宮崎駿宮崎駿監督が、自身のアトリエである二馬力にて、外国特派員協会主催による記者会見を開きました。
会見は、「辺野古基金」の共同代表の就任についてのもので、内容はもちろん沖縄の基地問題について多くの時間を割いていましたが、アニメーションに関する話も語られました。



インタビュー終了後には、記者と共に記念撮影が行われ、外国人記者と雑談が交わされていました。
「長編作品は作らないんですか?」という問いに、「ぼくは年寄りですから、若い人に任せて良いでしょう」とコメント。「なぜ、iPhoneが嫌いないんですか?」と聞かれると、「ぼくは、保守的な人間なんです」と笑顔で答えました。

生命の本質的な部分に迫った方が、アニメーションは表現しやすい

宮崎:
どうも、暑いなか、ご苦労さまです。
話し出すと長くなりますから、ご質問に答えた方が良いと思いますので、どんなことでもかまいませんから、おっしゃってください。

――引退以降、宮崎監督はどんな生活をなさっていますか?

宮崎:
ぼくは、以前の生活となんら変わっていません。ただ、来る時間が30分ほど遅くなり、帰る時間が30分ほど早くなっています。

――新しいアニメも作っていますか?

宮崎:
ええ、これから掛かるところです。今、掛かりつつあります。

――アメリカ人は宮崎監督の映画が大好きです。非常に受け入れられているわけです。もちろん、その映画が直接見られているわけではなく、ダビングされているわけです。アメリカの声優などが入るわけでもあります。ハリウッドは、監督の映画をどのように処理しているんでしょうか。つまり、翻訳などを通して、何か本来の意味、監督が訴えたいと思っていた意味が少し変わっていると思いますか?

宮崎:
アメリカに、わたしたちの作品を紹介することについては、ピクサーのジョン・ラセターが、非常に友情と責任をもってやってくれています。ですから、彼をわたしは信用しています。ほんとうに、いちばんの親友です。
ぼくは、イギリスのアードマンスタジオというところに行って、そこのスタッフと交流したときに、彼ら彼女たちが、このDVDにサインしてくれって、わたしの作品を持ってきました。完全な海賊版でした。中国製の(笑)。どういうふうになっているのか、わたしには見当もつきません。

――いま取り組んでいるクリエイティブなプロジェクトについて、お話いただけますでしょうか。将来的には、大きなプロジェクトにも関わりたいと考えていらっしゃるでしょうか。

宮崎:
今、ジブリの美術館で、短編映画を作っていますので。その10作目に取り掛かっています。これは、従来のスタッフが少しと、CGの新しいスタッフが出会うことになっています。それで、プロデューサーは3年ぐらい掛かるだろうと言っていますが、若いスタッフを3年も拘束するのは良くないので、わたしは出来るだけ早く終わらせたいと思っています。それだけで、精一杯ではないかと思ってるんです。

――アジアの人たちと共同で映画を作っていきたいとか、そういうお考えはありませんか?

宮崎:
いろんなアニメーションの作品が考えられますが、今私が作ろうとしている話は、こんな小さな毛虫の話です。指で突くだけで死んでしまいます。この小さな毛虫が、こんな小さな葉っぱにくっついている生活を描くつもりです。それは、生命の本質的な部分に迫った方が、アニメーションとしては表現しやすいのではないか、と思っているからです。
それで、100年や200年の短い歴史よりも、もっと長い何億年にもつながる歴史を、アニメーションは描いたほうが良いと思っています。

――アニメ制作について、監督としてまだ実現していないことはありますか? また、オタク向けの作品がありますが、監督はどう思っていますか?

宮崎:
フィルムが無くなって、わたしたちが使っていたセルも無くなって、絵の具で塗ることも無くなりました。背景を描くときの絵の具は、わたしたちはポスターカラーを使ってきましたが、ポスターカラーですら、もう生産は終わるだろうと言われています。筆も、良い筆が手に入りません。それから、紙がこの1、2年で急速に悪くなりました。
わたしは、イギリスの“BBケント”というケント紙を、ペンで描くときは愛用していたんですが、とても素晴らしいわたしにとっては宝物のような紙が、線をすーっと引くと滲むようになりました。世界は根元の方で、ミシミシと悪くなっていくようです。ですから、アニメーションのことだけ論じても、しょうがないんじゃないかなと思います。
いつでも、どうしてこれが流行るのかわからないものが流行ります。それもいろいろあって良いんじゃないかと、ぼくは勝手に思っています。

――アニメーションの今後を、どうお考えになっていますか? 今新しい会社で、ドリーム・リンク・エンターテイメントなどがあります。視聴者のニーズにすぐに応えられる会社なのですが、アニメーションの未来像になるでしょうか。

宮崎:
幸運と才能さえあれば、なんとかなるでしょう。