これからのジブリ2016年に公開される、マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット監督の『レッド・タートル』が、ジブリ作品とクレジットされることが決まっており、今後スタジオジブリは、どのような作品作りをしていくのか気になるところ。これまでの鈴木敏夫さんの発言をふり返ってみましょう。



現在明かされている情報では、『レッド・タートル』は10年程前から企画があり、監督を日本に招聘し、鈴木さんと高畑勲さんと一緒に企画を練り上げた作品。高畑さんの名前も、“アーティスティック・プロデューサー”としてクレジットされています。
「スタジオジブリ側からオファーが出された」とされているので、フランス文化に傾倒する高畑さんの意向もあったんでしょうか。

作り方が大きな転換期をむかえる

これからのスタジオジブリ作品は、海外で生まれていくのでしょうか。
作品の作り方が多様化した現在では、制作現場を海外に持っていくといった動きがスタンダードになると、鈴木さんは見ています。

以下、「ジブリ汗まみれ」で交わされた、鈴木さんと川村元気さんの対談の文字起こしです。

鈴木:
企画もさることながら、作り方も大きな転換期じゃないかなって気がしてるの。おれのところに、アジアのほうから、いらっしゃる方がいるのよ。
どういうことかと言うと、要するに技術は「身に着けた」と。「ある程度のことは、出来ますよ」と。それで、「長編って、どうやるんですか?」ってことをきかれるわけ。
例えば、世界のアニメーション短編映画祭っていうのが、いろんなところにあって。いま、ほとんどグランプリは、アジアなのよ。

川村:
そうですよね。凄い作品ありますよね、アヌーシーの短編賞は。

鈴木:
そうすると、彼らにとって何が必要かっていうと、企画とどういう仕組みで、どうやっていくか。そのノウハウ。だから、「そこのところを教えてくれないか」ってやつで。

日本に拘っていたら遅くなる

鈴木:
今までは、ジブリの作品もディズニーさんに協力してもらうと、そのまま自動的に、世界70ヶ国くらいに行っちゃうんですよ。
それで、日本のものだっていうことで、いろんな人に受け入れられてきた。だけれど、ぼくね、今の世の中を見てると、良い悪いはともかくとして、グローバリズムっていうのは、“国”って枠を壊していっちゃったな、って気がしてるんですよ。
日本映画も、そして日本のアニメーションも、日本のものだっていうことで、世界の人が受け入れてきた。
今までは、日本って地域に根差していたものを作ってたでしょう。だけれど、もっと大きくなるんじゃないか、って気がしてるの。
その大きいっていうのは、さっきから、何回も言っている“アジア”とか、“中央アジア”とかね。それから、“ヨーロッパ”とか“南米”とか、“アフリカ”とかね。そこら辺で、みんなが一致協力してやる。そういうことが起きるんじゃないか、って気がしてるんですよね。
アジア全域で、それぞれがそれぞれの役割を担って、それでライブアクションができるとか、アニメーションができるとか、そういうことが起こるんじゃないかって気がしてて。
ちょっと、日本に拘っていたら、遅くなっちゃうんじゃないかなって。だって、面白いもの観たいんだもん。そこで面白いものが出来たら、絶対そのほうが良いんだもん。

川村:
そうなんですよね。ぼくの感覚だと、企画を考えるとか、ストーリーを考えるって能力は、日本は進んでると思うんですよ。それは、漫画っていうものが、ずっとあったし。アニメーションで、もの凄い数を作ってきた。それはあるんですけど、ある種、アクションとか、“撮影”みたいなことに関して、けっこう香港とか、韓国の監督とかは優れている。
だから、例えば、ぼくらのストーリーで、彼らにディレクションさせるってやり方も、当然あるわけじゃないですか。
それを、肩ひじ張って、「合作」とか言うと、急に誰も観ないものになっちゃうんですけど、当り前のようになったほうが、良いだろうなとは思いますね。

鈴木:
ジャパニメーションって言葉があったように、アニメーションって言えば日本というのが、みんなの中にあったんですよ。だけれど、もう現実は、そうじゃなくなってることを、世界の人は知ってるんですよ。要するに、日本がリーダーシップを取って、企画その他やって、それで現場をアジアに置く。これは、ぼくは上手くいかないと思ってるんですよ。逆の方が良いと思ってるんですよ。要するに、日本も現場のひとつ、ぐらいの考えのほうが、ぼくは上手くいくと思う。

川村:
ぼくもそう思ってて、日本のスタッフの力って優れてるので、むしろ向うのディレクターとかを日本に持ってきちゃって、日本映画として監督だけが外国人っていうほうが、上手くいくパターンじゃないかなって。

ジブリ汗まみれ – 日本のアニメ・映画の未来について

海外でジブリ作品が誕生するのも面白い

2015年6月に、フランスで『レッド・タートル』がスタジオジブリのプロデュースで作られていることが発表されたことにより、鈴木敏夫さんの講演会「日本から世界に広がるアニメ」で、製作の経緯が一部明かされました。

鈴木:
これ、フランスで発表されちゃったから、話そうと思うんですけど。オランダの方で、マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィットさんっていう、アニメーションをやってらっしゃる方をおわかりですかね? アカデミーの短編で『岸辺のふたり』っていうのを作った、マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィットさんっていう人がいて。
ぼく、この人の作品が大好きなんですよ。それで、ちょっと声かけてみたんです、「長編作んない?」って。そしたら、マイケルが乗ってきたんですよ。それで、「ジブリの協力が得られるなら、やってみたい」っていうんで、彼に半年くらい日本に来てもらって、ストーリーと絵コンテを作る。それで、高畑勲とも親しいんで、彼の協力も得て内容を作っていく。実際の現場は、パリでやるっていうね。『レッド・タートル』っていうんですけど、約90分の話で。

――それは、ジブリ製作であり、オランダ出身の監督?

鈴木:
そうです。ヨーロッパ中の人が集まって作ってます。
これは、日本だけでやるのは難しいと思ったから、ワイルドバンチって会社があるんで、そこのバンさんって人に声をかけてみたら、彼が乗ってきて。それで、50:50(の出資)でやるんですよ。

――そういう方向性に、ジブリは進むと思いますか?

鈴木:
ぼく、「こういうふうにやろう」って決めてやったことがないんですよ。いつも、一本ごと。宮崎駿が引退した、高畑勲も80歳なんでね。そういうことで言うと、どうしようかと思ったときに、マイケルのことを思ったんですよ。
彼、まだ60歳ちょっとなんで。それで、フランスでジブリ作品が誕生。これは、面白いかなっていう。
それで、彼の作品って、『岸辺のふたり』もそうだったんですけど、全編セリフがないんですよ。そしたら、見事に今度の『レッド・タートル』も、90分の作品なんですけどセリフがないんですよね。
考えてみたら、最初に企画を考え始めたときから数えると、8年掛かってるんですよ。ジブリの新しい作品が、こういう形で世の中に出ていくっていうのは、面白いんじゃないかって気がしてるんですけどね。

ジブリ汗まみれ – 城西大学で行われた、鈴木さんの講演会の模様をお送りします。

方針を決めず、一本ごとの作品づくり

今後、海外でスタジオジブリ作品が誕生していくことになれば、それはそれで楽しみでもあります。ユーリ・ノルシュテイン監督のジブリ作品なんかも、観てみたいですね。

ただ、これまで作ってきた、『世界名作劇場』などを根っことする、日本アニメーションの文脈で続いてきたスタジオジブリ作品が消えてしまうのも、寂しいものがあります。

スタジオジブリの大きな変動期ではありますが、鈴木さんが言っているように、方針を決めて作っていくことはないようです。作品一本ごとの評判を見て、次の企画を考えていくという、これまでのやり方はおそらく変わらないのでしょう。
3DCGへの移行や、スタジオポノックなど、さまざまな選択肢があって、妄想しだしたらキリがありませんね。

あなたは、どんなジブリ作品を望みますか?