宮崎駿監督の『となりのトトロ』の時代設定は、昭和30年代初頭と語られることが多いですが、ほんとうは昭和28年(1953)の設定です。
昭和30年代説が広まったのは、おそらく宮崎監督が初期の構想段階で、昭和30年代を想定していたことが発端となっているようです。
初期設定のためイメージボードには、「昭和30年代初期」と書かれています。
さらに、お父さんの書斎にかけられていた、5月のカレンダーには、「1955」の表記が見られるため、昭和30年ということになります。
電報が届くシーンでは、消印の日付が「昭和32年8月11日」とあります。お父さんの部屋のカレンダーと年が違いますが、やはり昭和30年代です。
お母さんの病室にあるカレンダーでは、年代の表記はありませんが、7月と8月の日付と曜日の配置が、昭和33年のものと合致します。
昭和30年、32年、33年と、まったく整合性はとれません。しかし、これのどれか一つでも目にした人は、昭和30年代を舞台にしている、と思ってしまうのも無理がありません。
ところが、時代設定については、『コクリコ坂から』のパンフレットに掲載された「企画のための覚書」の中で、宮崎駿監督自身が「『となりのトトロ』は、1988年に1953年を想定して作られた。TVのない時代である」と語っていることから、作者の設定が正しいものと考えます。
また、ロマンアルバムに収録された公開当時のインタビューでも、昭和30年代説を否定しています。
宮崎:
昭和30年代初期っというのは、実は嘘で、本当をいうと、テレビがまだない時代の話なんです。はじめは、ラジオで『新諸国物語』でも流そうかと思ったんだけど、それもなんかあざといでしょう。意図的にそういうものは外したんです。それは同時上映の『火垂るの墓』がやるだろうからいいだろうと思って。
カレンダーや電報の消印が、なぜ昭和30年代のものになったのでしょうか。初期設定が残ったまま作ってしまったのか、単純にスタッフの方があまり気にせず描いたのでしょうか。
ちなみに、いちばん最初に、お母さんのお見舞いに行ったシーンでは、6月のカレンダーが登場していて、昭和28年の日付配置になっているんですよ。
もしかしたら、意図的に不揃いにしているのかもしれませんね。
The art of Totoro 宮崎駿が描いた『となりのトトロ』のイメージボード、ラフ画から、美術スタッフによる背景画、設定資料、宣伝ポスターなどを掲載。 |