ジブリ美術館 短編作品

三鷹の森ジブリ美術館で上映されている短編作品は、現在のところ10本あります。
どの作品も、15分程度の短いものですが、実験的試みであったり、短編だからこそ描けるような作品ばかりです。



短編作品は、DVDやBlu-ray化はされておらず、ジブリ美術館に行かないと観ることができません。
その場だけの、特別な作品ということですね。

それでは、それら短編作品10本を公開順にご紹介します。

くじらとり

くじらとり
まず、いちばん最初に制作されたのが、『くじらとり』です。
この作品は、中川李枝子さんの児童文学『いやいやえん』の第二話が原作で、絵柄も絵本のタッチに近いもので描かれています。

ちゅーりっぷ保育園の園児たちが、積み木で船をつくって、クジラを捕獲するために空想の大海原に出航します。
子どもの持つイマジネーションを映像化したもので、短編だからこそ描けるような作品です。

監督・脚本は宮崎駿さん、演出アニメーターは稲村武志さん、その他のアニメーターに湯浅政明さん、橋本晋治さんという、豪華なメンバーが集まっています。

コロの大さんぽ

コロの大さんぽ
二作目は、『コロの大さんぽ』という作品で、2002年から美術館で上映されています。

子犬のコロが、飼い主の少女・サワ子の後を追って、家を抜け出して、そのまま迷子になってしまいます。
子犬の視点と、それをめぐる人間の視点で描かれた良作です。

本作の背景美術は吉田昇さんが担当していて、パステル調で描かれた作風が、後に『崖の上のポニョ』で活かされることとなります。

ちなみに、本作にアニメーターとして森田宏幸さんが参加していて、本作の原画を担当したことが切欠で、『猫の恩返し』の監督に抜擢されました。

めいとこねこバス

めいとこねこバス
本作は、スタジオジブリが初めて作った続編です。

『となりのトトロ』の後日談的な作品で、本作の主人公はメイです。

ある日、自宅の庭でメイが遊んでいると、つむじ風が吹いて、慌ててメイは部屋に避難します。
すると、つむじ風も部屋についてきて、メイがそのつむじ風を捕まえると、その正体は、親のネコバスとはぐれてしまったこねこバスでした。そして、メイはこねこバスと仲良くなります。

メイの声優を務めたのは、長編と同じく坂本千夏さんです。そして、宮崎駿監督も声優として参加しています。

やどさがし

やどさがし
本作は、セリフというセリフがありません。
音楽・効果音をすべて人の声で表現していて、「ザー」「ぞぞぞ」「もわ~」など、オノマトペを映像表現した実験的な作品です。
効果音を担当したのは、タモリさんと矢野顕子さんです。

声で効果音を表現する試みは、長編作品『風立ちぬ』でも採り入れられました。

星をかった日

星をかった日
本作は、井上直久さんの『イバラード』が原作です。

人々の時間の使い方を監督する時間局から逃れるため、家から飛び出した少年・ノナは、田舎で不思議な女性のニーニャと出会い、彼女の農園で新しい生活を始めます。
そしてある日、謎の商人スコッペロとメーキンソーと出会ったノナは、自分の育てたカブを、彼らの売り物である小さな星の種と交換します。

本作は、『ハウルの動く城』のサイドストーリーという裏設定があり、ノナは子供時代のハウルで、ニーニャは若き日の荒地の魔女として描かれています。
なお、原作者の井上さんは、この設定を宮崎監督から聞かされたときは、ニーニャは荒地の魔女ではなくて、サリマン先生にしてほしいと思ったそうです。

水グモもんもん

水グモもんもん
本作は、水ぐものもんもんが、アメンボに一目惚れするという、恋物語です。

ジブリ美術館の常設展示のパノラマボックスで、水グモの絵を描いたことが切欠で、アニメーション化することとなりました。

宮崎駿監督は、近年は虫を嫌う人が増えていることを憂い、虫を嫌いにならないでほしいという想いを込めて作ったそうです。

虫を主人公にした作品が作れるのも、やはり短編ならではかもしれません。

ちゅうずもう

ちゅうずもう
本作は、民話『ねずみのすもう』を題材にしています。

企画・脚本は宮崎駿さんで、絵コンテ・監督は山下明彦さんが担当しています。
山下さんにとっては、初監督作品です。

音楽を担当したのは渡野辺マントさんで、ジブリ作品では『平成狸合戦ぽんぽこ』『ギブリーズepisode2』『ちゅうずもう』と、複数の作品を手がけています。

パン種とタマゴ姫

パン種とタマゴ姫
本作は、画家のピーテル・ブリューゲルが描いた『穀物の収穫』から、着想を得ています。

ヨーロッパの農村にて、魔力を操るバーバヤーガの下で、毎日こき使われるタマゴ姫。ある日、パン種をこねていると、パン種に生命が宿り、タマゴ姫とパン種は、ともにバーバヤーガの下から逃亡します。

宮崎監督は、日本の民話『おむすびころりん』のように、ヨーロッパにはパンが逃げ出す民話があると話しており、「パンを食べる国々にはパンが逃げ出すお話があるのを知りました」と述べ、それらの民話について「パンになる前のパン種なら、ネバネバ、グニャグニャ逃げ出すのかなぁ…、そんなことを考えているうちに、この映画を思いつきました」と語っています。

たからさがし

たからさがし
本作は、中川李枝子さんの絵本『たからさがし』が原作です。

少年ゆうじと、うさぎのギックが、ある日野外で同時に素敵な棒を見つけます。
ふたりとも自分のものにしようとしますが、どちらも譲りません。そこで、ギックのおばあちゃんに相談すると、「宝探し」で決めるよう提案されます。

本作は、宮崎監督が「歩く、走る」だけのアニメーションを作りたいという思いから、制作されました。
8分40秒という短い作品ですが、絵が動くという、アニメーションの根源的な魅力が凝縮された作品です。

アニメーションにおいては、歩いたり走ったりするシーンは描くのが難しいもので、腕のある人であれば、歩いたり走ったりしているだけで、女性なのか、男性なのか、何歳くらいなのかがわかると言います。そのため、若手アニメーター育成の意味も込められています。

毛虫のボロ

毛虫のボロ
本作は、『もののけ姫』制作前の90年代に、長編作品として企画されていたものです。
企画から約30年の時を経て、短編作品として公開されました。

孵化したばかりの毛虫が、外界に出るという、虫の目線で描かれた小さな冒険物語です。

当初は、宮崎監督初の3Dアニメーションとして作られる予定でしたが、最終的には限定的な使用に留まり、手描きのアニメーション作品となっています。
作画監督は本田雄さん、原画は山下明彦さん、CG作画監督は中村幸憲さん、美術は武重洋二さんと吉田昇さんという、豪華布陣で制作されました。

以上が、

三鷹の森ジブリ美術館で上映されている、短編作品10本です。
宮崎駿監督は、美術館の短編作品について、一年を通して毎月違う作品が上映できるように、12本作りたいそうなので、あと2本は作られるかもしれません。

実は、1月30日放送のラジオ「ジブリ汗まみれ」において、鈴木敏夫さんが宮崎監督に短編をあと2本作らないかと、話を持ちかけたことが明かされています。
もしかしたら、近いうちに11本目が公開されるかもしれませんね。