『紅の豚』の主人公、ポルコ・ロッソは魔法で豚になってはいるものの、ダンディなカッコ良さを醸し出していますね。
若くてかわいいフィオに、大人の女性のジーナを側につけ、結婚相手に困ることはなさそうに思えます。が、しかし、そこまでモテる男ではなく、結婚対象として下位にいたようです。
LINE LIVEで交わされた、鈴木敏夫×押井守×川上量生の三者対談で、設定の一部が語られました。
初期設定「オーストリア=ハンガリー帝国」が吹っ飛んだ
鈴木:
『紅の豚』で、ジーナの店に写真が飾ってあるの覚えてます?
要するに、「オーストリア=ハンガリー帝国」で、実はヨーロッパは一つの国。そのときの、いろんな若者が集まって飛行機クラブを作ってた。
ところが、戦争が押し寄せてきて。それで、イタリアとハンガリーに別れて、友達同士だった人が、敵対しなきゃいけなかったとかね。そういう話が、前提としてあるんですよ。
そういう中でジーナは、時代に翻弄されて、この人と結婚し、この人は戦死。また、この人と結婚して戦死。この人と結婚して戦死って。だから、ジーナのセリフが出てくるわけなんだよね、「あなただけになっちゃったわね」って。いきなり言われたってわかんないんですよ(笑)。
川上:
えー! そういう話なんですか?
押井:
なんの説明もしないんだもん。
川上:
みんな死んじゃったくらいは、想像できるんですけど。それと結婚してたんですか?
鈴木:
そう(笑)。だから、『紅の豚』をやってた、徳山さんって宣伝プロデューサーが、見た目は荒っぽそうな男なんだけど、心は純な人で「3回も結婚した女は、おれはヒロインとして認めない」とかね(笑)。
押井:
アッハッハッハ。
鈴木:
わけのわかんないこと言ってたんですよ(笑)。
川上:
そうなると、だいぶ意味合いが変わってくるじゃないですか。要するに、主人公はその中でもっとも結婚する優先順位が低かった。相手にしてなかった人だっていう、そういう話なんですね?
鈴木:
そう! そうなんですよ。だから、宮さんの中では、常にそういう設定がある。だから、「オーストリア=ハンガリー帝国」がどっか吹っ飛んじゃってるんですよ。あれなんか、ほんとは追及していくと面白いんですよ。なんで、それやらないのかな、っていつも思うの。だって、史実に反してたって、問題ないでしょう?
押井:
全然。
鈴木:
実に面白いんだもん。
押井:
とりあえず、観ている間は、なんとなくそうかな、って思っちゃうじゃん。だけど、あとで「あれ!?」って、「考えてみたら、絶対変じゃない!?」って。
飛行艇時代 映画『紅の豚』原作 宮崎駿監督が映画『紅の豚』の制作に先駆けて描いたマンガと、映画資料を掲載。92年刊の増補改訂版。 |