ナウシカは日本を変えたのか?

文春文庫より発売されている「ジブリの教科書」シリーズ。第1巻の『風の谷のナウシカ』が発売された2013年には、「ナウシカは日本を変えたのか?」と題し、鈴木敏夫プロデューサーと、作家の朝井リョウさん、川上量生さんの司会によって、『風の谷のナウシカ』を語る対談が行なわれました。



鈴木敏夫×朝井リョウ×川上量生 座談会

川上:
こんにちは。今日は「ナウシカは日本を変えたのか?」というタイトルで、ゲストの方をお呼びして座談会をすることになりました。司会をさせていただく、川上です。よろしくお願いします。それでは、ゲストを紹介いたします。スタジオジブリのプロデューサー、鈴木敏夫さん。

鈴木:
こんにちは。

川上:
そして、小説家の朝井リョウさん。

朝井:
朝井リョウと申します。よろしくお願いします。ただのファンなんですけど、こんなとこに呼んでいただいて、ありがとうございます。

川上:
今日は、鈴木さんにですね、いつものように「司会をやれ」と言われて、ぼくが司会なんですが、おそらく途中から鈴木さんが全部持っていくと思ってるんですけども……。それまでのつなぎとして、ぼくが司会を務めさせていただきます。

鈴木:
そんなことしません。

川上:
でもぼく、司会とか、ほんとうに嫌で。最近鈴木さんに言われて、いろんな番組とかに出るようになって、しゃべりが多少は上手くなったと思ってたんですけど、以前よりは上手くなったってだけで、世間的にはまだ全然上手くなってない、ということに気づいて。

朝井:
ぼく、すごいめちゃくちゃしゃべるの上手いイメージの方です。

川上:
いや、そんなことないです。

朝井:
またプレッシャー与えちゃいましたか。

川上:
ニコニコ生放送っていうひどいサイトがあるんですけどね。

朝井:
ひどいサイトって(笑)。

川上:
画面の上にコメントが流れるっていうサイトでね。ぼくは、いつも自分が出てる番組は音を消して見るんですよ。

朝井:
へー、意外ですね。

川上:
コメントだけ読むんですけど、そこにひどいコメントが書かれてて、「笑いが気持ち悪い」とか「しゃべりが下手くそ」とか……。

朝井:
でも、そのシステムを考えたのって、川上さんじゃないんですか?

川上:
違います。

朝井:
ごめんなさい(笑)。

川上:
社員の誰かですね(笑)。もう、ほんとうに心が傷ついてるんですけども。とりあえず、最初はぼくが司会ということでお願いします。

制作陣が明かす秘話「ジブリの教科書」

川上:
今日は、さっきから出てますけど、この本ですね。『風の谷のナウシカ』と書いてあって、「『風の谷のナウシカ』の小説かな?」と思って買うと、全然違うんですけど。これは「ジブリの教科書 文春ジブリ文庫」の第1巻です。ジブリのこれまでの作品が、どういうものなのかっていうことを説明してくれる、出たばかりの本です。
昔の本じゃないんですよね、今月出た……。いつでしたっけ? まあ、最近ですね(笑)。最近出た本なんですけど、第1巻は『風の谷のナウシカ』。その後は『となりのトトロ』でしたっけ? あれ? 『天空の城ラピュタ』ですね。

鈴木:
制作順にやるんですよ。

川上:
映画の公開された順番に、出版されることになっています。そして、それぞれの作品について、いろんな人……その、いろんな人っていうのが、けっこう豪華ラインナップなんですけど、ナウシカですと立花隆さん、内田樹さん、えーっと……、すみません、あの、読み方がわかりませんけども……。

鈴木:
……(笑)。

川上:
すいません、本当にめちゃくちゃで(笑)。1回目のテーマが、ナウシカですので、今日はナウシカについて語ろう、ということでこちらのゲストの方々をお呼びしています。

朝井:
よろしくお願いします。

川上:
朝井リョウさんは、ナウシカは?

朝井:
生まれる前ですね。ぼくは1989年生まれなので、1984年公開ですよね『風の谷のナウシカ』は。だから生まれてから、テレビとかビデオとかで初めて子どものときに観て。子どものころに観るとなんか、けっこう怖いなって思ったのがいちばん最初の印象で覚えていて。虫の造形とか、音楽の感じとかも含めて、子どものころ直視できなかったんですよ、怖い話だと思っていて。
でも、ラストシーンだけは、強烈な印象で覚えていて。あの金色の中で、ナウシカが上に上がっていくシーンは覚えていて、あの意味っていうのも何もわからずに観てましたね。大人になってから見直して、こんなに広いことを語っていた作品だったんだなっていうのを、大人になってからちょっとずつ理解できるというか、考えられるようになったと思います。

川上:
テレビでご覧になったんですか?

朝井:
テレビとかビデオだったと思います。

『風の谷のナウシカ』は怖い映画

川上:
朝井リョウさんにとって、ジブリとの最初の出会いがナウシカというわけではないんですか?

朝井:
生まれたときに、もういくつか公開はされていて。子どものときって『魔女の宅急便』とか『トトロ』とか、そういうものから入るじゃないですか。その流れでナウシカにも触れたんですけど、ナウシカだけやっぱりちょっと手ざわりが違って。『トトロ』とか『魔女の宅急便』ほど無邪気に観られるテーマではないのかな、って子ども心ながらにちょっと感じていて、手ざわりの違いっていうのを覚えていますね。

川上:
『ナウシカ』って怖かったですよね。

朝井:
怖かったです。

川上:
ぼくは高校生のころだったんですけど、ナウシカが夢に、それも悪夢に出てきましたね。

朝井:
アハハ。すごい怖かったんですよ。テーマも子どもっぽくないわけじゃないですか。今回も「日本を変えたのか」っていうテーマだし、こういうものって子どものときに触れていなかったので、食べたことないものをいきなり食べてしまって「うぅ」となるような気持ちで。小学生ぐらいのときは、ちょっと1回置いとこうみたいな。もうちょっと大人になってから観てみようって。ちょっと不思議な作品だったんですよね。

川上:
でも今は、怖い作品という捉えられ方はあんまりしてないですよね。昔はほんとうに怖かったような気がしますけど。

朝井:
歌も、あのお子さんが歌ってる……、「お子さん」がって言っちゃった(笑)。

川上:
「ラン、ランララランランラン」っていうやつですよね。

朝井:
その歌も含めて、すごい怖かったんですよね。

川上:
あの歌は怖いですよね。ああいう、一見明るいかのように見えてすごい怖い歌って、昔はたくさんあったような気がしますけど、最近あんまりないですよね。

朝井:
すごくわかります。「ポンキッキーズ」の花子さんの歌とか、明るいんだけど怖い歌って、けっこうナウシカの歌に通ずるものがありますよね。

川上:
ぼくは関西だったですけど、「パルナス」っていう歌があって。「パルナス! モスクワの味~」っていうのがめちゃめちゃ怖かったんですよね。

朝井:
全然伝わらなかったです(笑)。

川上:
伝わらないんですけど、これは関西のぼくと同世代の人には、ほんとうにねぇ……(笑)。

宮崎作品はノスタルジックと怖さが同居している

鈴木:
怖いんですよね。これはナウシカの話じゃないんですけれど、『トトロ』って今でこそみんなに愛される作品なんですけれど、公開当時に映画館へ観に行った。そしたら、子どもたちが怖がってるんですよね。トトロのことを怖がっているんです。これはある意味、正しい見方というか……。
というのは、宮﨑駿もそういうつもりで作ってたしね。でも、どこかでみんな慣れちゃったというか克服しちゃったというか、そうじゃないものになったんですよね。

川上:
確かに公開するときは『火垂るの墓』と同時上映で、「おばけの話と、お墓の話で誰も来ない」みたいなことを言われながら公開したわけですよね。

鈴木:
そうなんですよ。面白いですよね、大人の見方と子どもの見方が違う。子どものほうがそういうことって、深く受け止めるじゃないですか。ナウシカのあの世界も、怖いって言うのはよくわかりますよね、うん。

川上:
そうですね。宮﨑さんの作品って、基本ちょっと怖さがありますよね。少しノスタルジックなところと同居して。

朝井:
怖いから人に話したくなって、気持ちを分けあって、人と語り合いたくなって、っていうのがずーっと続いてる感じしますよね。公開して30年近く経つのに。

鈴木:
ぼく、すぐ他の作品のことばっかり言っちゃうんだけど、『千と千尋の神隠し』だって、あの町の中に千尋が紛れ込んで、お父さんお母さんが豚になっちゃう。そしたときに、町中を走り回るでしょ? その時のカメラって、俯瞰なんですよね。ずーっと追いかけるでしょ? ぼくはラッシュを見ながら、「こういう怖いことをやっちゃって……」って思ったんですよ。なぜかというと、一種、江戸川乱歩っていうのかな。いたいけな女の子を上から見ている、しかも全部わかっている。こういう構図だと思ったんです。

川上:
あそこ怖かったですよね、自分の親が豚になっちゃって。それで、誰もいない街を彷徨うわけですよ。お父さんお母さんどうなるんだろう? と思って見てたら、そのままどうにもならないまま終わってしまうという。

ナウシカは推理ものの手法で描かれている

鈴木:
もう1つナウシカに特化して言うと、宮﨑駿っていう人のそばにいてずっと思ってたのは、ナウシカの物語っていうのは、俯瞰して物語を説明してくれない。つまりナウシカという主人公があっち行ったり、こっち行ったりして、そこでの情報を観ている人が共有することによって、その世界がわかってくる。ぼくは、実は「推理もの」だと思ってたんですよ。

朝井:
はじめに説明せず、ちょっとずつわかっていく。

鈴木:
しかも、彼女が知ったことじゃないと、ぼくらにはわからない。

朝井:
難しいですね、そうすると。

鈴木:
ゆえに、ナウシカは出ずっぱりでしょ? だからミステリーっていうのか、サスペンスっていうのか、その手法だと思ったんだよね。

朝井:
確かに、観たときに、いきなり腐海のシーンから始まって、なんにも情報を与えられてないわけですよね、こちらは。その中でナウシカがいろんなものに出会って、ナウシカがどういう言葉を交わせるっていうことも、そういうことすらもわからないところから始まっていたので、そういう意味でもゾワゾワしていたというか、怖かったっていうか。

鈴木:
怖いって、もしかしたら当たり前。

朝井:
一緒に知らない世界に行って迷子になって、っていうことを思いました。

鈴木:
「迷子になろうよ、一緒に」っていう感じなんですよね。何回も観ていると結末がわかっているから、そこらへんのことを知りながら観るから、怖さは減っていきますよね。

川上:
何回も観るとそうですよね。1回目は本当に怖いですよね。

朝井:
怖いです。

冒頭のタペストリーには、伝説が描かれている

鈴木:
その作り方に対して、側にいた人間としては「いいんだろうか?」ってちょっと思っちゃったんですよね。

朝井:
あまりにも説明が足りないということで?

鈴木:
そう。もう少し説明があったほうがいいんじゃないかっていうのが、実はナウシカを作ると決めたその日の夜の打ち合わせだったんですよ。それで、ぼくと宮﨑駿と高畑勲、みんなでしゃべって、ぼくがそのことを指摘した途端、宮さんが怒っちゃってね(笑)。

朝井:
怒っちゃったんですか?

鈴木:
誤解を与えるかもしれないけれど、彼がこういうことを言ったんで、ぼく言っちゃうんだけど……。「『巨人の星』みたいな作り方はしたくない」と。

朝井:
具体名が出ちゃいましたけど、大丈夫ですか(笑)?

川上:
『巨人の星』ってそんなんでしたっけ?

鈴木:
彼に言わせるとそういうことなんですよね。もう全体がわかっていて、その中で主人公がどうやっていくか。
もう怒っちゃって、取り付く島がない。そしたら高畑さんがそれをとりなしてくれて、彼がぼくに代わって説明してくれたんですよ。「鈴木さんが言いたいのは、こういうことだろう」みたいなことを。

朝井:
翻訳してくれたんですね。

川上:
それは、ほんとうの翻訳だったんですか?

鈴木:
ほんとうの翻訳でした。実はそのときに、高畑さんから……、あの人って非常に論理的な人でもあるけど、一方でものすごい具体的な人だから。映画の冒頭にタペストリーが出てくるじゃないですか、クレジットが出てくるときに。ナウシカの伝説をタペストリーによって説明しちゃう。あれ、実は高畑さんのアイディアなんですよ。

川上:
そうなんですか?

鈴木:
高畑さんが、そういうのをやったらどうかと。そうすると、おもしろいことが起きたんですよ。ぼくは、ものすごい納得なんですよ。「ああ、いいよね」って。宮﨑駿という人のおもしろいところはね、そこで「タペストリー、描いてみたい」って。

朝井:
あ~。

鈴木:
それが映画の全体に、どういう影響をもたらすかっていうことよりも、そういうのを描いてみたい、と。

朝井:
ものすごい純粋な方なんですね、ものを作ることに対して。

鈴木:
俯瞰してものを見るんじゃなくて、なんて言うのかなぁ……。ああ、この人やっぱり作家なんだなってことを思った。

川上:
あのタペストリーっていちばんの不思議で、「なんてかっこいいんだ」って思ってたんですけど、あれはあらすじだったんですか?(笑)

朝井:
せめてもの情報提供。

鈴木:
全体のストーリーを、よーく見ていくとね、あの中に全てが含まれてるんですよ。

川上:
いやいや、あれ含まれてないですよ(笑)。

朝井:
わかって観ないとわかんないですよね。

川上:
それっぽい暗示みたいな……。

朝井:
そうそうそう。子どもとか、わかってないと気づけないですよね。

川上:
あれ、謎が深まるばかりですよね。説明になってない気がしますよね(笑)。

朝井:
そういうフォローがあったんですね。

川上:
でもあれ、ほんとうにかっこいいですよね。

宮崎駿は、ヒーローものを作りたかった

鈴木:
今の「怖い」っていう話から、連想ゲームで思い出しました。とにかく宮﨑駿っていう人は、勧善懲悪ものが好き。宮さんって、今72歳で昭和16年生まれなんでね、その世代の大きな特徴として、子どもの頃から、いわゆる勧善懲悪ものっていうのを見たり、聞いたり、読んだりをやってたタイプでしょ。そうすると、やっぱりいい人が、悪いやつをやっつけると。

朝井:
気持ちいいですね。

鈴木:
じゃあ、そのときに何を基準に良くて、何が悪いのかと。『ナウシカ』は、ぼくは漫画のころから付き合っていたので、わかりやすくしちゃうと彼に怒られそうだけど、自然を守る人がいい人で、自然を破壊するのが悪いやつだって。

朝井:
そういう線引きなんですか?

鈴木:
って、ぼくは理解してたんですよ。もう1つ、宮﨑駿っていう人は、いわゆるヒーローものが大好きなんだけれど、高畑勲と付き合って、「そんな、ヒーローなんて夢物語であって、何のリアリティもないじゃないか」と。

朝井:
そんな意見を……。

鈴木:
ずーっと言われてたんですよ。だからヒーローものに対する自分の憧れとかを押さえつけてきた。その押さえつけてるときに、「ナウシカだったらそれをやってもいいのかな」って。つまり、「目的が正しければヒーローものをやってもいいんだ」っていう(笑)。

朝井:
自然を守るっていう土台があれば、いくらヒーローぶってても大丈夫っていう。

川上:
それっぽいヒーローものってことですね(笑)。

鈴木:
その苦渋を側で見ていて面白かったですけどね。だけれど、ナウシカでそれをやるにあたって、なぜそういうミステリーものっていうか、主人公の見た目でしか情報が手に入らない手法でやるのかなって、疑問に思ったのをいま突然思い出しましたね。それが結果として、世界の恐怖を伝えることに役に立ってたんだなぁって思ったんですよね。

川上:
ナウシカは、そういう「自然環境を守ろう」みたいなメッセージを持った映画として世の中に受け止められたんですか?

鈴木:
受け止められましたね。やっぱりあの映画をきっかけに、世の中でそういう運動が増えたじゃないですか。それで実際、みなさん声を大にして、いろんなことをおっしゃってきたわけだけど、なかなかそれが上手くいかない。そのときにこの1本の映画っていうのは、映画の効用としてはすごくあったのかなと、それは思いますね。

川上:
アニメでそういうテーマを伝えるって、これまでナウシカ以前ではそんなになかったのかなって気がするんですけど、どうですか?

鈴木:
『ハイジ』が実はそうなんですよ。

朝井:
あ~、なるほど。

鈴木:
高畑さんって人は、非常に面白い人で。ハイジの原作ってすごく短いんですね。それをなんて言ったって1年間で50本でしょ? 何を柱にしたかって言ったら、やっぱりその話(自然環境)だったんですよね。

朝井:
そこから土台は、もうできあがってたんですね。

鈴木:
そういうことを、宮さんは高畑さんの重要なスタッフの1人として学んでたから。それを、いわゆる勧善懲悪っていうのか、いわゆる活劇でやるとしたらこうなんじゃないかって。多分こういうことなんだと思うんですよね、うん。けっこう今日、ぼく、冴えてますね(笑)。

川上:
けっこう、真面目な話で(笑)。

朝井:
そういう話を聞きたくて来てます(笑)。

私たちそのものが汚れかもしれない

川上:
でも、やっぱりナウシカをすごいなって思ったのは、単純に自然を礼賛するような話になってないですよね。自然っていうのが、虫が人間に対しては毒で、人間はそれに怯えながら暮らしているんだけど、実はそれが守るべき自然であり、地球を浄化しているという、そういう構造ですよ。
本当の汚れは人間じゃないのか、少なくとも昔の戦争を起こしたのは、人間じゃないのかっていうメッセージですよね。

鈴木:
原作のほうでしょ?

川上:
いや、映画のほうもそうですよね。

朝井:
原作だと、より強く出てますよね。

川上:
原作の方だと、もう本当に「人類死ね」みたいな感じなんですけど(笑)。

朝井:
ここに入ってはいけない、自分は汚れだ、と認識して引き返しますよね。

鈴木:
ぼく、自分がそういう立場だったのに忘れてるんですけど、「私たちそのものが汚れかもしれない」って原作の方では描いてあるんですよね。映画では、確かそれはなかったって気がするんだよなぁ……。

朝井:
映画では、腐海が浄化していくものだっていう反転はありましたけど、そこで自分たちが汚れだっていう明確なところがあったのかっていうと、確かに…。

鈴木:
ぼくね、あのセリフを見たときにね、何しろ側にいるじゃないですか。ものすごいドキンとしたんですよ。

朝井:
自分たちが汚れじゃないかって?

鈴木:
そう。で、ぼくは勝手に「ケガレ」と読んでいたんですけど、あれ「ヨゴレ」なのかなぁ?。
ぼくの勘違いかもしれないけど。何が言いたいかというと、それを突き詰めたらね、もう人間って何なの? って。要するに、自然のほうが大事なの? っていうことになっちゃうでしょ。ぼくは宮﨑駿っていう人のそこにねぇ、ペシミズムっていうのか、それを強烈に思ったんですよね。

川上:
漫画の方ですけど、ナウシカの世代は、今の世代の後に作られた汚れた地球で生きるための人類で、地球が綺麗になったら滅びるさだめなんだっていう設定ですよね。それで、要するに滅びないっていうわけですよね。汚れた存在のまま生きていくっていうことを選ぶわけじゃないですか。そこは単純に、ケガレだから滅びればいい、っていうのとも違いますよね。

朝井:
「生きねば」っていう言葉で、生きていくことを誓っていますよね。

鈴木:
よく覚えてますね。今回、『風立ちぬ』のキャッチコピーでそれ使って……。

朝井:
それ思ったんですよ。キャッチコピーで見たときに、「これナウシカのセリフだ」と思って。

鈴木:
さすが!(笑)。

朝井:
ナウシカのセリフがここにきて思って。こういうところつながるんだな、って思ったんですけど。

鈴木:
それは、ちょっと置いておきましょう(笑)。

朝井:
そうですね。汚れかもしれないけど、生きていこうっていうことを誓うわけですよね。

宮崎駿は結末を考えないで描く
そのスリルとサスペンスが作品を面白くする

鈴木:
ぼくなんかは、実はさっきの「自分たちが汚れそのものかもしれない」とか、そういうことを言った後の原作のほうの展開として、「あの腐海も人工的に作られたものだ」と。これぼく、ものすごくビックリしたんですよ、実は。

朝井:
あんな終盤でそんなこと言われちゃった、って。

鈴木:
ということなんですよ。もう少し正確に言うと、「え、今そういうこと言うの?」って。やっぱりあるでしょ?

朝井:
もう全部ひっくり返されたよっていう衝撃ですね。

鈴木:
僕は両方とも関わってたから、「映画を観た人の立場どうするんだ!」って。

朝井:
確かに映画では、ああやって終わったけど、あれが作り物だったって原作で描いてしまって。

鈴木:
そうなんですよ。

川上:
確かに、映画ではあれこそ自然そのものでしたよね。なのに、実はあれが自然じゃなくて人工だったって。

朝井:
もう絶望ですよ。映画で終わってひと安心した身としては。

鈴木:
あの漫画が完成した直後、宮﨑駿に「これは映画を観た人への裏切りじゃないですか」って言ったら、「いいんだよ鈴木さん、世の中そういうものなんだ」って。

川上:
ぼくは漫画を見て思ったのは、映画は漫画への裏切りだって思いましたね(笑)。「なんであそこで終わるんだ?」っていう。全然漫画の奥深さを、映画は30%も伝えていない。

朝井:
ぼくの感覚も川上さんに近いかもしれないです。映画のほうが原作を裏切っているっていうか、もったいない。

川上:
もったいないですよね。

鈴木:
これはね、朝井さんは無理だけれど。無理っていうのは、『ナウシカ』の映画の公開って1984年で、朝井さんはまだ姿形がないわけだから(笑)。だけれど、映画を作ったときの状況で言うと、そこまで原作がまだできてないんですよ。つまりあの映画のちょっと先ぐらいまでの話しか、原作がなかったんです。

川上:
あのエンディングは最初から考えてたんじゃなくて、描いていく過程でああなったんですか? 例えば腐海も人工物だったっていうのは……。

鈴木:
あれは描いていく途中ですよ。最初から考えてたんじゃないです。ぼくは本人に聞いたわけじゃないけれど、そう確信していますね。どうしてこういう風にしていく人なんだろう、この人はって。

朝井:
原作で「蒼き衣と金色の原っぱ」って、もう1回出てくるじゃないですか、もう一度違う形で。映画の後の話も、最後まで決めて、原作は進んでいるのかなと思ってたんですけど、それも描いていくうちに決まったんですか?

鈴木:
宮﨑駿が典型的な日本の作家だと思うのは、結末を考えないで書く。

朝井:
すごいなぁ……。

鈴木:
でも、これはぼくね、受け売りなんだけど、西洋と東洋の違い。西洋の人はどんな大長編でも結末が最後ありき。そこに向かって書いていくでしょ?
でも日本は違うでしょ。源氏物語の頃から、心に移りゆくよしなしごとを思うがままに書いていく(笑)。極端な場合、どんな短編でも、結末なしに書き始めるのが日本の作家でしょ。だから朝井さんは珍しいんじゃないかなぁ。

朝井:
ぼく、決めないと書けないですね。だから漫画を読んでいて、最後にもう一回「蒼き衣と金色の原っぱ」の場面がはまったときに「ここ考えてたんだろうな」って思っちゃったんですよね。そうじゃなかったってことですよね?

鈴木:
まぁ、最初はぼくだって、いろんなことを考えて、こうやってもって話を運ぶんだなぁって思ってたんですよ。ところが、付き合っていくうちに、そうじゃないってことがわかっちゃって(笑)。
ナウシカのころからずっとそうなんだけれど、宮﨑駿はシナリオを書くんじゃなくて、絵コンテから始める。いきなりそうなんですよ。どういう映画の作り方をするかっていうと、20分ぶんぐらい絵コンテを描いたら、もう作画インなんですよ。

朝井:
それは、シナリオで誰かに見せて?

鈴木:
なんにも出来てないの、映画の全体が。長さがどうなるかとか、起承転結がどうなるかとか、何にもわかってないんですよ。

朝井:
すげぇ……。

鈴木:
それで、みんな描き始めちゃうでしょ? もう引き返せない。で、次を描き始めるんですよ。

朝井:
めちゃくちゃ怖いことしますね(笑)。

鈴木:
よく海外の人に言われるんだけど、そんなことあり得るのかって。でも、ほんとうにあり得るんですよ。

朝井:
あり得るっていうか、それで出来てきてるわけですもんね。

鈴木:
付き合ってきながら、いろんな名言があるんですけどね。描きながら、どんな絵柄でもそうなんですけど、「まだナウシカは主人公になってない」って言うんですよ。

朝井:
描きながらずっとおっしゃるんですか?

鈴木:
何言ってるんだろうと思うんだけど、自分の中での納得の仕方? これがある事件に巻き込まれるとかいろいろやると、「少し主人公らしくなってきた」って。じゃあ結末は? っていうと誰もわからない。ぼくももちろんわからないし、一番わかってないのは本人。
ぼくが付き合ってきてわかったのは、そのハラハラドキドキが、作品への影響を生んでいる。作品そのものが、どこへいくかわからないままやり始めるわけでしょ? 漫画もそうだけれど、映画もそう。しかも、いっぱい人が関わっている。本人のスリルとサスペンスたるや、想像を絶するんですよ。

朝井:
追い込まれてるから、どんどん出てくるのかもしれないですね。

鈴木:
それが独特の宮﨑アニメを作ってるんじゃないかなって。

川上:
それはそうですよねえ。本人がわかんない、作者がわかんないってものが、読者がいちばんわかんないですよね(笑)。でもそれ、絶対正しいと思いますよ。

鈴木:
そういうことを、この中で言えばよかったんですよね。

朝井:
そういう、おもしろい話は書かれてなかったような気がしますね(笑)。

川上:
ナウシカだけにかかわらず、宮﨑駿ってことで。いろんなことにも他にもあるような気がしますけどね。

映画化を前提に漫画を描くのは、漫画に失礼

朝井:
これを読んで、すごいおもしろいなと思ったのは、「ナウシカを映画にしたい」っていちばん初めに考えられたときにはまだ漫画はなくて、企画を出したら「今はまだ時期が早い」と言われて頓挫してしまって、ナウシカを映画にするために漫画の連載を始めたっていうお話。

鈴木:
本の中では簡単にしゃべっちゃってますけど、正確に言うと、宮崎駿って人は企画を出したけど会社からダメって言われたわけですよ。
グループ会社の中に、古い映画会社で大映っていうのがあって、そこの責任者から「君ねぇ、映画なんてそんな簡単なものじゃないんだよ。原作があって、それが売れてるんならともかく……」って言われて。
それで、ぼくは宮さんに言いに行ったんですよ。「ちょっと力足らずでダメでした。こんなこと言われたんですよ、原作がなきゃダメだって」。そしたら、宮さんがね、「じゃあ描いちゃいましょうか」って。
そこで、「描いちゃいましょうか」で終わらない人なんです。実際に描き始めるじゃないですか。ある日、電話がかかってきて「鈴木さん来て」って。そしたら漫画の1ページが3枚並んでて。
右端にはほとんど描き込んでないナウシカがあって、名前を出しちゃって申し訳ないかもしれないけど、「これは松本零士さんタイプ」って言って。いちばん左だと1日1枚描けるかわからない。右だと1日24枚描ける。で、真ん中にもうひとつあって、「どれがいい?」って聞かれたんで、ぼくは「左」って言っちゃったんですよね。

朝井:
鈴木さんが1日1枚の方を指さしたんですよね?

鈴木:
そうです。やっぱり選んだんです。で、描き始めてるでしょ。そしたら真っ先に言い出したことが「鈴木さん、映画化のために漫画を描くなんてダメだよ」って。

朝井:
「あれあれ?」ってなりません?(笑)

鈴木:
「え?」って(笑)。漫画に対して失礼だと。「漫画を描くときは漫画を描かなくてはいけない」って。それで、「もう映画にはしない」と。

朝井:
そのエピソードを聞いて、ほんとうに先のことを考えずに描く人なんだなと思って。「漫画にするんだったら、映画にならない話を描こう」って途中で決めたっていうふうに書いてある。でもいちばん初めの発端って映画にするためだったよなぁ? とか思いながら読んでたんですよね。

鈴木:
コロコロ変わっていくんですよ。

朝井:
先のことを考えずに周りを巻き込んでいたからこそ、スリルの中でより良いものが作れる人なんだなって。

川上:
ナウシカって明らかに絵が違ってたじゃないですか。鉛筆描きだったので、その頃見たことのない漫画だったと思うんですけど。
鈴木さんってもともと漫画雑誌の編集者もやってたわけじゃないですか。映画のために原作を作るっていうときに、全然違った絵のナウシカを見て、非常に生産性が悪いっていうのをわかった上で、それを選択したのってすごく……。

鈴木:
結果としては大きかったんですよね。

川上:
魅力があったてことですか? その絵が。

鈴木:
やっぱりぼく、自分が漫画を好きだったんですよ。いわゆる少年漫画誌も全部読んでた。そこで、ラブコメとかその他いろんな種類の漫画があったんだけれど、ちょっと引いて見ると、画一的でおもしろくない。そういうのとはまるで違うやつをやってみたいという気分があったんですよね。
例えば、週刊誌の漫画って、読み切り連載なんですよ。1話ごとにある問題が出て、その回の中で終わらせて、しかし、全体の話の流れは続いていくっていう、梶原一騎っていう人が発明した漫画の描き方にうんざりしてたんですよ。宮さんには、そういうことは関係なく描いちゃいましょうと言ったんです。

朝井:
また、ぶっ壊しますねぇ(笑)。

鈴木:
所詮、アニメージュなんて漫画誌じゃないわけだし。一種大河小説のような作品を、どこで区切るとかそういうことは関係なく、本当に途中で終わってもいい。これを条件にしたんですよ。それが彼に気を楽にさせたというか。
「ほんとうにいいの?」って、「いいです」って言って、そういう話はしたんですよね。

売れなかった漫画版『風の谷のナウシカ』

川上:
全部(当時の漫画と)違ってましたよね。そもそもあの大きさの漫画単行本なんて、その当時見たこともなかったし。

鈴木:
一つはね、漫画誌ってB5版なんですけど、アニメージュってA4版だったんですよ。そこに漫画を連載していた。単行本はこれを小さくしたものなんですけど、実はこれ、ページ数が少ないんですよ。なんでページ数が少ないかっていうと、これは136ページだけど、第1巻は118ページじゃないかなぁ……。
というのは、映画にしたくなって、宮さんを説得して映画にすることにしたんですけどね、その間に原作を売らなきゃと思ったんですよ。

朝井:
そうですよね、言われてましたもんね、売れなきゃ映画にできないって。

鈴木:
ぼくね、絶対売れると思って……というのか、売らなきゃいけないと思ったからページを薄くして……。

川上:
あ、それで大きくして(笑)。

鈴木:
それで、値段を安くすればね、いっぱい買ってくれるんじゃないかって。

川上:
あのとき、一般的な漫画は360円だったんですよね。ぼくが、高校のときだったんですけど。ナウシカは330円で、しかもデカかったんですよ。

鈴木:
最初のは280円なんですよ。

川上:
そうなんですか!?

鈴木:
幻の第1巻というのがあるんです。

川上:
280円のやつは見たことないです。

鈴木:
安くして売るために、こういうカバーもついてないんですよ。

川上:
カバーもついてないんですか?

朝井:
数を売ることを考えて。牛丼と同じ……。

鈴木:
とにかく数だけ。でも、全然売れなかった(笑)。

川上:
売れてませんでした?

鈴木:
売れなかった。7万部刷って5万部しか売れなくてね。売れないもんだなぁと思って。

川上:
280円のやつが。

鈴木:
そうなんですよ。いろんな経緯のなかで映画化が決まって、トントン拍子で上手くいったんだけど、博報堂さんとの話し合いのある会議で「鈴木さん、大事なこと忘れてた。原作、どのくらい売れてるんですか?」って。

朝井:
やばい、バレる(笑)。

鈴木:
ぼく、あんまり嘘はつかない人なんですよ。5万部しか売れてないってわかってるんだけど、そのときだけ嘘ついちゃって、「五……、十万部」って言っちゃったの。そしたら、みんな「そんなに売れてるんですか?」って。

川上:
すごいですね。映画を作るために原作を作ったんだけれども、いいものを作ったんだけど、べつに売れていなかったってことですね。そのまま映画を作っちゃったんですね。

朝井:
初めの条件を全部破ってますよね(笑)。

鈴木:
ぼくはね、便利な言葉を見つけたんですよ。いわゆる映画って、売れている漫画に目をつける。しかし、ナウシカは逆だと。売れてなかった原作が、映画の力によって売れるようになった(笑)。

朝井:
新しいモデルが。

川上:
メディアミックス。

朝井:
その先駆けだったんですね。映画そのものも面白いんですけど、映画になるまでのお話がこの本には詳しく載っていて、そこがまためちゃくちゃおもしろいんですよね。なんて大変なんだろう、このチームはどんだけトラブルに見舞われるんだろう? と思って。

鈴木:
大変でしたよ、もう。

『風の谷のナウシカ』から国民作家になった宮崎駿

川上:
今日のタイトルは「ナウシカは日本を変えたのか?」ってことなんですけど、実際どのぐらい変えたんでしょう? 例えば、立花隆さんはこの本の中で、「宮﨑駿が国民作家になったのは風の谷のナウシカを出してからだ」って言うんですけど、実際どのぐらいそうなんですか?

鈴木:
ナウシカのときに具体的にそういうことが起きたわけじゃない。でも後に、ナウシカの後、トトロっていうのを作るでしょう。これが揃ったときに、突然変わったんですよね、たぶん。

川上:
『風の谷のナウシカ』が公開された段階では、やっぱり狭かったということですか?

鈴木:
狭いですよねぇ。例えば、ナウシカの映画館での上映って、実はお客さんの数は92万人なんですよ。よく覚えてるんですけど。原作は売れるって言っても、まあ、数十万部。だから、そこまでの影響力はなかったけれど、その後の作品群によって変わっていったっていうのが、ぼくの実感ですけどね。

川上:
そうですね。

鈴木:
で、爆発したのはやっぱり『もののけ姫』って思ってます。でも「国民作家」っていう言い方は、ぼくも正しいなって言う気はしてるんです。

川上:
ぼくの母親なんかも、「『風の谷のナウシカ』良かった」って言ってるんですよ。ただ、ナウシカをいつ観たかって言うと、たぶん最初のときじゃないんですよね。

鈴木:
テレビなんですかね?

川上:
たぶん、テレビですよね。

鈴木:
ぼくが間違ってるかもしれないけれど、確か最初のテレビの視聴率が16.7%。当時としては、そんなに高い数字じゃないんですよね。

朝井:
そのときは、30%とかがドラマでバンバン出てたんですかね。

鈴木:
しかも、アニメーションだっていうことで、放送時間帯が夜7時からなんですよね。9時からできないんですよ。ぼくがよく覚えてるのは、夜9時から始めたのはラピュタですよ。それで、『となりのトトロ』を夜9時からテレビで放映。そしたら、それが大問題になっちゃってね……。

朝井:
そうだったんですか?

鈴木:
なんでかっていうと、当時そういう時代なんですけど、「なぜ子どもが見るものをそんな夜遅く放映するんだ」と、日本テレビは抗議の電話だらけですよ。

朝井:
そういう抗議があるんだ、不思議……。

鈴木:
そういう時代があったの。ジャンジャン電話が鳴って。

朝井:
「内容が子どもに則してない」とかいう電話だったらわかりますけど、そういうことじゃないですよね。「時間帯がおかしい」と。

鈴木:
夜に漫画をやるなんて、日本テレビっていう会社はなに考えてるんだっていう。要するに、世の中にまだ道徳があったんだよ。

朝井:
まだ?(笑)

川上:
あの当時、だって「11PM」ですもんね。11時になったらいやらしい番組が……そういう時代ですよね。

朝井:
そんな時代だったんですね。知らなかった。

『ナウシカ』によって、環境問題へに意識が高くなった

鈴木:
「日本を変えたのか?」って言われるとあれだけど、やっぱり「自然を大事にしよう」っていうことをみんなが平気で大衆的に言うきっかけにはなったんじゃないですかね。

川上:
映画の公開のときにそういう流れはあったんですか?

鈴木:
まだそこまではね。

川上:
やっぱり、そこはズレてるんですね。

鈴木:
若干ズレてるんだけど、やっぱり中にはそういう先を行く人たちがいたんですよね。ナウシカも、トトロも特にそうだったんですけど、いろんな手紙が来ていたんですけど、「自然を大事にしなきゃ」っていう、そういう手紙が増えましたよね。みんなが平気で、「人間と自然の問題を考える」なんてことを、一般用語として言うようになったんですよ。
ぼくは、お腹の中のことを言うと、「みんな何かに踊らされているんじゃないかなぁ……」って、ちょっとそういう気もしてたんです。

朝井:
ものすごい冷静な目ですよね。

鈴木:
例えば『となりのトトロ』で言えば、みんながなぜトトロを好きになったかと言ったら、お腹を押したらへこみそう、それから、メイちゃんがピョンピョン。そういうものが本来好きなはずで、「人間と自然が……」なんて、そこまで思うのかなぁって(笑)。

朝井:
そこは「やったー」って感じじゃないんですね。自分のプロデュース作品でそんな影響があって、嬉しいという気持ちではない。

鈴木:
そういうことは感じなかった(笑)。

朝井:
ものすごい意地悪な目線ですね(笑)。

川上:
でも、鈴木さんがそういう風な宣伝をしたんじゃないんですか?

鈴木:
まあ、そうですかね(笑)。でも、その頃はまだ、あんまり宣伝に目覚めてないんで。

川上:
そうですよね。この本の中でも、宣伝に目覚めたのは『魔女の宅急便』からっていうことになってるますよね。

鈴木:
もう、止むに止まれずですよ。作るのに精一杯で。

現在の深夜アニメの源流にあるのはナウシカ

朝井:
でも「日本を変えたのか?」っていうタイトルに絡めて考えると、いたいけな……というか、女の子にこれだけの責任を負わせて冒険させるっていうのは、作品として結構新しかったんじゃないですか? 女性のヒーローっていう。

鈴木:
ぼくのもう1つの目ではね、傷ついた地球を1人の女の子が救う話でしょ? むちゃくちゃだなって思ってた(笑)。

朝井:
そういう意味では、日本の中ではすごい新しい作品ですよね。

鈴木:
やっぱり女性に目をつけたところが、宮﨑駿のすごいところですよね。

朝井:
すごい印象に残ってますね、「女の子なんだ」って。

川上:
ジブリ作品って言うと、今の深夜アニメとか、アニメの主流とは一線を画しているわけじゃないですか。画しているんだけど、深夜アニメの女の子が活躍する話の源流って、やっぱりナウシカですよね。

朝井:
それは思います。

川上:
そこから分岐したんですよね。そのことに対して、一部のコアなアニメファンっていうのが、今のジブリ作品に対して文句を言っているという現状が(笑)。

朝井:
へー。そこから照らし返して。 

川上:
そうですね。ぼくの世代っていうのは、ナウシカ・ラピュタ以降のジブリ作品に対しては、「おもしろいんだけど……」っていう。少し……。

朝井:
なんか言ってやりたい感じ?(笑)

川上:
っていうのがあるんですよ(笑)。

鈴木:
やっぱり強烈だったんですね、ナウシカが。

朝井:
強烈だったと思いますよ。日本を変えたっていう意味では、女性に、しかも若くて、いたいけな感じの少女にここまで責任を負わせて戦わせるっていう。新しいヒーロー像ができたんじゃないのかなって。それを追随するように、作品が実際生まれてる、ってこともあるのかなって思いますね。

川上:
カッコよかったですよね。

クロトワこそ宮崎駿

鈴木:
この文春の『ジブリの教科書』、宮﨑駿がこの本を読んだらしいんですよね。

朝井:
どうやって感じ取るんですか?

鈴木:
ぼくには何にも言わないんですよね。

朝井:
怖い(笑)。

鈴木:
だけれど、出版部の女性に対して、いろいろ感想を述べていて。ぼくについて、「鈴木さん、記憶が間違ってるよ」とか(笑)。

朝井:
えっ、これ間違ってるんですか?(笑) 嘘だ、大丈夫ですか?

鈴木:
お互い人のこと言えないけど、宮さんも記憶力があんまりいいほうじゃないから(笑)。どっちが正しいかわかりませんけどね。

朝井:
いやぁ、いろんな方が寄稿されてますけど、その方々もドキドキですね。本人に読まれたと思うと。いろんな方が書いてるんですけど、その文章がすごくおもしろくて。ぼくは男子だから、男子目線で見るじゃないですか。女性が寄せた文章は、気付かなかったとこに気付かせてくれてすごくおもしろくて。満島ひかりさんとか、川上弘美さんとか……。

鈴木:
あれ、びっくりしたんですよね。ここは説明するのめんどくさいから、ぼくからはこれを読んどいてくださいということで(笑)。

朝井:
お2人とも原作に関しても言及されていて、すごく印象的だったのが、ナウシカってものすごい正義の味方っていうか、大きなものを背負って、世界を救ったっていう感じじゃないですか。それに、川上弘美さんはプレッシャーを感じたって、自分はどうなんだっていう。ナウシカの場合は、善のほうに自分の持ってる能力が振れているけど、それが悪の方向にも振れる可能性があるのが人間で、私はそっちかもしれないって落ち込んだ、って書いてあって。
確かに、映画では善の方向にずっと振れてると思うんですけど、原作を読むと結構攻撃的というか、悪の方向にも振れる瞬間があって。「やっぱりナウシカって人間なんだな」っていうのを原作を読むと実感できて、おもしろいですよね。

鈴木:
彼の場合必ず、二面性っていうのを出しますよね。

川上:
その後の女の子が戦う作品に絶対にないシチュエーションっていうのは、自分の父親が殺されたときだと思うんですよね。あそこで我慢するじゃないですか。我慢するキャラクターっていないですよね、今の話だと。必ず、そこで怒りますよね。「正義の怒り」が全てを破壊するっていう方向に行っちゃいますけど、ナウシカではそう行かないですよね。

朝井:
そういう意味では新しいし、いろんな方々の指摘がすっごくおもしろかったんですけど、満島さんは原作の中で、クロトワがすごくおもしろいって書いていて。ぼくも原作を読んで、彼がすごい救いなんですよね。彼の一言が、けっこう現実的で。
ナウシカって、ぼくたちに出来ないようなことをじゃんじゃんしていて、こんなヒーローがいたら自分なんて無力だなって思うところで、クロトワが「そんなことしたって意味ねーよ」とか、ぼそっとものすごい現実的なことを、ぽんぽん投げていて、それがすごいおもしろいなって。

鈴木:
彼の使う言葉や状況判断を見てると、もうクロトワこそ宮﨑駿ですよ。

朝井:
そうなんですか!?

鈴木:
いちばん人間的でしょ?

朝井:
いちばん人間的で、クロトワが出てくるとすごく安心するんですよ。こういうこと言ってくれる人が、この世界にもいてよかった、って思える存在。

鈴木:
作家ってそういうものなんですかね? ナウシカとかクシャナとかいろいろいるけれど、クロトワに自分を仮託するっていうのか。

朝井:
クロトワがいてくれて、ぼくはすごく安心しました。ナウシカが生きている子ども2人を見つけて救うシーンがあるじゃないですか。「その2人を助けたって、これから先何十万人という死体を見るんだから意味がないんだよ」って、そういうことを言ってくれる人がいないと、現実世界に生きるものとしてはちょっと、ゾワゾワしてしまうというか。

鈴木:
宮﨑駿という人は、日常的にそればっかりですよね。

朝井:
本の最後に、カレンバックさんとの対談が収録されてたと思うんですけど、そこでもとにかく宮﨑さんは現実的なことをおっしゃっていて。そういえばそれですごいつながりました。現実的にものすごい考える方なんですね、こういう話を描いていながらも。

鈴木:
そうですよ。高畑勲も宮﨑駿も、ふたりがよく使ってる言葉ですけど、「理想を失わない現実主義」。

朝井:
難しいなあ……。

鈴木:
要するに、現実主義者っていうのは、とかくニヒリズムに陥りがち。でも、理想を達成するためには、そこに現実主義が必要だろうと。

朝井:
ロマンもちゃんとあるし、現実的な考えもちゃんとできてるしっていう。

川上:
世の中にある理想主義のものっていうのは、現実を見失っているものが多いですよね。

朝井:
「いや、無理だよ」って言いたくなるのが多いですね。

鈴木:
だって、世の中でいちばん危険な人って、実は理想主義でしょ。怖いですよね。

朝井:
それが違う方向に振れると、自分が王になって全人類を従わせようとか、そういう方向にも行きがちですよね。

鈴木:
ニヒリストのほうが悪いことしないですよね。

朝井:
最後のカレンバックさんとの対談で、すごいそれを感じたんですよね。カレンバックさんは、けっこう理想的なことをおっしゃる中で、宮﨑さんが「それは無理だと思います(笑)」みたいな感じで。

鈴木:
あの人、笑いでごまかすんですよ。

朝井:
「(笑)」ってつけてる文章が、けっこう笑えないっていう(笑)。

鈴木:
笑ったときは、いつも怖いんですよ。

朝井:
それは、すごい滲み出てます、この対談の中で。「これ喧嘩してない?」って呼んでるときに思って。「(笑)ってついてるけど……」って。

鈴木:
あの笑い方って、宮﨑駿の映像を見ていただくとわかるんだけど、ほんとうに嬉しそうな顔するんですよね、ニコーって。大概それって、人に対してほんとうは言っちゃいけない、まずいことを言ったときのフォローなんですけど。でもあの身に着けた笑顔がすごすぎるから、相手も笑わざるを得ない。処世術ですけれど、あれすごいですよね。子どもでもあんなことする人いないでしょ?

朝井:
いないですよ、そりゃ。これは、ちょっとすごい面白かったです。

鈴木:
あれでみんな好きになっちゃうんですよね。許せるっていうのか。

朝井:
クロトワ=宮﨑駿さんっていうのは、個人的にそれがわかっただけでも、だいぶ収穫でした。

鈴木:
現実的な人なんだよね。例えばナウシカで、ぼくらは出版社だったから本も作んなきゃいけない。『ジ・アート・オブ・ナウシカ』なんていう本を作ったんですよ。その表紙をどうするかって言うんで、ぼくは風の谷の風景を表紙にしたんですよ。
そしたら宮﨑駿っていう人はそれを見てね、「鈴木さん、怖い」って言い出したんですよ。「やっぱり、本はナウシカを表紙にすべきだろう」って、そんなことを言われたんですよ。

朝井:
谷じゃなくて、と。

川上:
怖いってどういう意味ですか?

鈴木:
やっぱり、そういう高尚な方へ行っちゃダメだよと。おれたちは駄菓子屋商売なんだから、風の谷はいい絵かもしれないけれど、やっぱり表紙は。

朝井:
ごまかさない方なんですね。クロトワは常にごまかしてないですからね。

鈴木:
クシャナに対してもいろんなこと言ってるしね(笑)。あれがいちばん彼の実像に近いですよね。

朝井:
へー、いいこと聞きました。

宮崎作品で理想化した主人公はナウシカだけ

川上:
でも、ナウシカっていうのは理想像でもあるわけですよね?

朝井:
ナウシカに、ぼくらの理想みたいなのが詰まってますよね。

川上:
ぼくは、ナウシカになりたかったんですよ。

鈴木:
男で?

川上:
生き方というかそういうのが……。

鈴木:
女性で多いですよね。

朝井:
憧れの人がナウシカ、っていう人多いですよね、女性の方で。映画版は特に憧れが相当詰まってる感じですよね。

川上:
テトに噛まれるシーンあるじゃないですか。あれを真似できるか? って高校生のときにすごい考えたんですよね。

朝井:
怒らないで待てるか。

川上:
噛まれて。あれ、テトがちっちゃいから我慢できるんですよ。あれがライオンだったら食いちぎられるじゃないですか。そこの境界線をどういう風に設定すればいいんだろうっていうのが、高校のときの課題だったんですよ(笑)。

朝井:
一体何を考えてたんですか、高校生のときに(笑)。

川上:
ナウシカみたいな生き方がしたいって考えた場合に……。

朝井:
まずそこから入ろうと。

鈴木:
宮さんだったら、まず自分の指を差し出すでしょうね。

朝井:
噛まれても何も言わない?

鈴木:
そういう気がする。犬が好きなんですよね、彼。だから、犬との関係においてもそうですよね。犬が吠え立ててきたときって、指を出して奥へ入れてあげると大概静かになるんですけど、そんなようなことを身を持ってよく知ってる人っていうのか、そういう気がするんですけどね。

朝井:
確かにテトのシーンって、それまで何の説明もない、ナウシカがどういう子なのかっていうのが、たった5秒ぐらいでわかるすごいシーンですよね。

鈴木:
ねぇ、一瞬でね。

朝井:
説明しないから、きっと何十年経ってもいろんな人が話したがるんですよ。

鈴木:
彼はいろんなキャラ作ってきたけど、理想化した主人公って、もしかしたらこの人だけなのかなぁ。

朝井:
確かに憧れの人物で挙がるようなのは……。「サンです」っていう人はあんまり出会ったことないですもんね。「ナウシカです」はありますけど。

鈴木:
ナウシカだけだよね。サツキとメイちゃんはね、別の意味で。

朝井:
あー、別ベクトルで純粋っていうところで憧れが。

主人公になるには、特別な能力が必要

鈴木:
今ラピュタの話をするのも何ですけど、彼がこういう映画を作りたいって言ってきて、でも何しろ高畑勲から「ヒーロー物はダメ」って言われてきたから、主人公を普通の男の子に設定したんです。でも普通の男の子じゃ話にならないでしょ?(笑) それで悪戦苦闘してたんですよね。

朝井:
シータがいない設定として?

鈴木:
シータもいたんだけど、男が主人公の物語を作りたい。特段、ある能力を持ってるわけじゃないじゃない。それでいて、どうやって主人公にするのか。これは苦しんでましたよ。

朝井:
ナウシカはある種、特別な能力があるから。

鈴木:
しかも、族長の娘でしょ? 風の谷って500人でしたっけ。その人たちのために戦えばいいわけでしょ? そのことによってある種ヒーロー性が出るわけじゃないですか。

朝井:
そうか、パズーは何にヒーロー性を託せばいいのか。工場で肉団子を食べてる少年ですよね。

鈴木:
『未来少年コナン』っていうのを昔、彼は作って、みんなが親しみやすいキャラクターにするために、槍みたいなのを持たせてたんですよね。パズーのときには、何かそれに代わるものはないかって、すんごい悩んでたんですよ。それでやっと、トランペットだって言って。「パーパーパパー」ってやるでしょ? その後見ていったら、なくなっちゃってね(笑)。
「あれ? 宮さん、トランペットどうしたんですか?」って言ったら、「あれ、めんどくさいんで」って(笑)。

朝井:
あれ、もともと相棒的な存在だったんですか?

鈴木:
ほんとうは最後まで、あれを持ち続ける予定だったんですよ。大変だからやめたって。

川上:
トランペット持ってるシーンも記憶ないですよ。

鈴木:
アッハッハ。

朝井:
確かに、吹く以外で持ってたっけな? って。あの朝のシーン以外。

川上:
普通の何の能力もない男の子が、そういう不思議な運命に巻き込まれていくっていう話って、ラピュタ以外はなかったんですかね?

鈴木:
大概何か能力持ってますよね。大リーグボールが投げられるとか。

川上:
アハハハ。

朝井:
さっきの伏線だったんですね(笑)。
普通の少年が、少女を守るっていうところにヒーロー性が宿ったんですね。普通だけど、守りたいっていう。

鈴木:
さっき話したように、主人公にならないで悩んでるでしょ? やっと主人公になってきたっていうのは、そういうことと関係あるんだと思うんですけどね。

朝井:
物語がどんどん進んでいくに連れてヒーロー性が宿っていく。

鈴木:
エスコートヒーローにすることによって、それを成立させた。

朝井:
そのほうが、観ている方も一緒に育っていく感じがして、気持ちいいかもしれないですよね。

宮崎作品には、いろんな段階の主人公がいる

鈴木:
今まで考えたことがなかったんだけど、宮﨑駿の主人公ってね、ナウシカはそういうものをいちばん持ってる人だとすると、かたや今のパズーみたいなのがいて。いろんな段階の主人公がいるのかなぁって、ふと思ったんですよ。普通いろんな作家って、名前は違ったり姿形は違うけれど、だいたい、ね。

朝井:
根底にあるものは同じっていうのが多いですよね。

鈴木:
同じでしょ? それが毎回違う。だって、ハウルなんか全然違いますもんねぇ。いや、よくやってますね、あの人。

朝井:
まさか、この放送中に気づくっていう(笑)。

鈴木:
珍しい人なんじゃないですかねぇ。

朝井:
ナウシカを生んで、パズーを生んで……って考えると、ぜんぜん違う部屋で考えてる気がしますね。

鈴木:
あのとき思ったんですよ、『もののけ姫』のアシタカ。ナウシカは、風の谷の500人のために戦う。だからみんな共感できると思った。ところが。アシタカは、ここに出来たアザを何とかしたくて、挙句の果てに村を追い出される。それでこの人に共感するのは難しいなぁって。宣伝の立場で言うと、そう思っちゃうんですよ。

朝井:
どう説明しようと、この人の使命感みたいなものを。

川上:
そういう意味では、主人公の境遇的に共感を覚えるキャラクターっていうのは、これ以降ない気がしますね。設定として、共感を覚えるキャラクターはいないですよね。

鈴木:
やっぱり、それをやるためには、ヒーロー性が必要ってことですよね。

朝井:
ナウシカは抜群ですもんね、ヒーロー性。

鈴木:
でも、次から次へと量産したらウンザリですよね?

朝井:
まあ、ファンとしては次から次へと観たい……。

川上:
ぼくは観たかったですよね。ぼくはナウシカの「2」をずっと待ってましたもん。

朝井:
あっ、賛成派の方ですか?

川上:
賛成派って言うより、ナウシカ出て、ラピュタ出てっていう間に、漫画は連載が続いてたじゃないですか。「2が出てほしい」じゃなくて、「いつ出るんだろう?」って。ぼくはねぇ、いつ出るかだけを知りたかったんですよ(笑)。まさか予定もないなんて、思ってもなかったですよね。

鈴木:
全く考えなかったですよね。周りが恵まれてたのかなぁ。ナウシカの2をやるって誰も言わなかったですね。

川上:
じゃあなんで漫画を連載してたんですか? 映画作っちゃったのに、漫画連載する理由ないですよね。

鈴木:
そりゃあ、漫画は、さっき言ったやつですよ。

川上:
漫画に失礼だと。

鈴木:
映画にはできないものを漫画にする。だから彼の中では、『ナウシカ』の映画はともかくとして、それ以降を作るっていうのは、やっぱり漫画に失礼なんですよ。だから漫画にしかできないことを描き続けたってことなんでしょうね。いやぁ、今日は勉強になるなぁ。

エンディング変更の提案に即決する宮崎駿

朝井:
映画と原作を見て思ったんですけど、やっぱり映画のラストシーンって、すごい揉めたんじゃないかなと思って。どういう風にしてあのラストに決まったのかなってずっと気になってたんですけど。

鈴木:
宮﨑駿の絵コンテだと、王蟲が突進してきてあそこから飛び降りてきて、宮さんの描いた絵コンテだと、突進してきた王蟲たちが急ブレーキですよ。ぶつからないんですよ。それでおしまい。

朝井:
はぁ(笑)。

鈴木:
そりゃあねえ、高畑勲ならずとも、ぼくだってびっくりですよね。だって、あっけないとかそういうのじゃない? 
要するに映画として「なんでここで終われると思うの?」って。それで高畑さんが、できた次の日だったと思うんですけど、「2人でちょっと相談しませんか?」って。それで延々話したんですよね。

朝井:
でも、そうだろうなってずっと思ってました。すごい話し合ってたんだろうなぁって。

鈴木:
8時間ぐらい話し合ったんですよね。それで、高畑さんがいろいろ考えてくれて。その果てに、やっぱり宮さんのやりたいまま、それでいくのか。あるいは、死んじゃうっていうのがありますよね。それで伝説になる。しかし、死んで蘇るっていうのもあるんじゃないかって。
「娯楽映画として考えたらですよ」っていうことを高畑さんは前置きしたんだけど、高畑さんってそういうときに、言葉を丁寧に言うんですけど……、「鈴木さん、どれがいいですか?」って。

朝井:
うわー、怖い怖い(笑)。

鈴木:
それをねぇ……、人に選ばせるんですよね。それでまあ、「死んで蘇るですかねぇ」って。じゃあ。宮さんのところへ言いに行きましょうか、って2人で言いに行った。そういうときの宮﨑駿っていう人は、考えないんですよね。「わかりました、じゃあそうします」って。ニコリともしない。

朝井:
死んで蘇るっていうことが許せない人なのかなって思ってました。

鈴木:
でもないんですよ。

朝井:
即答で。ラストにしましょうって。

鈴木:
それで、ぼくがなぜそうするかの理由を言おうと思ったんだけど、これは正確に覚えてるわけじゃないけど、聞かないんですよね。「わかりました」って。なんなんだろう、ああいうところ。

川上:
でも、いちばん最初のときは、さっきの話だとラストは決めないまま作り始めてますよね。でもラストのところ、青くなるっていうのは最初から入ってたんですか?

鈴木:
そうですね。正確なことを覚えてないんだけど、順番は逆かもしれないけれど、それはやろうと思ってましたよ。

朝井:
あの服の色の変化すごい。あれ、見事に……。キレイですよね。

川上:
伝説になって。

鈴木:
最初は、蘇ってそうなる、ではなかった気がしますね。それもわかんないなぁ。不思議な人なんですよ、正直。

朝井:
そこはファンとして、今日聞きたいなと思ってたことの1つが聞けた。ファン目線で普通に。

鈴木:
だって、編集者に「こう思うんですけどどうですか?」って言われたらどうします?

朝井:
えぇ? ぼくも同じ態度をとってしまうかもしれない。どうなんだろう。

鈴木:
即決します? わかりましたって。

朝井:
わかりました、って言っちゃうかもしれないと思いました。

鈴木:
そうなんだ!

朝井:
自分の考えた話に、誰かから提案が入るって、基本的にちょっとムカつくじゃないですか。

鈴木:
はい。

朝井:
そこから議論しようっていうより、「わかりました、じゃそれで」って……。

鈴木:
あぁ、この問題を早く終わらせようと。

朝井:
っていうのはちょっとあるかなあって、今思いました。

鈴木:
自分の中にも、「これでいいんだろうか」っていうことが薄々あったってことですよね?

朝井:
あるんですけど、人から言われると、ちょっとムカッていうのはあるかもしれない。

川上:
ラストシーンは最初に決めるって言ってませんでした?

朝井:
決めた上で「こうじゃないですか?」って言われたときに、つじつまが合うんだったら、それで行きましょうっていう。そっちのほうが見る人にとって開かれているんだったら、そのほうがいいのかなと。映画のラストって。すごい開かれてますよね。原作の場合はもの凄い、文章で補足があるぐらいみんなで考えないとわからないようなものになってるけど、映画のラストって、きれいなハッピーエンドですごい開かれた、公的ものになってますよね。

鈴木:
それはわかりますよ。ぼくは個人的には、ハッピーエンド好きじゃないくせに、自分の職業的にはそれを要求しますね(笑)。

朝井:
それはしょうがないですよね。たくさんの人に観てもらうためにはっていうことを考えると。

鈴木:
考えちゃうんだなぁ……。おもしろいですね。

『風の谷のナウシカ』は3部作で提案した

川上:
でもナウシカも、どちらかと言うとラストがどうのこうのっていうよりも「ここで終わるの?」って感じでしたよね。

鈴木:
映画ですか?

川上:
「映画、もう終わっちゃうの?」って。どちらにせよ、無理やり終わらされた感じがして。早く続きが……みたいな。

朝井:
未だに待っていらっしゃる?

川上:
いや、もうね、可能性がゼロだっていう……。

朝井:
ゼロなんですかね?

鈴木:
宮﨑駿は作らないでしょうね。ぼくはひどいことを言ったことがあるんですけどね、庵野秀明っていう、エヴァの彼が「ナウシカをおれに作らせろ」みたいなことをずっと言ってて。ぼくは彼のことをよく知ってるから、ことあるごとに宮さんに、その話をしてきたんですよ。
そしたら「冗談じゃない」って。あるとき思いついて原作を読んでみると、映画の後のパート2に相当するところ、これは殺戮の話なんですよね。それを、庵野にやらせたらどうかと。それはそれで終わらせといて、最後にもう1回宮さんがそれをまとめるっていうのはどうか? と言ったら、宮さんが怒っちゃって(笑)。

朝井:
グチャって1回やったやつをまとめてくださいって(笑)。

鈴木:
そうそう。第2作は誰がやっても楽かなぁって思ったんですよ。

朝井:
3作目を宮﨑駿さんがやってくれるなら。

鈴木:
だって3部作だから、問題解決する必要ないんだもん。

朝井:
中間は次に渡すだけですもんね。

川上:
でも、どっちかって言うと、続編作るんだったら、最初の1作を作り直してほしいですよね。

朝井:
おぉ……。

川上:
だって、1作目ってやっぱり、ジブリ作品の中でいちばん……なんて言うんですかね? ちょっと婉曲な言い方が思いつかなかったんで、ストレートに言うと、完成度低いと思うんですよね。

朝井:
危ない危ない危ない。

鈴木:
そうですかぁ~?

川上:
ぼくは、いろいろ納得いかない部分が多いですよ。

朝井:
あっ、ぼくトイレに行こうかなぁ……。なんか、お腹痛いなぁ……(笑)。

鈴木:
川上さん、なんか幻見てるんじゃないですか? 映画観てないでしょ!(笑)

川上:
現実の映画じゃないものを観たいんですよ、もう少し。だってあれ、スケジュールに追われて作ったやつですよね?

鈴木:
まあ、そうですよね。

川上:
その他の作品と比べてもね、全然かけてる時間とか。

鈴木:
まぁ、この話題はじゃあ……。

川上:
え~?

鈴木:
朝井さんが何かあるんなら。

朝井:
この話題は、じゃあ「(笑)」でしたね(笑)。

鈴木:
なんでそんなこと言うんですか? 川上さんは。追求しますよ、あれの何が悪いって言うんですか?

朝井:
トイレ行こうかなぁ……。

川上:
いやぁ……、だってね、だって途中から……なんて言うんですかね、具体的に言うとなんか、ほんとうに殺されそうな気がするので(笑)。やっぱりここらへんで、やめたほうがいいような気がしてきたんですけど……。

大河ドラマ的なナウシカが観たい

鈴木:
ぼくね、ちょっと話を変えますと、2~3ヶ月前かなぁ。もう一回『ナウシカ』を何年振りかで、漫画のほうを読み返してみたんですよね。そしたら、いろんな意味でおもしろかったんですよ。その1つが、さっきから「主人公の見た目からいろんな情報が手に入る」っていう話をしてるけど、途中から変わるんですよね。

朝井:
主人公の、見た目がですか?

鈴木:
俯瞰の話。その中でナウシカはどう行動するかって。

川上:
あれ完全に違いますよねぇ。ナウシカが出てこなくなりますよね、途中から。

鈴木:
途中までそうなんですけど、途中から変わるんですよね。あの人、そういうところはおもしろいですね。

朝井:
確かに途中から、4巻ぐらい以降、ナウシカが出てこないところが長いですよね。

鈴木:
これは立花隆さんに指摘されたんだけど、実は自分の周りにもナウシカファンって多くて、特に原作はみんな読んでいる、と。ところが、4巻めぐらいから難解になるので、そこでストップする人が多いと。ぼくはそれを聞いて、なるほどと思ったんですよ。その前に、ちょうど読んでたんでね。
漫画の描き方が違ってきたことと、みなさんが読まなくなったってことと、本の売れ行きとが、全部関係があるんです。やっぱり、主人公の見た目で情報をつかんでたときまでが売れてるんですよ。

朝井:
RPG的に読者も一緒に楽しんでたときですね。

鈴木:
そうそう、ロールプレイングゲームですよね。

朝井:
敵対関係も、最初はわりとはっきりしてるじゃないですか。でも途中からもっと大きな話になってきて、敵対関係とかそういう話じゃなくなってくる。勉強でもするかのように読まないと、ついていけなくなりますね。

鈴木:
まぁ、一種の哲学ですよね。

川上:
登場人物も増えて、いろんな敵対関係が出てきちゃって。

朝井:
初めは一本化された、わかりやすい誰もが見ても悪っていう人がいて。

鈴木:
宮さんの話で、こんな言い方があるんですよ。非常に大きな話なんですけれど、「歴史の中で、人間というのは不遜に生きてきた。それによって馬鹿なことをいっぱい繰り返してきたんだろう」っていう。それが根底にあるんでしょうね。

川上:
映画じゃなくて、テレビで見たいですけどね。NHKの大河ドラマで見たい。

朝井:
あー、大河ドラマ、近い。

鈴木:
テレビでそんなことできるんですかねぇ……。

朝井:
また電話がいっぱいかかってきちゃうかもしれないですけど。

鈴木:
大河ドラマって、NHKがやってるでしょ? どんな話もホームドラマにしちゃうでしょ? ホームドラマにするから、日曜日の夜8時に見ることができるわけじゃないですか。ところが、あの原作をあのままやったら、みんな見ないですよ。

朝井:
確かに、明日から月曜日だ、って時にあれは見れないですね(笑)。

鈴木:
嫌になっちゃうもん。

朝井:
大河ドラマ的にやってほしいっていうのはすごいわかります。

川上:
長い時間でやってほしいですね。

鈴木:
言っちゃいけないことや、やっちゃいけないことを心得てるっていうのか、やっぱりそういう範囲で作られたもの、見る側もそういうほうが好きですよね。

朝井:
見る側は許容範囲を決めて見ていて、そこからはみ出すとけっこう動揺しちゃいますからね。だから、ナウシカは原作でみんな動揺したんだと思います。

朝井リョウの『何者』について

鈴木:
話ちょっと逸れちゃいますけど、例えば『何者』をテレビでやったら、みんな見ますかね?

朝井:
いや、あれはどうでしょうかね……私はもちろん見てほしいですけど、現実的に考えるとどうなのかなと思います。

鈴木:
ねぇ。みんなで明るく見るやつじゃないですよね。

朝井:
ビールとか飲みながら見るような感じじゃないですね。

鈴木:
あるとしたら映画なんですよね。

朝井:
テレビで、自分の好きな環境を整えて、ゆったり背もたれにもたれて……、って感じじゃないですよね。

鈴木:
昔の、ある時代のNHKの日曜夜にやってたドラマなんかは、けっこうそういうものを含んでいたんだけどね。

朝井:
そういう攻撃的なもの、相手のキャパシティを超えるような?

鈴木:
うん。それがウケてた。向田邦子なんていう人もある領域へ踏み込んでいたし。人間のいい面、悪い面。あの、関係ないんですけど……。

朝井:
何言われるんだろう?(笑)

鈴木:
ぼくはそういうことに詳しくないんですけど、Twitterでアカウントを2つ持って云々っていうのは一般的なんですね?

朝井:
一般的だと思います。今『何者』っていう、ぼくの作品の話をしてくださってるんですけど、その中でキャラクターが本名のTwitterアカウントと、もう1つ全然違う、素性を隠したアカウントを持ってるっていうシーンが出てくるんですよね。

鈴木:
それがアドレスから辿れると?

朝井:
2つ持ってるっていうのは、けっこうぼくの中では普通で。鈴木さんの年代の方から感想をいただくと、「アカウントを2つ持ってることに驚きました」「最後にひっくり返されてびっくりしました」って言われることが多いんですよね。でもぼくの同年代の子からすると、「大どんでん返しでも何でもないじゃん、普通じゃん」っていう感想が多いんですよ。受け止め方が全然違うなあっていうのは思いましたね。

鈴木:
なるほどねぇ。ネットが好きな男の子たちに説明すると、すっかり内容が入るんですよ。「知ってる?」って聞くと、詳しいやつは「知ってますけど」なんですよ。ただアドレスから辿れるっていうと「えっ?」って言い出すんですよ。それを聞いて突然、読みたくなりましたって。

朝井:
それは嬉しいですね。

鈴木:
つまり何が言いたいかというと、そこへ浸透してませんよ。それを宣伝に使うべきだってことを言いたかった(笑)。

朝井:
あっ、今、ちょっと新潮社の人見てるかな? 新潮社の人見てますか~? POP作ってくださる方見てますか~?(笑)

鈴木:
そこに落ちてないんだよね。感心してるのはおじさん、おばさんばっかり。

朝井:
知らないものに触れたっていう感覚で、びっくりされる方が多いですよね。すいません、ナウシカの話をした方がいいですよね? ごめんなさい、僕の作品の話とか……。

川上:
いや、全然(笑)。

徳間ジャパンに音楽会社があったのが幸いした

鈴木:
はい、司会。

川上:
司会ですか? 司会と言われても、ちょっと困っちゃいますよねぇ……。なんか、いろいろ作ってくれたんですよ。こういういろんなやつを……。これ裏もありますね。

朝井:
裏は川上さん用ですね(笑)。

ナウシカは日本を変えたのか?

川上:
じゃあ、1枚目から。久石さんって、ナウシカで初めて音楽を作ったんですね。

鈴木:
そうですね。映画音楽は、たぶん初めて。それまでCMしかやってないから。

朝井:
ナウシカのとき、確か初めにナウシカっぽい音楽をイメージした曲をかけながら作られていたと。コンピレーションアルバムみたいなのを先に作ったっていう話を伺ったような。

鈴木:
イメージアルバムですね。

朝井:
ですよね、イメージアルバムがあって、新しいものを久石さんに頼むって、結構難しいことじゃないですか?

鈴木:
でも、それは、久石さんがやったんで。日本映画ってね、それこそ朝井さんが生まれる以前。いちばん貧弱なの、音楽が。いわゆるオーケストレーションで映画をやるなんて、誰も考えなかった。

朝井:
そうなんですね。

鈴木:
ナウシカって、オーケストレーションでしょ? なんでそんなことが起きたのかというと、徳間書店が『風の谷のナウシカ』をやるということになって、その系列の会社に徳間ジャパンっていう、音楽の会社があったんですよ。これが幸い。普通だと音楽費って、実はいまだにそうらしいんだけど、削られて削られて、ほうとうに貧弱。という時代にレコードを出したいって言うんです。
 
それを聞いた高畑さんが思いつくわけですよ。要するに久石さんを選んだ後に、「イメージアルバムっていうのをやりませんか?」と。ナウシカの原作を読んでもらって、久石さんが自由に作る。それを作ったら、それを聞きながら、良い悪いを話し合って、それで本番に臨む。「これは贅沢ですよ」と高畑さんが言って。それで突然ナウシカはそういう作り方になって、オーケストレーションでやることになったんですよ。

朝井:
じゃあそういう意味で、音楽的にも日本を変えた?

鈴木:
日本映画は変えたと思いますね。

朝井:
「ジブリといえば音楽がいい」っていうのは、もうすでに常識的な話ですよね。

鈴木:
今となれば音楽にお金をかける映画って当たり前になってきたけれど、当時では非常に珍しい。そういう偶然が重なったんですよね。

川上:
イメージアルバムっていうのは、イメージボードっていうのがあるから音楽でもそういうのがあるはずだ、っていう発想なんですか?

鈴木:
そういうことですよね。仮に作ってみようと。レコード会社にとっては、それもナウシカの名前で売れるんだというメリットがあったわけですよ。そこに高畑さんは目をつけたんだよね。

川上:
イメージアルバムっていう概念自体は日本だけのものなんですか?

鈴木:
だと思いますけどね。当時、若干そういうのが始まってたんですよ。勝手に「タッチ」のイメージアルバムを作っちゃうとか。いろんな作品に対してそういうのを作ると、それが売れたりしてたんですよ。映画にはならない、アニメ化、テレビ化もされない。しかし、音楽だけあるということもあった。

川上:
それを逆転させて、アルバムから落としたっていうことですね。

鈴木:
そういうことです。

ナウシカは日本を変えたのか?

川上:
じゃあ、いっぱいボードあるので。だん!

朝井:
「宮﨑駿監督は号泣!?」っていうのが気になっちゃったんですけど。

鈴木:
これは何でしたっけ?

朝井:
何でしたっけ? って……(笑)。

川上:
完成して号泣したと、そういうことですね。

ナウシカは日本を変えたのか?

朝井:
流れていきますね~。「好きな名言、セリフ紹介」とかありますね。

川上:
「世代間ナウシカ論」。これは世代によってナウシカが違うっていうことですかね。

朝井:
やっぱ受け止め方が違うっていうことですかね?

鈴木:
それはそうですよね。

朝井:
「好きなセリフ」。

川上:
うーん……。まぁ、まぁ……。まぁ、どんどん、どんどん……。特に思いつかず(笑)。

鈴木:
これ、おもしろくなかったら川上さんの責任なんですよ。

川上:
はい、すいません。

ナウシカは日本を変えたのか?

川上:
このへんが、庵野さんの描いた原画ですよね。巨神兵は、これ1人で描いてるんですか?

鈴木:
そうですね。右上は関係ないけれど、他の3点がそうですよね。

川上:
これ(右上)は、庵野さんじゃなくても誰でも……ってことですよね。

鈴木:
このシーンを庵野がやってくれたのは、ナウシカにとっては幸福だったと思いますね。ベテランがやると、いい意味でも悪い意味でも手抜きを知ってるから、あんなに粘っこいシーンにはならなかった。

朝井:
肉が垂れていくところとか、すごい大変だったんじゃないかな……。

鈴木:
ああいうのが描けるっていうのは、やっぱり新人だったから。新人だと頑張るじゃないですか。

川上:
でも、庵野さんは今でも手抜きしないですよね。そうでもないですか?

鈴木:
そのへんは、大人になったんじゃないかな?

朝井:
「大人になった」とキレイな言葉で言い換えていただきましたが(笑)。

大人の事情で作ることになった「ジブリの教科書」

ナウシカは日本を変えたのか?

川上:
イメージイラストで、こういうのもありますね。

鈴木:
これは全部、文春ジブリ文庫からの紹介ですね。今日は、文春の方もいらっしゃってるんで、何かあれば……。

朝井:
普通の一般のファンからしたら、見たことない制作現場の写真とかも入ってたりして、そこもおもしろかったです。びっくりしました。機械とかも、今と全然違うじゃないですか。

鈴木:
それは撮影台なんですけど、今はコンピューター上でやっちゃうから。

朝井:
こういう状態だったってことも全然知らなかったので新鮮でしたね。例えばイメージカットをたくさん使ってますけど……。

鈴木:
約30年前かな? そのぐらいですよね。映画を作り出したのが、1983年なんで。

朝井:
公開の1年前?

鈴木:
そうですね、なんだかんだで。春からでしたよね。

朝井:
けっこう作らせてくれる拠点を見つけるのも大変だったって、そこの話も全部書かれてますもんね。

鈴木:
取材を受けたんですけど、これまで喋ってないことを喋る努力はしたんですよ。

川上:
これ、そもそも、このシリーズを出そうとした理由っていうのはどういうところなんですか?

鈴木:
これはねぇ、建前は、ジブリのいろんな出版物があるじゃないですか。いろんな出版社でやってる。それをどこか1つの出版社で、形は文庫でも集めていくと、お客さんにとってもいいかなぁって思ったわけですよ。

朝井:
「建前」は?

鈴木:
建前は。実際はですね、ジブリの「熱風」っていう月刊誌があって、その中で古澤利夫という人が映画について連載をやっていて、この連載を本にしようと。それでどこがいいかなっていうときに、いろんな出版社があるんだけど、ぼくがずっと思ってたのは、映画を大事にしてくれるのは、やっぱり文春さんなんですよ。それで、ぼくの知り合いもいたんで、その方に相談して。そしたら、やってくれることになったんですよ。

朝井:
あれよあれよと。

鈴木:
ただし細かい話、これほんとう、あれなんだけど……。編集費とか印税の問題とか、いろいろあるじゃないですか。なかなか条件が合わなくてね。

朝井:
誰の本か? っていうこともありますよね。

鈴木:
いろんなことがあったんですよ。そしたら、文春の方が、印税をもし多く払うとしたら、将来のことを考えなきゃいけないと。それじゃあ、ジブリのいろんな物を文春でやっちゃったらどうですかね? っていうアイデアをくれてね(笑)。

朝井:
一括してやってしまえばいいと(笑)。

鈴木:
そう。それがきっかけでね、やることになっちゃったの。

川上:
でも、これは新しく作ったものですよね。

朝井:
シネマコミック嬉しいですよね。

鈴木:
それでやっていくうちに、これをやろうって。ぼくなんかが思っていたのは、文春さんっていろんな方とお付き合いがあるでしょ? そういう人たちがナウシカをどう見てるかっていうのは、ちょっと見てみたいなっていうのがあったんで、そういうことはありましたけどね。

朝井:
いろんな人の寄稿文が、めちゃくちゃおもしろいです。

川上:
いろんな人が見たナウシカ論が、1冊にまとまっているという。

鈴木:
大人の人の意見も聞いてみたかったんですよね。なかなか今、批評って難しい時代だと思うので。

川上:
単純なアニメファンとはちょっと言えないぐらいの、立派な人たちの解説ですよね。

宮崎作品の実写化は、宮崎駿が作る以外では上手くいかない

川上:
では、ここからは……ユーザーさんから質問がきてるんですか?

スタッフ:
はい、質問コーナーに移りたいと思います。今日もたくさん質問を送っていただきまして、ありがとうございました。まず最初の質問です。鈴木プロデューサーに質問です。「ナウシカの漫画版を、ハリウッドで実写化したいと思いませんか?」という質問が来ています。東京都の男性の方からです。

鈴木:
実は、そういう申し出は、過去にいっぱい来たんですよ。ナウシカだけじゃなくて、ラピュタとか。当然、宮﨑駿にそれを確認しなきゃいけないんで、彼とも話し合ったんですけどね。とにかく、宮さんとしては「NO」であると。ぼくも別の理由っていうのか、宮﨑駿が作る以外では、やっぱりうまくいかないな、という思いがあって。それで実現してないっていうのが実情ですね。まぁ、未だに、いろんな話は来てます。

スタッフ:
ありがとうございます。次の質問です。長野県の男性の方からです。「宮﨑さんの中で、すべて伝えられないことに対する葛藤があったのでしょうか? 116分という上映時間に、宮﨑さんの思いはすべて詰め込まれたと思われますか?」という質問です。

鈴木:
宮﨑駿という人は、分けて考える人なんですけどね。分けてっていうのは、ナウシカの漫画のほうは、個人作業。自分が本来やりたいことをやれるもの。しかし、それが多くの人が読むのにふさわしいかどうかは、別の判断ですよね。
ところが、映画っていうのは、公衆の面前にさらされる。だとしたら、映画というのは個人的な動機で作っちゃいけない、公的なものであるべきだと。こういう考え方が、彼の中にあるんですよ。それをやってるっていうことで、この116分に関しては、彼は基本的には満足してますよね。ただ、ラストシーンに関してはちょっと未だに、何かあるみたいですけどね。

朝井:
いまだにそういう話をされるんですか?

鈴木:
いや、ぼくには何も言わないですけど。

朝井:
怖いなぁ(笑)。

『もののけ姫』の舞台化は、ニック・パークからの推薦

川上:
さっきの質問ですけど、じゃあ、なんで映画化はNGで、『もののけ姫』の舞台化はOKしたのか? っていう疑問が……。あれは、ほんとうに珍しいことですよね。

鈴木:
あれは、ほんとうに珍しくて、実は舞台化の話もいろいろあったんですけれども。『もののけ姫』の舞台化のときには、2つ理由があったと思います。1つは、ぼくらの親しい人に、ニック・パークという人がいて。この人は、ご存知の方も多いと思うけど『ウォレスとグルミット』っていうのを作っている、アードマンというところのアニメーターですけど、この人と個人的に親交があるんですよ。
それで、彼からの問い合わせというか推薦で「自分が保証するから、この人たちに『もののけ姫』の許諾をもらえないか?」と。「自分は、この劇団を応援しているんだ」と、そういうメールが、ある日ぼくのところへ届いたんです。仮に演じてみたビデオがあるから、それを見て判断してくれと。
それで、宮さんのところへ、ぼくは行きまして、「ニック・パークからこんなメールが来ている」と。「なおかつ映像が来ているので、一緒に見てくれないですか?」と。それで見て、言葉にすると多少誇張が入るんですけどね、5秒も経たないうちに「いいよ」って言い出したんですよね。

朝井:
へー。

鈴木:
今、いろんなところのスポットなどで流れてるあの映像なんですけど、見たときにおもしろかったんですよ。それは、原作を丁寧になぞるというよりは、自分たちの解釈で『もののけ姫』を踊りにする、そこがおもしろかったんです。それで宮さんも、ほんとう即決でしたよね。「これはいい」って言って。

朝井:
即決だったんですね。

鈴木:
そうなんですよ。あっ! 今日チケット持ってこようと思って……。ぼく、朝井さんにあげようと思ってたんですよ。忘れちゃった~。玄関に置いといたのに、ほんとうに……。

朝井:
また、いずれ(笑)。

サンとナウシカ、どっちが強い?

スタッフ:
それでは次の質問です。京都府の40歳の男性の方からです。「もののけ姫とナウシカ、どっちが強いですか? 生きるためにどんな残酷な攻撃も厭わないもののけ姫に分があるように思われます。しかし、ナウシカは虫笛で、原始的なもののけ姫を誘導しそうです」という質問が来ています。

鈴木:
もののけ姫って、彼女のことを言っているんですね?

朝井:
サンのことですね。

鈴木:
それはだって、誰が考えたってナウシカですよね。戦う攻撃能力に優れてるので。そう思いますね。

朝井:
ぼくもやっぱりナウシカなんじゃないかなぁと思いますね。ナウシカって、原作でちょっと悪の方に針が振れそうになるときに、けっこうな勢いでバンって振れるじゃないですか。サンって、リーチも短いし、ナウシカのほうがガッと行くんじゃないかなって思いました。ごめんなさい、くだらない話しちゃって。

鈴木:
いえいえ(笑)。

川上:
空中戦とかもできますよね。

朝井:
戦うプレイスタイルがね(笑)。

今後のスタジオジブリも行き当たりばったり

スタッフ:
それでは次の質問です。スタジオジブリの未来について心配している方から質問が来ています。東京都23歳の男性の方です、鈴木プロデューサーに質問です。「我々ジブリファンは、ジブリの未来が気になります。将来の監督、プロデューサー像にどんな人を求めていますか?」。あともうひとつが、37歳の埼玉県の方です。「鈴木さんは、10年後のスタジオジブリはどのようになっていると予想されますでしょうか?」という質問が届いています。

鈴木:
未来について考えるっていうのは、1つの正しい考えだと思いますよ。あるビジョンを抱いてそれに到達すべく努力する。でもね、人間にしろ会社にしろ、それだけが生き方じゃない。目の前のことをコツコツやってたら、それによって開ける未来っていうのもあるんですよ。どちらかというと、高畑にしても宮﨑にしてもぼくにしても、そっちのタイプ。だからあんまり先のことを考えませんね。なるようになると。そう思ってます。

川上:
「いきあたりばったり」。映画と同じように。

朝井:
すごい翻訳の仕方ですね(笑)。

スタッフ:
「将来の監督、プロデューサー像にどんな人を求めていますか?」という質問が来ているんですけど。

鈴木:
それは、やりたい人がやればいいんですよ。ジブリっていう場はあるわけだからね、やりたい人はどんどんやればいいし。その人がこういう人であってほしいとか、そういうことは考えない。だってその頃、ぼくら関係ないもん。

朝井:
あはは。

鈴木:
ねぇ。

朝井:
ねぇって言われちゃいましたね(笑)。

川上:
23歳の人に「ねぇ」って(笑)。

朝井:
ファンからすると、今のジブリを引っ張ってくださってる方々には、ずっとどこかで関わっていてほしいなって思っちゃいますよね。「関係ない」って言ってほしくないなあって思っちゃいます。

鈴木:
高畑勲は77歳になっても作ってるし、宮﨑駿は72歳になっても作る。それが、どこまで行くかですよね。だから、いちばん幸せなのは、作りながら死んじゃうことですよ。

朝井:
ファンからしたら幸せじゃないと思いますけど、ご本人たちはそうかもしれないですね。

川上:
ファンから見てもそうだと思いますけどね。まだ作家が生きていて、でも作っていないって淋しいですよね。

朝井:
そう言われてみるとそうですね。死んでほしいっていうわけじゃあ、もちろんないですけどね。

ジブリにおいても、ラセターのような人が出てくるかどうか

鈴木:
例えばディズニーという人がいて、いろんな作品を作り続けたでしょ? 亡くなった後もディズニースタジオは残ってて、いろんな人が作っている。でも、それはディズニーじゃないですよね。たまさか、ジョン・ラセターっていう人が出てきて、ディズニーとピクサーが一緒になってラセターがやってますけど、ラセターはおもしろいですよね。そういう意味では。そういう人が出てくるかどうかですよね。

朝井:
ディズニーは別のものを入れて、また新しいものになって……、ジブリもそうなるかもしれない?

鈴木:
そうです。参考までに申し上げると、ディズニースタジオって、ウォルト・ディズニーが健在でがんばってたときは、スタッフが2000人だったんですよ。それで、いろんな作品を作ってた。ところが、あるときウォルト・ディズニーが亡くなった後、いちばん少ないときで200人まで減るんですよ。
その間も、ディズニーのアニメーションは作られたんだけど、何の注目も浴びない。もう終わるかなと思ってたら、あるプロデューサーが登場したんですよ。カッツェンバーグかな? この人が、ある人と組んで、新しいディズニーを作る。この人がまた、プロデューサーとして優れていたんでしょうね。それまでいろんな新しい映画に挑戦してたのに、古典を素材に持ち出して、それで『人魚姫』だとか『美女と野獣』だとか。
よくわかってるんですよね。映画っていうのは、ドラマがないといけない。ところが劇的なドラマっていうのは、必ず差別に触れるじゃないですか。それをオブラートに包んで、しかし感じさせる、っていう方針を作ったんですよ。
それに、あと二つあるんですけど、一つは、女性を主人公にする。三つめは、音楽に力を入れる。これによってカッツェンバーグっていう人は、ディズニーを再生させることに成功する。これはおもしろかったですよね。この人がディズニーを去った後、今ディズニーはジョン・ラセターが『トイ・ストーリー』の路線でやる。だから、(時代によって)三つとも違いますよね。それが、見てておもしろいですけどね。
だから、ジブリにおいて、そういうことが起きるのかどうなのか、わかりませんよね。

朝井:
良きタイミングでそういう人が現れるのか。

鈴木:
高畑も宮﨑もぼくにしても、そろそろどっか行っちゃうから、川上さんと出会ったときに、「ちょっとジブリやりませんか?」って、ぼく言ってたんですよ、忘れてましたけど。どうですか?

川上:
やめてください(笑)。

鈴木:
アハハハ。

川上:
ほんとうにねぇ、ドワンゴやってくれる人を探したいですよね。

朝井:
自分ではなく、探したいと(笑)。

下済みの期間を充実させることが重要

川上:
でも、ジブリを見てて思うのは、宮﨑駿さんがナウシカを作ったのがちょうど42、3歳で、ぼくより少し若いぐらいのときなんですよね。それから、ジブリの歴史が始まるわけじゃないですか。
それから、ほんとうのヒットの『もののけ姫』とか、『千と千尋の神隠し』が最大のヒットですけど、あれは21世紀に入ってからですよね、2001年ですから。そのときはもう60歳ぐらいですよね。それを考えると、ものを作れる年齢って、全盛期が60歳前後みたいな、そういうことがあり得るんだっていうのが。

鈴木:
あれは、歴史を破りましたよね。映画では、これまでずっと語られてきたことは、どんな監督といえど、代表作は40代だって。宮﨑駿は、そういう常識をひっくり返したと思うんです。年をとってからも、おもしろいものを作った人として、例えば北斎って人がそうでしょう。「60歳までの作品は意味がない。そこからのやつが俺の作品だ」と言ったのはあの人らしいし。そういうことがあるんだというのを証明した気がしてますけどね。

朝井:
勇気づけられる。

川上:
そう。すごい勇気づけられるんですよ。朝井さんは23だから……。

鈴木:
あと50年書き続けられるんですよ。

朝井:
うわぁ、頭が痛い……。よく思い出せない……。頭が痛い……(笑)。

川上:
40年後に、どんな代表作を書くのかっていう。

朝井:
40年後に、代表作が生まれる可能性があるってことですよね?

鈴木:
途中で少し休憩したっていいしね。

朝井:
ほんとうですか?

鈴木:
宮さんなんか、『未来少年コナン』が36歳、『カリオストロの城』が38歳なんですよ。それまでどうしてたかっていうと、高畑勲のもとで絵を描くスタッフの1人。その15年間なんですけど、「俺の青春を返せ!」なんてよく言ってるんですけどね。15年間の中で考えたものを、その後、映画化していったんですよ。

朝井:
じゃあ、15年は休めるのかな。

鈴木:
宮﨑駿の成功例で言うと、下積みの期間を充実させてたんですよ。

朝井:
ほんとうに、そこは大事ですよね。

川上:
下積みは大事だなって感じはしていて、結局売れてる人って、どんなジャンルでもスケジュールがめちゃめちゃ忙しいじゃないですか。こんな生活やってたら、才能なんてすぐ枯渇するだろうみたいな。そうすると、長いことやってる人って、けっこうゆったりとものを作ってる人が多いんです。でも、そういう人はそういう人で、ずっと遊んでばっかりいても才能が枯渇するじゃないですか。
そうしたら、やっぱり、ものづくりをするのに休むって重要なんだけど、その休み方がけっこう大切で。遊ぶっていうことじゃなくて、なにか別のことで働いたほうがいいんじゃないかなっていう気はするんですよね。ほかのところで。なにかやってないと。

鈴木:
イギリスなんかにも、いろんなベストセラーの作家がいますけど、作家だけやってる人ってほとんどいないんですよね。大概みんな別の職業を持ってるんですよ。医者だったり、魚屋さんだったり、実に千差万別。イギリスのラグビーをやってる人たちって、みんなそうですよね。日本だけが特殊でしょ。

川上:
絶対そっちのほうが正しいですよね。だって、人生を書くんだから。人生書こうと思ったら、人生を生きてる人じゃないと。

鈴木:
当り前なんですよ。

朝井:
それ、もっと言ってほしいです。

鈴木:
朝井さんは、どこかの会社に勤めてるんですよね。これは絶対おもしろいですよ。

朝井:
っていう風に言われて、安心したいんですよ。会社に入るって、安定したお金が毎月入ってくるっていう意味でもあるじゃないですか。そこをぼくは全然重要視してないんですけど、やっぱりそういうところに身を置くと、創作意欲とか沸かなくなるんじゃないのか? って言われることも多いんですけど、そこは別に関係ないんですよね。別の世界に身を置くっていうことを、ぼくはすごい大事だと思っていて。

鈴木:
昔は、座付き作者っていたでしょ? ある劇団で、給料をもらいながらシナリオを書くとか。作家であると同時にサラリーマンでもある、そういう制度ってあったんですよね、日本だって。だって日本の映画監督なんてみんなそうじゃない。黒澤をはじめ、みんな東宝の社員だったんだから。そこで、めんどくさいことにぶつかるわけですよ。でもそれが映画を作るうえで、すごく役に立った。

朝井:
力になるし、ネタになるし。
今ある意味、作家としての美学で、退路を断って表現に入魂する、一つのことに入魂することが美しいというのがあるんですけど、これって他人事だから言えることであって。その後、もし専業作家になって何かが尽き果ててしまった時、責任持ってくれないわけじゃないですか。

鈴木:
そこは、二刀流、三刀流に……。

朝井:
三刀流?(笑)

川上:
バイトもやる(笑)。

鈴木:
例えば、大佛次郞という作家は、あの人は『鞍馬天狗』っていう、若い人はわからないかもしれないけど、新選組と戦う勤王の覆面をしたおじさんの物語を作って、とにかく映画化したら大ヒットだから、小説もバンバン売れる。でも、その一方で、フランス文学もやってたんです。そうすると、二刀流でしょ?

朝井:
頭いい人なんですねぇ……。

鈴木:
でしょ? その人の場合は、同じ名前で両方書き続ける。『丹下左膳』を書いた林不忘なんていう人は、名前を5個ぐらい持ってて。

朝井:
今もいらっしゃいますよね。怪談話を書いたり、エンタメを書いたり。

鈴木:
人格も別なんですよね、その場合。

朝井:
へー、大変そうですね、生きるの。

鈴木:
でも、それが楽しめるかどうかだよね、その人のキャパシティの問題があるから。

朝井:
作家が別の世界に身を置いてもいい、それがプラスに働くんだよということは、お二人にどんどん発信していただきたい(笑)。

川上:
自分で発信してくださいよ。

朝井:
自分で言ったら、自分がやってることは正しいでしょ、っていう押しつけになっちゃうじゃないですか。だから他人に言ってほしいんです。

川上:
というところで、時間もだいぶオーバーしてしまいましたけど……。

鈴木:
足りないと思ってた。

川上:
そんなことないんですよ。

朝井:
どうやら、過ぎていたようです。

川上:
これ(ボード)を出した段階で、かなり終わりでした。ということで、今日はありがとうございました。

鈴木:
ありがとうございました。

朝井:
ありがとうございました。おもしろいです、これ(本)。

川上:
話がだいぶずれてきましたけど、今日は「ナウシカは日本を変えたのか?」ということで番組をお送りしてきました。それではみなさん、どうもありがとうございました。

『ジブリの教科書1 風の谷のナウシカ』 (文春ジブリ文庫)
当時の制作現場の様子を伝える貴重なインタビューに加え、映画の魅力を立花隆、内田樹、満島ひかりら豪華執筆陣が読み解くジブリの教科書シリーズ第1弾。

≫Amazonで詳細を見る
≫楽天で詳細を見る