ハウルの動く城

皆さんご存知の『ハウルの動く城』。この作品は、興行収入196億円を挙げ、宮崎駿作品としては『千と千尋の神隠し』に次ぐ大ヒットとなっています。
ところがこの作品、宣伝にはあまり力を入れずに公開されました。



なぜ、宣伝を控えめにすることになったのか。ことの経緯は、押井守監督作品の『イノセンス』の公開まで遡ります。
本作は、2004年3月に公開された作品で、プロデューサーとして鈴木敏夫さんが携わっていました。

イノセンス

鈴木さんが宣伝の大半を引き受け、企業タイアップ、パブリシティ、新聞広告、TVスポットなど、これまでのジブリのスタイルを踏襲し、宣伝を進めていきました。しかし、そのうちに、観客の反応が以前と変わりつつあることに気づきます。

あまりにも情報が溢れかえることから、映画を観る前から、観てしまった気になっているのではないか。観客は、拒否反応を示しているのではないか。そう感じた鈴木さんは、これまでの従来のスタイルとは対照的な宣伝手法で、『ハウルの動く城』を公開することに決めます。

ハウルの動く城

あまり宣伝しないで公開するというのは、宮崎駿監督の意向でもあります。
宮崎監督は、「観客には真っ白な状態で鑑賞してもらいたい、宣伝の中で多くを語ってほしくない」という要望を鈴木さんに伝えていました。
これには、『千と千尋の神隠し』で宣伝をし過ぎたという反動もあります。宣伝のおかげで映画がヒットしたと言われたり、宣伝の段階で望まぬ解釈をされることもあり、宮崎監督は違和感を覚えていたようです。

ハウルの動く城

こうして、『ハウルの動く城』では、“宣伝をしない宣伝”の方針で進められ、プレスシートやその他、マスコミ向けに配られたものに、作品の解説や内容の解釈に係わるようなものは一切ありませんでした。

この流れが影響しているのか、後に発売されるロマンアルバムやパンフレットにおいても、宮崎駿監督のインタビューも掲載されず、作品解説なども極端に少ないものとなっています。

ハウルの動く城

宣伝しない宣伝で公開された本作は、公開2日間の興行収入が15億円という日本記録を打ち立てます。初動は、『千と千尋の神隠し』を超える勢いでした。
最終興行は196億円となり、ジブリ作品としても2位の大ヒット作品になりました。

最新作『君たちはどう生きるか』においても、鈴木さんは情報を極力抑えて公開することを公言しています。
映画『THE FIRST SLAM DUNK』の情報を抑えた宣伝手法を絶賛したことから、スラムダンクの宣伝を踏襲とメディアで語られていますが、実は鈴木さんは2004年の段階で、宣伝しない宣伝を実行していたのです。