君たちはどう生きるか

2013年の『風立ちぬ』を最後に引退宣言し、会見まで開いた宮﨑駿監督。しかし、その宣言から4年後、2017年に『君たちはどう生きるか』の制作が始まりました。

なぜ、大々的に引退を発表した宮﨑監督が、長編作品を作ることになったのか。そこには、ある本の存在がありました。



2017年に刊行された、鈴木敏夫著『ジブリの文学』のあとがきには、宮﨑監督はアイルランド人の書いた児童文学を読み、その本に刺激を受けたことから映画化を提案したといいます。
当時、書籍のタイトルは明かされていませんでしたが、『君たちはどう生きるか』がDVD・Blu-ray化されたのを機に、「影響を受けた本」として、そのタイトルがスタジオジブリから発表されました。
それは、ジョン・コナリーの『失われたものたちの本』という児童文学。この本には、映画制作以前から宮﨑監督によって「ぼくをしあわせにしてくれた本です。出会えてほんとうに良かった」と推薦文が寄せられ、作品への深い共感が示されていました。

ジョン・コナリー『失われたものたちの本』

鈴木さんは、宮﨑監督からこの本を「読んでみてください」と渡されます。
宮﨑監督は毎月数冊の児童文学を読んでいて、その中の一冊がとても面白かったため、鈴木さんに勧めました。
そして鈴木さんは、その本を一気に読み上げ、いまこの時代に長編映画を作るのに相応しい作品だと感じたそうです。
そのことを伝えると、「しかし、このままでは映画にならない」と宮﨑監督は答えます。

君たちはどう生きるか

鈴木さんにしても、やれるものならやりたいけれど、いったい誰が作るのかという問題もありました。
このときは、宮﨑監督は引退しているし、まだ復帰するとは言っていない時期。そのまま時は流れて、宮﨑監督はもう一つ別の企画を持ち出しました。
そのとき持ってきた本が、ダイアナ・ウィン・ジョーンズの『アーヤと魔女』です。

この本も、鈴木さんはすぐさま読みます。すると、宮﨑監督は「どちらをやるべきか」と質問しました。
「もちろん、最初のほうでしょう」と鈴木さんは答えます。

アーヤと魔女 失われたものたちの本

こうして、『失われたものたちの本』を骨格に宮﨑駿監督が『君たちはどう生きるか』を作り、『アーヤと魔女』を原作に宮崎吾朗監督が作ることになりました。

ほどなくして、宮﨑駿監督は企画書を書くことになります。そこには、「引退の撤回」のこと、「この本に刺激を受けたけれど原作にはしない。オリジナルで作る」ということ、「すべて手描きでやる」ということが書かれていたそうです(世間に発表された企画書には、この文言は無い)。

原作を与えられても、その趣をすべて消してしまう宮﨑監督は、当初より本の通りに映像化するのは難しいと考えていて、設定を借りつつオリジナルで作ると決めていたようです。メインスタッフのために行った作品説明でも、あくまでも本は切欠であって、ストーリーは別物と語られています。

このようにして、吉野源三郎の小説『君たちはどう生きるか』からタイトルを借用しつつ、ジョン・コナリーの『失われたものたちの本』からインスピレーションを受け、ストーリーは宮﨑駿監督のオリジナルという形でアニメーション化されたのでした。

失われたものたちの本
『君たちはどう生きるか』に影響を与えた、本にまつわる異世界冒険譚。

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