千と千尋の神隠し 海原電鉄

『千と千尋の神隠し』の印象的なシーンは沢山あると思いますけど、中でも誰もがワクワクさせられたのは千尋が「海原電鉄」に乗るシーンじゃないでしょうか。
この後、千尋たちはどこに辿り着くのか、どうなってしまうのか、と想像が駆り立てられる名シーンです。結果として、銭婆のお家に行くだけなのですが(笑)。



あの列車に乗っている最中の雰囲気は、それだけでも映画が一本作れそうな緊張感とワクワク感があります。
宮崎駿監督は、あのシーンで明確に描こうとしたものがあったと言います。それは、宮崎監督が敬愛する宮沢賢治の童話作品『銀河鉄道の夜』のワンシーンでした。
そのために千尋を列車に乗せることにしたのですが、思うようにはいかなかったと言います。

『ジブリの森とポニョの海』という本の中で、宮崎監督はこのように語っています。

宮崎:
千が電車に乗るシーンがあるでしょ。なぜ、電車に乗せたかったかというと、電車の中で寝ちゃうシーンを入れたかったんです。ハッと目が覚めると、いつのまにか夜になって、周囲が暗くなって、影しか見えないような暗い街の広場が窓の下をよぎっていく。電車が駅を離れたところなんです。いったい何番目の駅なのか、自分がどこにいるのかわからなくなっていて。あわてて立ち上がって外を見ると、街が闇の中に消えていく。不安になって、電車の車掌室へ駆けていって、ドアをたたくけれど、返事がない。勇気を振り絞って、扉を開けてみると、真っ暗な空に街の光が闇の中の星雲のように浮いていて、しかも寝かせたガラスに描いたように平らなやつが、ゆっくりと回りながら遠ざかっていく。それは『銀河鉄道の夜』の僕のイメージなんですよ。それを、入れたくて、入れたくて、入れたくて、たまらないんですけど、ストーリーボードを描いていくと、どうしても入らない。なんとかして入れたくて、なんせ映像を挟み込むだけなんだから、ガバッと勇気を出して、入れてしまえばいいんだけど、入らない。ど―――うやっても入らない。結局、いちばんやりたかったシーンを外したんです。その映像を入れたいためにつくりあげたシーンだったのに、結局、やりたいことが入らない。これは違うジグソーパズルのピースだったんだな、と気がつくんです。そういう、ひとつの気づきのために延々と時間を費やしています。

この話だけ聞いていたら、ぜひ映像化してもらいたかったと思いますけど、終盤にきて話の軸がずれてしまうためにできなかったのでしょうね。
いずれ短編などで描いてもらえることを期待しています。

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