『ハウルの動く城』のサイドストーリーとして、ハウルの少年時代を描いた物語があるのをご存知でしょうか。
といっても、裏設定として描かれたもので、表向きはまったく別の作品として作られています。それは、ジブリ美術館で上映されている、『星をかった日』という短編アニメーション作品です。
『星をかった日』の始まり
『星をかった日』は、井上直久さんが描いた、同名の絵本を原案としています。
井上さんといえば、『耳をすませば』で背景美術を務めたことも有名ですが、ジブリ美術館のホールに壁画も描いています。この壁画を描いているときに、宮崎監督と井上さんのおふたりが談笑をしていたそうです。このとき、次回作の絵本について、井上さんが構想を話していたことが切欠で、『星をかった日』のアニメーション化が宮崎監督の中で動き出します。2002年のことです。
井上さんの構想では、主人公は女の子と考えていたそうですが、宮崎監督は話を聞き始めたとたんに男の子だと決めてしまい、どちらも譲らなかったそうです。
しかし、しばらくの間、ふたりとも忙しくなってしまい、井上さんも絵本を描かないまま、宮崎監督もときどき思い出すだけに留まっていたといいます。
宮崎監督は、このときのことを『星をかった日』のパンフレットに寄せています。
二年ほど経って『ハウルの動く城』の仕事が終わったとたん、スタジオに隙間が出来ました。美術館の映画を作るチャンスです。ぼくは大いそぎで――といってもずいぶん時間がかかりましたが――井上さんに内緒で、勝手に絵コンテを作ってしまいました。もちろん、男の子を主人公にして。
それから、鈴木プロデューサーに、井上さんの元へ絵コンテを持っていってもらいました。さいわい井上さんが喜んでくれたから良いようなもので、一寸ルール違反のところがぼくにはあるかもしれません。
しかし、井上さんのマンガと絵本の構想が、種になって時間がたつうちにひとりでに芽が出てしまい、ぼくにもどうすることもできない葉を茂らせてしまったのだと思います。こうして『星をかった日』の映画は始まりました。
ハウルの少年時代と、美しかった荒地の魔女
アニメ版『星をかった日』の主人公は、ノナといい、ふしぎな女性ニーニャと出会い、彼女の農園の小屋で暮らし始めます。
そんなある日、ノナは野菜とひきかえに星の種を手に入れ、星を育て始めるという物語です。
ストーリー自体は、『ハウルの動く城』と何の関係もないものとして描かれていますが、2012年にニコ生で放送された「押井守ブロマガ開始記念! 世界の半分を怒らせる生放送」の鈴木敏夫さんと押井守さんの対談により、裏設定が明かされています。
鈴木:
あれ見た? 『星をかった日』って。押井:
星をかった日?鈴木:
見てない? 美術館でやってるやつ。押井:
うん。鈴木:
じゃあ、今度見せますね。
サイドストーリーを珍しくやったのよ、宮さんが。で、ハウルの少年時代。それで、一言で言うと、そこに若き日の、美しかった荒地の魔女が登場。押井:
あぁ、それはたぶん面白いと思うよ。鈴木:
で、簡単に言うと、ハウルの童貞を奪った彼女が……いい話になったんですよ。押井:
宮さん、本質的に短編が絶対上手いから。
井上直久「せめてサリマン先生にして」
また、原案を描いた井上直久さんもツイッターで、アニメ版『星をかった日』の裏設定について言及しています。
@akipcs こちらこそ、ありがとうございます。鈴木さんが言ったという、ニーニャとノナ君が後の荒れ地の魔女とハウルだという説、私は宮崎駿さんから直接聞きました。あの魔女とはあんまりだ、せめてサリマン先生にしてくれと(笑)言ったんですが、イヤそうなんですとゆずられませんでした。
— Naohisa INOUE 井上直久 (@iblard_INOUE) 2013, 10月 11
絵本のほうは、短編アニメーションとは若干ストーリーは異なるものの、井上直久さんの美しい絵の力で、空想の世界イバラードに引き込まれてしまいます。まだ未読の方は、こちらも読まれてはいかがでしょう。
ちなみに、こちらの写真はサイン本。2008年に行われた井上さんの個展にて書いていただきました。
星をかった日 ジブリ美術館で上映されている短編アニメーション『星をかった日』の原作絵本。 井上直久氏が描く魅力的な空想世界。数えきれない星の中の、ひとつの星のお話。 |