NHKの朝ドラ『なつぞら』でアフレコとプレスコについての話が出たので、ジブリ作品にまつわるレコーディングのエピソードをお送りします。
声優さんがアニメーションの声を当てるのは、絵を見ながらセリフを入れる「アフレコ」が当り前と思われるかもしれませんが、二通りのやり方があります。
アフレコ・プレスコ・アテレコとは
まず、「アフレコ」というのはアフター・レコーディング(after recording)の略で、出来上がった映像に音を当てることをいいます。
そして、「プレスコ」はプレ・スコアリング(pre scoring)の略で、先に音声を収録しておいて、音に合わせて映像を作っていきます。
スタジオジブリ作品でいうと、主に宮崎駿監督が「アフレコ」で、高畑勲監督が「プレスコ」によって制作しています。
ちなみに、「アテレコ」は「当ててレコーディング」の略で、洋画の吹き替えなどで、演者の演技を見ながら声を当てることを差します。アニメーションにおいて、アフレコとアテレコは同じことです。
プレスコで作られた高畑勲作品
一般的に、アニメーションでは先に作画を済ませて、アフレコで声を入れることが多いのですが、高畑勲監督はジブリ作品においてはプレスコを採用してきました。
しかし、元々は高畑監督もアフレコで制作していて、そこにはプレスコに転換するきっかけとなる出来事があったのです。
高畑監督が劇場版『じゃりン子チエ』を作ったときは、「アフレコ」で収録していました。
そのときに高畑監督は、声優を務めた関西芸人たちの録音に立ち会っていて「先に声を収録すればもっと良くなった」と痛感したといいます。
アフレコでは、既に出来上がった絵に合わせて演技をしなければいけないため、芸人たちの演技が抑えられてしまうことがあります。本来であれば、もっと伸びやかな演技ができたかもしれない。
先に音声を収録して、そこに作画を合わせていけば、もっと躍動的で面白いものになると感じたそうです。
演者の表情・動作も作画に活用する高畑勲作品
高畑監督は『火垂るの墓』では、プレスコを採用しています。清太の声優を務めた辰巳努さんは当時15歳で、節子を演じた白石綾乃さんは当時5歳。実際に役の年齢と近い演者を揃え、スタジオでは姉妹のように遊びながら録音したといいます。
そして、『おもひでぽろぽろ』ではトシオ役を柳葉敏郎さん、成人した岡島タエ子の声を今井美樹さんが担当しました。本作においては、柳葉さんと今井さんが喋るときの、顔の表情なども参考にして作画されています。
以来、『平成狸合戦ぽんぽこ』『ホーホケキョ となりの山田くん』『かぐや姫の物語』と、すべてのジブリ作品でプレスコを活用しています。一部声の足りない部分なども出てくるのでアフレコも行っていますが、大部分はプレスコで録音されたものです。
『かぐや姫の物語』ではプレスコで地井武男さんが翁役を演じていて、収録後に亡くなられてしまったため、後のアフレコでは三宅裕司さんが代役として声の一部を吹き込むということがありました。
ちなみに、プレスコを活用して作画をしていく場合は、声に合わせて絶妙なタイミングで描いていかなければいけないため、アフレコよりも手間が掛かってしまいます。
リアリティを追求して演者の動作も作画に取り入れていく高畑作品と、自分のイマジネーションによって自由に描いていく宮崎作品。声の収録においても大きな違いがありますね。
高畑勲、『かぐや姫の物語』をつくる。~ジブリ第7スタジオ、933日の伝説~ 『かぐや姫の物語』の制作現場に約2年半にわたって取材。 その制作過程と高畑演出の現場を明らかにしたドキュメンタリー。 |