文藝春秋のサイトに、鈴木敏夫プロデューサーの寄稿が掲載されています。
宮崎駿監督と庵野秀明監督の出会いから、現在までの話です。
宮崎監督の新作『風立ちぬ』の、零戦が飛行するシーンを、庵野監督が描くかもしれないという、すごい話が出ています。
是非、実現してほしいですね。



この先十年は庵野の時代

 宮さんがその庵野に担当させたのが、巨神兵の崩壊シーンです。巨神兵は、人間が手の平に乗るほど巨大な人工生命体で、クライマックス近く、全身が腐敗してドロドロに崩れ落ちます。ご覧になった方は分かると思いますが、細かい動きで、とにかく手がかかる場面なんです。原画マンなら誰もがしりごみするほど厄介なシーンです。

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 時間にして九十秒ほどの場面ですが、庵野は巨神兵のシーンだけに三カ月ほどかけていました。宮さんは、原画をチェックしながら、どんどん自分で手を入れてしまうのですが、この巨神兵の部分はほとんど手を入れていない。直し出すとキリがないから、という説もありますが(笑)、それだけ庵野の仕事として仕上がっていた。

『ナウシカ』が終わると、庵野は、それきり宮崎駿の仕事に参加しませんでしたが、高畑勲監督『火垂るの墓』(八八年公開)でまた道場破りのようにジブリを訪ねてきました。高畑さんとの仕事もその一回きりです。武者修行の途中で門を叩き、「宮崎も高畑もだいたいわかった」と去っていったという印象です。

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 庵野に会うと、時々「『ナウシカ』の続編を自分に撮らせてほしい」と言われる。彼によると、『エヴァ』もまた『ナウシカ』のつづきを自分なりに作っているんだ、と言うんです。どれだけ『ナウシカ』に取り憑かれているのか。たった三カ月の出会いが、人生を決めてしまったんですね。

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 いまは映画がどんどん隅のほうに追いやられ、社会現象になりにくい状況です。そのなかで頑張っているのが庵野秀明の『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズです。この先十年は庵野の時代になるはずです。

 今年七月、宮崎駿監督の新作『風立ちぬ』と、高畑勲監督の新作『かぐや姫の物語』が公開予定です。『風立ちぬ』は零戦を設計した堀越二郎の生涯と堀辰雄の「風立ちぬ」をイメージした物語です。庵野からは「零戦が飛ぶシーンがあるなら描かせてほしい」という申し出がありました。もし実現すれば、彼が宮崎作品に参加するのは『ナウシカ』から二十九年ぶりです。そこで新たな師弟対決が見られるかもしれません。

宮崎駿と庵野秀明 アニメージュ