宮崎吾朗ジブリは『思い出のマーニー』の制作以来、小休止状態となり、次回作の企画の噂はあるものの、まだ方向性も明かされていません。
『ジブリ汗まみれ』では、鈴木敏夫さんと東宝プロデューサーの川村元気さんの対談が交わされ、今後の映画について、そして、3DCGについて語りました。スタジオジブリで、3DCGを使用した長編作品は作られるのでしょうか。



手描きとCG、どちらに才能ある人がいるか

川村:
ジブリのCGアニメっていうのは、あり得るんですか?

鈴木:
ジブリの中に、ある人が出てきて……ある人っていうのは、それこそ生まれたときからファミコンがあって、コンピュータに慣れ親しんだ人。そういう人で、絵心のある人は当然いるわけじゃない。そういう人が出てきて、なにかやりたいって言ったら、それはそうなるよね。
現に、NHKの話をするとですね、いま『ローニャ』っていうのやってて。あれ、宮崎吾朗君でしょ? あれをやるにあたっては、いろいろあったんだけどね。結局、3DCGでやろうってことになったのよ。で、見事にやってのけているんだよね。
だから、いまの話で言えば、吾朗君がジブリに戻ってきて、「これでやりたい」って言ったら、さあどうしようって悩むよね。

(略)

川村:
基本的には、絵を描く能力がないとCGもダメだし、アニメーションをつけるって行為は、コンピュータでやるのも手で描くのも同じですよね。だから、ジブリのCGアニメがあっても、不自然じゃないなって思いますけどね。

鈴木:
だから、手描きとCGのどっちに才能ある人がいるかなのよ。

ジブリ汗まみれ – 「日本のアニメ・映画の未来について」

手描き作品にこだわり続けたスタジオジブリが、3DCGに舵を切るのか否か。
おそらく、宮崎吾朗監督の企画次第で、3DCGの導入に踏み切るのではないかと思っています。
鈴木さんは、3DCGのクリエイターに優秀な人材が増えていることを認識しています。
宮崎吾朗監督に、3DCGを薦めたのも、ほかならぬ鈴木さんです。

3DCGを提案するときは、父親・宮崎駿との戦い

2011年に放送された「ジブリ汗まみれ」では、3DCGの未来について語る座談会が行われました。
このときは、神山健二監督が『009 RE:CYBORG』を3DCGをセルルックで制作し、鈴木さんが興味を示しています。

鈴木:
吾朗君、この技術で作ってみたいですか?

宮崎:
お茶碗と箸で、ご飯を食べさせられるんだったら、やりたいと思います。
所詮、絵に描いたもんなんだけど、それが人間を表現してるんだっていう。記号化された感じの線のキャラクターかもしれないけど、やっぱりそこに人間がいるっていう。生きてる人間がいて、何かやってるんだっていうものを、やるしかないんだろうなと。ジブリ的っていうと、かならず飯食うシーンが出るじゃないですか。

鈴木:
単純化すると、『コクリコ』をサンジゲンさんの技術(3DCG)でやったらどうなったか。
例えば、いまジブリで作ってる作品があるのよ。あるカットをアニメーターとして登場してもらってさ、一回やってみるとどうなるかなと思って。
極論すると、それで作ったものを紙に描き起こすんですよ。で、パラパラっとやってみろって。それが、見分けがつくか。
ちょっとやってみる? 面白そうでしょ。
手描きだろうが、CGだろうが、上手な人がいるかどうかなんだから。人と付き合うってことでいえば、変わんないんだもん。
あとは、吾朗君が、手描きの問題でいうと、「ほかの表現でもいいじゃないか」って言ったときは、パパとの戦いよ。

ジブリ汗まみれ – 映画『009 RE:CYBORG』とアニメーションの未来

鈴木さん自身は、3DCGで制作することに抵抗はなさそうです。問題はパパとのこと。
そして、先日、吾朗監督が登壇した「Anime Japan 2015」のセミナーで、鈴木さんが宮崎駿監督に「これからは、3DCGの時代だ」と提案して、駿監督が「じゃあ、勉強してみようかな」と発言したことが明かされました。
この発言は、3DCGで作ることを受け入れるという、伏線にも受け取れます。鈴木さんが、交通整理をしているようにも思えますが、果たしてどうなるでしょうか。

本格的な映画は当たりにくい

ちなみに、3DCG作品の『STAND BY ME ドラえもん』と『アナと雪の女王』の大ヒットについて、鈴木さんはイベント的要素で当たったと解釈しているようです。

鈴木:
『ドラえもん』去年やったじゃない、山崎さんで。

川村:
あぁ、『STAND BY ME』ですね。

鈴木:
あれ、やるまえから、大ヒットするなと思ってたの。
映画そのものを観に行くんじゃなくて、ある種のお祭り。『アナ雪』も、そういう感じがあったしね。
だから、本格的に映画を作るっていうのが、ちょっと違ってきてるんじゃないかな。

川村:
なるほど。
確かに、もの凄い当たるものと、ほんとはもっと当たっても良いのにな、っていうものの差が、開いてきちゃったような気はしますね。

鈴木:
本格的に映画を作りたいわけでしょ?

川村:
はい。

鈴木:
そういう人が受難の時代になるよね。

ジブリ汗まみれ「日本のアニメ・映画の未来について」

現代は、時代の変動期に差しかかり、なにを描くのか難しい時代とされています。
そもそも、手描きにしても、3DCGにしても、描くに値するものを見つけることが重要なのかもしれませんね。
傍系の道を歩みながら大通りに出てきたジブリが、今後なにを描いていくのか楽しみです。

仕事。
「私と同じ年の頃、何をしていましたか?」
仕事で世界を面白くしてきた12人と、川村元気が対談。
ジブリからは、宮崎駿と鈴木敏夫が登場。
彼らが僕と同じ年の頃、何を想い、何を考え、どう働いていたのかを紐解く。

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