現代アニメーションの礎を築いた高畑勲監督・宮﨑駿監督は、東映動画で才能を磨いて、後に数々の名作を生み出していくことになります。
宮﨑駿監督は、日本初のカラー長編漫画映画『白蛇伝』を学生時代に劇場鑑賞したことで、アニメーターを志すようになったことは有名なエピソードです。
また、高畑勲監督も『白蛇伝』公開の翌年に入社し、東映動画による演出助手公募の第一期生でした。その後、『安寿と厨子王丸』『わんぱく王子の大蛇退治』で演出助手になり、TVアニメ『狼少年ケン』で演出家(監督)デビューしています。
そんな両監督が才能を磨いていた時代の、東映動画の長編作品をご紹介します。
宮﨑監督が感銘を受けた1958年の『白蛇伝』から、1979年作の小田部羊一さんと奥山玲子さん夫妻が参加した『龍の子太郎』までの、長編アニメーション作品の一覧です。TVシリーズや短編は含まれません。
『白蛇伝』
1958年10月22日公開
演出:藪下泰司
日本初のカラー長編漫画映画。大工原章さん、森康二さんが原画のツートップで、大塚康生さん、中村和子さんらがセカンドとして支え、奥山玲子さんは動画として参加しました。
学生時代の宮﨑駿監督は、この作品を劇場鑑賞し、アニメーターを志すようになりました。
『少年猿飛佐助』
1959年12月25日公開
演出:藪下泰司、大工原章
この作品は日本で初めてシネマスコープで作られたアニメーション作品です。
奥山玲子さんはセカンドを務め、大工原章さんと森康二さんを支えました。この二人から多くの事を学んだと語っています。
後に奥山さんと結婚する小田部羊一さんは59年に入社し、この作品から参加しています。
『西遊記』
1960年8月14日公開
演出:藪下泰司、手塚治虫、白川大作
漫画家の手塚治虫が原作の作品。構成を手塚さん自身が手掛けています。このときに手塚さんのアシスタントをしていた月岡貞夫さんと石ノ森章太郎さん(当時は石森章太郎)が本作に参加。月岡さんはこの後、東映動画に入社しています。
中村和子さんは、この作品が切欠となって手塚さんに気に入られ、虫プロに移籍することになります。
『安寿と厨子王丸』
1961年7月19日公開
演出:藪下泰司、芹川有吾
この作品では、佐久間良子さんが安寿に扮し、作画のモデルとなるライブアクション方式が一部で採用されています。
高畑勲さんは、この作品で初めて演出助手を務めました。ライブアクションの撮影で高畑さんがカチンコを担当したそうですが、あまり上手に打てなかったという話があります。
『アラビアンナイト・シンドバッドの冒険』
1962年7月21日公開
演出:藪下泰司、黒田昌郎
東映動画の劇場用長編アニメーション映画として第5作目にあたる作品で、奥山玲子さんは大工原章さん大塚康生さんらと一緒に原画を務めました。
『わんぱく王子の大蛇退治』
1963年3月24日公開
演出:芹川有吾
これまで、東映の長編アニメーションの監督は藪下泰司さんが担当してきましたが、本作から新東宝出身の芹川有吾さんが監督を務めています。
本作から東映動画に作画監督というシステムが作られ、森康二さんがその職務を務めました。また、奥山さん大塚さんらが原画。大田朱美さん、小田部羊一さん、月岡貞夫さんらは動画を担当しています。高畑勲さんは演出助手として参加しています。
『わんわん忠臣蔵』
1963年12月21日公開
演出:白川大作
手塚治虫と東映動画のコラボ第3弾。原案・構成は手塚さんが担当していて、『森の忠臣蔵』というタイトルで絵コンテを描きましたが、企画会議の結果、手塚さんのアイデアはあまり採用されませんでした。
作画監督は大工原章さん。原画に森さん、奥山さん、小田部さん。動画には63年入社の宮﨑駿さんが参加しています。
『ガリバーの宇宙旅行』
1965年3月20日公開
演出:黒田昌郎
東映動画の劇場作品としては初となるSF作品です。主人公・テッドの声優は、歌手の坂本九さんが担当しました。
宮﨑駿さんはこのとき動画で、奥さんの大田朱美さんは原画でした。本作が公開された65年にお二人は結婚しています。
『サイボーグ009』
1966年7月21日公開
演出:芹川有吾
石ノ森章太郎さんの原作をアニメーション化。これは『西遊記』のときに石ノ森さんが参加していたことが縁で、本作が選定されています。
『少年ジャックと魔法使い』
1967年3月19日公開
演出:藪下泰司
本作は藪下泰次さんが演出で、大工原さんが作画監督を務めています。当時の東映動画の本流といえる作品に仕上げています。
『サイボーグ009 怪獣戦争』
1967年3月19日公開
演出:芹川有吾
演出を担当したのは前作に続いて芹川有吾さん。東映動画でこれまで作っていたスタイルとは違う作品なので、当初は戸惑いもあったそうです。
『ひょっこりひょうたん島』
1967年7月21日公開
演出:藪下泰司
本作は人形劇で有名な『ひょっこりひょうたん島』をそのままアニメーション化した作品です。演出は藪下泰次さんが務めました。
『アンデルセン物語』
1968年3月19日公開
演出:矢吹公郎
『ひょっこりひょうたん島』に続いて、井上ひさしさんと山元護久さんが脚本や挿入歌の作詞を手掛けた作品。大工原章さんがキャラクターデザインと作画監督を務めています。
『太陽の王子 ホルスの大冒険』
1968年7月21日公開
演出:高畑勲
高畑勲監督の長編アニメーション監督デビュー作。本作で宮崎駿さんは場面設計・美術設計・原画を担当し、高い能力を発揮しました。
作画監督は大塚康生さん、原画は森康二さん、奥山玲子さん、小田部羊一さん、大田朱美さん、菊池貞雄さん、喜多真佐武さん、宮﨑駿さん。そして、トレースには、この先もジブリで活躍する保田道世さんが参加し、錚々たる顔ぶれで作られました。
『長靴をはいた猫』
1969年3月18日公開
演出:矢吹公郎
現在でも名作として語られることの多い本作。作画監督に森康二さん、原画に大塚康生さん、奥山玲子さん、菊池貞雄さん、小田部羊一さん、大田朱美さん、宮﨑駿さん、大工原章さん。トレースに保田道世さんが参加しています。
『空飛ぶゆうれい船』
1969年7月20日公開
演出:池田宏
小田部羊一さんは本作で初めて作画監督を務め、奥山玲子さん、大田朱美さん、宮﨑駿さんらは原画を担当しました。
監督を務めたのは池田宏さん。宮﨑駿さんの画面構成力にはずいぶん助けられたと語っています。
『ちびっ子レミと名犬カピ』
1970年3月17日公開
演出:芹川有吾
エクトール・アンリ・マロの名作『家なき子』をアニメ化した作品。いわゆる名作路線で作られた一本。当時、東映の営業サイドが製作費を5千万円しか出せないと言っていたところ、製作の山梨稔氏が会社の機構を無視して大川社長に直談判して、1億5千万円出してもらい制作されたもの。作画監督は大工原章さんで、原画は森康二さんです。
『海底3万マイル』
1970年7月19日公開
演出:田宮武
『サイボーグ009』『サイボーグ009 怪獣戦争』『空飛ぶゆうれい船』に続く石ノ森章太郎さん原作による作品。但し、脚本はほとんどオリジナルに近いかたちで書かれています。奥山玲子さんは原画で参加しました。
『どうぶつ宝島』
1971年3月20日公開
演出:池田宏
本作は宮崎駿さんがずいぶん構成に関わっていて、ヒロイン・キャシーやブタのシルバー船長などは宮﨑駿さんが作り出したキャラクター。主人公・ジムの弟である赤ん坊のバブのモデルは、宮﨑さんの二男・敬介さんではないかと言われており、さらには「バブ」という名前は、宮﨑さんの奥様・大田朱美さんの当時のニックネームから付けられたそうです。
演出は池田宏さん、作画監督に森康二さん、原画は宮﨑駿さん、小田部羊一さん、奥山玲子さん、大田朱美さんらが参加しています。
『アリババと40匹の盗賊』
1971年7月18日公開
演出:設楽博
本作は『アリババと40人の盗賊』をギャグアニメ化した作品。作画監督は大工原章さん、原画に森康二さん、奥山玲子さん、小田部羊一さん、宮﨑駿さんらが参加。奥さまの大田朱美さんは、動画で参加しています。
また、声優では大山のぶ代さんや、大塚周夫さん、納谷悟朗さん、永井一郎さんなど有名どころが務めています。
『ながぐつ三銃士』
1972年3月18日公開
演出:勝間田具治
大川博社長が1971年8月に逝去された直後の作品。東映動画新社長は高橋勇さんになり、この作品で長編作品のクレジットから初めて大川さんの名前が消えました。
本作の作画監督は森康二さんが務め、原画は奥山玲子さん、大田朱美さん、大工原章さんらが参加しています。
『魔犬ライナー0011変身せよ!』
1972年7月16日公開
演出:田宮武
本作は「週刊少年キング」の創刊号から連載された『魔犬五郎』が原案。作画監督は大工原章さん、原画は森康二さん、奥山玲子さんらが参加しています。
『パンダの大冒険』
1973年3月17日公開
演出:芹川有吾
1972年に日中友好親善使節として中国から2頭のジャイアントパンダ「ランラン」と「カンカン」が上野動物園にやって来て、空前のパンダブームが起きたその人気に便乗して公開されたパンダ映画。原画に森康二さん、大工原章さんらが参加していますが、森さんは本作をもって東映動画を退社しています。
このころ、東映動画は争議の真っただ中で、人材も不足しているうえに会社はロックアウト状態で、作り手にとっては辛い作品となったようです。
『マジンガーZ対デビルマン』
1973年7月18日公開
演出:勝間田具治
永井豪が原作を担当した『マジンガーZ』と『デビルマン』のクロスオーバー作品。世界観は『マジンガーZ』がベースで、そこにデビルマンらがゲスト出演する形で共演しています。本作は角田紘一さんが作画監督を務め、奥山玲子さんが原画を担当しました。
『きかんしゃやえもん D51の大冒険』
1974年3月16日公開
演出:田宮武
阿川弘之さんが書いた短編小説が原作。教科書に載るような優等生的な原作だったため、脚本を担当した山本英明さんは大いに脚色し、ギャグを入れ、娯楽性を高めて、優等生を外していったそうです。本作は作画監督は大工原章さん、原画に奥山玲子さんらが参加しました。
『マジンガーZ対暗黒大将軍』
1974年7月25日公開
演出:西沢信孝
テレビアニメで人気となっていた『マジンガーZ』の映画オリジナル作品第2弾。奥山栄子さんは原画で参加しています。
『アンデルセン童話 にんぎょ姫』
1975年3月21日
演出:勝間田具治
アンデルセンの没後100年を記念した追悼作品として、『人魚姫』を題材に製作されもの。奥山玲子さんはキャラクターデザイン・作画監督を務めました。
この前年に争議が激化して会社がロックアウトをし、スタッフが半減していたため、苦労の多い作品だったといいます。
『長靴をはいた猫 80日間世界一周』
1976年3月20日公開
演出:設楽博
東映動画設立20周年記念作品。長靴猫シリーズの3作目となります。ジュール・ベルヌの『八十日間世界一周』をモチーフに、ペロたちが活躍します。
奥山玲子さんは原画で参加。奥山さんは、この作品が公開された76年に東映動画を退社します。
『龍の子太郎』
1979年3月17日公開
演出:浦山桐郎
松谷みよ子の児童文学が原作。『太陽の王子 ホルスの大冒険』を制作する際、初期案として検討されていたものです。
小田部羊一さんが作画監督で、奥山玲子さんは作画監督補佐を務めました。このとき、2人とも東映動画を退社してフリーだったところにオファーが来ました。
当初、小田部さんは高畑さんを監督に起用するよう東映サイドに要望していましたが、その望みは叶いませんでした。