On Your Mark宮崎駿監督といえば、幾度となく地球環境の問題を取り入れた作品を作っております。
思い返せば、デビュー作の『未来少年コナン』ではテクノロジー・エネルギー問題、『風の谷のナウシカ』や『もののけ姫』では自然環境の破壊、『崖の上のポニョ』では海面上昇、『風立ちぬ』では地震・疫病などなど、現実世界とシンクロするような場面を描いてきました。



2013年に行なわれた宮崎駿監督のインタビューでは、「『崖の上のポニョ』をやっているときには、ぼくのほうが先に行っているつもりだったのに、時代のほうが追いついてきた。(『風立ちぬ』で)関東大震災のシーンの絵コンテを描き上げた翌日に震災(東日本大震災)が起き、追いつかれたと実感した」と語っているほど、宮崎監督の作品と現実のリンク率は高いものとなっています。

中でも、現在の状況と近いのは、宮崎監督が作ったCHAGE&ASKAのPV『On Your Mark』じゃないでしょうか。
本作は、「ジブリ実験劇場」と銘打って作られたもので、1995年に『耳をすませば』と同時上映で公開された作品です。

On Your Mark

作品の舞台は、原発がメルトダウンしたあとの、放射能や病気が蔓延した世界。この作品について、1995年に行なわれた宮崎監督のインタビューがあるのですが、まるで現在のような世界になることを、予測していたような話しぶりです。

On Your Mark

本作は、テレビ放送などされていないので、まだ見たことない人もいるかもしれませんが、『ジブリがいっぱいSPECIAL ショートショート』などに収録されていますので、興味のある方はご覧ください。
6分40秒のショートムービーですが、宮崎駿監督の最高傑作と評価する人もいるような名作です。

On Your Mark

歌詞をわざと曲解して作りました。

――「警官」と「天使」なんて、まるで押井守さんの作品のようですね。

宮崎:
押井さんが天使が生まれるの、生まれないのとか、もったいぶってやっているから、さっさと出しちゃった(笑)。
といっても、天使だとは言っていないし、鳥の人かもしれない。それはどうでもいいんです。

――6分40秒の中に、映画1本分の内容が詰っていると感じました。

宮崎:
暗号のようなものは、いっぱい入れてあるけれども。音楽映画だから、見た人の感じたように受け取ってもらってかまわないんです。

――冒頭の、のどかな田園風景の中に建つ奇怪な建物は何ですか。

宮崎:
どう解釈してもらってもかまいませんが。その直後に出てくる放射能注意のマークのついたトラックを見て、何となくわかってもらえればいいと思うんです。地上には放射能があふれていて、もう人間が住めなくなっている。でも緑はあふれていて、ちょうどチェルノブイリの周囲がそうだったようにね。自然のサンクチュアリ(聖地)と、化している。で、人間は地下に都市を作って住んでいる。実際はそんな風には住めなくて、地上で病気になりながら住むことになると思いますが。

――このアニメは「On Your Mark」の音楽映画作品として作られていますね。

宮崎:
「位置について」という意味のタイトルだけれど、その内容をわざと曲解して作っています。いわゆる世紀末の後の話。放射能があふれ、病気が蔓延した世界。実際、そういう時代が来るんじゃないかと、僕は思っていますが。そこで生きるとはどう言うことかを考えながら、作りました。
きっとそういう時代は、ものすごくアナーキーになっていく一方で、体制批判というようなことについて、ものすごく保守化しているんじゃないか。それはまだ失うものがあると思っているから。何にもなくなると、ただのアナーキーになっていって、のたれ死にが始まるんです。そういうものを紛らわしてくれるのは、「ドラッグ」や「プロスポーツ」や「宗教」でしょう? それが蔓延していく。そういう時代に、言いたいことを体制から隠すために、隠語にして表現した曲と考えてみた。ちょっと悪意に満ちた映画なんです(笑)。

――例えば「いつも走り出せば、流行の風邪にやられた」という歌詞の、「流行の風邪」というのは、放射能や病気に覆われた世界のことでしょうか?

宮崎:
(肯定も否定もせず)地球全体の歴史から見れば、人間の問題なんて流行の風邪みたいなものですからね。

――……二人の警官が救い出す天使は、混沌とした世界の一筋の希望のようにも見えます。「僕らがそれでも止めないのは……」という歌詞の通り、天使を救出するシーンが何度も繰り返されていますが。何度かの失敗の後、混沌とした世界から、一筋の救いのように彼女は青空に飛び立つ。でも、警官たちは地上に取り残されて……。

宮崎:
彼女が救世主だったり、救出を通して彼女と心の交流があったというわけではないんです。ただ、状況に全面降伏しないで、自分の希望、ここだけは誰にも触らせないぞというものを持っているとしたら、それを手放さなければならないのなら、誰の手にも届かないところに放してしまおうという。そういうことですよ。放した瞬間に、心の交流がちらっとあったかもしれないけれども。それでいい、それだけでいいんです。……きっとまた彼らは警官の仕事に戻るんです。戻れるかどうか知らないけれど(笑)。

――戻る世界は、また「流行の風邪」の世界。

宮崎:
結局、いつもそこから始まるしかない。メチャクチャな時代にも、いいことや、ドキドキすることはちゃんとある。ナウシカの「我々は血を吐きながら、繰り返し繰り返し、その朝を越えて飛ぶ鳥だ」です。

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