8月7日に放送された、NHK「あさイチ」に鈴木敏夫プロデューサーが出演しました。その話の中で、ジブリ解散報道の否定から、『マーニー』と『ローニャ』、今後のアニメーションについて語られました。その全文を書き起こしました。
宮崎駿監督がどんな短編を作るのか、ジブリの長編アニメがどのように製作されていくか、今後が注目ですね。
宮崎駿が短編を作りたがっている
――一部で、もうやめちゃうんじゃないかという話を聞くんですが。
鈴木:
ぼくは、ほんとは休みたいんですけどね。なかなか、そういうわけにいかないんですよ。
一部報道で、解体しちゃうんじゃないかとか、ジブリが無くなっちゃうとか言われてんですけどね、要は「作り方を変えますよ」って話なんですよ。
――ジブリの制作の仕方を変えると?
鈴木:
そう。こんなこと喋っちゃうのもあれだけれど、宮崎駿も作りたいみたいでね……。某民法の番組の中でね、その「企画が天から降ってこない」とか喋ってるから、おいおいと思ってね。引退はどこいくんだろうと思ってね。
ジブリって、気が付いたら30年も経ってるんですけどね、夢の会社作りたかったんですよ。どういうことかって言ったら、気が向いたら作る、気が向かないときは作らないっていうね。それを、ある程度実現できた会社だったんですよ。
それをやれたことが、ぼくも嬉しかったし。で、やってきて、ここに至って、どうしようかということがあるんですけど、会社ってそんな簡単にね……。
――周りからの期待とかもありますから。もっとやって、もっとやって、っていう。
鈴木:
そういう雑音は聞かないようにして、作りたいときだけ作ろうと思ってますけど。
――そこにまた、宮崎駿監督が戻ってくるってことがあるということですか?
鈴木:
ぼくの予想ですけれど、まず短いものをやりますね。
――その話は、宮崎さんとはしてないんですか?
鈴木:
ちょっとしてますけれど(笑)。
これ、生(放送)ですよね? 困ったなぁ。
ジブリ美術館ってのがあって、そこで短編を作ってきてるんですよ。そういうものだったら、やってみたいっていうのはありますよね。ただ、何をやるか、これがやっぱり難しい。どうしたら、子どもたちが喜んでくれるものを作れるか。ここですよね。
――なんで、あの引退会見があったんですか?
鈴木:
あれね、本人も注意深く言ってるんですよ。「長編(アニメーション)からの引退である」って。その場で、本人がいきなり言い出したから、ぼくはお腹の中で「何考えてんだろ、この人は」と思ってね(笑)。
『思い出のマーニー』と『山賊の娘ローニャ』について
――『思い出のマーニー』は凄く面白かったですよ。今までのジブリの感じもあるんですけど、でもまた違う感じがあって。
鈴木:
そう思いました? ぼくは、あんなこと言ってたけど結局ジブリになってるじゃん、って(笑)。
――あの作品を勧めたのは鈴木さんなんですか?
鈴木:
そうですね。麻呂の場合は、「何かやりたい」って言ってきたんでね。「何やりたいの?」ってきいたら、企画持ってなかったんですよ。
それで、ぼくの好きだった作品で『マーニー』があったから、「これどう?」って。そういう経緯ですよね。ぼく大すきだったんですよ、原作が。
――一方、吾郎さんがジブリを出ることを勧めたのも、鈴木さんだったんですか?
鈴木:
彼は、ほんとうはジブリでやっていきたかったんですけど、いつまでも親父の庇護のもとやってたんじゃ、ろくな人生にならないんじゃないかって、真剣に思ったんですよ。
そうとう本人とも、いろいろ話し合いましたけど。とにかく追い出すと。それが、彼にとっては将来、ぼくに対して感謝するだろうと。
こないだ、チラっと(『ローニャ』の映像)見せてもらったんですけどね、凄い良いもの作ってるんですよ。
――毎週、そうとう大変だと思いますよ。
鈴木:
それを彼は悩んでましたよね。26本あるんですよ。それを、「13本にならないのか」とかね。
それでね、つい一昨日、予告編を親父(宮崎駿)に見せたんですよ。いやぁ、親父が複雑な顔してましてねぇ。
やっぱり、自分のもとから離れて、外で作ってるわけでしょう。なんとも言い難い顔してねぇ。でも、本心は喜んでますよね。
CGで作ってるものが、結果としてセル画になってるじゃないですか。それを見せたあとね、「宮さん、あれCGをセル画ふうに見せてるんですよ」って言ったら、そうとうビックリしてましたね。「どうやってやんの?」って。やっぱり、新しいものに対しては、74歳・宮崎駿、まだ健在ですね。
――じゃあ、長編もやっちゃえば良いんじゃないですか?
鈴木:
なかなか、そういうわけにもいかないですけどね。
今後のアニメーションについて
――宮崎さんが短編とか、みんないろいろなとこで動き出すと、鈴木さんは休みたいと言いながら、忙しくないですか?
鈴木:
だから、みんなそうやってやるのは良いけれど、ぼくはその面倒を見る役でしょう。ぼく、いちばん損な役なんですよ。だから、ほんと、ジブリをいちばん辞めたいのは、ぼくですよね。
――鈴木さんは、どうしたいんですか? 日本のアニメーション界とか。
鈴木:
変わっていきますよ。もう、変わりつつある。触りだけお話しすると、たぶん日本のアニメーションって、これからは東南アジアで作る。もう始まってるんですよ。タイ、マレーシア、台湾。一部、ベトナムでもスタートなんですよ。
だから、アジア全体で、誰かが企画を考える。例えば、日本人が企画を考える、実際作るのはタイでとかね。おそらく、そうなってくだろうと見てます。
実際に、手をそめて描きたい人は、それこそタイに行けば良いんですよ。
――それは製作費の問題ですか?
鈴木:
いや、意欲。
やっぱり日本もアニメーションに夢を見て、頑張ってやってきたじゃないですか。それが、一段落したんじゃないですかね。
それが今、アジアのいろんな国で、そういう陽が昇りつつあるんですよ。
――寂しくなるような気もするんですが。
鈴木:
ぼくは、そうは思わないですよ。
――新しいアニメの形になっていくということですか?
鈴木:
そうそうそう。だから、日本製だとか、タイ製だとか、マレーシア製だとか、そんなこと言うんじゃなくて。アジア全域で一本のものを作るっていう、そんな時代がくるんじゃないかな。