高畑勲 アカデミー賞 インタビュー日本時間の明日、23日にアメリカのロサンゼルスにて、第87回アカデミー賞 授賞式が行われます。
スタジオジブリからは、高畑勲監督の『かぐや姫の物語』が長編アニメ部門にノミネートされ、受賞の期待が掛かっています。そして、先日、ノミネートされた制作者のインタビューが合同で行われました。



線で描くアニメーションは
観客の想像力を引き出す狙いがある

高畑勲 アカデミー賞 インタビュー

――日本で『竹取物語』はよく知られているので、ストーリーに忠実でないといけないと思われましたか?

高畑:
そうですね、基本的にはストーリーには忠実なんだけれど。しかし、日本のみんなが知っているものとは、まるで違う印象を与える映画にしようと思いました。

――何がいちばん大きな違いでしたか?

高畑:
かぐや姫という女の子が、原作を読んでも分からないんですね。どうして男たちを拒否するのか、どうして突然泣き始めて月に帰ってしまうのか。そういうことが、全然分からないんですけども。そういうことを主人公のかぐや姫に即して、感じられるようなことを考えたんですね。

――アメリカでは、ひとつのチームを組んでスクリプトや絵コンテを考えますが、日本ではどうですか?

高畑:
日本では、ほとんど一人でやるんです。一人がディレクターをやって、その指示のもとに作る。集団的には、あまり作らないですね。しかし、当然チームが必要だし、大きな才能が必要なんで。例えば、今日ここに、二人来ているべきだと思うんですね。それは、キャラクターデザインとアニメーションディレクターをやった、田辺修という男。それから、もう一人は美術をやった男鹿和雄。この二人が、ここに居なきゃいけないと思うんですね。しかし、全体としては、一人で考え、一人でやるというのが、日本のスタイルです。

――アメリカではCGアニメーションが主流になってきてますが、日本ではどのように受け止められていますか?

高畑:
アメリカで出来上がったCGアニメーションを、みんな楽しんでいるんじゃないでしょうかね。それはそれで、楽しいし、素晴らしい作品で、今回もたいへん感心しましたし、もちろん素晴らしいんでけれど。しかし、アニメーションには別の考えがあるだろうということで。日本では、線で描いたりするということに、長い伝統があるんですね。歴史的にも。そういうことも含めてですけど、平面に描いていくっていうことは、簡単には日本ではなくならないと思いますね。

CGでやって、立体的な奥行きのある空間を作り、立体的なものを動かすっていうのは、そこにものがあるっていう、「画面にあるものを信じなさい」って言っていると思うんですね。ところが、そうじゃなくて、画面にあるものは仮の姿で、「その裏にあるものを想像してください」っていうのは、線で描いた絵だと思うんですね。ファンタジーの場合には、無いものをありありと見せなきゃいけないから、3DCGになったり立体的になることも、非常に価値があると思うんですけど。しかし、我々の知っている世界で、人間を扱うんだったら、やっぱりそれをそのまま生身で描くのも良いですけど、それだけじゃなくて、絵に描いて、その背後にある本物を想像するという、観客の力を引き出すという、そういうことを狙いとしてやっているつもりです。

――線が非常に美しかったですけど、この『かぐや姫の物語』では赤ちゃんが出てきましたね。それがすごく可愛くて、実際の赤ちゃんが動いているように見えました。アニメーターの方たちは、そういう動きを研究して描いたんでしょうか?

西村:
さっき高畑さんが言っていた、田辺修というアニメーターは赤ん坊の動きを捉えることに関しては、もう右に出るものはいません。その彼の子供がですね、当時2歳だったかな。その子供をちゃんと観察していたし、その赤ん坊のところを描いたアニメーターも別にいるんですけど、彼にも子供ができていました。これは、彼らの子供と、天才アニメーターたちのコラボレーションによってできた、奇跡的なシーンだと思いますね。

高畑:
そういうことができるっていう確信と、本当にやってみたいっていう気持ちがないと、ストーリーを前進させるわけじゃなくて、描写だけをやっていることで映画を作るっていうのは、ぼくにとっては冒険でもあるし、やりがいのある冒険だったんです。

子供時代に印象的だったアニメーション作品

高畑勲 アカデミー賞 インタビュー

高畑:
日本で、漫画とかアニメが盛んになり始めるのは、自分が大人になってからなんですね。子供のときは戦争中だったし、アニメも漫画もほとんど接してないんですよ。だから、大人になってからで。学生のときに、1本フランスの映画で凄いのに出会ったんですね。それで、「こんなことが、アニメーションで出来るのか」って。それは、社会とか、心理描写もそうだし、一言で言うと大人向きのアニメーションだったんですね。ディスニーは凄いなと思ってましたけど、もちろん。ピノキオなんか、ほんとうに凄いんですけど。でも、ビックリしたんです、そのフランスアニメーションに。聞いたところによると、アメリカではちゃんと封切っていないので、残念なんですけど。その作品の変わった形が『王と鳥』になっています。それはご存知かもしれませんけど、その基なんです。『王と鳥』じゃなくて、その前に作ったやつなんです。

西村:
ぼくはですね、見ていただくと分かるんですけど、高畑監督とぼくは42歳違うんですね。ぼくは高畑さんが作った、『火垂るの墓』と、宮崎さんが作った『となりのトトロ』を100回以上観てます。で、この作品を観て感動して、そして大人になったときに、そこに座っている鈴木敏夫さんっていうビッグプロデューサーに手紙を書いて、スタジオジブリに入れてもらいました。それで、今日ここにいることが、凄く光栄です。

高畑:
さっき、『火垂るの墓』のことを言って下さったんですけど、諸外国では幸運にも1本だけでご覧になったと思うんですね、皆さんが。ところが、日本で封切ったときには『となりのトトロ』と2本立てだったんです。2本続けてやるんですね。しかも、どっちから入っても良いんです。だから、非常に不幸な人をたくさん作り出してしまった。犯罪的な映画だったんです。要するに、『となりのトトロ』という作品を観て、非常に幸せな気持ちになった子供なんか、そのあとで『火垂るの墓』を観させられるんですね。ちょっと想像してもらいたいんですけど。そういうことが、日本では起こってたんだけど。私自身としては、『火垂るの墓』という主人公が死んでしまう映画を、子供たちに見せるべきかということは、作りながらずいぶん考えました。結論としては、見せて良いんだっていう。理由を喋りだすと長くなるのでやめますけど、見せて良いんだという結論の元に作りました。

西村:
あの、未来のアニメということなんで、ひとつ言いたいのは、この高畑勲監督っていうのは、若かりし頃に宮崎駿監督を見出して、スタジオジブリを設立した人なんですね。大袈裟に言うと、日本のアニメーションのすべてを作ってきた人なんです。その方が、今こうやってここに立っているっていうことと、実は今回ノミネートされた作品を見ると、スタジオジブリの影響が見て取れる作品もあって。高畑さんとか、宮崎さんとか、日本でスタジオジブリの作品を作ってきた人たちの志を受け継いでいる人たちが、こうやって集まっていることに、すごく嬉しく思うし、国は違いますけど、これから良い作品を作っていけたらなと思っています。

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