THE ルパン三世 FILES ルパン三世全記録押井守監督が、劇場版『ルパン三世』の監督を務める予定だったのをご存知でしょうか。
宮崎駿監督の『ルパン三世 カリオストロの城』公開から5年後の1984年。テレビシリーズ『ルパン三世 PartⅢ』の放映に伴ない、第3作目となる劇場版『ルパン三世』の製作が決定しました。



当初は宮崎駿監督に、再び監督要請が行きました。しかし、宮崎監督はこれを拒否して、当時宮崎監督の事務所「二馬力」に居候していた、押井守監督を推薦します。

この頃、押井監督は『うる星やつら』で評判となり、「天才少年」と噂されていたこともあって、すんなりと監督就任が決まります。公開時期まで決まり、劇場ではチラシが配布され、押井監督の『ルパン三世』が告知されました。

しかし、ここまで進みながら、押井版ルパンは頓挫してしまいます。その理由は、押井監督が拘った脚本によるもの。
プロデューサーの理解を得られず、押井監督は降板させられてしまいます。その内容とは、いったいどんなものだったのでしょうか。

現実認識にも影響を与える虚構の世界を作りたい

「アニメージュ ’84年10月号」には、押井守版『ルパン三世』製作決定を記念した特集が組まれています。
押井監督のインタビューでは、どのようなルパンを描こうとしているのか、語られています。まだ、製作が決まって間もないころのインタビューです。

押井守版ルパン三世

――今回のルパンで何を描こうとしているのか教えてください。

押井:
今回の場合は、テーマがとても抽象的なものなのでそれをことばで説明するのはむずかしいのですが……ぼくはいまの時代を射程に入れて、壮大な、現実意識にまでくい込めるような虚構の世界を作りたいと考えています。

(中略)

ぼくが作りたい映画っていうのは、実際にその映画が観客の現実認識にも影響を与えるようなすさまじい力のある、あふれてくるような虚構なんです。

(中略)

今の時代は国をあげて泥棒しているような状況がいわばあたりまえになっている。たとえば日本の商社は、いらないものを売り必要なものをぶんどってきている。

(中略)

こういった(守るべき社会規範=観念がない)時代に、泥棒は何を盗んだらいいのか。それはとても難しい問題になる。『カリオストロ』みたいに女の子の心を盗むというような古典的な方法は1回しか通用しないし。

演じる人間ルパン。

後に、押井守監督が繰り返し描くこととなる、「虚構」というキーワードが、ここでも出てきました。押井版ルパン三世は、いったい何を盗もうとしていたのでしょうか。

「アニメージュ ’84年10月号」では、押井守×宮崎駿×大塚康生の座談会が、その一部が語られています。

押井守版ルパン三世

宮崎:
こんどの映画の話が「やらないか」ってぼくのところに来たから、もうぼくはできないから、押井守が適当だろうといったわけです。偶然、横にいたしね(笑)。それに「ルパン」という企画は、ふところが深いんです。だから、何かやりたいことももっている人間とうまく合体すると、とんでもないことができるのじゃないかという気がしましたからね。

――なるほど。で、押井さんに話がいったと。

押井:
ええ。さっき宮崎さんがいったとおり「ルパン」という話は、非常に底が深いというか、企画としてはいろいろな物をもちこんでも成立する世界なんです。

(中略)

「ルパン」っていうんはもう、13、4年やっているわけだけれど、それぞれの段階で様変わりするチャンスはいくらでもあった。たとえば、『カリオストロ』なんかはそういう意味でいうと成功している。だから、自分が『ルパン』の中でやりたいと思うこと。またやれるだろうと思うことを見つけられれば、新しい自分なりのルパンは作れる。いいかえれば、いまの時代を生きているルパンが見えてくればやれるとぼくは考えているのですけれどね。

(中略)

大塚:
ルパンっていう人は、演じてる人なんですよね。ほんとうはこういう人間なんだけど、仮に悪ぶって見せるとか、仮に純情そうに見せるとか、別の人間を演じているわけです。『カリオストロ』でルパンがクラリスに見せた距離をおいたやさしさ――ほんとうは好きなんだけど中年の分別で、その気持ちを隠して去っていくやさしさ。あそこでもルパンは演じてるわけだから、それをちゃんとおさえて作ってほしいと思いますね。

(中略)

――ルパンを時代に斬りこませるにはどうしたらいいのかってことになると思うのですけど。

押井:
そこでひらめいたのが、さっき大塚さんがいった「ルパンは演じている男だ」っていうことなんです。大塚さんとぼくのとらえ方はちょっとちがってるかもしれないけど。……ルパンがルパンである必須条件は非常に古典的だけど、変装なんですよ。この変装ってことを、今回はルパンのテクニックとか特技としてではなく、世界の本質とルパンが斬り結んでいく際の、ひとつの糸口として考えているんです。

(中略)

宮崎:
時代ということを考えていくと、もうひとつむずかしい問題がでてくるね。つまり、いまのこの世界でルパンに何を盗ませるのか。こういう世界で、なにを盗んだら犯罪と考えるのかなっていうのは、むずかしいですね。

(中略)

押井;
うまく伝わるかどうかわからないけど時代そのものを盗む、ってことだとぼくはとらえてる。そして、それが盗みきれるかどうか、宮崎さんのことばでいえば最後まで突破しきれるかどうかっていうことが、いまの時代の問題だと思ってる。だから、今回のルパンでは、そのへんのところ、つまり、最後まで突破できる人間いるのか、あるいは突破することがどういう意味をもつのか。そしてそこまでつきぬけちゃった人間が見た、現代はどういうふうに見えるのか、それを描いてみたいと思っているし、かなりやれそうだという気がしてるわけなんです。

すべてが虚構であり、確かなものは何もない。

押井監督は、「時代そのものを盗む」と表現されていますが、具体的にルパンが何を盗むのか、はっきりとは語られていません。まだ製作前の段階なので当然ですが、この詳細は1996年の『THE ルパン三世 FILES』に収録されたインタビューで明かされることとなります。

押井守版ルパン三世

押井:
僕がルパンをやろうと思った時には、まだ盗むものあるんじゃないかと。それは僕の考えた結論で言うと「核」なんです。成り行きでそうなっちゃうんだけど、核を盗む。その時点でやれるんじゃないかと思ったんです。

(中略)

一つ思ったのはルパンというのは何者なのかということですね。これを物語とは別の柱として、つまり横軸に設定してみようと思った。ルパンって果たして何者だったのかということをルパン自身に問わせてみたい。実を言うとこの部分が実現できなかった一番の理由だったのかもしれない。
もう一つはやっぱりルパンが何を盗むのかということで、宝石や現金だとか物理的な対象でないものを考えた。あくまで動機なんですけど、化石なんです、それも天使の化石。現実と非現実の狭間にあるようなもの。

(中略)

そもそも言葉で思いついた発想が「虚構を盗ませる」ということなんです。最終的に探し当てたものは天使の化石じゃなくて、ただのプルトニウムだったと。しかもルパンがそれに触れたことで東京が吹っ飛ぶという話なんです。もちろんそれも含めて全部フェイクなんですけど。実際には作動しない原爆で、全部がフェイク。だからルパンだけが現実であり得るわけがない。ルパンもフェイクであると。最終的にルパンなんてどこにもいなかったという話にしようと思ってたんです。

後の押井作品で使われた、数々のアイディア

押井守監督の考えていた『ルパン三世』は存在しないというものでした。すべてが虚構であり、確かなものは何もないという話を考えていたようです。
しかし、この話は、脚本の段階でプロデューサーサイドに引っかかります。この当時は、ルパンといえば、宮崎駿の『カリオストロの城』のように、子供から大人まで楽しめるイメージができあがっていました。難解さが付きまとう押井版ルパンは理解が得られず、この企画は頓挫してしまいます。

押井監督は、しばらく立ち直れないほどのショックを受けたそうです。しかし、このとき考えていたアイディアが、後の押井作品ですべて昇華されていくこととなるのです。

押井守版ルパン三世

押井:
その後で作った『天使のたまご』に、そういうものが全部流れ込んじゃったということはありますね。〝天使の化石”を持ち込んで、成立しなかった僕のルパンの復讐戦だったんです。
実際、そのルパンの中で考えたいくつかのアイデアは後の作品でみんな使っちゃったんですよ。そういう意味で言えば僕自身は充分元をとった。惜しかったという感情は今となってはないですね。

(中略)

物語の方の端初は、ガウディみたいな訳の判らない狂気の建築家が、東京のど真ん中にバベルの塔みたいなとんでもないもの建てて、完成当日に塔の天辺から飛び降りて死ぬ。仕掛けた本人は冒頭で死んじゃう、ということなんですが、これは『機動警察パトレイバー』で使いました。

(中略)

ルパンが天使の化石が眠っている塔を登って行くというクライマックスのアクションは『パトレイバー』の方舟でやっちゃったし、虚構の中で東京を壊滅させるというのは『機動警察パトレイバー2』でやってるから。主人公が不確定な物語っていうのも一部『攻殻機動隊』で使ってしまった。だからもうスカスカ、だしガラになっちゃった(笑)。

最後に

押井守版ルパン三世を実現してほしかった気もしますが、このときのアイディアが後の押井作品に活かされていることを考えると、これで良かったようにも思います。

むしろ、このルパン三世が成立していたら、後の押井守監督は、どのような作品を作っていたのだろう、という興味もありますが、それは妄想しだすとキリがないのでこの辺で……。

ちなみに、押井監督は当時をふり返り、こう言っています。

押井守版ルパン三世

押井:
あの当時はそれだけいろんなものを抱えて、頭の中あふれ返ってたんですよね。だからうまくまとめきれなかった。やっててもどっか破裂してたかもしれないですね。

(中略)

今思えば僕がルパンをやることに関して言うと、多少無理があったかなという気がしますけどね。そういう意味で言えば、読み替えるとという範疇を超えてたかもしれない。まあ、やっぱりやらなくて良かったのかなと思う時もあるし、やってみたかったという気がする時もありますね。

予定していたスタッフ

押井守版ルパン三世

押井守版ルパン三世
キャッチコピー:世紀末、彼は時代を盗んだ
監督:押井守
脚本:押井守、伊藤和典
アート・ディレクション:天野喜孝
画面構成:金田伊功
キャラクターデザイン・作画監督:加藤茂
原画:森山ゆうじ、山下将仁、北久保弘之、森本晃司、庵野秀明
演出助手:片山一良


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