魔女の宅急便「あたし、このパイきらいなのよね」このセリフは、ジブリ作品の中でも、かなり大きなインパクトを残したんじゃないでしょうか。
『魔女の宅急便』でキキが老婦人から配達を依頼され、ニシンのパイを孫に届けるというもの。パイを受け取りる際に女の子が、けんもほろろに言い放つ言葉です。



映画では、機械のオーブンが故障したため、薪をくべてパイを焼くシーンから描かれています。配達するときには雨が降ってきて、ずぶ濡れになりながらも荷物を必死に守って、ようやく届けたところで、女の子が「あたし、このパイきらいなのよね」と素っ気ない態度で、受取にサインをするという、印象的なシーンです。

普通に見ていたら、性格の悪い子だなとか、嫌な子だなと感じる人も多いんじゃないでしょうか。

魔女の宅急便

宮崎駿監督は、このシーンにどのような意図を込めていたのでしょうか。
その答えは、『出発点』と『風の帰る場所』のインタビューの中で語られています。

そこから、一部を引用します。

『出発点』インタビュー

宮崎駿:
老婦人のパイを届けたときに、女の子から冷たくあしらわれてしまうわけですけど、宅急便の仕事をするというのは、ああいう目にあうことなんですから。特にひどい目にあったわけじゃあなくてね、ああいうことを経験するのが仕事なんです。
僕はそう思いますし、キキはあそこで自分の甘さを思い知らされたんです。当然、感謝してくれるだろうと思い込んでいたのが……。違うんですよ。お金をもらったから運ばなきゃいけないんです。もし、そこでいい人に出会えたなら、それは幸せなことだと思わなくちゃ……。別に、映画ではそこまでは言ってませんけどね(笑)。

僕らだって宅急便のおじさんが来たときに「大変ですねぇ、まあ上がってお茶でもどうぞ」なんて、いちいち言わないじゃないですか(笑)。ハンコをわたして、どうもご苦労さん、それで終わりでしょ。

――でも、女の子の宅急便やさんなら、違うと思いますけど。

宮崎駿:
いやぁ、同じですよ。だから、僕はあのパーティの女の子が出てきたときのしゃべり方が気に入ってますけどね。あれは嘘をついていない、正直な言い方ですよ。本当にいやなんですよ、要らないっていうのに、またおばあちゃんが料理を送ってきて、みたいな。ああいうことは世間にはよくあることでしょ。
それはあの場合、キキにとってはショッキングで、すごくダメージになることかもしれないけど、そうやって呑み下していかなければいけないことも、この世の中にはいっぱいあるわけですから。

『風の帰る場所』インタビュー

宮崎駿:
僕はねえ、なんて言うんだろうなあ、子供のときから自分が楽な思いをして育ったっていう自責の念をずーっと持ってたんですよ。戦争中も戦後もね。本当に食いものがないときにも、僕のところにはそれなりに食いもんがあったんです。まあ、いろんな理由もあったんですけども、僕にとってはそういう不公平っていうのが堪え難かったんで。だからっていうんじゃないですけども、例えば下請けの人が仕事を持ってきてくれたときには挨拶したいしね。暇があったらお茶でもいれたいぐらいの気分なんですよ。だって、労働条件、彼らのほうが悪いんだもんね。ところが案外ね、みんな平気な顔してるんですね。知らん顔してるんですよ。そういうのが嫌でね。今でも嫌ですけど。

――よくわかります。

宮崎駿:
宅急便の人が届けにくると「ごくろうさん!」って、つい僕は言ってしまうんですよ。やっぱり大変だろうなあと思って。その……子供たちに偉そうなこと言えた親じゃないんですけども(笑)、ただ職業によって人の扱いを変えることだけは絶対にしなかったつもりなんですね。

(略)

たぶん一番つらいのは、あの映画を観てキキが運んでいったパイがね、ああいう扱いを受けたっていうときに腹を立てる子供はいっぱいいると思うんだけど、気がつかないうちにその腹を立てさせる側をやってるっていうことなんですよ。別に教訓をたれるために作ったわけじゃないけど、こんなことはいくらでも起こることなんですが。

以上が、宮崎監督が配達シーンに込めた思いでした。インタビューの内容から、いろいろな思いが込められていることがわかります。

有償の仕事において、「感謝されるのが当たり前」という認識に対する甘さ。お金を貰って働くというのは、どういうことなのか。
そして、トゲのように刺さってしまう言動も、知らず知らずのうちに自分自身もやっていることがあるということ。現在は、宅急便やウーバーイーツ等の配達員の方と接することの多い世の中ですけども、自分がどれだけ温かい対応をとれているかと、考えさせられますね。

ちなみに、宮崎駿監督はヤクルトの配達スタッフの方とは、世間話をするくらい対応しています(『夢と狂気の王国』参照)。

出発点 1979~1996
宮崎駿監督の書いたエッセイ、企画書、演出覚書、司馬遼太郎らとの対談、インタビュー等90本を収録。

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