『平成狸合戦ぽんぽこ』の中で、気性の激しい権太が拳でテレビを殴り壊すシーンがあります。
タヌキたちが妖怪大作戦を決行したにもかかわらず、それらは人間が行なったこととされる報道を見て、怒った権太がブラウン管を叩き割るという迫力あるシーンです。
しかし、このシーンを描くにあたり、困ったことがありました。実際にブラウン管テレビが、ぶち壊されるところを見たことある人がいなかったのです。
アニメーションだから想像で描けば良いじゃないかと思われるかもしれませんけど、アニメーターというのは実際の動きを観察して描くものです。
ジブリ内でも、どのように壊れるのか様々な憶測が飛び出したそうですが結論は出ずに、ついに本物のテレビを壊すことになりました。
壊すからには、権太と同じ条件でやることになり、駐車場にテレビを持ち出して、電源を引いて映像を映した状態にします。ビデオカメラも2台スタンバイし、スチールカメラも用意され、記録の準備は万端となりました。
壊す役目をつかわされた制作デスクの某氏は、フルフェイスのヘルメットにライダーブーツ、皮手袋をつけて、金属バットを持つというフル装備で挑みます。
10数名のアニメーターが息を殺し見守るなか、それは行なわれました。
フルスイングされるバット。カキーンという快音。しかし、テレビはビクともしていません。何度も叩きつけますが、テレビは何事もなかったように映り続けます。
そして、バットは金槌に持ち返られ、再度挑戦したところ、やっとブラウン管に穴が開きました。しかし、爆発もしなければ煙も出ない、閃光が走ることなんてありゃしません。
この出来事は無かったこととされ、アニメーターは想像でテレビが激しく壊れるシーンを描くこととなったのです。
ジブリの教科書8 平成狸合戦ぽんぽこ 池澤夏樹、似鳥鶏らが作品の魅力を解き明かしつつスタッフの回顧録も収録 |