漁港の肉子ちゃん

明石家さんまさんが企画・プロデュースを担当したことで話題のアニメーション作品、『漁港の肉子ちゃん』を観に行ってきました。



まず、本作ですが、制作したのはスタジオ4℃です。
アニメーションが好きな人には説明の必要がないかもしれませんが、これまでにも数々の良質な作品を作ってきたスタジオで、『鉄コン筋クリート』や『海獣の子供』といった名作を手がけています。
そして、スタジオ4℃の創始者のひとり、田中栄子さんはスタジオジブリ作品『となりのトトロ』『魔女の宅急便』でラインプロデューサーを務めていたります。

漁港の肉子ちゃん

今回制作された『漁港の肉子ちゃん』は、明石家さんまさんが企画・プロデュースというのが、なんだか不思議だったんですけど、なにやら数年前から、さんまさんは原作小説に惚れこんで、映画化するように吉本興業に提案していたのだとか。

スタジオ4℃といえば、『マインドゲーム』のころから吉本興業と一緒に仕事をしているため、映像化するにあたり、アニメーションを選ぶことになったのは自然の流れだったのかもしれません。

制作陣は、監督が渡辺歩さん、キャラクターデザイン・作画監督が小西賢一さん、美術監督が木村真二さんといった、『海獣の子供』のメンバーが再集結しています。
さらに、音楽は米林宏昌作品の『思い出のマーニー』や『メアリと魔女の花』でお馴染みの、村松崇継さんが担当しました。

声優は、ジブリ作品にも参加経験のある大竹しのぶさんが肉子ちゃんを、声優初挑戦のCocomiさんが娘のキクコ役を担当しています。
大竹さんが上手なのはもちろんのこと、Cocomiさんの声が自然体でとても良かったです。
繊細な役どころにして、繊細な声。ヘンに作られていないので、リアリティがあって、キャラクターに説得力がありました。

漁港の肉子ちゃん

映画の内容のほうはというと、少しジブリ味のあるシーンもあります。
ジブリ味というか、トトロ味といったほうが正確かもしれません。

いくつか、「トトロ?」というシーンがあるので、ジブリファンの皆さんはお楽しみに(笑)。

それから、本作は色彩設計がとても良いですね。ジブリ作品よりもビビッドなカラーですけど、背景美術やキャラクターも含めて、ポップで可愛くて綺麗でした。
美術監督は、『海獣の子供』と同じ木村真二さんが務めているだけあって、空気感が伝わってくるほど緻密に描かれています。

食べものも、わりとよく登場するんですけど、どれも実物よりも美味しそうに描かれています。
ジブリ作品に登場する料理は「ジブリ飯」と呼ばれていますけど、スタジオ4℃の料理は「4℃飯」でしょうか?
映画を観終わったら、フレンチトーストを食べたくなること請け合いです。

漁港の肉子ちゃん

原作小説を読んでなかったので、ちょっと意外だったんですけど、主人公は肉子ちゃんではなくて、娘のキクコちゃんに感じました。
そして、始まってすぐに気づいたことは、スタジオ4℃の前作『海獣の子供』とも通じるものがあるということ。

精神世界の要素もある『海獣の子供』に対して、『漁港の肉子ちゃん』はあくまで現実世界を描いていますけど、根幹の部分には同じマインドがあるように感じました。
もし、キクコと安海琉花が出会っていたら、良い友達になっていたと思います。

もしかしたら、”精神”と”現実”で対の作品になるように、意図したところもあるのでしょうか。
『海獣の子供』も『肉子ちゃん』も、原作のある作品なので、偶然と考えるのが自然かもしれませんが、同じ基盤の上に作られているように感じました。

どちらも、「自分たちが生きている世界は、こういう世界なんだよ」って寄り添ってあげたような、優しい作品でした。

この作品は、おそらくコロナ前に企画され動き出したと思いますけど、「普通が一番ええのやで!」のセリフは、普通ではなくなってしまった現在のコロナ禍に響く言葉でした。
そのセリフを、ちょっと普通ではない肉子ちゃんが言っているところも、また良いなと思います。

明石家さんまさんの座右の銘(?)に、「生きてるだけで丸儲け」という言葉がありますけど、まさにその人生観がじんわり伝わってくる作品でした。

ちなみに、本作はエンドロールが終わるまで鑑賞することをオススメします。
途中で席を立たないように~。