サン=テグジュペリ デッサン集成

『星の王子さま』の作者として有名なサン=テグジュペリの画集があるのをご存じでしょうか。タイトルは、そのまま『サン=テグジュペリ デッサン集成』。この本の序文を、宮崎駿さんが書いています。サン=テグジュペリは、宮崎さんが最も敬愛する作家のひとりとしても有名です。



宮崎さんは二十歳のころに、サン=テグジュペリの作品を読み込んで大ファンになったそうです。
1998年に、NHKのBS2で放送された「世界・わが心の旅」では、サン=テグジュペリの見た風景を追うドキュメンタリー番組にも出演しています。

世界・わが心の旅 サン=テグジュペリ
世界・わが心の旅

この旅で宮崎さんは、小さな複葉機に乗って、南フランスからサハラ砂漠へ向かいます。
サン=テグジュペリが飛行場長を務めた、「カップ・ジュビー」までたどり着くと、感極まって「サン=テグジュペリに、いちばん影響を受けたんですよ、ぼくは、けっきょく」と涙を流すほどでした。

人間の土地 夜間飛行
人間の土地夜間飛行

宮崎さんがサハラの旅で感じた印象を描いたイラストが、サン=テグジュペリの小説『人間の土地』と『夜間飛行』のカバー装画にも使用されており、とても強いつながりができています。

そして、『サン=テグジュペリ デッサン集成』の序文を、宮崎駿さんが書くというのは、まさに適任者だと思います。

サン=テグジュペリ デッサン集成

このデッサン集は、サン=テグジュペリの友人が、ゴミ箱から救い出したデッサンや、散逸していた紙片などから集められました。
未発表作品が350点余り、総数500点近くが収められています。

サン=テグジュペリ デッサン集成 宮崎駿の序文

その序文を、一部ご紹介します。

前書きにかえて――白蟻の塚から

彼の絵は、描き手の瞳の内側に観る者を誘う種類のものではない。技を削りあげ、築きあげたものでもない。あの類まれな「プチプランス」の絵は、彼の精神が眼に見える形で結晶した奇跡の瞬間なんだと思い知らされる。

(略)

この本は、あの稀有な人間への「思い出」のためにつくられるのだ。忘れがたい尊敬と憧憬のしるしとして、古い屋敷の、彼の幼少時代の輝く庭の見える窓辺の、古い戸棚にそっと置くためにつくられるのだ。決して、彼を分析したり、解剖したり、より分けて消費するためであってはならない。
日本のある銀行だか保険会社のショーウィンドウに、プチプランスの絵が使われているのを見た時に、ぼくがどれほどの冒涜を感じたか、彼の著作を愛したことのある人なら判っていただけるだろう。

(略)

彼は、原石のまま海に消えたダイアモンドであった。流行にも、時代の風浪にもカットされない原石は決して古びない。
過ぎ去った郵便飛行の黎明期を書きながら、人間の高貴さについて書かれた「人間の土地」が、今も少しも輝きを失っていないのはその証拠である。

宮崎駿

サン=テグジュペリに対する愛が伝わってくる文章ですね。
宮崎駿のファンであり、サン=テグジュペリのファンという方におすすめの豪華本です。

余談ですが、宮崎監督は、『風立ちぬ』で堀越二郎を描きました。飛行機に対する想いと、空への憧れ、それから抱え込んだ矛盾。おそらく、そこに、サン=テグジュペリと同じ精神性を感じていたんだと思います。

サン=テグジュペリ デッサン集成
友人の手によってごみ箱から救い出されたデッサンや、散逸していた紙片など、未発表の350点余を含む500点近くを、初めてここに集成。デッサンとともに紙片に書きつけられたサン=テグジュペリのテクストや、デッサンの描かれた背景に関する詳細な紹介をほどこして、1巻とする。

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