女優の山口智子さんが、旅で出会ったさまざまな音楽に文化、伝統工芸の職人などを紹介する「LISTEN.」シリーズ。2012年に発売された「SWITCH」特別編集号では、「LISTEN.」とのコラボが行われ、高畑勲監督と鈴木敏夫さん、山口智子さんの三人が、奈良の春日大社を訪ね、“春日若宮おん祭り”と呼ばれる暗闇の祭りを体験しました。
山口智子さんは、四十歳を過ぎたころから伝統工芸の職人や、世界の様々な文化に興味を持ちはじめ、“未来に語り継ぎたい大切なもの”を取材をしています。人間国宝や、優れた職人に自ら電話をかけ、突撃取材するほどだといいます。
そんな山口智子さんが、高畑勲監督と鈴木敏夫さんを誘い、闇を体験する聖域へ向かいました。
“春日若宮おん祭り”は、平安時代から奈良に暮らす人々により守り抜かれ、八百七十有余年にわたり途切れることなく、今日に至るといいます。
静まり返った闇夜に神をお迎えする、おん祭り。思いを馳せる闇とは、いったいどんなものなんでしょうか。
年に一度、春日大社の若宮神が、この世に一日だけ滞在するといいます。
神様の滞在は、二十四時間。神迎えの神事「遷幸の儀」、神を送る「還幸の儀」では、いっさいの灯りを禁じ、すべては闇の中で行われます。
本誌では、“春日若宮おん祭り”の紹介から、闇の儀を体験した三人の鼎談が掲載されました。
闇は五感を目覚めさせる力がある
高畑:
榊を持った神職たちの一団がこちらに向かって来るのを待っている時、なんともいえない一体感のようなものがあった。「ヲー」と言いながら間近を通っていった時は、巻き込まれそうで、怖かったです。鈴木:
ぼくも怖かったですよ。僕など、皆さんからちょっと離れた鳥居の傍らにいて、鳥居の横から、じっくりと行列を見ようと心構え、顔を出した途端、その行列に巻き込まれそうになり、思わず、鳥居にしがみつき、それは誇張でなく命の危険すら自覚した体験でした。鳥居のそばの階段をあがった辺りから、行列のスピードがあがったものだから、本当に巻き込まれそうで、時間にしたら、ほんの一瞬の出来事。遠くから見ていた時は、静かで厳かに見えたのに、間近で見た行列に、ぼくは、一瞬、狂気というか、恐ろしささえ感じたのです。特に、行列している白装束の人たちが怖かった。あの体験は得難いものでした。(略)
山口:
闇に耳を澄まして受け止める音に、ダイナミックな物語を感じました。闇は五感を目覚めさせる力もあるのでしょう。古代人は現代人よりも様々な官能を味わっていたのではないかと思います。
ジブリ作品といえば、闇を愛でる作品という観方もあります。これは日本独特の文化から生まれた感覚なのかもしれません。闇体験を経て、今後のジブリ作品に何らかの影響が現れるのか楽しみです。
「SWITCH」特別編集号 LISTEN 山口智子 旅の掌編 山口智子が世界中を旅して出会ったさまざまな音楽や文化を記録する旅×音楽本 ジブリ 高畑勲 鈴木敏夫を誘い、「奈良 春日大社」で、おん祭り闇体験をする |