スタジオジブリのプロデューサー見習いとしてジブリに入り、暗躍している川上量生さんですが、最近ではドキュメンタリ映画の『夢と狂気の王国』のプロデューサーや、宮崎吾朗監督と組んで映画の企画を進めるなど、活躍が目立ち始めています。
また、庵野秀明監督が率いる、「スタジオカラー」の取締役に就任するなど、動向が気になるところです。



そんな川上さんが、どんな思想を持った人で、これから何をしようとしているのか、『ジブリ汗まみれ』で放送された「ドワンゴの会長 川上量生さんのおまけの人生」を聴くと、すこし分かると思います。
この回の文字に起こしに加えて、川上量生さんが語るジブリのネット戦略と、川上さんから見た鈴木敏夫プロデューサーと宮崎吾朗監督の話をどうぞ。

ジブリファンとしては、川上さんに第二期ジブリの牽引者として活躍していただきたいです。
 

川上量生のおまけの人生

川上:
あんまり欲望とかないんですよ、ぼく。なんか、月給50万くらいあったら、ずっとあとは遊んでいればいいかな、みたいな、部屋のなかで。
一応大学出て、仕事して、それなりにサラリーマンとして、ぼくとしては大きな仕事もやって。ぼく的には、なんとなく幸せだなって、プライベートでも彼女とかできたりして。
もうこれで、思い残すことはないって、26歳ぐらいでなんとなく思ったんですよ。そのときに、会社が潰れたんですよね。ソフトウェアジャパンが潰れたんですよ。
で、そのときに、ぼくはもうこれからオマケの人生だと思って。それで、他の人を幸せにする会社を作ろうっていうので、ドワンゴを作ったんですよ。
どういう人を幸せにするか、って言ったら、ぼくと同じでネットにハマリすぎていて、人生を見失っている、優秀なんだけど、「この子の未来、暗いな」みたいな子が働ける会社を作ろうと思って、ドワンゴを作ったんですよ。
だから、ぼくはオマケの人生だってところからスタートしてるんですね。それが続いていて、ぼくは会社を作って何をしたかって言ったら、そういう人生を踏み外した、いわゆる廃人と呼ばれているゲーマーですよね、そいつらを全員クビにしたんですよ、働かないから(笑)。
ぼくは、その時点で人生を見失ってるんですよ。

鈴木:
ちょっと待ってください。あのね、なんで26歳で完結なんですか?

川上:
えっとですね、あの、基本的にはぼくもオタクなんで。わりと内向的に、ずっと生きてきたんですけど。
ぼくの個人としては、すごくショックな出来事があって。ぼく、基本的にマザコンなんですよ、めちゃめちゃマザコンで、親の言うことはずっと守ってきたんですよ。すごい影響されてきて。
で、例えば、親が「学生までの友達はほんものだけど、社会人になってからの友達はほんものじゃない」とか、たぶん何の気なしに言ったと思うんですけど、今にして思えば。
それを、ぼくはずっと、社会人になっても本当にそうだと思っていて、ぼくは社会人になった瞬間に、一切友達を作るのをやめたんですよ。
「おまえみたいな人間は、本当に最低だから、もう誰もあんたのことは好きになってくれない」っていうようなことを、怒られたときに言われたんですよ、かなり酷いことを。たぶん、何かやったんだと思うんですけど。
その前後関係は全部忘れて、ぼくはもう人から愛されない人間なんだって思って、高校ぐらいからずっと思ってたんですよ。ずっと、心の中にトラウマとして抱えて生きてきて。
で、会社を作って上場したときに、親とニューヨークに旅行にいったんですよね。親と一緒のホテルに泊まって、寝てるときに、この話をしたら、覚えてなかったっていう。大ショックだったんですけど(笑)。
目標を見失ったまま、後ろ向きな理由で働いてきたのが、ぼくの今までの人生です。だから、見失ってる状態なんです。
オマケの人生だと思って決めた目標が、どっかに行っちゃって、なにをしているんだっていう状況が、今ですよね。本当の目標はないです。

 

21世紀は最後の人間の世紀

川上:
みんな同じ戦法を使い始めたりだとか、どっか一個の科に収束し始めるんですよ。で、ぼくが作ろうと思ったのは、ニコニコ動画のコンセプトっていうのは、収束しない集合地っていう、社内でエンジニアとかに話していたんですけど。何かに向かって収束していくことっていうのは、出来るだけやめようって。常に揺れ動く。

鈴木:
生命体ですね。

川上:
生命体!
ぼくらが作りたいのは、生命体であって、死骸じゃない。
プレイしているのを見ても人間じゃないですよね、よく見てみると。人間はただの構成するパーツであって。どこまで出来るかについては、悲観的なんだけども、出来る限りはやってみようって。
だぶん、それはね、そうなっちゃうんですよ。人間の時代は終わっちゃうっていうのは、たぶん対極的に見たときの今の歴史観だと思うんですけど。

鈴木:
分からないものを、分かるものに置き換えるのが、川上さんは好きなんですよ。

川上:
そうです。分からないものが好き。目的があったらダメなんですよ。
人間の活動って、本来そういうものだと思うんですよ。
首尾一貫性っていうのは、人間の論理能力で無理やり矛盾だらけの人間っていうのを、一貫性があるように見せているだけで、本来の人間っていうのは、もっとリアクティブに適当なことやってるだけだと思ってて。
でも、世の中の一般的な社会システムっていうのは、人間の性質とは違っていて、理屈が先なんですよ。
なんかね、みんな同じこと言うじゃないですか。
例えば、経営っていうのは、こういうふうにやるべきだ、ITビジネスはこういうふうにやるべきだ、っていろんなマニュアルがありますよね。
マニュアル的な言説があって、その通りにやる人たちって、これはぼくの世界観なんですけど、それって人間じゃないんですよね。なにかのイデオロギーのミーム、社会的生命体の歯車になっている、奴隷になっている人間であって。例えば、資本主義の奴隷みたいな人だと思うんですよね、資本の論理だけで動く人って。全体の価値観どおりに動く、マシーンみたいな存在じゃないですか。
それは、ぼくは嫌だなと思っていて。それで、単純化された世界を、本当の世界と思ってしまう人がいて。作った論理から、世界と思って考えたがる人が多いんですよ、論理の人って。世の中に、たくさん居すぎて、競争力がないんですよね。
たぶん、21世紀は最後の人間の世紀なんですよ。

鈴木:
やっぱり、ロジックが支配するんですか?

川上:
支配しますね。それの第一歩がGoogleだとしたら、その第一歩では人間が勝ったという歴史が作れたら面白いなと思うんですよね。

鈴木:
人間と機械と戦って、機械に勝つっていうの?

川上:
一花咲かせる。

鈴木:
一矢報いる。

川上:
一矢報いる、ってパズルは面白いなと思って、ぼくはやってるんですよ。

あの、ぼく、ジブリに入社できないですかね(笑)。
ジブリで、バイトかなんかで。

 

ジブリに来たのは、現実逃避

鈴木:
川上さんと、去年の12月くらいに会ってね、それで突然、それこそラジオの収録中だったと思うんですけど、ジブリで働かせてくださいって。
それで、ぼくね、それを聞いた瞬間ね、今だから本当の気持ちを言うとね、ちょっと羨ましかったんですよ。
なんでかって言ったら、ぼくのなかに、どこかそれがあるんですよね。ぼくなんかは、思ったのは、世が世なら、ぼくがいま若かったら、同じようなことを自分もするんだろうなっていう気分が、どっかにあるんですよ。
分かるもん、ここじゃない、そうじゃないところに行きたいって。

――スタジオジブリでやられているときと、ドワンゴでお仕事されているとき、全然違うような気がするんですけど。何が面白いと思われているのかなと思って。

川上:
製作会社がジブリで、ぼくは製作と言えるようなことは、何一つやっていないので、べつにそこはただ居るだけなんですけど。
まあ、でも、面白いですよね。

――何を吸収したくて、ジブリに来たんですか?

川上:
それは一応、ちゃんとした説明があって。単純にこれから、ニコ動っていうのがどんどんユーザー層が広がって、一般の人にも届けるっていうのをするときに、やっぱりスタートとしては、コンピュータが好きなニッチなところから始まってるじゃないですか、本当のマスに対してマーケティングをやっているジブリに対してね、学んだことっていうのは、これからニコ動を拡大していくときに、すごく重要なことなんだ、っていう説明をして(笑)。ハハハハハ。
ドワンゴに対しては、そういう説明をしたわけですよね。

――本心は?(笑)

川上:
いやいや、現実逃避ですよ、確実に(笑)。

 

川上さんが来て、鈴木さんが楽になった

白木:
宮崎さんによく似たとこがあるというのが、私の感想だったんですけど。その仕草とか。で、しばらくおられる間に、鈴木さんにもよく似ているという。

川上:
それは喜んでいいことなのかどうなのか、ちょっと詳細を聞きたいですね(笑)。

白木:
1月5日から、川上さんっていうすごい面白い人が来るから、って鈴木さんに言われて。「ドワンゴのニコニコ動画やってる人、知ってる?」って言われて。全然知らなかったんですけども。
そんな如何わしい人が来るのか、と思って、どういう態度で川上さんに臨もうかな、と決めかねていたんですけど。
最初いらして、冬なんですけど、なかなかコートを脱がないんですよね。

細川:
最初の日は、恐ろしい顔を。

川上:
あ、してました? やっぱ緊張してますよね。

白木:
緊張だけじゃなくて、なんていうのかな……、なんか尖っていましたね。
でも、なんかのミーティングで、「炎上マーケティング」っていうのを講義してくださったんですよね。鈴木さんもいて、みんないて。
ジブリはネットの世界とか詳しくないので、ここでホワイトボードを使って講義してくださったときに、すっごくよく分かって、頭が良いってことも分かったし、ちゃんと仕事が出来る人だって分かったし、この人はちゃんと大丈夫だと思って(笑)。ほんとう、それからは、敬意をもっているんですけど。

細川:
入ってこられたとき、人見知りというふうにお見受けしまして。ご自分でも言ってるじゃないですか、人見知りって。でも、なんでわざわざ、ジブリという会社に、鈴木さんに興味を持って、なんでわざわざ新しい人と出会わなければいけない場に飛び込んできたのか、っていうことが、すごい疑問だったんです。

川上:
ぼく、ほんとうに人見知りなんで、例えばドワンゴに行くのも人見知りしちゃうんですよ。
だから、ドワンゴに行くのと、ジブリに行くのもあまり変わらないんですよね。
どちかっていうと、部屋から出るっていうことのハードルが高くて(笑)。どこに行こうが、あんまり関係ないですね。
ドワンゴの社内でも、気軽に話せる人間って、10人もいないですよ。重りだと思っているんで、会社自体が。背負わなきゃいけない、重荷じゃないですか。だから、そんなに親しみは覚えないですね。
なんか、自分の義務を思い出した、みたいな感じになる。

白木:
じゃあ、ジブリに来てたほうが、気は楽ですね。

川上:
全然気が楽ですよ、それは。
ジブリは面白いですよね。とにかく、ジブリは面白い。新鮮だし。

細川:
「あの青年は、若返ったね」っていちばん最初におっしゃったのは、宮崎さんだったんですよ。
だから、いちばん最初にあったときの印象から、ずいぶん変わったっていう。

川上:
最初のころって、すごい睡眠時間が長くなったんですよね。今まで3時間ぐらいしか寝てなかったんですけど、ジブリに来た、最初の一ヶ月二ヶ月くらいはね、8時間くらい寝ないとダメな感じになって。

白木:
最初のころ、ふたりで電車に乗る機会があって、「川上さん、ジブリでどうするんですか?」みたいな話をしたときに、すごい真剣な目で、「役に立ちたいですね」っておっしゃったのが、印象的でした。

川上:
いやぁ、だってね、ジブリに来たかったんですよ。
面白そうだったし、ここにずっといたいと思ったんですけど、なんでいるんだろうっていう答が、自分で出せなかったんですよね。
だから、とりあえず役に立たないと、これは不安定な状況だなと思ったんで。

細川:
川上さんと、吾朗さんの話をしているときは、すごいツー・カーで、いろんな話が共感し合えているなっていうのが。

鈴木:
映画(コクリコ坂から)が出来たとき、宮崎駿がぼくの隣にいてね、いちばんぐっときて、泣いちゃったシーンはね、ラストなんですよ。
それで、そのセリフはなんだったのかっていうとね、「先に死ぬなよ」って。ここできてるんですよ。
もちろん、宮崎駿はシナリオを書いたんですけど、実はあの映画のなかに、あのエピソードは無かったんですよ。だから、宮さんも意表を突かれたんですよ。
で、あのシーンが生まれた切欠。実は、川上さんだったですよね。
絵コンテ繋いだり、途中で絵を差し替えていくわけだけど。ようするに、川上さんがね、全体に目を通したときに、ある一貫性がないっていうのか、足りないんじゃないか、って言い出して。
それで、その話を聞いた瞬間、「ちょっと、川上さん一緒に」って吾朗君のとこに行ったんですよね。
それで、川上さんがそこで、「提案があるから、ちょっと聞いてよ」って。あの写真を撮ったエピソード、あれをあそこに入れるって。それがひとつ面白かったですよね。

白木:
川上さんが居てくれると、鈴木さんが楽チンですよね。
まえは、鈴木さんが二役というか、厳しいことも言い、なだめることも言ったりしたけど。
厳しいことを言うのは、川上さんが(笑)。
いま上手く行ってるから言えますけど、KDDIさんと打ち合わせとか、なかなか着地するまでに時間がかかって、だから川上さんが一刀両断な発言を、パッて言うんですけど。
そうすると、向こうの打ち合わせの相手の人も、すごいベテランの人だから、打ち合わせが終わった後、川上さんをけっこう睨んでたりして(笑)。

一同:
見たい見たい!(笑)

川上:
ありましたね(笑)。

白木:
その人は、打ち合わせで、やっぱ川上さんを意識して来るんですね。これだったら、川上さんは、きっと良いんじゃないか、みたいな。
そこのやりとりが、すごくおかしくて。
デザイナーの人とか、クリエイティブ関係の人とかは、藤巻さんがおっしゃっていたと思うんですけど、楽しかったっていう表現ではないのかもしれないですけど、川上さんとやりとりするのが楽しいって、そのような表現をしてくださっていたので、向こうも真剣になって川上さんとぶつかって。で、鈴木さんは、すごい良い人になって(笑)。
だから、上手く打ち合わせがまとまって。

川上さんって、ストレートですよね、もの言いとか。ほんとうに、歯に衣着せぬ言いかたなので。だから、誤解がなく伝わる、相手に。それは厳しいことも、良いこともストレートに伝わるんで。

白木さんは、みんなが分かることが分からないんですよ、って言われたことがあるんですよね。
みんなに分かることを、白木さんだけは分からないと。

鈴木:
なんか、白木さんの周りにハートマークがありましたよね。
あれでしょ、白木さんにとって、会社来るのが楽しくなったでしょ?
川上さんが来てくれたことによって。

白木:
いや、元々、鈴木さんがいるから面白いですよ。

鈴木:
いや、なにしろ、家に帰ってまでね、亭主に川上さんのこと話したわけじゃない。毎日毎日。
それで、亭主がね、おれに言ってたもの、「毎日、川上さんの話なんですよぉ……」って。

細川:
川上さんって、笑顔がすごい素敵じゃないですか。
鈴木さんと、宮崎さんと、川上さんはそれが良いんですよね。
宮崎さんも、喋ったあと笑うじゃないですか。それで、みんな心が和んだりとか。その前の発言は、けっこう厳しかったんだけどとか(笑)。そこは、川上さんも、その術が。

白木:
これからも、ずっと居るんですよね?

川上:
はい。あのぉ、白木さんに許していただければ。

白木:
いやぁ、私ではない・・・・・・。

鈴木:
白木さんが気に入らないとね、このプロデューサー室には居られないじゃない。

白木:
鈴木さんが、「大事な話があるから、ちょっとこっち来て」って、改まった言うから、何かなと思ったら、「川上さんから、正式にこれからも居たいという話があった」と。
だから、ずっと居るんですよね。

川上:
はい、はい。

白木:
でも、誰もびっくりしなかったですよね。

川上:
あの、そもそも、ジブリに居たほうが働くんですよね。ドワンゴの仕事も含めて。
だから、ジブリに来るようになって、会社のことも含めてやろうと思うようになったんですよ。

白木:
それは、やっぱり鈴木さんを見てっていうことですよね。

川上:
鈴木さんのやってるやり方あるじゃないですか。それを、ぼくも覚えたいじゃないですか。
で、そのときに、ドワンゴで実験するのが楽なので。だから、ドワンゴでテストしてるんですよ。
実験場として、ドワンゴ使ってるんですよ。好奇心です。ちゃんと上手くいくのかなとか、自分の理解が正しいのかなとか。

白木:
学んだことをやってみたい、ということですね。

川上:
どちらかというと、「学びたい」ですよね。
実際やってみるまで、学んだことにならないじゃないですか。

なんか、やり直している感じがありますねよね。人生をやり直している感じ。
いちからやり直すのって、なんか楽しいじゃないですか。

白木:
あぁ、なんだ、そんなことか(笑)。
アハハハ。

川上:
白木さんを見て思ったのは、白木さんって話を聞くときに、こうやって身を乗り出すじゃないですか。

鈴木:
そうそうそう!(笑)

川上:
あの姿勢が、コモドドラゴンかなんかに見えちゃってね(笑)。

白木:
どういうことですか?

 
 

川上量生が語る、ジブリのネット戦略

あの、私、副業でドワンゴって会社やってるんですけども、そこで、ニコニコ動画っていう、ちょっと行儀の悪いサイトやってまして。
今回、鈴木さんに弟子入りする際にですね、ネットのプロモーション戦略は任せてください、ということで弟子入りさせていただきました。

それで、今回もですね、『風立ちぬ』と『かぐや姫の物語』も、一番最初のシナリオだったり絵コンテの段階から見せていただいて。
このシナリオの段階、絵コンテの段階から、ほんとうに面白いんですね。こういう貴重な体験をさせていただいて、ほんとうにありがたいと思っています。
で、私は、この二作品をどうネットでプロモーションしていけばいいのか、ということを考えました。

それで、結論なんですけども、“なにもしない”ということを結論にしたいと思います。
と言いますのは、いろいろ考えたんですけども、実はジブリ作品というのは、これまでもネットでなにもやってこなかったんですけども、ネットで一番話題になっているのが、このジブリ作品なんですね。

例えば、Twitterというサービスがネットで流行っていますけども、このTwitterの3年前くらいの、1分間に世界中で同時にツイートした人の数の記録っていうのは、オバマ大統領が就任したときの、そのときのツイートっていうのが最大だったといわれているんですけども。それが、2年前くらいに塗り替えられまして。

それは、なにかっていいますと、この日本の金曜ロードショーで、『天空の城ラピュタ』っていうところで、「バルス」っていうのを、みんなで一斉に叫んだ。
これは、世界で同時に、いちばん同じことをつぶやいたという、世界記録をもっています。これ、全世界の記録なんですよ。
それぐらい、日本の中で、ジブリの作品が愛されていて。みんな一体になっている、そういう象徴になっている証明だと思うんですけど。

なにか一緒にやるっていうことに関して、ジブリっていうのは、ネットの中でも最大のイベントになっているんですね。これは、べつに『天空の城ラピュタ』に限らず、どのジブリ作品が金曜ロードショーで放映されるときでも、ネットではジブリの話題一色になります。これは、もうほとんど恒例の行事となって、ずっと続いているっていうのが現状です。

それで、ジブリのいろんな映画の製作発表のときも、特にネットでなにかっていうのは、なにもやっていないんですよ。
やはり、これがテレビだとか新聞だとかで報道されて、その記事がネットにコピーされて、ネットの中でも非常に大きな話題になりますし、Yahooのトップニュースにも、毎回かならずなります。

ということで、いろいろ考えた結果、なにもやる必要がない、というのが結論です。
なにもしないでも、ジブリのネットはですね、今年もかならず盛り上がります。
今年の夏、そして夏以降もですね、ジブリ作品がいろいろでますけども、勝手にネットは盛り上がりますので、皆さんご期待ください。

 

 

川上量生が、庵野秀明監督の「株式会社カラー」取締役に就任

詳細は不明ですが、川上量生さんが、ヱヴァンゲリヲンの製作会社「株式会社カラー」の取締役に就任していました。
どのような経緯で取締役となったか不明のため、いろいろな憶測が飛んでいます。
もっぱら、ジブリの王位継承問題が動き出したと噂です。

 
 

「コクリコ坂から」公開記念 ガチ対談!
宮崎吾朗監督×川上量生スタジオジブリ・プロデューサー見習い

『コクリコ坂から』公開記念で行なわれた、宮崎吾朗監督と川上量生プロデューサー見習いの対談。
しょっぱなから、宮崎駿監督が登場して、心が折られる川上量生さん。

 
 

川上重生インタビュー
ジブリに入って分かった、鈴木敏夫と宮崎吾朗の凄さ

――スタジオジブリから,川上さんは何を学ぶつもりなんでしょう?

川上:
んー……。建前として「勉強するため」とは言っているんですけど,白状すると,本当はあまり勉強する気もないんですよね。ただ純粋に,今はスタジオジブリにいることが楽しいんですよ。

――楽しい?

川上:
うん。マーケティングだとかビジネスモデルだとか,そんなことじゃないです。僕がスタジオジブリに入って,今,何に興味を持っているのかと言えば,それもう「宮崎 駿」「鈴木敏夫」「高畑 勲」という3人が,これからどんな物語を織っていくのかということなんですよ。
 日本のアニメーション業界,いや,コンテンツ業界を支えて来た彼らが,人生の終盤を迎えて,それぞれあと1作品,できても2作品くらいしか作れないかもしれないわけですよね。その過程で,一体どんな生き方をするのだろうと。そこが僕が一番知りたいところで。

――それは確かに。

川上:
スタジオジブリに入る前は,僕はミーハーにも「ナウシカ2は作らないのかな?」みたいなことを考えていたんですけど,今はもう,ナウシカ2とかどうでもいいというか。むしろこの大事な時期に,続編は作ってほしくない。日本のアニメを支えた巨人達が,最後に何をやるのか。何を残していくのか。本当に興味があるんです。
 
(略)
 
川上:
「プランB」という言葉を知っていますか?

――プランB?

川上:
これは鈴木さんがアメリカ人のビジネスマンから聞いた話らしいんですが,彼らは必ず自分の「プランB」というのを持っているらしいんですよ。プランBっていうのは,要するにリタイアしたあとの生活のことです。

――ああ,なるほど。

川上:
鬼のように働くアメリカのビジネスマン達は,「いつかはこの生活をやめて,プランBの生活を送りたい」と思っているわけですよ。自分の牧場を持って牛を追う生活がしたいだとか,田舎に土地を買って釣りをして過ごすんだとか。

――気持ちは分かります。

川上:
でも鈴木さんには,そういうのがまったくなくて彼らに驚かれたらしいんです。仕事と自分の理想の生き方というのが,完全一致しているんですね。

 

ジブリが勝ち続けるのは、鈴木敏夫の反射神経

――アニメ監督つながりでお話しすると,押井 守さんが自著の「勝つために戦え!」という本の中で,“アニメ監督としての自分の勝利条件”みたいな話をされているんですよ。その中でいろんな映画監督を引き合いに出して,スピルバーグは勝利者なのかとか,庵野監督はどうだ,ひいては自分にとっての勝利条件とはなんだ,みたいなことを書いていて。

川上:
まぁクリエイターというのは,作品を作ることこそが目的ですよね。

――ええ。要するに押井さんが自分の勝利条件として定義付けていたのは,「自分の作りたい作品が次も作れる」ことこそが,“勝利”だと言うんですよ。商業的に失敗して周りから批判を浴びたとしても,次も自由に作れる限りは勝利者なんだと。逆に大成功を収めた結果,次の作品がその成功に縛られるようであれば,それは作り手としては敗北なのではないかと。

川上:
それはそうかもしれませんね。そういう意味であれば,ジブリはやはり勝利し続けている集団なんでしょう。

――でも,なんで勝ち続けられるんでしょうか。さっきも話に出ましたが,毎回「博打」をしているにも関わらず。

川上:
そこは鈴木さんの反射神経じゃないですか? 必勝法っていうか,ワンパターンにできる手法は真似られますから。その時代,その時のベストな方法を選ぶというのが,鈴木さんのやり方なんだと思います。そもそも,時代を越えて通用する必勝法なんてないんじゃないですか。

――結局のところ,その人の思考力/対応力だったり,物事を真摯に捉えてやるしかないってことでしょうか。

川上:
鈴木さんは,今の現代……もしくはちょっと前の時代もそうですが,ナウシカとかラピュタみたいな作品を作って,何百億円もの収益をあげるのは無理だと言うんですよね。それは,もうジブリでも無理なんだと。なぜかと聞くと,「時代が求めてないからだ」と言うんです。

――じゃあ,その「時代が求めてる求めてない」というのは,どこで判断というか,嗅ぎ分けるものなんだろう。

川上:
そこは「感覚」としか言えないんだと思います。僕も不思議に思って,鈴木さんに「じゃあ,時代に合わせて作品を作っているんですか?」って聞いたら,鈴木さんの答えは「どんな作品であれ,時代は反映する。何を作ったとしても,それはその時代の雰囲気を反映せざるをえない」というものでした。

――うーむ。

川上:
鈴木さんが言うには,「だから作品はなんだっていい。どんな作品でも,その作品なりに時代を反映させるやり方があるんだ」と。じゃあ結局なんなんだよって話になるんですけど,少なくとも彼らは,その時に作りたい作品を,その時代に合わせて作っているだけなんだと思います。

 

鈴木敏夫氏の人物像

――しかし,話を聞くほどに興味が惹かれるのですが,スタジオジブリを率いる鈴木さんってどういう方なんでしょう。鈴木さんの視点や考え方で,川上さんが「やっぱり全然違うな」と感じたことなどはありますか?

川上:
鈴木さんの話はめちゃめちゃ面白いですよ。それに鈴木さんの何が凄いかっていうと,問題の並行処理能力がとにかく凄いんですよね。
僕なんかは,一つ頭を悩ましている問題があったら,そればっかりに気がいってしまって,ほかの仕事が手に付かなくなっちゃうんですけど,鈴木さんは,同時に4つも5つも超重要な案件/問題を抱えているんですよ。そして,すぐに頭を切り替えて処理できるんです。

――うーん,見習いたい……。

川上:
あとは人を説得する力。「人を説得して動いてもらう力」というのが凄まじいですね。

――それはつまり,人をやる気にさせる力,という意味ですか?

川上:
例えば,アニメ制作の工程で「ライカリール」(※)っていうのがあるんですけど,関係者みんなを集めて,それを何回も見るんですね。ちょっと変えては何回も見て,みんなの意見を聞くんです。

※イラストボードなど仮の映像素材を全カット並べて撮影し,動かない状態で1本のフイルムを作ってみるという作業

――ほうほう。

川上:
それで「この映画のテーマはなんですか?」みたいな話をするんですけど,別にそれは解答があって教えるようなものでもなくて,鈴木さんも一緒にみんなと考えているんですよ。
もちろん,映画のテーマというのは最初に決まっているんですけど,それで本当に正しいのか,実際に出来上がった映画がどういう映画になっているのか。それを何度も何度も反芻しながら考えているわけです。そしてその過程で「この映画は何なのか」というのを“改めて発見していく”んです。

――鈴木さんの,そのやり方というのは,要するに「スタッフ全員に当事者意識を持たせる」みたいなことなんですかね。当事者意識をもってもらったうえで,各自でアイデアなり視点なりを見つけていくということでしょうか。

川上:
それも一つのポイントでしょうね。あれだけの作品,プロジェクトというのを実際に動かしているメンバーって本当に少ないですから。
 実際,僕がいるプロデューサー室というのも,数人しかいないんですよ。鈴木さんとその数人のスタッフで,ほとんどすべてのことを回している。もちろん,アニメを作る仕事は全然別のところでやっているんですけど,プロモーション一つをとってみても,ドワンゴだったらこの人数じゃどう考えてもできないな,みたいな量を捌いてますね。

――スタジオジブリって,ゲーム業界でいうと,任天堂やBlizzard Entertainmentと同じくらいに“神秘的な会社”というんでしょうか。やり方や考え方の一つ一つがとても興味深いんですよね。

川上:
あとは,いろんな会社やパートナーの人たちと,うまく協力してやってるのも凄いですよね。「チーム鈴木」みたいなものを,会社の垣根とか関係なし作っちゃっている。鈴木さんという人の“人間力”の成せる技なんでしょう。

――ふーむ。

 

気づいている人は少ないけど、宮崎吾朗は天才

川上:
あと,外から見ていた時は全然そう思わなかったけど,ジブリに入ってみて発見したことがあります。

――それは?

川上:
宮崎吾朗さんは天才だ,ということです。彼は天才だと思うんですよ。そうじゃないと思っている人が多いと思うんですけど,間違いなく天才。

――それは,仕事で接してみてそう思ったということですか。

川上:
だって,例えば「ゲド戦記」って,彼が生まれて初めて,いきなり映画撮らされて出来た作品ですよね。それって凄いことだとは思いません? その前は,彼は環境デザイナーとして公園や庭を作っていたんですよ。アニメーターとしての下積みをしていた,とかではなくて。

――確かに……。

川上:
突然「監督をやれ」って言われて,それで映画ができること自体がまずおかしいわけですよ。だから,僕は吾朗さんが「なんでそんなことができたんですか」って鈴木さんに聞いたんですよ。

――なんという答えだったんですか?

川上:
鈴木さんが言うには,父親が家に帰ってこないから,父親との唯一のコミュニケーションが,父親のアニメを見ることだった。だから,父親が作ったアニメのほとんどのシーンのレイアウトを暗記していたっていうんですよね。

――え。

川上:
だからゲド戦記っていうのは,過去のジブリ作品,宮崎アニメのオマージュみたいなシーンがたくさんありましたよね。あれは,吾朗さんの中にあるジブリアニメの構図をたぐって,そのつぎはぎで作品を作ったからだと言うんです。でもそれって,普通の人間にできる所業じゃないと思うんですよ。

――宮崎吾朗さんは,メディアの露出もそこまで多くはないので,僕は純粋に分からないんですけど,端から見ていて思うのは,「勝ち目のない戦い」をしている方だな,ということなんですよね。

 
 
川上:
そう。吾朗さんは,とても苦労している方なんですよ。全然,楽な道を歩んでない。酷い作品を作ったら「やっぱり息子は駄目だ」と言われ,良い作品を作っても「父親のおかげだ」とか言われる。彼はそういう道を選択したわけじゃないですか。

――勝ちの目が見えないですよね。普通は「やれ」って言われたら逃げちゃうと思います。

川上:
正解がないルートを選んでしまっているんですよ。吾朗さんは。勝ちのカードがないゲームをやってる人なんです。でも,彼は周りに何を言われようとも,へこたれていない。前を向いて頑張っていますよね。
 もちろん,宮崎 駿さんほどの実績は残していないので,これからなのだとは思いますが,やっぱり宮崎 駿の天才性というのを受け継いでいる人だな,と思います。それに……。

――それに?

川上:
いや,宮崎 駿さんも相当気難しい方なんでしょうけど,吾朗さんも大概ですよ。やっぱり親子だな,あの二人は,っていうところが,僕の一番の発見です(笑)。

メディアを語る (別冊思想地図β ニコ生対談本シリーズ#2)
著者:川上量生/宇川直宏/濱野智史/東浩紀
ネットはマスメディアに代わってなにをなしうるのか。 奇妙なコミュニケーションを生成するアーキテクチャ。人々を連帯に誘う祝祭空間。匿名の空間に生まれる民主主義の可能性とは。 ネット中継で新しい言論の場を創造する試み、『ニコ生思想地図』。

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