フレデリック・バック展の開催を記念して行われた、鈴木敏夫プロデューサーと、山口智子さんのトークライブが「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」で配信されています。
そのなかで語られていた、宮さんの映画作りにまつわる話が面白かったので、その部分だけ書き起こしてみました。
後半のほうのお話の、ジブリを辞めちゃったスタッフっていうのは、プロダクションI・Gへ移った、石井朋彦さんかな?



鈴木:
例えば、映画を作るでしょう。そうすると、一億総評論家で、「僕はこう思う」「私はこう思う」「この映画はこうなんだ」って、みんなが発言してるじゃないですか。そういうことに対して、宮崎駿はすごい拒絶反応があって。それで、自分の思うままに映画を作ってるでしょ。
『崖の上のポニョ』だって、周りはみんな「どういう映画になるの?」って言ってて。だって、シナリオなかったんですよ、あれ。

山口:
そこからどうやって形になっていくんですか?

鈴木:
絵を描いていくんです。
お婆ちゃんが出てくるでしょ? それで、お婆ちゃんが死んじゃって、あの世に行くとね、そこに死んじゃったお爺ちゃんお婆ちゃんがいっぱいいてね、みんなで酒盛りして踊りまくるってシーンが20分間あったんですよ。

山口:
素晴らしい! 見てみたかった気がします(笑)。

鈴木:
もう、ポニョも宗介も関係ないんですよ。

山口:
横道反れ出したら、ずーっとそっち行っちゃうんですね(笑)。

鈴木:
で、いろんなお話を立ち上げてくからね、「宮さん、これどういう話になっていくんですかね?」ってきいたら、「そのうちわかるはずだ」とか言ってね。
それで、一方では、みんな絵を描いてるんですよ。すると追い詰められるでしょ。その状況で、追い詰められてスリルとサスペンスのなかで、次を生み出すって人なんですよ。

山口:
暗黙のうちに決められたワクがあるじゃないですか。

鈴木:
そんなの全然考えないですよ、あの人。
あのね、千と千尋のときまでは、少しあったんですよね。で、それがブッ飛ぶのが、千と千尋なんですよ。
もう、「物語はいいや」って言って。それで、そうじゃないものを作り始めたんです。

それで、「考えたから聞いてくれる」って言うからね、「いいですよ」って。しょうがないから聞くでしょう。
千尋が名前を奪われて、働かなきゃいけなくなった。そこまでストーリーを作ってきたわけですよ。
「奪った相手は湯婆婆である」と、「こいつをやっつけなきゃいけないんだ、鈴木さん」って言うからね、「まあ、そうですね」って。それで、「やっつけたあと、どうするんですか?」ってきいたら、「実は、やっつけても問題は解決しなかった。なぜなら、彼女は双子で銭婆というお姉さんがいたんだ」って。それで、「これは強大な敵なんで、千尋ひとりの力じゃどうにもならない」と。「だから、ハクの力を借りて、それでやっつけるんだよ」って言われたんですよ。

で、そう言われたけれど、だいたいいつも同じなんですよ、お話が。

それで、ついね「あぁ、そうですかぁ……」って感じ出しちゃったんですよね。そしたらね、「え、つまんない?」って。「いや、そんなことないんですけど」って。「なに鈴木さん、今つまんないって顔したよ」って言うからね、「いや……、それ面白いんだけれど、普通にやると3時間になるんですよ」って、ごまかしたんですよ。そしたら、宮さんがね「いやだよ!」って言うんですよ、「おれ、2時間でやりたい」って。

それでね、下向いてて、「あっ、覚えてる?」って言い出したんです。なにかなって思ったら、ホワイトボードにねカオナシの顔描き始めたんです。
「覚えてる?」ってきかれたけど、覚えてないわけですよ。「覚えてないですね」って言ったら、「橋渡ったときいたでしょ」って。
それで、「こいつで、こうしたらどうかな」って、いまの映画のストーリーを言うんですよ。「そうしたら2時間で終わるよね」って。

山口:
なんか、かわいい(笑)。

鈴木:
こうやって作っていくんですよ。
それで、ぼくが一生懸命宣伝したらね、「千と千尋」が大ヒットしちゃったでしょ。
そしたらねぇ、頭にきたみたいなんですよ。なんでかって言ったらね、どこかで聞いたらしんですよ、「宣伝が良かったからヒットしたんだ」って。
それで、ひとりひとりスタッフと面談ですよ。
ヒットした理由は、内容が良かったのか宣伝が良かったのか、大真面目にやるんですよ。

山口:
スタッフに聞いて歩いたんですか?

鈴木:
ひとりひとり部屋に呼びつけるんですよ。
それで、みんなしょうがないからね、「内容が良かったです」って。そしたらね、僕の下にいた男の子、そいつも呼ばれたんです。で、「どっちが良かったと思う?」って言ったら、「宣伝が良かった」って言ったんです。
そしたら、僕のところに来てね、「あいつをクビにしよう」って(笑)。

司会:
その方は、まだ働いていますか?

鈴木:
いや、会社辞めましたね(笑)。

それで、千と千尋を宣伝するとき、説明したんですよ。「こういう映画だ」って。それから、カオナシってやつは「こういうやつだ」って。
それが気に入らなかったんですよね。

前置きが長かったですけど、それで『ハウルの動く城』を作るときの宮崎駿のテーマ、

「宣伝できない映画を作ってやる!」

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