高畑勲

『風の谷のナウシカ』は、いまでは歴史に残る名作と位置づけられていますが、宮崎駿監督の先輩であり、『風の谷のナウシカ』でプロデューサーを務めた高畑勲さんは、本作の評価を30点と下していました。
辛口の評価となったその理由は、昔から宮崎駿監督の才能を知っているが故、本作での飛翔を期待した厳しい採点だったわけですが、この評価が原因となって、騒動が起きるのでした。



宮さんの実力からいえば30点

この30点の発言は、公開されて間もなく発売されたロマンアルバムに掲載されたものです。

高畑:
プロデューサーとしては万々歳なんです。ただ、宮さんの友人としての僕自身の評価は、30点なんです。
宮さんの実力からいえば30点。もちろん原作を映画にするという点では、まったく申し分なかったんですが、この映画化をきっかけに宮さんが新しい地点にすすむだろうという期待感からすれば、30点ということなんです。

30点の評価に、激怒した宮崎駿監督

この高畑勲プロデューサーによる「30点発言」は、当然宮崎駿監督も目にすることになります。
この30点の評価に、宮崎監督はどのような反応を示したのでしょうか。
「ジブリ汗まみれ」の立花隆さんがゲストの回で、30点発言のその後を鈴木さんが話しています。

鈴木:
『ナウシカ』って映画は、とにかく映画を作っていたときは、まだ漫画の連載は、日にちが経過していない。それで、実は終わったあと、高畑さんがね、ある本のなかで、「プロデューサーとしては、万々歳の作品。しかし、友人として言うなら、30点だ」っていう、とんでもないことを彼が言い出したんですけどね。しかし、この「30点」って言い方がね、その後の漫画『ナウシカ』を膨らませたんじゃないか、ってことを(立花さんが)お書きになっていて、あれはぼくね、「慧眼だなぁ。そうだったんだ」ってことを改めて(笑)。

立花:
いやぁ、あれはそうだと思いますよ。彼、ショックですよ、やっぱり。

鈴木:
いや、ぼく呼び出されましたから。あの本ができたとき、「ちょっと鈴木さん、話がある」って言うから。仕方がないからね、宮さんのとこ行ったんですよ。ふたりきりですよ。そしたら、その本が置いてあるんですよ、机の上に。A4サイズで、160ページぐらいあると思うんですよ。

その本を目の前にしてね、いきなり「なんだ、この本は?」と。「おまえが作ったんだろ?」と。「こんなくだらない本、なんで作ったんだ?」って言うわけですよ。で、理由を言わないんですよ。でも、ぼくは分かってますからね。ああ、“アレ”だな、と思って。

そしたらですね、生涯忘れないですけども、その本を手に取ったんですよ、両手に持って、本をふたつに引きちぎったんです。「すごい力だ!」ってそこで感心するんですよ! だって、あれ出来ないですよ、ぼくあとでやってみたけれど。

そういう、自分の衝動を抑えられない人だから、もう手も付けられないですよね。そのとき、ぼくも、「しょうがない、この男とはもう終わりだな」と思わざるを得なくて。

ぼくは、映画作る方にも、いろいろ関与していたけれど、徳間書店が出資したやつなので、いろんな本も作んなきゃいけなくて。それで、まあ、そういう本も作ってね。高畑さんも高畑さんでね……。あのインタビューっていうのは、自ら原稿を書いてるんですよね。
「これ、いずれ言わなきゃいけないんだ」っていうんで「書いて言っておく」って、ぼくに見せて。30点って書いてあるわけでしょ? 悩んだですよねぇ。この人、言い出したら聞かないから、しょうがないやと思ってね。そしたら、案の定、そういうことが起きて、もう宮さんとしては、怒りですよね。ビリッと引きちぎってね。

なんか、そういうときって、ぼくも頭にくるんですよね。で、なんか、言いたくなったんですよ。それで、なんの関係も無いことを、つい言っちゃったんですよね。
よく覚えてるんですけども、「映画に、客が入って嬉しいんですか?」ってきいたんですよ。なんでそんなセリフが出たか、自分でも覚えてないんですけどね(笑)。

そしたら、ここで、また宮さんらしいんですよね。それを言った瞬間、ぼくを見たと思ったら、滂沱なんですよ。ダーッと涙流して。
で、いきなりね「鈴木さん、そんなこと考えてたのか」って言うから、こちらも思わず言ったセリフなんで、いったい何が起きてるのか分かんなくて。もう、止まらないわけですよ、涙が。それで、やっぱり、一緒にやっていかなきゃしょうがないな、っていう(笑)。