若手時代の宮崎駿

「ジブリ汗まみれ」の柊瑠美さん出演の回で、鈴木さんによる映画の見方と、若い頃の宮さんが行っていた演出修業の内容を語っています。演出志望の方や、そうじゃない方も、参考にしてみては如何でしょうか。
いろいろな視点から見るようにすると、またジブリ作品も違ったものが見えてくるかもしれませんね。



感想よりも、「何が書いてあったか」が大事

鈴木:
例えばね、映画でも芝居でも本でもいいけれど、読んだら、観たら、それをほったらかしにするんじゃなくて、その日のうちに、どういうお話だったかを書く。感想とかいらないの。

柊:
自分の感想じゃなくて、そのストーリーを書くんですか。

鈴木:
「どう思いましたか?」って言うじゃない。あれ、いらないの。
「何が書いてあったか」こっちのほうが大事なの。

例えば、手塚治虫っていう人はね、なんで漫画描けるんだろうかって。
映画観に行くでしょう。ディズニーでもなんでも良いんだけど。家に帰ってきて、どういう映画だったかって、絵で描いてたの。で、分からなくなったら、もう一回、映画を観に行くの。
ファーストシーンはなんだったのか。人物はどこにいたか。こういうことまで考えてみると、見るところが変わってくるんですよ。具体的に見るようになるわけ。

宮崎さんって人はね、映画を作り始めたころ。いちばん最初、高畑勲さんと組んでね。
アニメーションだから、絵で描くわけでしょ。絵だから、なんでも描ける。それでね、みんなが平気でいい加減な絵を描いていたわけですよ。
ところが、この高畑さんって人がね、「絵だからなんでも描ける、で作っていたら面白いものは出来ません」って。
それで、漫画映画にだって、ちゃんとしたカメラマンが必要。背景美術はどうなっているのか、人物はどこにいる、それぞれの人がどんな演技をするか。カメラワークをどうするか。
こういうことを、日本で初めて高畑勲が考えて、それを宮崎駿に徹底的にやらせたんです。

鈴木:
まず最初、宮さんが高畑勲に教えてもらったこと。
一緒に歩いていて、建物があるでしょ。そうして高畑さんの質問、「面白い建物ですね。あれ、間取りはどうなってますか?」って。宮さんが描くと、「これはあってるけど、これは違う」って。空間把握能力っていうんです。

例えば、ここに湯飲みがあるでしょ。そしたら、人間の大きさが1センチだとします。

柊:
どう見えるか?

鈴木:
そう。そうすると、上が膨らんで見えるのか、それとも萎んで見えるのか。

柊:
えぇ~、どうなんだろぉ。

鈴木:
宮崎監督ってね、高畑監督のまえで15年間なにをやったかっていったら、実写で言うとカメラマン。そして、演出家。人物の、どのキャラクターがどう動くかは、宮さんが指示をした。高畑監督のまえでそれをやりまくったの。

 
高畑監督はね、丸とチョンで絵コンテを描くの。それを、宮さんが清書するわけ。美術を細部まで描いて、人物をどこに置くか、そしてその人物がどういう芝居をするか、どういう動きをするか。そして、カメラはどうやって動くか。これは全部、宮さんが指示したんですよ、もう『ハイジ』のときから。