『風立ちぬ』と『かぐや姫の物語』のブルーレイ&DVD発売を記念して、鈴木敏夫プロデューサーと作家・作詞家として活躍する、秋元康さんが「エンターテインメントのこれから」をテーマに対談を行いました。司会進行は、お馴染みの日本テレビの依田謙一さんです。対談の模様は、ニコ生でも中継され、現在もプレミア会員は視聴可能となっています。
鈴木敏夫×秋元康 対談
依田:
あの、一応台本あるんですけど、お二人にあまり関係ないと思うので、もう置いちゃいますね。
実は、こうして二人でお話するのは初めてなんですよね?
秋元:
そうですね。
鈴木:
ラジオに呼んでいただいたんですよね。
秋元:
見てくださいよ。全然衣装の打ち合わせしてないから、なんかぼくが悪い人みたいなってるじゃないですか。シンプルな生き方と……。
鈴木:
ぼくね、ちょっと後ろめたいとこがあるんですよ、秋元さんに対しては。どういうことかっていうと、ぼくの記憶では、食事を二回ごちそうになってるんですよね。それで、一度もそのお返しをしていない。
秋元:
それは、藤巻さんのせいじゃないですか? 本来は、彼がセッティングしたわけですからね。それがいけなかったんじゃないですか。
鈴木:
そうですか、じゃあそういうことで(笑)。
秋元:
でもね、今日は博報堂の藤巻さんが、「今日は娘が来てるんで、ほんとに変なこと言わないでくれ」って。
鈴木:
いろいろね、公私ともに問題を抱えているんで。
依田:
『ポニョ』の主題歌を歌った、博報堂の藤巻さんですね。
秋元:
日本のエンターテインメントの話に全然進んでないですね。
依田:
大丈夫です。覚悟しております。
二人がお会いするのは、いつ以来ですか?
秋元:
いつぶりですかね。でも、ときどきお手紙いただいたり、本を送っていただいたり、そういうところで間接的には会っている気になっちゃうんですけど。もう、何年ぶりですね。
鈴木:
なんか、近くにはいるんですよね。
それこそ、今「東京国際映画祭」で大活躍されてて、ぼくもちょっとだけ関わってるもんですから、秋元さんのお名前をよくうかがうと。あぁ、やってらっしゃるんだなと。
依田:
改めて見ると、すごいツーショットですよね。ライヴで見るには、なかなか実現しないという。今日、けっこうマスコミの方もいらっしゃってるので、危ないこと言わないですくださいね。ニコニコ生放送で放送されてますから。
鈴木:
依田くんってのは日本テレビの社員なんですけど、司会その他、作曲もやってて、大活躍なんですけどね。
依田:
鈴木さん、必要ですか、その情報……。
鈴木:
今日、ちょっと緊張気味じゃない?
依田:
そうですね。鈴木さんだけだと全然緊張しないんですけど、秋元さんいらっしゃるんで。
秋元:
押井さんとの対談でしたっけ。けっこう、いろいろ突っ込まれてましたよね。
鈴木:
あれ、よく見てますね。凄いなぁ(笑)。
秋元:
ちゃんと見てますよ。
依田:
このまえ、押井守監督と対談されて、押井さんに「ジブリはこれからどうなるか」ということを、ネチっこく、しつこく。
いまどき、新聞記者でも途中で諦めるというところを、ずっときいてるみたいな。
鈴木さんはそのとき、なんてお答えになったんですか?
鈴木:
「何も変わんない」って言ったんですよ。
うるさいんですよ、あの男。まあ、友達なんでね、遠慮がなかったんですけどね。
そんなこともありましたね。
(中略)
『天空の城ラピュタ』はこうして生まれた
秋元:
始めは、作ることが楽しい。でも、それを継続していくと、違うことを求められるわけですよ。つまり、自分が始めた小さなことが、どんどん、どんどん、大きくなっていくわけですよね。
そうすると、初め『風の谷のナウシカ』のときは、そんなに興行成績、配収等が気にならなかったのが、気になりますよね?
鈴木:
とにかく、『ナウシカ』が面白くて。それで、諸般の事情で、『ラピュタ』をやらなきゃいけなくなる。
これなんかも、理由がありまして。宮崎駿は、『ナウシカ』を作ったあと、「鈴木さん、悪いけど二度と映画は作らない、もう辛い」と。何が辛いかっていったら、いろんな仲間がいるじゃないですか、その人たちに、言いたくないことも言わなきゃならない。
そうすると、何が起きたかっていうと、作品が出来た一方で、いろんな友達を失ったんですよね。そういう自分の人生っていうのは嫌だから、「おれとしては、もう一回、元のアニメーターに戻りたい」なんて言ってたんですよ。
ところが、『ナウシカ』の契約をするときに、監督の地位があまりに低いから、良い条件にしといたんですよ。そしたら、宮崎駿のとこに、たいへんなお金が転がり込んじゃって。それで、ぼくね、彼に相談されるんですよね。
なにしろ、見たこともないお金が来ちゃったと。「鈴木さん、どうしよう」って。ほんとうは、家だって買いたいし、おれは車が好きだから、車も買いたい。だけど、そんなことをやったら、みんなに後ろ指をさされる。それで、「何かいい案はないか」って言い出して。
それで、一方で高畑勲って人が、地味な企画だったんですけど、九州の柳川を舞台にした、ドキュメンタリーをやりたがってたんですよ。それで、宮崎駿に、そこに出資したらどうかと。
ぼくも、そのあと調べて分かるんですけど、当時(宮崎駿に)入ったお金は6000万円だったんですけど、だいたい、ドキュメンタリーって、高くても3000万円。それでいうと、1000万か2000万あれば、だいたい出来るんですよね。それで、その話をしたら、宮崎がその話に飛びついて、これなら良いことに使ったってことで、おれも評判が良くなると(笑)。
それで、『柳川掘割物語』って言うんですけど、宮崎駿の二馬力が製作で、高畑さんが作るっていうんで始めたんですけど。
高畑さんっていうのは、『かぐや姫』でもお分かりのように、歳とってからこり性になったんじゃなくて、若いときからこり性で。始めたんですけど、やってくうちに日にちが、どんどん過ぎていって。
そしたら、6000万円を映画の半分もできないうちに、使い切っちゃったんですよ。それで、もうお金はないと。それで、宮崎駿っていうのは、そういうとき人間的な人で、「どうしよう」って泣きべそかきましてね。「おれのボロ家もあるけど、抵当に入れるのは嫌だ!」とか、真剣に考える人で(笑)。
それで、ぼくがつい言っちゃったんですよね、「もう一本、やりますか?」って。
そしたら、そこで、ちょろまかして……今だから言うんですよ?(笑) それを『柳川』に回せば完成するし、もう一本の映画も出来る。そしたら、宮崎駿って人は、実に即断即決の人で、「分かった」と。分かったと同時に、『ラピュタ』の企画を5分で説明してくれたんですよ。ほんとうに、5分だったんです。
『ラピュタ』っていうのは、こうだ。「パズーと、シータがいて」って。あまりにも手際が良いんでね、「宮さん、それ考えてたんですか?」って話したら、「いや、小学校のときに考えたの」って言って。ほんとうに、小学校のときに考えたらしいんですよ。学校で習うじゃないですか、パズーとか、シータとか。
それで、いよいよ『ラピュタ』にも取り掛からなきゃいけなくなる。だからね、大きなビジョンを持ってやってきたわけじゃなくて、行き当たりばったり。
だから、『柳川掘割物語』がちゃんと、高畑さんが期間内にある予算で作ってれば、『ラピュタ』の誕生はなかったんですよ、ほんとうに(笑)。
秋元:
すごい話じゃないですか。
鈴木:
高畑さんっていうのは、ほんと悠長な人で。彼はずっと保谷に暮らしていて。作ってる最中に、ぼくと二人で石神井公園を歩いてたんですね。あそこらへん、良いお家がいっぱいあって、そしたら、愁傷なことを高畑さんが言い出してね。「立派な家がありますね。宮さんも、この映画にお金を出さなければ、こういう立派な家に住めただろうに」なんて言ってね。何言ってんだこの人、ってぼくは思ったんですけど(笑)。
それで、やっていったら、『ラピュタ』と『柳川』も同時に完成するっていう、幸運が訪れたんですね。
秋元:
だから、こういう敏夫さんたちみたいな人に、「これからのエンターテインメントを語る」って言っても、スタートがそういうことだから、ぼくもそうですけど、先は考えませんよね?
鈴木:
何にも考えてないですね。行き当たりばったりですよ。
依田:
借金を抱えると、次のをやるってことですね?
鈴木:
まあ、そうだね(笑)。
(中略)
みんなから愛される藤巻直哉
鈴木:
あ、そうだ。秋元さんは、ずっとご活躍されてるわけだけど、こないだの土曜日かな、藤巻さんが「秋元さんが、常にヒットメーカーなのは、おれがいるからだ」って言ってましたね。「おれは、いわゆるアゲチンなんだ」と。「おれと付き合ったやつな、みんな幸せな人生をおくる。だから秋元さんは、おれにもっと感謝してくれなきゃな」なんて言って。どう思われます?
秋元:
いや、まあ、そういうことでは、そうなのかもしれないですね。もしかしたら、そういうのを馬鹿にして、藤巻さんとか全然違いますよって言うと、そこで、バチが当たっちゃうかもしれないじゃないですか。だから、それも含めて、そうなのかなと。
鈴木:
面白い人ですよね。藤巻さんのことは今日、喋っちゃいけないことになってるのかもしれないですけど。
藤巻さんとは、どうしてお付き合いされてるんですか?
秋元:
なんですかねぇ。いつも背後霊のようにいるんですよ。振り切ろうとしても、いつもいるんですよね。やっぱ、あの人の凄いところは、空気を読まないところなんですよ。
鈴木:
読まないですよ。
秋元:
読まないというところは、魅力なんですよ。
鈴木:
読めないんでしょ、あれ?
秋元:
読めないのもそうですし、読まないのもあるし、どっちか分かんないですけど(笑)。
それでいて憎めないじゃないですか。みんなが、カチンときて、なにかなるわけじゃないんですよ。
鈴木:
そうなんですよ。ぼくなんか忘れもしない。ぼくのアシスタントで、白木って人がいて、この彼女がぼくの面倒を見てくれるんですけど。ある日、ぼくのとこにやって来て、「差し出がましいですが、よろしいでしょうか」って言うから、「どうしたの白木さん、遠慮しないで言ってよ」って。「お友達のなかに、良からぬ方がいらっしゃいます」って。「誰?」って聞いたら、藤巻さんなんですよ。「お付き合いを止めてください」って真剣なんですよ、真面目な人ですから。
それで、ぼくはゴチャゴチャ言ってたんだけど、彼女は納得しない。そしたら、それを聞きつけた宮崎駿が、白木さんを別室に呼んで、2時間二人っきりで、藤巻さんが必要だってことを説得したらしんです。
秋元:
それ、聞きたいですねぇ(笑)。
鈴木:
彼女は思い込んだら、なかなか考えを変えない人だけど、それを宮さんがね。
でも、2時間かかったって。ああいう人が、如何に必要かって。
秋元:
でも、ぼくが、ジブリの作品を楽しみにしてる人たちを代表して言えば、その2時間があったら、違う作品に取り掛かってほしいくらい、すごい損失だと思いますけどね(笑)。
あの、藤巻さんって、どういう人かっていうと、一緒にニューヨークに行って、オペラを見に行ったんです。
なかなか取れないチケットを博報堂が手配してくれて。で、オペラの良い席について、見始めようとしたときの第一声が、「寒いなぁ、これじゃ寝冷えしちゃうよ」って。もう、寝ることが前提なんですよ。寝冷えですよ!(笑)
鈴木:
なんですかね、あれ。
ぼくは、生涯忘れない事件のひとつとしては、宮崎駿の引退記者会見ですよ。お陰さまで、ほんとにいろんな方に集まっていただいて。ぼくは、横に座ってて、見まわしたんですよね。そしたら、顔見知りがいる。始まって5分ですよね、藤巻さんがスヤスヤと、あっちの世界に行かれたのは。
宮崎駿から、ちょっとだけ聞いたのは「ぼくの中にも藤巻さんはいる」。
秋元:
内なる藤巻が(笑)。
鈴木:
そう。
依田:
みんなが藤巻さんを抱えてるんですね(笑)。
鈴木:
カオナシみたいなもんですよね。
秋元:
あぁ、そうかぁ。おれの中にもいるかもしれないなぁ。そういうとこあるよなぁ。
でも、普通はそこで、自分でこの“藤巻”はいけないなと、なんとか治そうってするじゃないですか。
依田;
おれの中の藤巻を(笑)。
秋元:
ねぇ、悪霊退散じゃないですか。
依田:
全然アゲチンじゃないですよね。
秋元:
でも、ほんとにね、愛されてるんですよ。
依田:
藤巻さん、なにか反論ありますか?
(会場の藤巻さんに向かって)
秋元:
いやいや、絡ませると……。
鈴木:
出てこないでね!