スタジオジブリ作品『On Your Mark』とは

最近では、知らない人も増えてしまった『On Your Mark』とは何なのか、簡単ではありますが、ご紹介いたします。

端的にご説明すると、本作は宮崎駿監督が原作・脚本・監督を務めたCHAGE&ASKAのMVです。
なぜ、宮崎駿監督がMVを制作することになったのか、簡単に経緯をお話します。

1994年のある日、長編作品の構想を練っていた宮崎駿監督は、行き詰まっていました。
当時は、絵本版『もののけ姫』を軸に長編の映画化を考えていましたが、どうにも上手くいかない。そんなとき、CHAGE&ASKAからMV制作依頼が入ります。

このときスタジオジブリは、近藤喜文監督の『耳をすませば』の制作に総力をかけて取り組んでいました。CHAGE&ASKAを知らなかった宮崎監督は、この仕事を一旦断ります。
しかし、若手スタッフが「我々にやらせてください」と買って出たため、一転して引き受けることになります。

宮崎監督はというと、『耳をすませば』の絵コンテを描き終わり、現在取り組んでいる『もののけ姫』も上手く進まない。そうなると、若手が取り組んでいるMV制作が気になってきます。
制作現場をちょこちょこ覗いていたそうです。行ったり来たりを繰り返し、ついには、「ぼくがやりますよ」と監督を引き受けたのです。

当初、CHAGE&ASKAからの依頼では、別の楽曲だったという話もあります。しかし、アルバムを聴きこんだ宮崎監督は『On Your Mark』に変更するよう要望します。
宮崎監督は、困難のなか繰り返し繰り返し「また走り出す」という歌詞に共感したのだとか。

作品世界は「極めて絶望的なシチュエーション」と宮崎監督が語るように、原発が爆発し、放射能が飛び交うアナーキーな世界が想定されています。

保守化が進んだその絶望を紛らわすものは、ドラッグやプロスポーツ、怪しげな宗教だとし、「言いたいことを体制から隠すために、隠語にして表現した曲」と意図的に曲解したと語っています。

本作は、CHAGE&ASKAのライブ会場での上映を目的としていて、1995年6月29日のファンクラブ限定コンサートで初上映されます。
当初は、コンサートのみで上映される予定でしたが、急きょ『耳をすませば』との同時上映が決定します。

この当時、同時上映についてはほとんど告知されていなかったため、『耳をすませば』を観に来た人は、なんの心の準備もなく宮崎駿監督のSF作品を目の当たりにすることになります。突然「ジブリ実験劇場」の画面が映し出されたことで、驚いた人も多かったです。

ちなみに、宮崎駿監督は『On Your Mark』を作ったことで息抜きになり、絵本版『もののけ姫』の構想を捨て「また屋久島で商売しよう」と、『ナウシカ』に回帰します。そして制作されたのが、現在世に出ている映画版『もののけ姫』です。

こうして、『風の谷のナウシカ』『On Your Mark』『もののけ姫』と、一貫したテーマの作品が出来上がったのです。

ジブリがいっぱいSPECIAL ショートショート 1992-2016
スタジオジブリが2016年までに制作した短編作品を収録した貴重な作品集。『On Your Mark』も収録。