千と千尋の神隠し

宮崎駿監督のいちばんのヒット作品『千と千尋の神隠し』。本作で、アメリカのアカデミー賞や、ベルリン映画祭では金熊賞を受賞しています。そんな、国民的な作品となった『千と千尋』も、豆知識がたくさんあります。
『千と千尋』は方々で語られているので、有名な情報だらけかもしれません。台湾の九份が、『千と千尋』のモデル地ではないことも、周知されると良いですね。



『千と千尋の神隠し』の企画の原点は、『霧のむこうのふしぎな町』

霧のむこうのふしぎな町

企画の初期段階に、児童文学の『霧のむこうのふしぎな町』から、宮崎監督はインスピレーションを受けた。

宮崎:
もともと企画の初期には『霧のむこうのふしぎな町』という児童文学を、なんとかアニメ化できないかと考えたこともありました。何人かのスタッフが子どものころ繰り返し読んだというもんですから、どこがおもしろいんだろうと思って何度も読んだりして、アニメにする方法を考えたんですが、結局、そこまで原作を変えるならオリジナルをやったほうがいいということになって。

霧のむこうのふしぎな町
千尋と不思議の町―千と千尋の神隠し徹底攻略ガイド

 

神様をお風呂に入れる発想は、「霜月祭」という祭りを参考にしている

千と千尋の神隠し

「『千と千尋の神隠し』ロマンアルバム」の中で、宮崎監督は「霜月祭」というお祭りを参考にしたことを語っている。

宮崎:
霜月祭といって、日本中の神様を呼び出してお風呂に入れて元気にするっていう非常に面白いお祭りがあるんです。静岡とか岐阜の方にあるお祭りなんですけどね。僕はそういうものを研究しているわけじゃないんですけど、大好きですから。
(略)
それでどうしてそういう神様たちを登場させたのかというと、日本の神様たちは、きっとものすごくくたくたになっていると思ったからです。そしたら二泊三日で骨休みにお風呂屋さんにくるに違いないと思ったからです。霜月祭と同じようにね。それで名もなき神様たちが社員旅行かなんかのように、団体で来るのかなとか勝手に想像しながらイメージしていったんです。

遠山郷霜月祭 あらびるでな
『千と千尋の神隠し』ロマンアルバム

 

おくされがみにリアリティがあるのは、宮崎駿監督の体験から

千と千尋の神隠し

おくされさまがリアルに描かれているのは、宮崎駿監督が休日に行っている川掃除が、原点となっているため。

宮崎:
休みの日に僕は地域の人たちと一緒に川掃除をやっているんですけど、まさに千尋と同じ体験をしたことがあるんです。その時に、日本の川の神様たちはボロボロで、悲しく切なく生きているんだろうなあと思いました。この日本の島で苦しんでいるのは人間だけじゃないなって感じたんです。それで川掃除をして汚いものを相手にしながら、自分が醜いものの相手をしなくちゃいけないとか、汚い嫌なものに手を出さなきゃいけないとか、イヤダナーという気分を超えないと、手に入らないものもあるって思ったんです。

折り返し点―1997~2008

 

千尋が電車に乗るシーンは、『銀河鉄道の夜』をイメージして作られた

千と千尋の神隠し

『ジブリの森とポニョの海』のインタビューで、宮崎監督はこのように語っている。

宮崎:
千が電車に乗るシーンがあるでしょ。なぜ、電車に乗せたかったかというと、電車の中で寝ちゃうシーンを入れたかったんです。ハッと目が覚めると、いつのまにか夜になって、周囲が暗くなって、影しか見えないような暗い街の広場が窓の下をよぎっていく。電車が駅を離れたところなんです。いったい何番目の駅なのか、自分がどこにいるのかわからなくなっていて。あわてて立ち上がって外を見ると、街が闇の中に消えていく。不安になって、電車の車掌室へ駆けていって、ドアをたたくけれど、返事がない。勇気を振り絞って、扉を開けてみると、真っ暗な空に街の光が闇の中の星雲のように浮いていて、しかも寝かせたガラスに描いたように平らなやつが、ゆっくりと回りながら遠ざかっていく。それは『銀河鉄道の夜』の僕のイメージなんですよ。それを、入れたくて、入れたくて、入れたくて、たまらないんですけど、ストーリーボードを描いていくと、どうしても入らない。なんとかして入れたくて、なんせ映像を挟み込むだけなんだから、ガバッと勇気を出して、入れてしまえばいいんだけど、入らない。ど―――うやっても入らない。結局、いちばんやりたかったシーンを外したんです。その映像を入れたいためにつくりあげたシーンだったのに、結局、やりたいことが入らない。これは違うジグソーパズルのピースだったんだな、と気がつくんです。そういう、ひとつの気づきのために延々と時間を費やしています。

銀河鉄道の夜
ジブリの森とポニョの海 宮崎駿と「崖の上のポニョ」

 

ハクの本名「ニギハヤミコハクヌシ」は、日本神話の「饒速日命(にぎはやひのみこと)」が由来

千と千尋の神隠し

天孫降臨以前に地上に降り、大和地方を支配していたが、神武天皇の東政に際して降り、その巨下となったといわれる。物部氏の祖神とされ、祭神とする神社もいくつかある。
ちなみに、『もののけ姫』のアシタカヒコは、饒速日命の一族である「長髄彦(ながすねひこ)」に由来する。

なぜ、 饒速日命(にぎはやひのみこと)は長髄彦(ながすねひこ)を裏切ったのか

 

千尋のお父さんは、日本テレビの奥田誠治プロデューサーがモデル

千と千尋の神隠し

関係者によると、車の荒い運転と、食事のシーンはそっくりだという。

 

リンの声優は玉井夕海

リンの声優を務めたのは、宮崎駿監督が主宰する「東小金井村塾Ⅱ」の塾生だった玉井夕海さん。演出家志望でしたが、声優を務めることになりました。リンを演じるにあたり、バイト先のお弁当屋のおばちゃんをモデルにしたそうです。
玉井さんは、声の収録にあたってバイトを休まなくてはならず、相談をしときに「そりゃちょうどよかった。うち潰れるんだよ」と言われ、驚いていたら「ほんとに鈍臭いね。店ん中見てご覧。冷蔵庫とかもうないだろ」と笑われたのだとか。

玉井夕海Twitter

 

主人公・千尋は、日本テレビの奥田プロデューサーの娘がモデルとなっている

千と千尋の神隠し

奥田プロデューサーの娘の名前は「ちあき」。宮崎駿監督の別荘地である信州で遊んでいるときに、川で靴を落としてしまい、宮崎監督と鈴木敏夫プロデューサー、奥田プロデューサーで探し回った話が、作中でモデルとなっている。当時、まだ小さかったちあきさんも、映画の試写会で自分がモデルになっていることに気が付いたそう。

ラセターさん、ありがとう

 

カオナシのモデルが米林宏昌監督説はあとづけ

千と千尋の神隠し

物語の冒頭、千尋が橋を渡るシーンで何気なく描いたお面をかぶったキャラクターが、主要キャラのカオナシとなった。
絵コンテ製作中に、映画が長くなりすぎることを鈴木プロデューサーから指摘され、宮崎監督はたまたま描いたカオナシを使い、物語を再構築することとなった。カオナシは、橋のたもとに立っていたエキストラ的なキャラクターから始まっている。「無理やりストーカーになってもらった」と宮崎監督は語っている。後に、米林監督と顔が似ていることから、カオナシ=米林監督という話が広まっていった。

米林監督はインタビューで、このように話している。

米林:
実際はモデルというより僕が描いていたカオナシを見て、宮崎さんが『麻呂にそっくりじゃないか』とおっしゃって、そういうふうに言われるようになったんです。

米林監督、カオナシのモデルとなった秘話を語る

 

油屋のモチーフは風俗店

千と千尋の神隠し

千尋が油屋で働くことになるのは、コミュニケーションが苦手な少女がキャバクラ嬢や風俗嬢となり、人と接することで成長していくことに着想を得ている。
つまり、「千尋」という名を奪われ、「千」の名を付けられたのは、風俗店の源氏名にあたる。

また、湯屋に大浴場がないことについて、宮崎駿監督は「そりゃあ、色々いかがわしいことをするからでしょうね(笑)」と、風俗店であること匂わせた発言をしている。

『千と千尋の神隠し』の裏設定は風俗産業。湯女になった千尋

 

湯婆婆と銭婆が双子になったのは、宮崎駿がキャラクターを作れなかったから

千と千尋の神隠し

当初、銭婆のデザインは背の高いスレンダーな婆を予定していたが、決定には至らず、双子という設定にして湯婆婆とまったく同じにすることになった。

『千と千尋の神隠し』湯婆婆と銭婆が双子になった理由

 

油屋のモデル

油屋 モデル

油屋にモデルとされる明確な場所はないけれど、複数の場所を参考にして作られている。
インスピレーションを与えたものとして、下記4点が有名。

・「江戸東京たてもの園」子宝湯
・道後温泉本館
・目黒雅叙園
・鹿鳴館

宮崎監督はインタビューで、以下のように語っている。

宮崎:
あれは鹿鳴館であり、目黒雅叙園です。日本人にとって豪華というのは、御殿と洋風(擬洋風)と竜宮城がごちゃごちゃになってて、そこで洋風っぽく暮らすことなんです。もともと湯屋っていうのは、今のレジャーランドみたいなところで、室町時代にも江戸時代にもあったものです。結局僕は日本を描いているんです。

千尋と不思議の町―千と千尋の神隠し徹底攻略ガイド

 

釜爺のボイラー室は、武居三省堂がモデル

釜爺のボイラー室 武居三省堂
「江戸東京たてもの園」にある、文具店・武居三省堂の引き出しが、釜爺のボイラー室のモデルとなっている。

 

主題歌『いつも何度でも』は、『煙突描きのリン』のために作られた

千と千尋の神隠し いつも何度でも 木村弓

宮崎駿監督の『もののけ姫』を観て感動した木村弓は、スタジオジブリに手紙と自作のCDを送る。すると、すぐに返事がきて、当時ジブリで企画されていた長編作品『煙突描きのリン』の主題歌を依頼される。

『煙突描きのリン』のために、木村弓は『いつも何度でも』を作成。しかし、企画の方が流れてしまうことになり、後に作られた『千と千尋の神隠し』で主題歌として使われることになった。

宮崎監督は、「この歌がきっかけでこの作品を作ったのかもしれない」と語っている。

『いつも何度でも』(『千と千尋の神隠し』主題歌)

 

デマが広まった台湾の九份(きゅうふん)

台湾・九份

台湾の九份が、『千と千尋の神隠し』のモデル地とされる情報がネット上に溢れているが、これはデマ。宮崎駿監督が九份でロケハンをした事実はない。雰囲気が似ていることから、誤って広まった情報。千と千尋の真っ赤な嘘である。
台湾の記者に向けたインタビューで、宮崎監督は以下のように語っている。

――(『千と千尋』のモデル地は)台湾の何処かから、ということではないんですか?

宮崎:
ええ、違います。映画を作ると、モデルは自分のところだろう、という人は日本にもいっぱい居まして。トトロのときも、ぼくは家の近所を集めた材料で作ったんですが、九州から「モデルはここだ」とか。同じような風景は、いっぱいあるっていうことです。

『千と千尋の神隠し』モデル地ではない台湾の九份

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