皆さんご存知のとおり、『となりのトトロ』は田園風景をオート三輪が走っているというシーンから始まります。
時代設定は昭和28年で、今はもう見られないような豊かな自然の風景が印象的な始まり方ですが、宮崎駿監督のアイデアでは現代の町並みから物語が始まる案もあったのをご存知でしょうか。
完成した映画では、『となりのトトロ』はサツキとメイたちが、田園風景の松郷に引っ越してくるというところから始まりますが、現代の松郷の街を俯瞰で見たシーンから始まる予定でした。
現代の街並みのその一角には、樹木におおわれた家があり、その家の周りの風景が徐々に変わりはじめて、昔の風景になっていくという導入を考えていたといいます。
住宅が消えて田んぼになり、マンションの建った高台は林になって、車の走っていた道路は野の道になる。歩道だったところには水路が現れ、家の周りの木はどんどん小さくなっていき、そこにサツキとメイの家がポコンと現れ、オート三輪がトコトコと走ってきて、『となりのトトロ』の物語が始まるというのが初期の構想案でした。
そして、物語の終わり方も初期の構想では違っていました。
終わりも現代の街に視点が戻って、お婆ちゃんになったメイが、トトロと出会ったときの話を小さな子どもたちに聞かせています。そして、子どもたちが「じゃあ、オバアちゃん、そのトトロっていうのはもういないの?」と聞くと、お婆さんは「さあどうかね」と答えて、ネオンが見える街の森の上に移り、そこでトトロがオカリナを吹いて、ホーホーと鳴いているという風景で終る予定でした。
ちなみに、当初の予定では姉妹設定ではなく、一人っ子だったため、お婆ちゃんとして登場するのも一人の予定でした。
こういった、ふり返りのある大人の視点というのも、ある種の安心感があって良い気もしますね。
しかし、完成した映画の終わり方のほうが、より想像力にゆだねられるという点と、子供の物語として完結しているため、正解だったように思います。
皆さんは、どっちの『となりのトトロ』が好みですか?
The art of Totoro 『となりのトトロ』のイメージボード、美術ボード、ストーリーボードなど、映画制作段階に描かれた素材を多数収録。 |