先日リバイバル上映が行われた、『千と千尋の神隠し』を観に行ってきました。
本作は、ジブリのキャンペーンとして行なわれた、上映作品を投票で選ぶ「スタジオジブリ総選挙」で1位に輝き、全国5都市・5劇場で1週間限定上映されました。
期間が短いうえに、1日1回しか上映されないとあって、チケット争奪戦は激化していた同イベント。東京・六本木のチケットは、連日販売開始から1分経たずに完売していたんじゃないでしょうか。転売者も大勢いたようですが。
そんな状態だったので、とても買える気がしなかったんですけども、最終日だけ上映回数が4回に増やされ、若干緩和されたこともあって、なんとか入手できました。
『千と千尋の神隠し』は2001年の公開なので、劇場鑑賞は15年ぶりのこと。当時、劇場で観た感想は、あまり覚えてませんけども、宮崎駿監督の湧き出てくるイマジネーションに圧倒されたことだけは覚えています。
それから、DVDでかなり鑑賞していたので、そちらのイメージに上書きされていて、あの赤みがかった劣化映像ですっかり慣れておりました。
そんなこともあって、スクリーンで観る『千と千尋』は、ほんとうに綺麗で、油屋が映ったときには、「あぁ、ほんものだ」と早くも感動。背景美術の細密さや、美しさは、ジブリ作品のなかでも頂点にあると思います。
せっかく劇場で観るので、初鑑賞の感覚でいこうと意識していました。当然、展開は知り尽くしているので、難しいんですけども。千尋視点で観てました。
で、改めて思ったのは、やっぱりストーリーがよくわからないということ。だけど、めちゃくちゃ面白いんですよね。
カオナシは、いったい何のかよくわからないし、ちゃんと説明できないんだけど、キャラクターとして魅力があることはわかる。銭婆も、ずいぶん唐突に現れているんだけど、なぜか受け入れられてしまうし。ほとんどの出来事が、なんの説明もなく始まって、進むうちにだんだん、イメージの羅列がギリギリで繋がっていって、一本の映画として成立してしまう。宮崎駿の天才ぶりを再認識しました。
ところで、『ハウルの動く城』は、公開された当時、起承転結を壊していることを、ずいぶんバッシングされてましたけども、『千と千尋』も同じようなもんですよ。でも、多くの人は、すんなり受け入れた、この違いはなんでしょう。不思議の街という括りだから、何が起きても不思議ではない、という前提で観ているのかもしれませんね。
それから、『君の名は。』の話
『千と千尋の神隠し』のあとに、新海誠監督の『君の名は。』も観てきました。こちらの作品は、丁寧に説明をして、きれいに伏線を回収していく、対照的な作品。15年前と現在の大ヒット作で、ずいぶん違います。
この作品をいちばん最初に試写会で観たときに、正直、ここまでヒットするとは思いませんでした。面白いと思うし、好きな作品ではあるんですけど、宮崎作品に並ぶ興収を挙げることは想像できなかったです。
今求められているものは、こういうわかりやすさなのかな、とも思いました。けど、今回の大ヒットは、そういうことだけではないですよね。
マスコミが、ずいぶんポスト宮崎駿を煽り立てていましたけども、実際にファンも宮崎駿に代わるエンタメ作品の作り手を求めていたのかなと。この下地があったことも、大きいと思います。
宮崎監督が、長編引退を表明して3年。多くのファンが渇望していたこと。そこに、『君の名は。』がやってきて、綺麗にはまったように感じました。
それには、本作でプロデューサーを務めた、川村元気さんの仕掛けも効いているんだと思います。主題歌にRADWIMPSを持ってきたこと、キャラクターデザインを田中将賀さんが務め、作画監督の安藤雅司さんを始め、多くのジブリ元スタッフが携わっていること。その複数要因が、動員に繋がって、枯渇した大きな穴があったため、大量に流れ込んでいるような印象を受けました。動線がとにかく多かった。
もちろん、それは、求心力の高い脚本を新海監督が作ったということが、前提にあっての話ですけどね。
新海誠監督が「ポスト宮崎駿」なのかどうかはともかく、通俗娯楽映画を作れる監督になったことは間違いありません。新海監督の、これまで一作一作の進化を考えると、今後の作品が楽しみです。
それにしても……、新海誠監督や細田守監督がこれだけ高く評価されるようになり、『聲の形』の評判も上々で、『この世界の片隅に』の期待も高く、アニメーションに注目が集まっているこの時代に、今敏監督がいないことが残念でなりません。
『君の名は。』公式ビジュアルガイド 映画のカットをふんだんに使ったストーリーガイド。キャラクター設定、美術設定、小物設定、背景、絵コンテ、企画書など、資料満載。監督:新海誠、作画監督:安藤雅司、キャラクターデザイン:田中将賀への充実のインタビュー収録! |