては、高校生から大学生にいたるまでの話が展開されていますが、アニメ版ではすべてを描くことは困難です。

望月監督は、当初より原作第一部の高校生編か、第二部の大学生編のどちらかに主軸を置いて、ストーリーを展開させることを考えていました。
そこで、作画監督の近藤勝也さん、プロデューサーの高橋望さん、脚本の丹羽圭子さんを交えた話し合いの結果、高校生編を中心にしたストーリーにして、大学生編の一部を加えた内容で構成することが決まりました。

海がきこえる

ちなみに、原作の『海がきこえる』も、アニメージュに連載されていたものと、書籍化されたものでは、内容に若干の違いがあります。
本作は、アニメ版、小説アニメージュ版、単行本、文庫本と、それぞれに違いがあるので、コンプリートすることをオススメします。

宮崎駿の対抗心

この完成した作品に、宮崎駿監督はどのような感想を抱いたのかというと、少し物足りなさを感じていたようです。
というのも、この作品は極めて現実的で、繊細な心の動きを丁寧に描いているため、理想を掲げて「こうあるべし」を描く宮崎駿監督とは、対極の作風なのかもしれません。

アニメージュ特別編集『耳をすませば』ガイドブック

そういった、自分に作れないものを作られた悔しさと、自分だったらこうするぞという、クリエイター魂に火がついた宮崎駿監督は、同じく青春モノの『耳をすませば』の制作に乗り出すことになります。
実は、『耳をすませば』という作品は、『海がきこえる』に触発されて生まれたのです。

声優と主題歌

また、『海がきこえる』は高知が舞台ということもあって、高知県出身の島本須美さんと渡部猛さんが、声優の方言指導として参加しました。
共に、方言指導のほかにキャラクターの声も担当していて、島本さんは美香を、渡部さんは校長先生を演じています。

海がきこえる

そして主題歌は、武藤里伽子役の声優を務めた坂本洋子さんが歌う、『海になれたら』が使用されています。当初、主題歌は中島みゆきさんの『傷ついた翼』が検討されていたそうですが、楽曲使用料の問題で実現しませんでした。
しかし、『海になれたら』はファンの間でも、とても評判の良い曲で、今から考えると、坂本さんが歌うこの曲以外考えられないほどマッチしています。

ファンからすると、アニメーションから音楽まで、すべて素晴らしいのが『海がきこえる』なのです。

ベテラン制作集団へ

『海がきこえる』のDVD・Blu-rayに収録された特典映像の座談会で、望月智充監督は最後に「またこの5人で作れないかなぁ」と締めくくっています。
今やすっかりベテランとなった望月監督や、近藤勝也さん、田中直哉さん、丹羽圭子さん、高橋望さん。当時は、「スタジオジブリ若手制作集団」とクレジットされた面々ですが、今度は「スタジオジブリ ベテラン制作集団」として、『海がきこえる』の続編を制作してもらえることを願っています。

スタジオジブリさん、クラウドファンディングを立ち上げて、『海がきこえる』続編の製作費を募ったら、あっという間に集まると思いますよ!

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