「スタジオジブリの仕事術」 鈴木敏夫×石井朋彦12月6日に開催された、「『スタジオジブリの仕事術』鈴木敏夫×石井朋彦 初の師弟対談」の模様を文字に起しました。
この対談は、石井朋彦さんが鈴木敏夫さんから学んだ仕事術を記した、『自分を捨てる仕事術』の刊行記念して開催されました。



対談は、ジブリに入社したてのころに石井さんが、鈴木さんの下で学んだ仕事術を語るかたちで進行。ためになる話が盛りだくさんです。また、質疑応答では、新海誠監督の『君の名は。』についても語り、さらには、ジブリ美術館用短編作品『毛虫のボロ』の公開時期や、宮崎駿監督の新作についても言及しています。

司会は、『崖の上のポニョ』の主題歌を歌ったことで有名な、元博報堂の藤巻直哉さんです。

鈴木敏夫の仕事術

藤巻:
皆さん、こんばんは。お忙しいところお集まりいただき、ありがとうございます。
本日は、石井朋彦さんが『自分を捨てる仕事術』という本を出されまして、これは何かと言うと、『鈴木敏夫が教えた「真似」と「整理整頓」のメソッド』という本で、初めて石井さんの師匠である、……鈴木敏夫っていうんですけどこの人、ジブリの代表取締役プロデューサーとの師弟対談をするということで、これから始めたいと思います。初めてらしいですね、師弟対談は。
私は、司会を務めさせていただきます、藤巻といいます。たぶん覚えてないと思うんですけど、2008年に『崖の上のポニョ』で主題歌を大橋のぞみちゃんと歌わせてもらいました。一応、紅白歌手でもあるんですけど。たぶん、みなさんの頭の中では、大橋のぞみちゃんしかいなかった、という記憶に書き換えられているんじゃないかと思うんですけど、となりで歌ってたオヤジです。
今日は、鈴木さんからのご指名で、司会をやれということで、誰かに話を振るとかやるのは大の苦手なんですけども、長い付き合いということで、司会をやらせていただきます。お聞き苦しい点は、ご容赦頂きたいと思います。

鈴木:
今日は会場が大日本印刷、その一角にある場所で。ぼく、実を言うとですね、学校を出て初めて働いた場所がここなんですよ。

藤巻:
徳間書店じゃなくて?

鈴木:
徳間書店時代に。雑誌を作るっていうことは、印刷しなきゃいけないでしょう。それが大日本印刷だったんです。構成室っていうのがあって、週刊誌だったんで、一週間に二回だか三回だか、毎週丸一年間通ったんですよ。だから、今日はここに来たとき、ちょっと懐かしかったんです。

藤巻:
それでさっき控室でご挨拶なさってたのが、その当時からいらした?

鈴木:
そのご担当の人が、まだいるんですよねぇ。さっき、ちょっとビックリしちゃいましてね。

石井:
30年以上前ですよね?

鈴木:
もう定年でいなくなってるはずなのに、まだ会社に残ってるっていうね(笑)。

藤巻:
役員ってことですか?

鈴木:
あのね、偉くならない方が長生きするんですよね、会社っていうのは(笑)。桑原くんっていうんですけどね、ほんとうにいろいろお世話になりました。ありがとうございます。これからも、よろしくお願いします! でも、もうすぐだよね? ほんものの定年が。

藤巻:
今日は、桑原さんのお話じゃないので(笑)。

鈴木:
あ、今日は、ぼくはここに何しに来たかというと、石井が初めて本を書いたというんで、今日こういう企画を立ててもらったときに、これ断ると後で石井に何を言われるかわかんない、それがあったんで(笑)。
まあ、それは悪い冗談として、この『自分を捨てる仕事術』は、一刷り二刷り三刷りときて、今度は四刷り? 既に売れているらしいんですけど、この本が売れるといいなと思って、それでやって来ました。

藤巻:
ほんとは、鈴木さんが7月に『ジブリの仲間たち』という本を新潮新書というところから出したんですけど、この本の宣伝もということだったんですけど、鈴木さんが「今日は、石井の本だけでいい」ということで、今日はこの『ジブリの仲間たち』については割愛させていただきますんで、新潮新書の皆さんすいません(笑)。

鈴木:
読んでらっしゃる方は少ないかもしれません。少し、ジブリのことに詳しい方は、こう思われると思うんですよ。ジブリの仲間っていうと、当然、ぼくのとなりにいる藤巻さん。さっき自己紹介でも言ってましたけど、『ポニョ』も歌ってもらったわけですから、たぶんこの本にいっぱい登場するだろうと思われると思うんですけど、藤巻さんはジブリの仲間ではありません! そのことを、最初にきちんと言っておきたいです。

藤巻:
ひどいじゃないですか! あんなにひどいことばかり書いておきながら。

石井:
いっぱい登場しますよね。すごい面白いです。

藤巻:
そういうことなんで、『ジブリの仲間たち』は良かったら、買って読んでみてください。
で、今日の主役は、『自分を捨てる仕事術』を書いた、石井朋彦さんです。

石井:
石井と申します。今日は夜遅くに、皆さまありがとうございます。この本なんですが、ぼくが書いた本というよりはですね、鈴木さんがおっしゃったことを、ぼくはメモに溜めてたら、ダンボール2、3箱分くらいになってたんですよね。それを一回引っ張り出して、全部整理してまとめた本です。9割9分9厘 鈴木さんの本なんですが。

藤巻:
じゃあ、論文みたいなもんですね?

石井:
そうです!

藤巻:
孔子が言ったことを書き留めた。

石井:
そうです。弟子たちが、鈴木さんが言ったことを書き留めて、後世に残すという目的で書いた本ですので。

藤巻:
ほんとうはね、もうちょっとしたら、おれがこれを書こうかなって思ってたんだよね。

石井:
是非(笑)。

藤巻:
先を越されちゃったんでね。二番煎じになっちゃうんで、出来ませんでしたけど。

面接の場で怒鳴り合い

藤巻:
石井君の経歴を辿ると面白いんですけど、お父さんが大学教授なんですよね。そういう中にあって、「大学なんか行かないで、世界を見てこい」って言って、世界を放浪してきたんですよね。

石井:
はい、その後に鈴木さんの下に入れていただいたんです。

藤巻:
どういう切欠で、ジブリに入ろうと思ったんですか?

石井:
『ホーホケキョ となりの山田くん』のときに、中途採用の募集が、ジブリの公式ホームページにあったんですよ。そこに応募をして、作文を書いて、面接がいくつか。それこそ、ジブリの方々にいくつか面接をしていただいて、最終面接が鈴木さんだったんですね。
鈴木さんは、そうじゃなかったっておっしゃるんですけど、けっこう怒鳴り合いみたいな面接になったんですよ。

藤巻:
なんで面接で怒鳴り合うの?

石井:
あとになると、ぼくが浅はかなんですけど、面接っていろいろアピールしたいじゃないですか。今も若い人って、面接で自分をどうアピールするかってことが大事だと思うんですけど。

藤巻:
それ何歳のとき?

石井:
21歳か、22歳ですね。

藤巻:
まだ若かったんだ。

石井:
はい。そしたら、ぼくが言うアピールをすべて、「違う!」って言ってその場で否定をしてしまうので、さすがにぼくも当時若かったので、ちょっとムッとしてですね、「そんなことないです」って言ってるうちに、だんだんヒートアップしていって。終わった後に、鈴木さんが「うん、わかった。じゃあ、がんばってねぇ」って言って手を振って、そのままパタパタパタパタと部屋を出ていって。

藤巻:
雪駄で?

石井:
そうですそうです。で、「これはダメだったかなぁ……」と思ったら、後日「採用になりました」というご連絡をいただいて、ジブリに入れていただいたという切欠ですね。

藤巻:
そのとき入ったのは一人だけ?

石井:
一人だけでした。応募が、300人くらいいたんですって。

藤巻:
そのとき鈴木さんは、どういう人材が欲しかったんですか? プロデューサー?

石井:
制作進行ですよね。だから、鈴木さんの下ではないです。現場が忙しくなるんで、現場の製作進行が必要ってことで、急遽募集がかかったんですよね。

藤巻:
いまの就活中の人たちもいるかもしれないんで、何が決め手で石井君を採ったんですか、鈴木さんは。

鈴木:
ぼく? そんなの覚えてないよ(笑)。

藤巻:
今日の趣旨わかってます?(笑)

石井:
覚えてないと思います(笑)。

鈴木:
やっぱり、こういうもんじゃないかな。選ぶ方って、たいがい何を基準に選んだか覚えてないんですよ。でも、選ばれた方は、いろいろ覚えてるんだと思うんです。世の中って、そういうものだと思うんです。

藤巻:
でも、その300人の中でも、何かあったんじゃないですか?

鈴木:
ぼくにとって、石井って存在は、……ジブリの中に、300人の難関をがんばって入ってきたんでしょうけれど、実はそのあとの事件の方が印象深いですよね。それは、何かと言うと、制作進行、監督を始め、絵を描く人たち、いろんなスタッフがいますよね。そのお尻を叩くっていうのが仕事になってくる。つまり、映画っていうのは、良いものを作るっていう一方で、スケジュールの中でやっていかなければいけない。そうすると、お尻を叩くっていうのが大きな仕事で。石井ひとりじゃなくて、他にもいろんなメンバーがいたんですけど、ぼくのとこの耳に聞こえてきたのは、こないだ入った石井が、みんなと一緒にやる適応能力に欠けてる?

石井:
これ、ほんとうにそうなんです。ぼく、クビ寸前だったんです。

藤巻:
協調性が無い?

鈴木:
協調性がなかったんですよ。入ってどれぐらいだっけ?

石井:
すぐですよね。

鈴木:
3か月か、4ヶ月経った頃。高橋っていう制作部長がやってきて、ぼくは高橋からいろんな話を聞いてて、制作部の中は、何がどうなっているのかわからない。この高橋っていうのは、ぼくと徳間書店からアニメージュをずっと一緒にやってきたやつなんですけど、言い方が極端なものの言い方をするやつで。それで、ぼくの部屋に来て、「ちょっと話がある」と。何かなと思ったら、「鈴木さん、相談がある」と。「なに?」って言ったら、「こないだ入れた石井のことなんですけど」って。「ああ、頑張ってるの?」ってきいたら、「いや、そうじゃない」と、「もう、完全に浮いてて、このままでは、皆で一緒にうまくやっていけない。で、選択肢は二つしかない。一つは、鈴木さんの下で引き取ってくれないか」と、「引き取ってくれるなら鈴木さんの下で、石井もいろいろ考えて仕事をやるだろう」と。で、「引き取らなかったらどうするの?」って言ったら、「あ、クビにします」って。これ、ほんとうなんですよ。

石井:
ほんとうです。

鈴木:
それ言われたから、「そこまで言われたら、しょうがないな。じゃあ、様子見てみるよ」って。そういうことになったんですよね。
なんていうんだろう、いろんな人が入ってきたけど、入ってすぐみんなから総スカン喰らう? ってやつは、いなかったんですよ。それは、未だにたぶん続いてると思うんですけど(笑)。

石井:
アッハハハ。

鈴木:
だから、面倒見るかってことですよね。

石井:
200%事実ですね。

藤巻:
そこで、石井君的に、ちょっと自分の人間性とか、変えようって気持ちになった感じ?

石井:
当時のぼくは、わかってないわけですよ、何が悪いかを。やってるつもりでいたし、仕事をするつもりでいたし。

藤巻:
なぜ責められるかをわからない?

石井:
「最近の若いやつ」とか言うじゃないですか、ぼくも御多分に洩れずそれでね。世界が間違っていて、ぼくがあっていると思ってたわけですよ。たぶん、周りの人からすれば、たまったもんじゃなかったと思うんですけど。それを鈴木さんに、一から叩き直していただいたんですよね。

藤巻:
そこから鈴木さんに弟子入りした形で、鈴木メソッドを学んだってことなんですかね?

石井:
そうですね。

鈴木:
ぼくは、そんなこと何も考えてなかったんですけどね。とにかく、ぼくが面倒みなかったら、クビにしちゃうってわけでしょ。高橋自身も「ぼくの手には負えない」って。そうすると、どうしようかなってやつで。ぼくが覚えてるのは、石井の印象っていうのは、人の言うこと何も聞かずに、自分のやりたいと思ったことをどんどんやろうとする。そりゃ、みんなに嫌われるのは当たり前のことで(笑)。
だから、ぼくが思いついたのは、まず人の話を聞く。それで、それを理解するって。これが、もしかしたら大事かなと。

石井:
最初に、そう言われたんですよ。二つあって、最初に「おれは、再生工場だからな」って言われたんですよね。
ぼく、野球も知らなかったんで、野村監督の「再生工場」の再生工場なんですけど、アニメージュ時代もどちらかというと、あまり組織に馴染めないやつを、いつの間にか100人くらい集めて、アニメージュを作っていたんだ、と。だから、今からそれを教えるからな、っていうことで始まって。最初に言われたのが、「とにかく、自分の意見を一回捨てなさい」と。自分が、何か言おう言おうと思ってると、人の話が入ってこないから、「おまえの意見なんか、誰も必要としていないんだ」と。ただ、鈴木さんの凄いところは、普通だったらそこで「大人はわかってくれない」ってなるじゃないですか。だけど、「若いことの最大の価値というのは、誰にも必要とされてないことなんだ」と。そのときに、ちゃんと自分の意見を捨てて、ノートにみんなが言うことを全部書いて、身振り手振りすべて書き残して、「会議が終わったあと、読み返せ。寝る前に読み返せ」って。で、それを「おれに送れ」っておっしゃって。その議事録を毎晩送ってたんですよね。
それをしているうちに、皆さんが言ってることが入ってくるわけですよ。そうすると、「あ、こんなに仕事って面白いんだ」って一方で、自分にこだわると、こんなに小っちゃい世界しか見えてなかったんだ、ってことがわかってきたんですよね。

藤巻:
凄いですね。

鈴木:
凄いですね(笑)。いや、いま改めてそう言われると……、その鈴木さんってどこにいるんだろうって(笑)。

石井:
当時のノートを、ちゃんとあらって書きましたからね。

大事なことは、読み・書き・ソロバン

鈴木:
ぼく、自論なんですけど、人間が生きていくうえで、何が大事かっていうとき、“読み・書き・ソロバン”。読み書きの“読み”っていうのは、何かって言ったら、読んで理解することでしょう。それで、理解したことを、今度は書く。もう一方で、算数ができる。この三つがあれば、人間って生きていけると思うんですよ。
ところが、いろんな若い人たちと付き合って、それは石井のみならず、その“読み・書き・ソロバン”が弱い人が多かったんですよね。だから、それがすごい気になってたことは事実ですね。

藤巻:
言わば、クビ寸前だった石井君を、ここまで立派に。

石井:
全然立派じゃないですけど。

鈴木:
ぼくとしては、石井がどういう人であるかというのは、関係なかったんですよ。ぼくが頼んだことを、やってくれるかどうか。
これは先の話になるのかもしれないけど、アニメーション映画って作っていくとき、シナリオもさることながら、絵コンテっていうのが最終的に画面を決めていくんで。これ作品によって違う人もいるんですけれど、宮崎駿・高畑勲の場合はかならずそうなんですけど、絵コンテが絶対なんですよ。で、そこに描かれた絵、そしてどういうセリフがあるか、これを「全部覚えてよ」って。「暗記してよ」と。なんでかって言ったら、自分で読んでも忘れることって多いじゃないですか、そうするとそういう人が側にいたら、ぼくとしては凄い助かるわけで。そういうことで言うと、外部記憶装置として機能してくれたら、ぼくとしては凄い助かるわけですよ。その一点に関しては、石井はほんとうに……こういう場であることもあるけれど、最初のそういう切欠があったのかもしれないけれど、人の言ったことを正確に第三者に伝える。その能力と同時に、自分が読んだものを正確に伝える能力っていうのは、凄い身に着けましたね。で、ぼくはそれが、凄い助かった。
それは、『となりの山田くん』からだったんですけど、いちばん石井の力が発揮されたのは、もしかしたら、『千と千尋』かなと。

石井:
もう突然、「明日から、宮さんのとこに毎日行け」って言われたんですよ。とんでもない話ですよね。足が震えて、行けないわけですよ。じゃあ、他のスタッフは行っているのかっていうと、他のスタッフもなかなか行けないなかで、ぼくが怖気づいてたら、ある日怒られて、「バカ!」って言われて。「おれの代わりに行くんだから、おまえが恐縮する必要はない」って言われたんですよね。

鈴木:
なるほど(笑)。

石井:
「そこで、おまえは宮さんによく見られようと思ってるかもしれないけど、関係ないから」と。だから、「おれが言ったことを宮さんに伝えなさい」と。で、「宮さんが言ったことを、おれに伝えて」っていうふうに。

藤巻:
ただの伝令役だけだからってことですね。

石井:
そこの情報の伝え方みたいなものを、凄く教えてくださって。「最初に結論を言え」とかね。宮崎さんは、せっかちなんで、すぐに反論されちゃうわけですよ。伝えることを三つに小分けして、最初に「ご報告が三つあります」と言えとかね。

鈴木:
無いときも言っちゃえって、言ったんですよ。

石井:
そうそうそう。

鈴木:
まず、「三つあるんです」って言っちゃうんです。そういうときって、たいがい一つくらいは出てくるんですよ。で、一つ目喋ってるときに、二つ目を考えるんです。

石井:
あと、高畑さんのときは……、これLINELIVEで喋っちゃうと意味ないんですけど、そういう項目があったんだけどカットしたところがあって、「高畑さんと話すときのコツを教えてやろうか」と。

藤巻:
これ、皆さん高畑さんも宮崎さんも、実態を知らないじゃないですか。

石井:
高畑さんは、日本一の知識人なので。

藤巻:
東大出なんですけどね。『火垂るの墓』とか、『おもひでぽろぽろ』とかの監督です。

石井:
何か言われたら、「すぐ返事するな」と。ほんとうに頭の良い人は、すぐ返事すると「おまえは、おれの言ったことをちゃんとわかってないだろう」と思うと。わかってなくてもいいから、斜め上を見て「3秒考えたフリをしろ」って言われたんですよ(笑)。

鈴木:
それ有効だね。なるほど(笑)。

石井:
それやってから、高畑さんが、ぼくのことを評価してくれるようになったんです(笑)。

藤巻:
でもね、それ、久石譲さんも言ってましたね。久石さんが、『崖の上のポニョ』のオーダーを受けたときに、鈴木さんと宮崎さんから、「こういう物語で、こんな曲を作ってほしい」と言われたときに、頭の中にはもうメロディが浮かんだんですって。そのときに、「こういうのどうだろう?」って言おうかと思ったんだけど、ここで言っちゃうと安っぽく、「何も考えてないだろう」って思われるから、一週間経ってからそのメロディを伝えたら、「おぉ、良いじゃん」って言われたそうですから、それは重要なことなのかもしれない。

石井:
「結論は先に言うな」とかね。

仕事は公私混同

藤巻:
『自分を捨てる仕事術』の中から、いくつかのキーワードを出していきたいと思います。これは、石井君が鈴木さんから教わったことですね。まず最初に、「仕事は公私混同」と。

石井:
よく言う、「プライベートも仕事に使え」という意味ではないんですよね。ぼくが言われたのは、「先のことは考えるな」って言われたんですよ。将来の夢とか、未来の目標とかね。「おまえは、目標とか夢とか考えすぎて、目の前のことがおろそかになってる」と。

鈴木:
ふ~ん。

石井:
ノート持って来ましょうか、ここに(笑)。

藤巻:
あなたが言ったのよ。

鈴木:
だって、それ素晴らしいじゃん(笑)。

石井:
朝起きたら、もうやることを一所懸命やれと。そのためには、メシ食ってるときも、寝てるときも、友だちと遊んでるときも、すべて仕事に結びつくと思えば、日々の仕事も楽しくなるから、全部ひっくるめて日々日常を別け隔てするな、っていうようなことだったと思います。

藤巻:
一日仕事して、家に帰って、もう境がないっていう。

石井:
そうです。今でいう、労働時間が長いとか、ずうっと働けってことでもないんですよ。

藤巻:
宮崎駿さんと、ちょっと話したことがあって。そのときに宮崎さんは、若い頃はそうだったって言ってたけど、今は10時まで仕事をして、10時きっかりに終わって、そのときに素晴らしいアイディアが浮かびかかってもやめるんだと。東小金井から、所沢まで車を運転しながら、クールダウンしながら家に帰らないと、夜眠れないらしいんですよね。
ものを考えているときは、「脳を開いている」って彼は言ってたんですけど、脳を開きっぱなしなんで、10時になったら全部やめて、「あ、良いアイディアが浮かびそうだ」ってときも、それをやめて帰路につくと。車で所沢につくまで運転しながら、バスの数を数えるんですって。そうしながら、頭をクールダウンしていくっていうんで。それは、単純な作業をしながら、バスが一台、二台って数えながら、クールダウンするですって。
そういった意味で言うと、公私混同は、今は宮崎さんもしてないのかなって思うんですけど。

石井:
その間も、考えてるんだとは思うんですよね。これ、ちょっとキーワードが分かりづらいんですけど、パソコンに向かっていると怒られたんです、鈴木さんに。「机に向かって、うんうん難しい顔してるやつは、仕事ができない」と。何かしている間に、メールとかの文章は作っておけ、って言われたんですよ。歩いてるときとか、移動してるときに、どういうメールの返事を書くとか、文章は頭の中で書いておいて、いわゆる仕事という時間は、それをバーッと書けば、「仕事なんか、すぐに終わるんだ」と。それを、仕事とプライベートとはっきり分けて、一所懸命一所懸命やってるから、「仕事が終んないんだ」っていう感じでしたね。

藤巻:
そうなんですか?

鈴木:
いろいろ、勉強になりますねぇ(笑)。

藤巻:
最近、ボケてきたんでね、言ったこと全部忘れてますからね、鈴木さんも(笑)。
そういうこと言ったみたいですよ、若い頃に。

鈴木:
いや、でも正しいですよね。

藤巻:
けっこう、それは実践してますよね。

石井:
今もしてますよね、鈴木さんは。

藤巻:
鈴木さんの生活見てると、どこから仕事で、どこからプライベートかっていうのは、区別ないなって思いますよね。

鈴木:
理想なんですよ。最近の言葉で言うと、オン・オフって言葉があるでしょう。ぼく、あれ間違いだと思うんですよね。ここまでがオンで、ここからがオフって考え方って、やっぱり疲れちゃうと思うんですよ。そうじゃなくて、そんな区分けはない。そういうほうが、毎日楽しくなりますよね。だって、藤巻さんそうじゃないですか?

藤巻:
おれは、ほとんどオフです。オンがあるのかっていう。でも、それはそうですよね。

石井:
「疲れないよ、そのほうが」っていう。

目標を持たずに、目の前のことをコツコツやる

鈴木:
もう一つ、石井が言いかけたことで言うと、ぼくも若いときは、いろんなこと悩んだと思うんですけど、あるときこう決めたんですよ。人間の生き方って二つだって。要するに、目標を決めて、それに到達すべく努力するっていう考え方あるでしょう。一方で、目標を定めないで、目の前のことをコツコツやっていく。それによって開ける未来もある。
それで、ぼくもある年齢になったときに、ぼくだって若いときは、目標を持たなければいかんのかなと、ずいぶん思ってたんですよ。

石井:
それはちょっとホッとしますね、ぼくも。

鈴木:
思ってたんだけれど、いろいろ考えても、なかなか目標なんか持てるものじゃない。そういうことやってたら、忙しかったものだから、結局目の前のことをコツコツやらなきゃしょうがない。それによって、自分がどこに行くかわからないんだけれど、開ける未来はある。っていうことを、どこか身体で学んだんですよ。だから、たぶん、石井の前で偉そうに言ったんでしょうねぇ。

石井:
キキと、雫を例にしてましたよね。

鈴木:
それは、よく話したね。

石井:
キキが好きか、雫が好きか。『耳をすませば』の雫か、『魔女の宅急便』のキキが好きかで人間がわかれると。キキっていうのは、自分の持ちものである魔法使いっていう血を使って仕事をするけど、雫は「小説家になろう!」って思うじゃないですか。ぼくは、どっちかっていうと後者だったわけですよね、「何者かになろう!」って。ほんとうにそれで良いのかっていう、むしろ「キキの生き方のほうが、良いんじゃないの?」って言われたんですよね。
毎回、何か言ってくださったあとに、「一歩一歩だぞ」って言われたんですよ。この一歩一歩って言葉に、ほんとう救われて。やっぱり、何をやっても、目標に達しないことがほとんどじゃないですか。とにかく、「一歩一歩だぞ」って鈴木さんは言い続けたんで、それは凄く励みになりましたね。

鈴木:
それと同時に、こういうこともよくあったんですよ。ぼくは、ジブリっていう会社を作った人間のひとりなんで。そういうことで言うと、ジブリで働く若い人たち、特に現場で働く人たち。よく、頑張ってる人に限って、突然「辞めたい」って言ってくる人が多かったんですよ。そういう人たちに、ある共通したことがあって、それは何かというと「このままでは、自分を見失いそう」。だから、辞めたいと。
藤巻さんなんかねぇ……、藤巻さんっていま65歳かな?

藤巻:
64です(笑)。

鈴木:
ないでしょう? 自分を見失うって。

藤巻:
ないですねぇ。

鈴木:
だけど、ジブリには夢を抱いて、目標に向かって頑張ってるんでしょうけど、「このままでは自分を見失う、だから止めたい」って言う人に対して、ぼくは何を言い続けたかっていうと、「理想が高すぎるんじゃない?」って。これ、言い続けたんですよ。要するに、自分が理想とする、ある目標地があって、そこから現在の自分を見る。そんな風に見たら、すべてみすぼらしく見えるじゃない、って。とりあえず、目標とか、「理想の自分を置くのをやめてみたら?」って。そういうときに、いつも例に出していたのが、藤巻さん。

藤巻:
やめてくださいよ(笑)。

鈴木:
「藤巻さんを見ろ」と。「あの人に目標があるか?」と。皆さん若いから、ピンとくるかどうか、映画でいうと、『男はつらいよ』のフーテンの寅次郎って、夢はあるんですかね?

藤巻:
毎回出てくるマドンナと結ばれることだったんじゃないんですか?

鈴木:
それ以外は?

藤巻:
それ以外はないでしょうね。食っていければ良いっていう。

鈴木:
要するに自分が、こういう人物になりたいっていうのがないでしょう。人との関係でしょう。マドンナを好きになるにしろ。そうすると、目標設定をしないことによって、毎日明るく元気に暮らせたわけでしょう。

藤巻:
目標設定がないからかぁ。

鈴木:
藤巻さんも同じじゃない。それと、もう一つ言いたいのは、マドンナを好きになるわけでしょう。考えてるのは、その人のことばっか。それ以外、何を考えるんですか?

藤巻:
確かに、何も考えてないですね。

鈴木:
寅さんの最大の特徴、自分のことを何も考えてないんですよ。あれね、自分の経験でもわかるけれど、人のこと考えてると、それがたとえ深刻な問題その他であっても、自分が疲れないんですよね。あまり自分がやったことないんですけど、自分のことばっか考えてると、たぶん疲れるでしょう。

石井:
そう思いますね。

鈴木:
でしょう? 藤巻さんって、自分のこと考えることあるの?

藤巻:
最近、不安になってますね、将来ね。

鈴木:
そうなんだ。

宮崎駿・高畑勲・押井守の3人も、
アニメーションをやろうと思っていたわけじゃない

石井:
鈴木さんもそうですけど、宮崎さんも高畑さんも、あと押井守監督も、「みんなそうだったんだぞ」って言ってくださるわけですよ。
宮崎さんも、漫画家になりたいという夢があったけど、叶わないと思って悶々としていたときに、絵を描ける仕事ができればいいと思って、東映動画に入ったし。高畑さんも、実写の仕事に就きたかったけど、当時実写は不況でアニメに入ったし。押井さんなんか、街を歩いてたら看板を見て、たまたま入ったんですよね、タツノコに。

鈴木:
みんなそれ、作ってるね(笑)。

石井:
そうなんですか(笑)。

鈴木:
いやいや、石井の言ったことを否定するようで申し訳ないんだけれど、押井さんは確かにそうだよね。押井さんって、ラジオのディレクターやってたんですよ。それで、ひょんなとこで、今のタツノコの募集を知って、そこに行く。そのときに、アニメの「ア」の字も知らないんですよ。だけれど、映画だから、映画好きだし同じじゃないかって。それで言うと、高畑さんは実写好きっていうこともあったけど、あの人は自分が学者に向いてるって。
高畑勲って人は東映動画……今の東映アニメーションなんですけど、その会社に入るとき、実を言うと自分の親友が、東映アニメーションを受ける。それに、くっ付いて行ったんですよ。それで、ただ待ってるのはつまらないから、ついでに応募してたんですよ。

藤巻:
どういう人なの。

鈴木:
そしたら、実に世の中って皮肉なんだけれど、その夢を抱いていた自分の友だちは落っこちる。そして、自分が受かっちゃうんですよ。だけれど、高畑さんにあとで聞いたら、アニメーションの演出って、一回もやろうと思ってないんだよね。で、どうしようって。つまり、何が言いたいかっていうと、うかつに決めたんだよね。うかつでしょう、だって。軽はずみ。でも、人生ってそういうもんですよね。だって、藤巻さんだってそれでしょう?

藤巻:
そうですね。ぼくもそうですよ、大学卒業するとき就活で、基本的にはマスコミに行きたかったんですよね。出版社とか、放送局とかに行きたかったんですけど、たまたま広告会社が先に決まっちゃったもんで、そこに行ったんですけど、まったく広告の仕事なんかやるつもりなかったですよね。だけど入って、ボウフラのように流れのままに生きてきただけなんですけど。

鈴木:
藤巻さんそうだよね。だって、人が作ったものを売れるべく努力しなきゃいけないわけでしょう、広告の仕事って。

藤巻:
そうですね。

鈴木:
だって、そういうことに向いてないよね。

藤巻:
どうしてですか、そんなことないですよ(笑)。

鈴木:
ジブリの作品いっぱい作って、藤巻さんがいれば、なんてたって代理店だから、いっぱい宣伝その他で頑張ってくれると思ったけど、まったく頼りにならなかったですからね。

藤巻:
ひどいじゃないですか(笑)。

石井:
でも、鈴木さんが藤巻さんのことをおっしゃるときに、もちろん藤巻さんはそういう方なんだと。ただ、絶対に、何回かに一回、凄い仕事を決めてくる人だから、そこはちゃんと見ろってことを、当時言われてました。

藤巻:
凄い仕事は決めたことないですけど、さっき鈴木さんが言ったのは、LINEとか見てる若者には、すごく救いになってるんじゃないかと思うんですよね。やっぱり、夢を持たなきゃいけないとか、希望に向かって頑張るんだとかね、そんなことは必要ないんじゃないかって。

鈴木:
そうですよ。ぼく、聞かれてるわけでもないのに、自分のことを話しちゃうと、それこそぼくだってあるとき就職試験ってのがあったわけで、自分がいったい何に向いてるか、何をやりたいかなんて、いくら考えたって答えが出なかったですよ。

藤巻:
今の学生たちも、それを凄く悩んでると思うんですよ。

鈴木:
それは当たり前でしょう。やりたいことなんてないもん。だって、そうでしょう?

藤巻:
ぼくはそうですよ。漠然とはあったんですけどね。具体的にっていうのは、そんなないですよね。

鈴木:
人に言われるがままですよ。それで、出版社受けることになるんだけれど、それだって一つしか受けなかったし。それで言ったら、宮さんだってね。宮さんが、東映動画に入った理由って知ってる?

石井:
さっき言ったみたいに、漫画家にはなれなかったから、絵を描く仕事で入ったっていうふうに。

鈴木:
違うよ。実にバカバカしい理由で。宮崎駿が、なんで東映動画に入ったかっていうと、彼は当然漫画を描いていた。その漫画って、この世を儚んだ漫画? 暗い漫画を描いてらしいの。元々、根暗だからね。それで、描いてて、いろんなところに応募するんだけれど、確かにどこも採用してくれなかった。そんな、いちばん苦しいときに、ふと映画館に行った。そこで観た映画が、アニメーション映画だったんですよ。それが、なんと日本初の長編アニメーション映画『白蛇伝』。彼が、そこで観たアニメーション映画に登場した、ヒロインの女の子、白娘(パイニャン)って言うんですけどね、スクリーンの彼女に一目惚れしたんですよ。これだけですよ?

藤巻:
二次元の女の人に?

鈴木:
そう。

石井:
二次元の女の人に恋して、就職を決めるって、今っぽいですね。先駆けですね。

鈴木:
だって、宮さんっていつもそうなんだもん。

一社に一人好きな人を作れ

鈴木:
ついでだから言っちゃいますけどね、スタジオジブリって小金井ってところにあるんですよ。で、なんで小金井にあるのか。知ってる?

石井:
土地が安かったからって聞きました。

鈴木:
違うよ。自分の初恋の人のいる場所。

石井:
ウソー!?

鈴木:
ジブリって最初、吉祥寺で頑張ってたじゃない。頑張ってたら、宮さんが「スタジオを建てよう!」とか言って、それでいろんな理屈を言うんだよ。「吉祥寺は高いから、ちょっと西のほう行こうか」って。宮崎駿が所沢に住んでて、ぼくが恵比寿なんで、ほんとうは真ん中にしようって言ってたんですよ。真ん中にしようって言ってるわりには、どんどんどんどん所沢に近づいて、「小金井だ!」って言って。二人で、不動産屋さんも一緒に、いろんな小金井の土地を見たんですよ。それで、見終ったあと、「ちょっと散歩しようか」って。二人で歩いてたんですよ。そしたら、暗くなってきて、とある家の前で、ジブリのすぐ側ですよ。それで、表札を見てるんですよ。ぼくね、なにやってるんだろう? と思って。

石井:
それは、良い話ですねぇ。

鈴木:
それで、宮さんが、頭かきながら、「おれの初恋の人の家」って。もう、バカバカしいでしょう(笑)。それで、ぼくは「あ、そうですか……」って。

藤巻:
相手にしてあげなかったんですか。

鈴木:
で、実を言うと、その人にフラれた。その日のことを忘れない。それが、なんと彼女の家の前でフラれた。そこで、彼女の家から、当時は小金井じゃなくて駅が遠かったから、武蔵境までトボトボ歩いたんだと。「青春の日だよ」って。「一緒に歩く?」って言われて、歩いたんですよぼく、しょうがないから(笑)。

藤巻:
やっぱり、宮さんも仕事は公私混同なんですね。

鈴木:
ここカットね!

石井:
もうLIVEされてますよ。

鈴木:
あ、そっか(笑)。

石井:
コミュニケーションって、若いときって難しいじゃないですか? 新しい会社に行くとか、苦手な人もいれば、好きな人もいる。「仕事する人を、別け隔てするな」と。「いいこと教えてやろうか」と、「すべての会社に、好きな人を作れ」って言われたんですよ。そうすると、もうその会社に行くのが楽しくなるって。

鈴木:
一社一人ね。

石井:
一社一人。そうすると、朝起きたら、まず会社のことを考えるし、行きたくなるしね。自分もよく見せるし、仕事も決めるようになるしね。だから、仕事先全部に、好きな人を作れって言われました(笑)。

藤巻:
確かに、昔、会社の局長だった人に、おれが朝会社に全然行かなかったら、呼ばれて「おまえな、毎日朝ちゃんと間に合うために、定時の電車を決めろ」と。それで、決めたドアで乗れと。そこに乗ってくる、可愛い女の子を探して、その子も毎回同じところに乗るから、その子に恋をしろと。そうすれば、定時に会社に来る気になるから、って言われたことがあった。

石井:
同じですよね。宮崎さんも、そこでジブリを作ったんですね。

藤巻:
で、仕事は「公私混同」ということで。

仲間を増やせ

藤巻:
次のキーワードは、「仲間を増やせ」と。これは、どういうことなんですか?

石井:
ぼくは団塊ジュニアなんで、自意識過剰の先駆けですよね。なんとしてでも、自分でやろうとかね。負けるもんかとかね。ライバルとは、違うことをやろうみたいな、自意識過剰組なわけですよ。それじゃ、ダメだと。仕事っていうのは、仲間を増やせば増やすほど上手くいくから、とにかく仲間を増やして、得意技を決めろって言われたんです。「おまえの得意技は、AさんからBさんに、何かを伝えることである」と。それ以外は、あまりなさそうだと(笑)。
「おまえに無いものを持ってる人が、必ずいるから、そいつと組め」って言われたんですよね。で、「得意技の見つけ方を教えてやろう」って話になったんですよ。「宮崎駿の得意技はなんだ?」ってきかれたんですよね。「アニメーションの天才ですよね」と。「でも、アニメーションの天才って、いっぱいいるだろう」と、「スピルバーグもいれば、高畑さんだって天才かもしれないじゃないか。そんなんじゃダメだ。もっと細分化しろ」って言われて。宮さんの得意技は、実はストーリーでも、企画でもなく、誰も見たことがない面白いキャラクターを思いつく名人なんだと。これだけは、世界で宮さんしかない、突出した特技なんだと。だから、「おれは宮さんに、そういう企画をやるように仕向けてきたし」、宮崎さんがそうじゃない得意技でやろうとしたときは、「いや、ちょっと違うんじゃないですかね?」って言って、常に宮崎さんが、そういうふうになるようにしてきたと。だから、自分の身の回りの関係者も、その人にしかない得意技を言葉にして、「それをいっぱい集めると、仕事は面白いんだ」って。そうすると、相手のことも尊敬できるし、というような教えでしたね。

藤巻:
そういう仲間を増やせと。自分とかぶるような、能力のやつはもういらないと(笑)。

石井:
いちばん言われたのは、ぼくも22、3なので、飲み会に誘われるわけですよ。同世代飲み会に。これは、鈴木さんに言われたんですけど、同世代の飲み会に行くのを禁止されたんですよ。「行くな!」って言われたんです。

藤巻:
それは意味がないってこと?

石井:
そう。同世代が同じ夢をもって、夢を語ってても、その世代に出来ることなんてないんだから、「人の悪口言ってるだけだろ」と。だから、組むんだったら、自分より上の人か、決定権のある人か、もしくは自分が持ってないものを持ってる人。同世代の飲み会っていうのは、いちばん無駄だから行くな、って言われたんですよね。

鈴木:
そんなこと言ったんだ。ビックリするねぇ。

石井:
確かに、そうなんですよね。楽しいし、楽だし、終ったあとは、何か成した気になるんだけど、何にもなんないわけですよ。鈴木さんは、若い頃「おれは、一回もそういうとこに行かなかった」と。「おれは、常に自分より若い人か、自分より年上と仕事をしてきたんだ」と。確かに、鈴木さんの周り、あまり同世代いないですよね。

藤巻:
確かに。

鈴木:
同世代じゃん?

藤巻:
全然違いますよ。何言ってんですか、もうすぐ70歳じゃないですか(笑)。

鈴木:
今の石井の話で、その前段? 宮崎駿の得意技はなにかって言われて、実を言うと、ぼくも考えこんじゃったんですよ。「なんだろう?」って。それで、石井が答えを教えてくれるのを待ってたんですよ。

藤巻:
忘れてたってことですね?

鈴木:
そう、忘れてたんですよ。で、奇妙奇天烈なものを作る。そういうキャラクターを生み出すことだって言われて、確かにその通りだよね。

藤巻:
それ以外は、大したことないってことですか?

石井:
それ以外は、ライバルがいると。それ以外は、宮崎さんと同じか、それ以上の人がいると。

鈴木:
だってね、宮さんって、……お話は、“まあまあ”ですよね(笑)。

藤巻:
知らないですよ、これ。“Yahoo!ニュース”とかに載りますよ。

鈴木:
わかりました(笑)。端的に言うと、『トトロ』を作ってるとき、あの作品って高畑勲監督の『火垂るの墓』と二本立ての映画だったんですよね。で、同時にスタートなんですよ。ぼくは、立場として、両方に関わらなきゃいけない。それで、やってると宮崎駿って人は、もうすごく人が何をやっているか、特に高畑さんに関しては気になってしょうがない。で、「鈴木さん、『火垂る』はどうなってんだ?」と。自分は自分で、『トトロ』の企画を考えてるんですよ。でも、一方で『火垂る』のことが気になってしょうがない。ぼくが「『火垂る』は、だいたいこんな感じになりますかね」って言ったら、「なにそれ?」ってすごい真剣な顔になったんですよ。「文芸作品じゃん」って。「まあ、そうですよね、文芸作品ですね」って言ったら、「そんなに本気でやってんだ」って。とっくに、いろんな設定できてたんですよ。トトロはこういうキャラクターだとか、ネコバスはこうだとかね。それから、トトロが独楽に乗って空を飛ぶとかね。そしたらね、「鈴木さん、ネコがバス? そんなバカなことやってられないよ」って。

藤巻:
ほんとですか?

石井:
ネコがバスってすごいですね(笑)。

鈴木:
「向うが文芸大作やってんのに、そんなネコがバスなんて、バカなことやれないよ!」って。それで、トトロが独楽に乗って空を飛ぶ? 「冗談じゃない!」と。そんなの全部やめると、言い出した日があったんですよ。それで、ちょっと違うのはトトロだけ、あとは「おれも文芸でやる」って。これ、大変だったんですよ、説得するの。

藤巻:
ご覧になってるかた、高畑さんと宮崎さんの関係をよくわかってないですよね。

石井:
高畑さんが師匠ですよね。

藤巻:
高畑さんが、東映動画時代の先輩で、宮崎さんの才能をいち早く見出した方なんですよね。だから、宮崎駿さんも、鈴木さんの言葉を借りて言うと、高畑勲さんを尊敬してやまない。今でも、宮崎さんの師匠みたいなもんですよね。だから、どこかでちょっとライバル心があって、今の話だと『火垂るの墓』の内容を聞いて、ちょっとメラメラ。

鈴木:
顔色が変わったんですよ。

藤巻:
なんか、尺もあったんですよね?

鈴木:
そうですよ。ぼくは、ほんとうは二人に60分で作ってほしいと。そうすれば、期間に間に合うかなってやってたら、高畑勲って人は、丁寧な言い方をすると、一所懸命に仕事をする人なんですよね。で、一所懸命に仕事をするから、気が付くと長くなってるんですよ。

石井:
深い言い方ですね。

鈴木:
細かい話なんですけど、88分。ぼくが頼んだのは、60分なんですよ。関係ないんですよね。最初の絵コンテっていうのは、100分近くあったんですけど、それは置いといて。それで、宮さんが「『火垂る』はどうなってんだ?」と、「尺は何分だ?」と。「80分ちょっとですかね」って言ったら、「ダメだよ鈴木さん、いまの案じゃ」って。「おれも60分では作れない。おれも80分にするよ」って、「あぁ、そうですか。どうやってやるんですか?」って言ったら、「どうしよう?」って(笑)。
それで、これ面白いから言っちゃうんですけど、今でこそサツキとメイっていう姉妹の話だけど、実は最初の案では、女の子は一人だったんですよ。それで、ぼくを前に、彼はいろんな話をするうちに思いつくんですよね。「わかった! 姉妹二人にしよう。姉妹にすれば長くなる!」って。さっきのネコバスと、そういうの説得大変だったんです、ぼく。絶対面白いんだから。

石井:
120分が、160分になっちゃうんですもんね。……もっとか、最終的には!

藤巻:
二本続けて観たら、凄い時間になっちゃいますよね。

自分のことばっか考えてるやつは、鬱になる

石井:
こないだね、鈴木さんと宮崎さんと高畑さんで、誰がいちばん長生きするかって、宮崎さんがシミュレーション始めたんですよ。まず、いちばん最初は鈴木さんだと。

鈴木:
なんで、おれが先に死ぬの(笑)。

石井:
で、次は、おれだと。最後、高畑さんは、誰もいなくなって、自分で棺桶のフタを閉めて、本を読むって言われたんですよ(笑)。

藤巻:
読みながら死ぬの?

石井:
いや、死なないって(笑)。それぐらい仲間というか、ライバルもそうですけど、大事なんでしょうね。

藤巻:
仲間っていうのは、ある意味ライバルも含んでるのかもしれないですね。

石井:

もうひとつ、病名としての意味ではなくね、「自分のことばっか考えてるやつは、鬱になるんだよ」って鈴木さんはよく言ってて、「人のことを考えてみ?」と。「人のことを考えてたら、絶対にそうはならないからな」って。だから、朝起きたら自分のことじゃなくて、「まず、人のことを考えろ」と。というのは、未だにぼくはやってますね。だから、朝起きたら、自分のことを考えずに、誰にどう仕事して動かしてもらおうかなとか、誰と打ち合わせするから、どういう話ししようかなとかしてるうちに、だんだんテンションが上がってきて、楽しくなるんですよね。

鈴木:
熱血漢だから。

藤巻:
立派なこと言ってましたねぇ。

石井:
鈴木さんがね。

鈴木:
あ、ぼくが言ったのか……(笑)。

他人に必要とされる自分が自分

藤巻:
次のキーワードいきますよ。「他人に必要とされる自分が自分」であると。

石井:
鈴木さん覚えてらっしゃいますか? おっしゃったことを。

藤巻:
覚えてるわけないじゃないですか(笑)。

鈴木:
すこし覚えてる(笑)。

藤巻:
これはどういうことですか?

石井:
これも、さっきの話に近いんですけど、「自分がやりたい仕事」とか、「自分探し」とか、「自分がやりたい仕事は別な気がする」みたいなことを言って、辞めていく人が多いんですよ。それは、ジブリもそうだし、余所もそうなんですよ。で、「そんなバカなことないよね」って言うんです。だって、誰かに必要とされて、初めて自分がいるんだから、「言われた仕事を一所懸命やればいいじゃん」っていうのが、鈴木さんの最初の言葉で。
最初は、ぼくもわからなかったんです。「とはいえ、綺麗ごとだろう」と思ったんですけど、実際にはそうなんですよね。人から頂いた仕事の方が、上手くいくし。あと、鈴木さんが言ったのは、「自分で責任取らなきゃいけないじゃん」って、自分でやると。自分で決めて、自分でやろうとすると、自分で責任取らなきゃならなくて、「大変じゃん」と。でも、人に言われたことをやっているうちは、責任もないし、頑張れるし、楽しいし。だから、「人から必要とされることをやれ」と。「おまえがやる仕事は、おれがやる仕事なんだから、一所懸命やれ」と。これは、本質だと思いますね。

鈴木:
今日のこのトーク、なんかいいトークですね。

藤巻:
そりゃ、鈴木さんを“よいしょ”のトークショーですからね(笑)。

鈴木:
いや、何が言いたいかっていうと、例えば藤巻さんと話していると、その場で思いついたことしか喋ってないわけよ。ところが、今日は構成案があるでしょう。

藤巻:
ちゃんと作っていただいたので。

鈴木:
藤巻さんだって、それに沿ってやってるわけじゃん。

藤巻:
そうですよ。

鈴木:
やっぱ、構成案って必要なんだね。

藤巻:
だいたいそうですよね、鈴木さんの講演とか聞いてると、何かの話になると、脱線、脱線、脱線で、戻ってこないもんね。

鈴木:
すいません。

藤巻:
これがあると、戻れるっていうのがありますね。

鈴木:
なるほど。

石井:
あと、「オリジナリティにこだわるな」とかね。自分の創造性にこだわるとか、「自分にしかないアイディア」とかね。「そんなもん無いんだから、そういうことを考えんのは止めな」って。

藤巻:
それは、宮崎駿さんも凄いし、久石譲さんもそうなんですけど、「おれのオリジナルなんか、何もねえよ」と。それは生きてきたなかで、自分なりにアウトプットしているだけで。世界の宮崎駿が、「おれのオリジナルなんか無い」って言うんだと思って、凄いなって。

石井:
バトンのようなものだって言ってますよね。人から貰ったバトンを、しばらく持って走って、人に渡すのがおれの仕事だって。

鈴木:
カッコイイよね……(笑)。

藤巻:
宮崎さんは凄いなって思いますよね。いろいろ哲学的な話を聞くにつれて、この人は凄いなって。

鈴木:
思ってるの?

藤巻:
思いますよ。

運の引き寄せ方は、自分一人でやらないこと。

石井:
これも面白いなと思ったのが、この間、Nスペで放送されましたけど、宮崎さんがまだわからないけど、新しいお仕事に向かってるじゃないですか。

藤巻:
企画書を鈴木さんに渡してましたよね。あれ、どんな内容だったんですか? 中見せてもらってないんですけど。

鈴木:
……(苦笑)。

石井:
やっぱり、鈴木さんに読んでほしいんですよ。

藤巻:
宮崎さんがね。

石井:
鈴木さんは、読まないんですよ、わざと。で、先々週読まれたんですか?

鈴木:
読んだ、読んだ(笑)。

石井:
「読んでくれたんだよ」って、嬉しそうに。

鈴木:
アッハハハ。

石井:
去年の年末も、『毛虫のボロ』の現場がけっこう大変なことになって、ぼくら年末は大わらわだったんです。

鈴木:
ジブリ美術館用アニメの『毛虫のボロ』っていうのを、いま作ってるんですけど。実は、石井はいま別の会社にいるんですけど、全面的に手伝ってくれてるんですよ。

石井:
現場のお手伝いをしてるんですよね。で、年末には、「制作中止か」までになったんです、いろんなことがあって。

藤巻:
去年末ってことね?

石井:
去年末です。で、大晦日、ぼくらは大騒ぎになって、鈴木さんそういうときは、わざと宮崎さんに会わないんですよね。ぼくだったら、会っちゃうんです。会って、なんとか解決しようとするんですよね。で、正月、1日・2日・3日と、ぼくも眠れない夜を過ごすし、宮崎さんだってそうなわけですよ。これまでやってきたわけだから。

藤巻:
鈴木さんだけ寝てると?

石井:
そうそう。

鈴木:
アッハハハ。

石井:
ジブリの始業開始が5日だったのかな? で、鈴木さんはわざと4日に、朝早く宮崎さんの事務所に行って待ってるんですよ。

鈴木:
よく知ってるな(笑)、アッハッハハ。

藤巻:
作戦?

石井:
そう。すると、宮崎さんは誰もいないはずで、こう入ったら、鈴木さんが待ってるから、そこで「鈴木さん!」って言って、そこで初めて話を聞いてもらって、翌日から何事もなかったように制作再開になるっていう。

藤巻:
あの、そういうところは、感心するところがあって(笑)。いや、ほんとに、この男は何を考えてんだっていう。昔ですけど、『もののけ姫』っていうのがあって、夏休み公開して、普通だと冬休み前に終わるんですよ。『もののけ姫』っていうのは、当時の映画業界的には、すごい人が入って。鈴木さんの、まったく映画業界じゃない人の発想でやったんで、『もののけ姫』は当時では異例の200億円みたいな数字をたたき出したんですけどね。それを知りたい方は、『ジブリの仲間たち』を読んでいただきたいんですけど(笑)。
東宝に試写室っていうのがあって、それをたまたま年末、12月の頭くらいだと思うんですけど、観終わって出てきて、ばったり鈴木さんに会ったんですよ。鈴木さんが「おぉ、暇?」って言うから、「暇ですよ」って言ったら、「ちょっと付き合ってほしいんだよ」って言って。当時専務がいたんですけど、その専務の部屋に一緒に連れて行かれたんですよ。
あの『もののけ姫』っていうのは、電通っていうところが広告会社として出資してたんですね。で、ぼくは当時、博報堂にいたんで、博報堂の映画でもなんでもないんで、関係ないんですけど、一緒に連れて行かれて、その西野さんって専務に、『もののけ姫』を正月興行に、正月っていうのは業界的には夏休みに次いで大きな興行なんで、いろいろ映画館を空けなきゃいけないわけですよ、大作がくるんで。それを、『もののけ姫』を今のまんま、「正月を越してくれ」という交渉を東宝とする話し合いの場だったんですね。そこに、何の関係もない、おれを連れて行ったわけですよ。おれは、何だかさっぱり訳も分からないわけですよ。試写から出てきたら、そこから引っ張られて連れてかれて。それで、交渉成立したみたいで。帰りに「なんで、おれが『もののけ姫』のために、あそこ行ったんですか?」って言ったら、「あれ電通が出資してる映画だろう? で、博報堂の藤巻さんが行くだろう? 西野さんが「え、なんでこんなやつが来てんだ?」って思うじゃん。そこに隙が生まれんだよ」って言うわけですよ。「はあ?!」みたいな(笑)。

石井:
いやぁ、そこですよねぇ。

藤巻:
今の話も、正月に宮さんよりも、先に豚屋に行ってれば、ビックリするじゃないですか。

石井:
そうですよ。一日遅かったら、宮崎さんは現場で「制作中止」って言ってたかもしれないですよね。だから、そこですよね。

藤巻:
それも、何にも考えてないんだと思うんですよ。ほんとうに考えてたら、事前におれに連絡して、「この時間に東宝に来てくれないか」ってあると思うんだけど。たまたま、おれが試写室からぶらっと出てきたら、ばったり会って、「これから? ちょっと付き合ってくんない?」って言って。

石井:
それで決まったわけですもんね。

藤巻:
だから、単なる思いつきで生きてる思うの。さっきから言ってるように、そんなに考えて生きてないから。

鈴木:
アッハハハ。

藤巻:
ぼくは、鈴木さんがプロデューサーとして、最高の能力は運がいいってことだと思うんです。ほんとうに。

石井:
凄いですね、藤巻さん(笑)。

藤巻:
一言で言うとね。

石井:
ただ、運の引き寄せ方を教えてもらったとしたら、自分一人でやらないことですよね。そこで、鈴木さんが、目ん玉ひんむいて、自分一人で突っ込んでいったら、たぶんその結果にならないわけじゃないですか。

鈴木:
ぼくね、誰かに学んだんですよ。その一瞬に、すべてを掛けるって。だから、いつも「今」が大事だと思ってるんですよ。「今ここ」が。

藤巻:
カッコイイじゃないですか。「今でしょ」じゃないですか。

鈴木:
これほんとうなんですよ。あまりゴチャゴチャ考えて、何かやろうとすると、大概うまくいかない。だから、たまさかいたでしょう? あ、いいなって。

藤巻:
お、いいやつがいたって?

鈴木:
そうそうそう(笑)。

藤巻:
確かに、東宝の専務は怯んだんですよ、おれが入っていったら。

石井:
「なんでだろう?」って思ったわけですね。

藤巻:
「そこに隙が生まれんだよ」って。

鈴木:
あの、言い方は、もっと品がいいですよ(笑)。

藤巻:
もっとひどかったですよ、そのときは。下品な人だなこの人は、って思いましたから(笑)。

“今”と“ここ”に集中する。

石井:
あと、いちばんぼくが未だに思い出すのは、何か仕事がグチャグチャすると、「何が大事だったの?」ってずっと言うんですよ。「何が大事だったの? 何? 何?」って、みんなに聞いていって、結局ちゃんとした本質に戻ろうとするんですよね。そこで、自分自身も思い込んでることがあるし、周りもいろんなことが進んでしまって、グチャグチャのときに皆を集めて、何が大事だったのか、ずっと話して、言葉にして、次に行く。

藤巻:
LINEのコメントで、「鈴木さんは、脳のソロバンを弾くのが早いんだろう」と。上手い表現をしてますね。

石井:
なるほど。これは、鈴木さんどうですか?

鈴木:
いやぁ、そうすかねぇ……。ピアノは弾けないですけど。なんだろ、いちばん最初に、石井に言ったことあるじゃない。なんだっけな、さっき面白いなと思って聞いてたんだけど。

石井:
「仕事は公私混同」というとこですか? 「自分を捨てよ」と。

鈴木:
それも、今の話に関係あるなと思ったの。やっぱり、“今ここ”で、前後を考えない。

石井:
「先のことを考えるな」って言ってました。

鈴木:
そう。先のことを考えるな。だからと言って、過去を考えて、くよくよしてもしょうがない。そうすると、何かっていったら、“今”と“ここ”ってことじゃない。それって、最近いろんな人が、そういうことに興味を持ってますけど、禅の教え?

藤巻:
禅?

鈴木:
そう。禅って、何が大事かって言ったら、“今ここ”なんですよ。要するに、先のことを考えて、いまいるとろくなことにならないですよ。で、過去のことを考えて、くよくよしててもダメでしょう。“今”と、“ここ”に集中なんですよ。

石井:
たぶん、鈴木さんの決断が早いのは、もちろんいろんな経験とか、いろんな積み重ねもあるんですけど、こんがらがってグチャグチャになってないんだと思うんですよね。この瞬間、何が大事なのってことを、パンッと答えを出すんで、周りからすると、「早っ!」ってなるんですけど。

鈴木:
何かの切欠なんですよ、たぶん。

俺がやったと言わない

藤巻:
最後のキーワード、4つ目。「俺がやったと言わない」と。

石井:
これね、ぼくらの業界では「あれ俺詐欺」って言うんですけど。何か仕事が上手くいくと、「あれは俺がやった」って雨後の筍のように登場するじゃないですか。上手くいかないと、「あれはアイツのせいだ」ってなるじゃないですか。鈴木さんが、いちばん凄いのは、「おれがやった」って言わないですよね。

藤巻:
それは、「言うな」って言われたってこと?

石井:
言われました。ぼくが言われたのは、会議のときに、ぼくも若かったので、今思うと恥ずかしいですけど、「まあ、ぼくが言ったことじゃないですか?」って噛みついたことがあるんですよね。有り勝ちですよ、恥ずかしいですけど。
「どうでもいいじゃん、そんなこと」って(呆れたように)言われたんですよ。「どうでもいいだろ、そんなこと!」とかね、そういう言い方じゃなくて、「えぇ? どうでもいいじゃん、そんなこと」って言われたときに、ぼくはもうほんとうに恥ずかしくなって、もう誰が言ったとか、どうでもいいなって。
いちばん面白いのが、鈴木さんと宮崎さんが、お互いに、相手がやったことだと思い込んで喋っていることがあって、「いや、あれは、宮さんが言ったんですよね?」って言ったら、宮崎さんが「違いますよ、鈴木さんですよ!」みたいな。
多くの人は、「あのときのは、ぼくのですよね」とか言うじゃないですか。言わないんですよね。「いや、おれじゃないと思うんですけど……」って。

藤巻:
それは、たぶんボケてるだけだと思うだけど(笑)。

石井:
それは最高で、そんな二人が上手くいってるってことは、ぼくにとってはもの凄い強みで。「おれがやった」って言わなければ言わないほど、みんなも信用してくれるし、評価もしてくれるし。

鈴木:
宮さんもそうだよ。「あれはおれがやった、これはおれがやった」って、絶対言わない。むしろ、人がやったことを覚えてるのよ。ほんとうに、それは感心する。

藤巻:
あと、鈴木さんってプロジェクトをこういう方向に動かしたいっていう、自分が「こうしようぜ」っていうのは絶対言わなくて、「奥田さんが、こう言ってたんだけど、こうだよね」とか。さっきも言ってたんだけど、鈴木さんは「再生工場」だっていう。野村克也っていうプロ野球の監督がいて、他のチームで使いものにならない選手を集めて、野村のもとで一流の選手に仕立て上げて、強くなったっていうことがあって。「野村再生工場」って言われたことがあって、鈴木敏夫さんもそういうところがあって。確かに、クビ寸前の石井君も、立派なプロデューサーになったり。ぼくが『ポニョ』を歌うとかっていうのも、単に鈴木さんが思いついた、「面白いから、藤巻さんに歌わせたらいいんじゃねえか」ぐらいの話なんだけど、それをおれに歌わせるために、「宮さんも、藤巻さんに歌わせたらいいんじゃないか」と言ってたとか、「奥田さんも、それは面白い」と言ってるとか、それはほんの一例に過ぎないんだけど。

鈴木:
そんなこと言ってたの?

藤巻:
言ってましたよ。

鈴木:
だって、二人に話してなかったよ?

藤巻:
アッハハハ。

石井:
そこも含めて、テクニックですよね。

藤巻:
周りいる人間に、スポットライト浴びさせるのを楽しんでるとこもあって。

石井:
この本(ジブリの仲間たち)なんかも、全関係者にスポットライトが当たってるわけですもんね。「おれがやった」って一か所もないですもんね。

藤巻:
奥田さんなんかもそうだし、野中君っていうジブリに面白い人もいるんだけど。いろんな人を、ほんとうに『がんばれ!ベアーズ』みたいに、どうしょうもないやつらをですね、なんとか一人前にするのが上手い。それで、そのなかで、「おれはこう思うんだけど、こうしようよ」ってことは言わない。「あの人もこう言ってたから、こうしようよ」とか。絶対、自分でこうしたいと思ってるんだろうけど、そのときに影響力のある人の名前を出してやる。だから、『ポニョ』をぼくらが歌ったときに、秋元康ってプロデューサーとテリー伊藤さんの二人が、「さすが、鈴木敏夫」って。ぼくみたいな素人のオヤジに歌わせるっていうのは、「おれたちじゃ考えつかないよね」っていうのを、秋元さんとテリーさんが、凄い感心してたのを覚えていて、鈴木さんにも言ったんですけど。
よく、半径5メートルとか、3メートルの中でジブリは仕事しているって言いますけど、ほんとうにその辺にいる奴らを使って、いろんなことをやっちゃったりすることがあるんですよね。

受け身が自分に合っている

石井:
打ち合わせのテクニックで教えてもらったのが、「ぼくは、こう思います」とか、「いや、それは違います」とか言うなと。結論を先に言うと、人は拒否されたと思うと。自分の結論に近い人が現れたら、その人を褒めつつ、「さっき、何々さんがおっしゃっていたこと、凄くいいと思いますね」と、まず相手を褒めて、相手が言ったことにしてから、自分の話に持っていけ、っていうのを教わりましたね。

藤巻:
それ、絶対正解だと思うね。

石井:
そうすると、意見も通るし、みんなも気持ちいいし。ずうっと、「おれの意見、おれの意見」っていうのは、やめろっていう。
これも、かなり初期に教わりましたね。

藤巻:

それも鈴木さんは、何かから学んだことなんですか? 覚えてないですか?

鈴木:
う~ん……、自分から言うと、責任持たなきゃいけないでしょう?

石井:
そこがね……、ぼくは所詮、頭でそれを覚えているんだけど、そこの責任を持ちたくない感っていうのが。でも、責任は持ってるわけじゃないですか。そこが凄いですよね。

藤巻:
構成作家の鈴木おさむさんって人が、「アエラ」に書いてて、いま鈴木さんが言ってたことと同じようなことなんだけど。秋元康さんから聞いた話を書いてて、ぼくらのやってるような仕事って、出口の見えないジャングルの真ん中にいるようなもんだと。だから、「出口はこっちだぞ!」って自信をもって歩き出せば、みんな黙って突いてくるよと。
だから、エンターテインメントの仕事で大事なことは、自身をもって「こっちだ!」って自信をもって歩き続けることなんだ、っていうことを鈴木さんが未だに肝に銘じてやってると。で、久しぶりに秋元さんに会ったときに、「こういうことをみんなに、秋元さんに言われたことを言ってますよ」って言ったら、秋元さんが「鈴木、おれの言ったことは、ちょっと違う」と。出口の見えないジャングルの真ん中にいる、っていうのはその通りなんだけど、「出口はこっちだぞ!」って言って歩き出しちゃダメだぞ、と。何も言わずに、自信満々に歩きだせと。そうすると、みんな「あいつは、出口を知ってんじゃねえか」っていうので、黙ってついてくると。だけど、出口なんてどこにあるのかわからないんだから、出口がないときのほうが多いんだから。もし、「出口はこっちだぞ」って言って歩いていって、出口がなかったら、みんなにボコボコにされるだろう。だけど、何も言わないで自信を持って歩いて行って、みんなが勝手についてきて、出口がなかったら、責められないよって。今の鈴木さんと同じこと言ってました。

石井:
やっぱりね、凄い人ってみんなそうですよね。自分で、責任を背負いきれないってこともわかってるし。だからこそ、自分で主張をしないし、自分にこだわらないし、みんなの力も借りるしね。あと、自分だけでやろうとしないし。そこは、本質な気がしますね。

鈴木:
ある小説の主人公。その影響を受けてるんですよ。

藤巻:
誰ですか?

鈴木:
もう、昔々の小説で、実は映画にもなったんですけどね、中里介山って人が書いた、『大菩薩峠』っていう長い長い小説があるんです。これ、チャンバラなんですけどね。その主人公、机龍之介。この人って、チャンバラやるときに、受け身の剣法。相手が斬りかかるまで、受けないんですよ。このヒーローの登場以来、日本のヒーローって、全部受け身になったんですよね。

石井:
『座頭市』はその後ですか?

鈴木:
そう。だから、『座頭市』もそうだしね。やっぱり、受け身っていうのは、自分に合ってるなって。だから、ぼくはやっぱり影響受けたんだと思います。

質疑応答

――お二人にお聞きしたいです。プロデューサーとしての心構えというか、芯というか、いちばん大事にしているものはありますか?

鈴木:
プロデューサーって変な仕事で、作る監督は他にいるわけでしょう。そしたら、監督を守る。これに尽きるんですよ。極端な場合、その人が間違った方向に行ってても、それを口に出さない。信じてやるしかない。ぼくは、そう思ってます。

――間違った方向に行っても、とにかく信じるということですか?

鈴木:
やっていく中で軌道修正すればいいもん。そのプロレスの中で、それが画面になっちゃっても構わないと思うんです。人間っていうのは、そういうもんだから。

石井:
ぼくが鈴木さんにプロデューサー論で教えていただいて、いちばん印象的だったのは、「監督は、映画を演出する仕事だ」と。「プロデューサーは、現実を演出する仕事だ」って教えてもらったんですよね。そのためには、言葉を磨きなさいと。監督が言ったことを、作品の本質、いろんなことをちゃんとした言葉にして、いろんな人に伝えるのが仕事だから、現実を映画のシナリオのように、朝から晩まで組み替えて考えて、演出しなさいって教えていただいたので。出来てないですけど、それは日々心がけていますね。

――鈴木さんに質問なんですが、この前のNHKの「終わらない男 宮崎駿」を拝見しました。番組の中で、ゾンビのシーンがあって、あの後、火が付いたように鈴木さんに長編アニメの企画書を駿さんが持っていかれましたが、あれは駿さんを駆り立てるために、鈴木さんがゾンビの映像を見せるということを狙ってやられたのでしょうか?

鈴木:
そういうことは、ぼくは絶対しないですね。川上さんっていう人も、たいへん能力のある人で。ただ、話が、前段階を飛ばして説明するっていうきらいがあるんですよ。だから、あれをいきなり見せて、人工知能の説明をしようとした。そこに、ちょっと無理があった、っていう話だと思うんですよね。そのことと、彼が映画を作ろうとする、それはまったく関係ありません。
あまり、そういうふうに考えるとね、これを見せて彼を駆り立てようとか、そういうことをやるっていうのは、大概失敗するんじゃないかな。と、ぼくは思ってるんですけどね。

鈴木敏夫は禅の境地

石井:
LINELIVEからの質問で、「職場の部下や、同僚をやる気にさせるための秘訣はありますか?」って鈴木さんに。

鈴木:
ぼくもある年齢になっちゃったから、実行が伴わないんですけど、自分が一所懸命、朝から晩まで働く。これに尽きるんじゃないですかね。そうすれば、みんな一所懸命やってくれる。結果としては、そういうことだと思いますよ。

藤巻:
「石井さんがかなわないと思う、鈴木さんの凄さってなんですか?」っていう質問がきてます。

石井:
全部ですけど、それじゃつまんないんで……。

鈴木:
モテること? ……なんでもない(笑)。

藤巻:
若さでは勝ってるよね?

石井:
若さだけですけどね。若さもね、鈴木さんの方が元気だからなぁ。ただ、究極は、さっきの禅の境地ですよ。ぼくは所詮、頭で「自分を捨てる」とか、「人の意見を取り入れる」とか、「自分を出さない」っていうのを、自分自身がありながらやってるわけですよ。鈴木さんは、ほんとうに、今日の話を聞いてても、禅でいう「心身脱落」っていうんですか? 心も身体も脱落した状態で仕事をしているので、そこはある境地にいってるな、という気がしますよね。仏教の境地だな、と思うことがあります。
鈴木さんは、中・高とかそういう学校にいたりとか、そういうこともしたのかなみたいな、個人的に興味がありますけど。

藤巻:
仏教系の学校なんですか?

鈴木:
ぼく、一応、中学・高校は仏教系なんですよ。

石井:
それを最近きいたんですよ。それが関係あるのかなと。

鈴木:
それは、あんまり。お寺に行くことがあったら、お寺に興味を持ったっていうのは、そういうことなんだけれど。たまさか、出会った本が、禅の本とか、そういうのが多くて。

藤巻:
「今でしょ」で有名な林先生も、同じ中・高なんですよね? だから、あの人も同じ「今でしょ」って。

石井:
やっぱり、“今ここ”なんですね。

鈴木:
あ、そうなんだ。

藤巻:
禅に通じてるのかもしれない、林先生も。東海中高っていう、東海地方のいちばんの名門なんですよね。

石井:
ぼく、あまり言えないですけど、勉強しているんです、禅を。これ以上は、もうそっちを勉強しないと、無理だと思って。

鈴木:
そうなんだ。

『君の名は。』について

石井:
「『毛虫のボロ』はいつ頃、公開になるのでしょうか?」鈴木さんに質問がきてます。

鈴木:
来年の春には完成するんで、5月に模様替えがあるのでその後、たぶん7月には見ていただけるんじゃないかと、6月かな?
 そう思ってます。

藤巻:
LINELIVEからの質問で、「鈴木さんが『君の名は。』をどう思ってるか知りたい」と。

鈴木:
非常に興味深い映画でしたね。東宝の宣伝プロデューサーに、映画の公開前に観てほしいと。それで、一言欲しいと。なんでかっていったら、8月の最終週の公開っていうので、彼が凄く不安がっていて。それで、ぼく観てみたんですよ。観た直後、彼に連絡して、「大丈夫だよ。これヒットする、絶対」って。まあ、8月の最終週だから厳しいかもしれない。それで、内容について、彼にいろいろ聞かれたんで、ぼくは率直に答えました。いろんな物語があるけれど、多くの物語が、映画に限らないんだけど、小説でもなんでもそうですけど、「この世」があって、「あの世」に行くって話が、けっこう多いんですよね。
「あの世」に行って、そこで体験したことをもとに、現実に戻ってくる。これが多いんですよ。まあ、その典型は、宮崎駿で言うと、『千と千尋の神隠し』。だけど、この『君の名は。』に関して言うと、ぼくが観てて「へぇ」と思ったのは、ひとつは絵もあるけれど、台詞。「あの世」って言葉が、非常に効果的に使われている。「あの世、あの世」って。ぼくは正確に数えたわけじゃないけれど、いったい何回、この「あの世」って言葉が使われるんだろうって。ぼくの感じでいうと、20回くらい言ってるんですよ。それで、「此岸」って言葉も出てくる。「此岸」っていうのは、こっち側の世界ってことなんですけど。「あの世、あの世」と言っておいて、新海って人は、背景を自分でも全面的にやったし、なおかつ、物語も台詞も音楽も、それからキャラクターの芝居も、すべてその背景が目立つように作ってあるっていう。実に珍しい映画だと思ったんですよ。で、観ていて面白かったのが、あの映画って時間と空間を歪めることができる。そういうことでいうと、3・11を無くすことだってできる。なんてことをやっているわけでしょう。まあ、凄い映画だなと思いましたけどね。もう一つ思ったのは、宮崎駿の影響を、もの凄く受けているなと。そう思いました。

――今、あえて宮崎さんの作品以外で気になってしかたがないものだとか、関心を向けているものがあったら教えてください。

鈴木:
ぼく、いちばんの趣味は、宮崎駿なんですよね(笑)。彼と付き合って、約40年。未だに、彼ってぼくのことを驚かせてくれるんですよ。そういうことでいうと、ほんとうに面白いんですよね。それ以外のことは、なかなかあれなんですけど。さっきから話に出ている、禅っていうのは、いま凄く興味あるんですよ。“現在・過去・未来”のなかで、“今”を捉える、っていうのをみんなよくやっていると思うんですけど。それをやるから、いろんなことが上手くいかない。やっぱり、さっきから強調している、“今ここ”に集中して、何かやれたらいいなと、今思っています。

藤巻:
LINELIVEの最後の質問なんですけど、「宮崎さんは、長編アニメに取り組んで、発表してくれるでしょうか」という質問に、最後お応えいただきたいと。

鈴木:
最後まで、作れればいいなって。

藤巻:
それは、途中で死んじゃうとか?

鈴木:
そうそう、そうそう(笑)。

石井:
コピーですね。

鈴木:
番組を見た方にはわかると思うんですけど、そう思ってます(笑)。

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