米林宏昌 高橋大輔『思い出のマーニー』のDVD・ブルーレイ発売記念として行われた、米林宏昌監督と高橋大輔さんの対談を文字に起しました。同作は、3月18日が発売日となっており、CMでは映画の主題歌にのって、本編映像が投影されたリンクを高橋さんが滑っています。映像は、公式サイトにて公開されています。



人と人の関係が、お互いに探りながら、日本人らしさを持っているのが、すごく好き。

――まず、高橋さんにお伺いします。「ジブリのCMに出られることに驚いた」とおっしゃったそうですが、高橋大輔さんもスタジオジブリのファンなんですよね?

高橋:
はい、ぼくはけっこうスタジオジブリのファンで、自分でもブルーレイを買って、コレクトしてるっていう……(笑)。

――監督、嬉しいですね。

米林:
そうですね。こないだも、イベントでしゃべったとき言ってましたね。何度も観て……。

高橋:
そうなんですよ。ふと観たくなって、寝るまえに観てるとか。

――お気に入りの作品は?

高橋:
全部お気に入りって言えば、お気に入りなんですけど。えぇ、決めるの難しいな……。どうですかね……、めちゃ難しい、チョイスするのが(笑)。全部良いんですよ、やっぱり。ジャンルによって、また違うし、っていうのもあって。
そうですね、『千と千尋の神隠し』とか、『ハウルの動く城』とか、『もののけ姫』とか、『ナウシカ』とか、『ラピュタ』とか、『耳をすませば』とか、『アリエッティ』とか……。

――全部じゃないですか(笑)。

高橋:
そうですね。全部ですね。けっきょく全部なんですけど。

――ジブリのどんなところが、お好きなんですか?

高橋:
不思議な世界観があるところが好きで。なんて言えばいいんですかね。海外じゃない、日本の背景があって。海外ものもあるんですけど。やっぱり、日本の人が共感しやすいって言ったら良いんですかね。そういうところで、違う世界に連れて行ってくれるとこだったり、人間と人間の関係が、ストレートにガンと行くんじゃなくて、お互いに探りながらっていうところですかね。そういう日本人らしさっていうのを、ちゃんと持ちながら、伝えたいことを伝えているのかなって。
ぼくは、いちファンなんで、偉そうなこと言って良いのかな、って思うんですけど(笑)。そういうところが、ぼくは凄く入りやすくて。凄く好きかなと思ってるんですけど。

米林:
ありがとうございます、ほんとうに。これからも、よろしくお願いします(笑)。

高橋:
すみません、偉そうなこと言って、ほんまに(笑)。

(略)

『思い出のマーニー』は、“水”の作品。描くのが大変だった。
宮崎駿監督には、水の表現を褒められた。

――宮崎駿監督は、『思い出のマーニー』をご覧になったとき、どのような反応をされたんですか?

米林:
ちょくせつ聞いてないので、西村君から伝え聞いて、喜んでもらえたと。あと、水がすぐそこにあるような感じがして良かったと。それは、嬉しいなと思いました。

――映像の中に、たくさん水が映りますもんね。

米林:
そうですね。水を描くのが、ほんとうに大変だったので。それは、宮崎監督もアニメーターなんで、その大変さはわかってくれたかなと思っています。けっこうアップになったり、引いたり、水の角度によって全然表現が違って、地味に難しいんですよね。

高橋:
そうなんですか、全然そんなこと考えずに観ていました。凄い綺麗だなと思って観てました。いろいろ話を聞いて観たら、また違う楽しみもあるかもしれないですね。

――その難しい水の表現を、宮崎監督に褒められたときは、どう思いましたか?

米林:
今回の作品は、水の作品にしようかなと思っていたので。初めて杏奈が靴下を脱いで、生の湿地に足を踏み入れる、その感覚であるとか、ずぶずぶと潜り込んでしまう、あるときは雨にザーッとなったりする。そういう、自分の身体に感じる経験みたいなものを、アニメーションを通して、観ている方に伝えることができるんじゃないかなと思っていたんですけど。

――高橋さん、これはまた観なければいけませんね。

高橋:
そうですね。そういうふうな感じで観ると、また新しく感じれるかなと思いますね。

――DVD・ブルーレイの発売ということで、繰り返し観れるわけですが、新たに発見してほしいところはありますか?

米林:
発見してほしいところ……。ぼくは、DVDとブルーレイ観てないので。
なんでしょうね、このお話自体が難しくて、もう一度振り返って観たら、あそこがこういうシーンだったんだ、あそこがこう繋がっていたんだってことがわかる、そういうお話になっています。小説が、元々の原作なんですけど、小説だと前を読み返して、そうだったんだってことができるんですけど。なかなか、映画だと一方向ですから、難しかったんですけど。DVDだと何回か観れるのでね、最初に観るときは杏奈の視点から観て、次観るときはマーニーの視点から観て。そういうふうな観方で楽しんでもらえれば、嬉しいなと思いますね。

杏奈が変わろうと思っていたから、マーニーに会うことができたんです。

――制作当時に監督がおっしゃった、「変わろうと願う人だけが変われると、ぼくは思っているんです」という言葉が、作品のコピーとして使われていますが、どんな思いでこの言葉を使われたんでしょうか?

米林:
もう言ったのも忘れちゃってるんですけど(笑)。杏奈が変わっていくんですけど。マーニーに出会って、自分が変わっていく。そのとき、西村プロデューサーが、杏奈はたまたまマーニーがいたから変われたけど、多くの人はマーニーがいないじゃないかと。そのことについては、どう説明するんだって。
杏奈が、マーニーに会ったのは、杏奈が変わろうと思っていたから、マーニーに会うことができたんだと。そういうふうに言って。受け身で変わっていくんじゃなくて、最初に「自分は自分のことが嫌い」って言うんですけど、それは自分じゃないものになりたいっていう、そういうスタートなんじゃないかなと思っていて。やっぱり、変わろうと思う人が変われるんじゃないかと。ぼくも、作っていくときに、そういうスタンスで作りたいなと思っていたんで。

――高橋さんは、そのコピーを聞いて感じとられる体験などございますか?

高橋:
そうですね。確かに、自分の思いがないと、スタンスが見つけられないと思うんですよ。ぼくも常に、自分は変わりたい、ああいうふうになりたい、こういうふうになりたい、って人を羨ましく思って生きてきたほうなんで、今でも自分には満足できない。どんどん、どんどん、良くなっていきたい、変わりたいって思ってるので。思ってないと、この映画でいうと、その場所に行かなかったら、家に閉じこもってたかもしれないし。変わろうって自ら思わないと、そういうものを見つけられないかなって、ぼくもそういうことはあったんで。確かに、そうだなって。そういうつもりではないねんけど、勝手に潜在意識のなかに、嫌いだから頑張ろう、嫌いだから良くしよう。そういうふうに、やってきたのかなと思いますけどね。これからも、そういうスタンスでいこうかなと。ちょっとだけ、好きになってあげて。でも、もっと変わりたい変わりたい、って変化を楽しむというか、変わっていきたいなと、ぼくは思ってますね。

――CMも、そのコピーをコンセプトに制作されましたが、実際CMをご覧になっていかがでしたか?

米林:
ほんとうに美しく滑って、演技してくださったのは感謝しています。この作品は、崩せない世界観みたいなものがあったりするんですけど、高橋さんの持っている雰囲気とか、今まで歩んでこられた姿勢とか、そういうものが画面の中に出てきてるし、そういうものが作品と響き合って、いいものになったんじゃないかなと思ってます。

――高橋さん、嬉しいですね。

高橋:
そうですね。今回のコラボレーションっていうんですかね。いつもは、自分が自分が、ってやってますけど、この『思い出のマーニー』をどれだけ邪魔せずに、自分がどれだけ寄り添えるかみたいな感じで、今回はやらせていただいたんで、そう言っていただけて良かったです。今回見て、凄くかっこ良く作ってはると思って、感謝してます。

『思い出のマーニー』は色気がないとダメな作品。
高橋大輔さんを美しく撮ってくださいと伝えました。

思い出のマーニー 高橋大輔――過酷なロケだったと伺っています。深夜から?

高橋:
そうですね。時間的に、すごく長く時間が掛かったので。夜中ですね。

米林:
ぼくも、その撮影に立ち会ったんですけど。深夜2時からスタートって言われて、「エーッ」って。それで朝まで。

高橋:
そんな感じで(笑)。
ぼくは海外から帰ってきたばっかで、時差ボケだったんで、ちょうど良かったんですけど。
スケートリンクも、すごい寒くて。

米林:
ぼくらが待機してるところは、暖房がゴーッとなってるから良いんですけど。リンクの上っていうのは……。

高橋:
凄い寒かったんですけど、寒さゆえの息の感じっていうんですかね、あれが凄い綺麗やなって思ったんで、寒くて良かったなと思ってます(笑)。

思い出のマーニー 高橋大輔米林:
それが凄く色気があって、良かったんですよ。

高橋:
演出みたいになってたなって。自分のことなんで、言うの恥ずかしいんですけど。

――白い息が、セクシーでしたよね、監督。

米林:
そうですね。マーニーのことはいいから、高橋さんを美しく撮ってくださいって伝えていたので。そういう意味では、高橋さんが美しく描かれていたし。やっぱり、少し色気がないとダメなんですよね、この作品っていうのは。

高橋:
ぼくも最初は緊張していて。ちょっとサイズ的に(リンクが)小っちゃかったんですけど、気持ちが上がってくるとスピードが出て絵から外れるとか。いろんな人に見られるから、ちょっと恥ずかしかったりとか。いつもは自分の中に入っていくって感じで、お客さんに向けてやるんですけど。でも、曲に対しても入りやすかったですし、自分がらしくいられて。滑ってる最中は、すっごい楽しかったです。

米林:
上からプロジェクターで投影した、その四角のフレームの中を滑るんですよね。大変そうだなと。絵は動きますしね。難しそうだなと。どういうふうに見えるんだろうと思ってたけど、カッコイイものができてましたね。

――その振り付けも、高橋大輔さんはもちろん、荒川静香さん、安藤美姫さん、織田信成さん、浅田真央さんなど、そうそうたる選手の振り付けを担当する、宮本賢二さんが振り付けをされたということで。ただ、振り付けを言われてやるのではなくて、一緒に作り上げるスタンスでやられたんですか?

高橋:
基本的には、お任せをして。けっこう歌詞だとか、背景を考えて振り付けをしてくださって。ぼくは、それを受けて、自分の中でもう一回合わせていく、って感じでやったんですけど。やっぱり歌詞だったりとか、曲の雰囲気だったりとかで、ちょっと変えたりとか、画を見ながらちょっと構成を変えたりとか。ぼくは、画は見えないんで、上からは。撮っていただいたのを見て、ここはちょっとこうじゃない、とか言って、凄い大変だったと思います(笑)。

(略)

ぼくはもう、ジブリの人間じゃない。
どういう形になるかわからないけれど、作品は作っていきたい。

――少し話題を変えて、米林監督の今後のご活動についてお伺いしたいと思います。

米林:

ぼくね、もうジブリの人間じゃないんですよ。年末に会社のあれで辞めて、事務所に行かないんですよね。で、西村プロデューサーと一緒に話をして、どうしようかと言ってたんですけど。でも、作品を作っていきたいという想いはありますので、どういう形になるか全然わからないんですけど、また作っていこうかと言っていたものですから、そういうときに高橋さんが引退されて、次のステップに進んでらっしゃる高橋さんと、ここで仕事ができたというのは、ぼく自身もすごく励みになり、勇気を貰えたということもあったので。どういうふうになるかわからないですけど、またなにか作っていけたらなと思っています。

――高橋さんもビックリされてました。

高橋:
ビックリしましたね、ほんとに。でも、どこでも作品は作れると思いますし。

米林:
そうですね、ジブリ自体もどうなるか。また作るかもしれないし。

高橋:
素敵な作品を楽しみにしています。

――例えば次回作を作るときは、オリジナルの話にするのか、今回のような小説をメインに作るのか、どういった作品をやりたいという展望はありますか?

米林:
それは、いろいろあると思うんですけど、まだどういうふうになるかわからないんですけど。希望としては、例えば『マーニー』とは真逆の、快活に動くファンタジー作品であるとか、そういうものを一度やってみたいなと、そういう想いはありますね。
ぼく自身、『崖の上のポニョ』で妹たちが、ブワーッと出てくるようなシーンを担当して、描かせてもらったんですけど。

高橋:
凄い好きです。『ポニョ』凄いですよね。最初、『崖の上のポニョ』って名前で、これどうなのかなって思ってたんですけど、凄い面白かったです。これ、観てない人、絶対観た方が良いと思いますよ。すみません、話を折ってしまって(笑)。凄く面白かったです、あのシーン。

米林:
凄く動くから、大変なんだけれど(笑)。そういうシーンを作ってみたいなと思いますね。

――“動”の作品を作ってみたいという展望があるんですね。

高橋:
観てみたいです。

(略)

――最後に、『思い出のマーニー』ファンの皆さんに、一言ずつお願いします。

高橋:
ぼくが言うのはおこがましいかなと思うんですけど、この『思い出のマーニー』は自分が共感できるなと思う人も、そういう人が近くにいる人も、いろんな世代だったり、気持ちを持った人に、いろんな形ですっと入ってきてくれる作品だと思うので。また、DVD・ブルーレイになって、ふとしんどいなと思ったときに、観てもらえたら、ちょっと救いを感じるのかなと。時間のあるときに、ふっと一息ついて、観てもらえたら楽しめるんじゃないかなと思います。

――監督もメッセージお願いします。

米林:
この物語は、ひとりの少女・杏奈が、最初は自分のことが嫌いと言っている女の子なんですけど、いろんな人たちの支えを借りたり、マーニーとの出会いや、自然の力を得ながら、少しずつ変わっていくんですけど。これは、小さいけれど、杏奈にとっては大きな一歩で、そういうものを感じて、観てもらえる方に何かの一歩を踏み出してもうら、そういう後押しするきっかけになってもらえたら嬉しいなと思っています。ぜひ、観てください。

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