劇場公開から約2年経ち、ついに宮﨑駿監督の最新作『君たちはどう生きるか』がTV放映されます。
そこで、今回は作品にまつわる豆知識をまとめておきます。
ネタバレがありますので、映画の鑑賞後にどうぞご覧ください。
病院の火事
物語冒頭に発生する火事は、宮﨑駿監督が幼少期に目撃した火事が投影されたものと思われます。
詳細は下記ページをご覧ください。
妹との再婚
劇場公開時に、主人公の父親・勝一が、亡くなった母の妹と再婚した設定に物議を呼びましたが、戦時中は結婚適齢期の男性が不足していたため、珍しいことではありませんでした。
宮﨑駿監督がスタッフにキャラクターを説明する際にも、当時はわりとあったことだと説明されています。
疎開先の戦車
眞人が疎開先で見る戦車の行進は、宮﨑駿監督が描いています。
このカットは、宮﨑監督が子どもの頃に見た光景が映像化されました。
子ども時代に見た戦車はあまりカッコ良くなくて、張りぼてが走ってるように見えたそうです。
宮﨑駿監督が実際に見た景色
このタイトルバックの背景を描いたのは、美術監督の武重洋二さんです。
この風景は、中央自動車道から見える景色が参考にされたそうです。
宮﨑駿監督が八ヶ岳に行った帰りに見たのだとか。
出征する兵士の片山一良
出征していく兵士は「片山一良」というタスキをかけています。これは、本作で助監督を務めた片山一良さんの名前が、そのまま使われました。
ドキュメンタリーには、宮﨑駿監督は「俺が死んでも片山がやるから大丈夫って片山が言ってるから。勝手に変えるな。連絡するように」と話し、「連絡できないじゃないですか」と返す片山さんに、宮﨑監督が「片山も死ねばいいんです」と言い放つやりとりが収められています。
青鷺屋敷
青鷺屋敷は、福岡にある宮﨑監督や鈴木さんの知り合いの家が、一部参考にされたそうです。
青鷺屋敷の見張り台
当初、宮﨑監督は屋敷の屋根の上にある望楼で物語を展開させることも考えていました。
そのため、赤や金色で特別な意味合いがあるような配色となっていますが、実現しませんでした。
イメージボードには甲冑を着た武者も描かれています。
登場人物のモデル
本作においては、お世話になった人をモデルとして描いていると鈴木さんは話しています。
大叔父には高畑勲監督が、キリコには保田道世さんが投影されていることが、公式から発表されています。
その他にも、老婆を含めてすべてのキャラクターにはモデルがいるそうです。
詳細は下記ページをご覧ください。
大叔父の塔
作中では特に塔の説明もなく、明治維新のちょっと前に突如として空から降ってきたとされています。
塔に関しての情報は未だにないので、既出情報から考察するほかありません。
ゴシック様式であるこの塔は、江戸川乱歩の『幽霊塔』からイメージしたものと思われます。
詳細は下記ページをご覧ください。
ダットサン 17型 セダン
勝一が乗っている車は、作中では「ダットサン」とだけ言われていますが、ダットサン17型セダンです。
勝一が寄付した300円
勝一が、学校に300円を寄付したというエピソードが登場します。
宮﨑監督はスタッフにキャラクター説明する際に、実際にわりと近い状況が当時はあったと話しています。
当時の300円は、現在の60~80万円くらいでしょうか?
零戦のキャノピー
宮﨑監督は子供のときに、零戦のキャノピーが家に運ばれてきたのを実際に見たそうです。そのとき、キャノピーが虹色に輝いて、まるで宇宙から来た光の繭に見えたそうです。本作でキャノピーを描いた高屋法子さんは、そのときの記憶を再現したいと言われ、どうしようかと思ったと話しています。
飛んでいく矢
眞人が部屋の中で弓矢を試し射ちするシーン。
勢いよく飛んでいく矢のカットは、すべて背景美術によって描かれています。全部で22枚の絵で表現されました。
眞人が涙した箇所
眞人が吉野源三郎の『君たちはどう生きるか』を読んで、涙をこぼすシーンが登場します。
そのすぐ後に、眞人は夏子を助けに行くことを決意します。
眞人の心情に影響を与えた箇所はどこだったのか。
一瞬だけ涙を落したページが映りこみます。このことから、眞人は第8章を読んで泣いていたことがわかります。
当初はヒミ主導の物語だった
眞人が下の世界に行って、若キリコが眞人のことを導いてくれますが、当初はヒミの予定でした。
ヒミが登場する絵コンテも作画陣に配られましたが、その1週間後に宮﨑監督が全部描き直すことになり、絵コンテは回収されました。
このイメージボードは、そのときの名残です。
黄金の門
黄金の門が何を意味しているのか情報は出ていませんが、鈴木さんが「上野に本物がある」と発言していたことから、ロダンの「地獄の門」が参考にされているものと思われます。
ワレヲ学ブ者ハ死ス
黄金の門には「ワレヲ学ブ者ハ死ス」と書かれています。
これとよく似た言葉に、「我に似せる者は生き、我を象る者は死す」というものがあります。
中国の芸術家・斉白石の言葉です。
原訳では「似我者生 象我者死」で、日本語の現代語にすると「師の教えを守りながらも創造を加える者は成長して、ただ真似するだけの者は消えていく」となります。
宮﨑監督が、ここから着想を得たかどうかはわかりませんが、「ただ真似をしているだけだと、スタジオジブリは滅ぶぞ」と警鐘を鳴らしているようにも思えます。
ベックリン
眞人が下の世界にいって、最初に見る景色は、ベックリの「死の島」とよく似ています。
キリコが暮らしている難破船にも、大きな杉の木が生えていて、ベックリンの影響が表れています。
これは、宮﨑監督が描いた絵コンテにも「ベックリン」の記述があることから、意図的に描かれたものです。
ジョルジョ・デ・キリコ
大叔父のいる大広間は、ジョルジョ・デ・キリコの描いた絵に雰囲気の近いものが多いです。
参考にされたかどうかわかりませんが、デ・キリコの絵にはこの他にも大叔父の広間と似たような絵がたくさんあります。
映画に登場した「キリコ」という名前も、画家から借用しているのかもしれません。
走るシーンが描きたかった本田さん
作画監督の本田雄さんは、『未来少年コナン』が好きで、コナンの走りが面白いと小学生のときに思ったそうです。
『君たちはどう生きるか』では歩きのシーンばかりなので、「走りとかないんですか」と宮﨑監督に言うと、「最後の方では、そういうシーンも入れたいと思います」と答えたそうです。ラストで3人が「時の回廊」へ走ることになったのは、そのためかもしれません。
しかし、ほとんど走るシーンがなかったと、本田さんは嘆いていました(笑)。
主題歌の経緯
米津玄師さんが『君たちはどう生きるか』の主題歌を担当することになったきっかけは、Foorinの「パプリカ」です。
ある日、ジブリの保育園で園児がこの曲を歌ったり踊ったりしているのに合わせて、宮﨑監督が一緒に口ずさんでいたのを目撃した鈴木さんは、主題歌を米津さんに依頼することを提案したそうです。
声優のエピソード
本作で声優のキャスティングを担当したのは、鈴木敏夫プロデューサーです。
詳細のエピソードはこちらをご覧ください。
影響を受けた『失われたものたちの本』
映画『君たちはどう生きるか』の制作にあたり、宮﨑駿監督はジョン・コナリーの『失われたものたちの本』という児童文学に影響を受けています。
映画の劇場公開時は、タイトルが明かされておらず、「アイルランド人の書いた本に影響を受けた」とされていましたが、『君たちはどう生きるか』がDVD・Blu-ray化されたタイミングで、「影響を受けた本」として、そのタイトルがクレジットされるようになりました。
ミニマル音楽
本作は、映画前半はピアノだけの音楽で、後半はミニマル音楽だけで表現されています。
そのことについて久石譲さんは、このように話しています。
「映画前半はピアノだけで少年の孤独感が出ると思った。後半は徹底してミニマルな曲を書いた。40年かけて自分がやりたいことができた。音楽は映像と距離をとった方がいい。シンクロすると効果音楽になる」
『シン・エヴァ』の作画監督を引き抜いたスタジオジブリ
『君たちはどう生きるか』の作画監督は本田雄さんです。
本田さんは、庵野秀明監督の『シン・エヴァンゲリオン』に参加することが内定していましたが、スタジオジブリが土壇場で引き抜いています。
庵野監督は、鈴木さんに対して「プロ野球のシーズンが始まる。そこでいきなり4番打者をトレードで寄こせと。そんなことありますか?」と不満をぶつけていたそうです。