先日、スタジオジブリは、社屋に原発反対の意思を表す、「スタジオジブリは 原発ぬきの電気で映画をつくりたい」という横断幕を掲げたことで話題になりましたけども、そのことについてフリーペーパーの熱風8月号で明かされました。
宮崎監督はどういう気持ちで、あの横断幕を作成したのか、加えて被災地の現状、これからのエネルギー問題について、座談会の中で語られました。
出席者は、衆院議員の河野太郎氏、NGOピースウィンズ・ジャパン代表の大西健丞氏、ドワンゴの川上氏、鈴木プロデューサー、宮崎駿監督の5名。
宮崎監督が「No! 原発」のプラカードをぶら下げたインパクト絶大な表紙で、早くもネット上で話題になっていますけども、熱風を入手できずに読めない人もいるかと思うので、一部を引用します。
ちなみに、この座談会の内容は「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」のポッドキャストで聴くことができます。
横断幕についての経緯
宮崎:
あの横断幕は自分たちにとって本当に正直なスローガンを作ろうとしたものです。自分の身近な人間と話していると、「反原発」という言葉自体がイデオロギーみたいになる。僕は原発をなくすことにはもちろん賛成ですけれど、「反原発」とか「いやいや必要だよ」みたいな話に巻き込まれるのは嫌だから。鈴木さんは学園紛争時代だから「阻止せよ」とかね、そういう言い方を喜ぶけど、そういうのはもうどこかでイヤなんです(笑)。立看屋さんに書いてもらうとそういう字になるし。僕らはもっと攻撃的ではないカタチで自分たちで書こうということになりました。職場にはいろいろな得意技を持っている人がいて、一人が素早く布を買ってきて、そこにいあわせた者で寄ってたかってトム・ソーヤのペンキ塗りみたいに次々と交代して作りました。
河野:
そもそもどういう経緯であの横断幕を掲げることになったんですか?
宮崎:
6月11日にデモがあって、その字を書いたスタッフが自分の住んでいる町の小さなデモに参加して、そのまま自分で作ったプラカード持って出社してきたんです。それで、せっかくだから、そのプラカードを持って近所を一緒に歩こうと。
河野:
歩いたんですか。
宮崎:
ええ、犬を連れてきたやつがいたから4人と1匹でこの周辺を歩きました。目撃者がわずか6人という情けなさで(笑)。それをずっと続けようかという話もあったんだけど、横断幕を掲げる話を鈴木さんに話して、(スタジオジブリの)星野社長のオーケーがとれればいいということで。そしたらすぐオーケーが出ましたから。そこから文面を決めて、その日のうちに完成しました。
河野:
あの「原発ぬき」という言葉はどのように生まれたんですか?
宮崎:
そもそもあの横断幕の字を書いたスタッフは、子供のときに自分の郷里で両親が反原発活動をやっていて、両親とデモにも一緒に行った。でも、結局原発を作られてしまうという経験を持っていたんです。そのとき両親に放射線の恐怖とか、「風が吹くとき」という核の恐怖を描いたイギリスのアニメーション映画を見せられたりして、放射能にトラウマができたんです。
(中略)
これは「反原発」とか「No Nuclear」とか格好をつけるよりも、「原発ぬき」のほうが等身大でいいって。
河野:
社員の皆さんの反応はどうだったんですか?
宮崎:
会社としてオーケーが出ているものだということで、とても喜んでいましたね。それまでは職場で声を出していいのか悪いのか、わからないようなところがあったので。
福島第二原発 エネルギー館「どんぐり共和国」の運営について
鈴木:
実はあの震災の半年くらい前、去年の夏なんですが、ひとつ事件があったんですよ。僕らの監督不行き届きだったんですけど、福島原発の施設内にいろんなお店が入っていて、その中になんとトトロのお店があったんです。僕らはそれを知った途端、もはやそのお店を続けることはまかりならん、撤去せよと言ったんです。その時期にそれをめぐって、ジブリの中でもいろんな意見が出てきたんですよ。簡単にいえば、80%の人が原発を安全だと言ってるのに、なぜ鈴木さんはその態度をとるのかと。僕はそのとき、かなり感情的な言い方でね、会社として原発に反対だよと。
河野:
すごい。
鈴木:
あのとき事前に宮さんにも伝えました。その方針で行きますからって。
宮崎:
僕も当然だと思います。
鈴木:
その福島原発からの店舗引き上げを朝日新聞が取り上げた。ところがこれが実にあいまいな書き方だったんです。ようするに新聞社としての見解はなにもなく、ジブリがそういうことをやったって事実の報道のみにとどまっていた。これには頭にきましたね。
宮崎:
で、抗議とかもいっぱい来ました。
河野:
抗議というのは?
鈴木:
僕のところへすごい抗議ですよ。福島原発の関係者と原発賛成派の人たちから。抗議の趣旨はふたつ。ひとつは原発は安全である。鈴木さんは知識がないと。ふたつ目は、東京であなたは仕事して生活してるだろ。それはぜんぶ福島原発の電気を使ってるんですよって。僕はぜんぶ無視しましたけれど。
川上:
今の話はもう少しはっきりさせておきたいんですけど、ネット上でも「昔ジブリは原発の中にショップを出してたじゃないか」というような抗議をする人がいまだにいるんです。でも、そもそも福島原発施設内に出展された経緯をジブリ側はまったく知らなかったんですね。
鈴木:
まったく知りませんでした。さっき宮さんから「風が吹くとき」という映画の話が出ましたけれど、そもそも僕はまだアニメーション雑誌の編集長をやっていた1988年に、「風が吹くとき」に絡めて原発が恐いという特集を組んだことがあるんです。
日本全国に原発が何基あって、それがどういうものなのかを大特集しましてね。ノンフィクションライターの鎌田慧さんにご協力いただいて、中学生たちと原発について話し合うという場を設けたりもしました。会社に内緒でやったものですから、すぐ上層部から呼び出されて、こういう政治的な問題には立ち入るなと。ところが、その号が3日間で売り切れちゃったんです。そしたら会社側もころっと態度を変えて、鈴木君、ああいうのをもっとやれって。
河野:
わかりやすいね(笑)。
鈴木:
僕はそうい経緯があるから、いつの間に多くの人間が原発を安全だと思うような世の中になっていたのか、まったくわけがわからなかった。
河野:
今回の震災の前には、みんな原発は必要だと、ほとんど洗脳されていましたからね。反原発的な発言があると、すぐ揚げ足取る人たちがうるさく言ってきましたし、自分を大人だと思っている人はみんな、原発がなきゃ電気がつかないんだからって。
(中略)
僕も自民党の中で「原子力政策はおかしなところがありますよね」という質問をすると、答えは返ってこなくて、その代わりに、おまえは共産党かとか、そういうやつは社民党に行けと言われてしまう。
(中略)
鈴木:
ひとことで言えば完成していないシステムですよね。それで実行に移しているというところが問題ですよね。
河野:
そうなんです。だからそこから先どうなるんですかと聞いているのに、答えは返ってこないし、ゴミの処理が決まっていないのに20基増やすとか言う。ゴミが処理できないんだったら、いらない原子炉は閉じちゃって、最低限必要な数の原子炉でやるべきだということを、この十何年言い続けてきたんです。
(中略)
だからジブリがああやって堂々と横断幕を掲げ、「原発ぬきの電気で映画をつくりたい」という意思を表明するのは勇気づけられますよね。あ、やればできるじゃんと。
宮崎:
いや、やればできるんだと思います。まあ、次々書いて貼っていくのは貧乏たらしくなるからやめておこうということになったんですけど(笑)。
原発は、現実問題としてやめられるのか?
川上:
現実的な問題として、原発はやめられるんですか。
河野:
どのスパンで考えるかですよね。今回事故を起こしたから、もう新しいのは作りませんということになれば、耐用年数が来た原子炉は閉めるので、2050年には自動的に原発はゼロになります。じゃあ、2050年にゼロになりますでいいのか、あと40年もやるのか。せめて10年でやめろとか、20年でやめろというと、じゃあ、足りない分の電力はどうしますかという話になる。
(中略)
宮崎:
原発の問題は、そう簡単には終わらないですよ。新幹線から見ててもね、福島県の通りに人影がない。車がぽつぽつと走ってるけど、ほんとに人は歩いてないです。
大西:
実は3月20日くらいから、福島県では新聞社とかテレビ局の人間は線量計を持たされているんですよ。その線量計を記録して自分がどれだけ被爆しているかをずっと確認しているわけです。
(中略)
この線量計の記録が正しければ、子供を校庭で遊ばせられるような数値にならないって言ってて、じゃあ、そのことを書けって言ったんですけど。
河野:
書かない?
大西:
書かないんです、みんな。科学的にどうのこうのって話で絶対やり込められるから書けないって言うんですよね。自分たちの線量計はそうなっているけどって。
(中略)
宮崎:
これは文明がいきついた人体実験ですよ。誰の方策も今のところなんの根拠もあるわけじゃない。僕なんか年齢が年齢だから今さらたいした影響なんてないからいいんです。でも、子供の問題になってくると根拠があろうとなかろうと、やれることは最大限やらなければならないでしょう。
僕らはここに保育園も持ってるものですから、放射線の線量には人一倍気を遣うんです。子供を預けている親の心配も当然ですし、園内の状況を独自にいろいろ調べたんです。
その結果、池の底に沈んでいる泥が一番線量が高いことがわかって、今はちょっと池には入らないほうがいいってことになってる。一度大掛かりな掃除をしようということになっているんですが、今度はその残土をどこに捨てるんだって問題が出てくる。
(中略)
掃除して、何日間か通水して、線量を測ってみて、心配がないとわかったら、親にもちゃんと説明して理解してもらい、そこでようやく入れる。親によっては本当に神経質になってますから。
鈴木:
そこらへんの感覚がね、僕なんかも自分の子供はすでに成人して、今は小さな子供を持ってないでしょう。そうすると、やっぱりわからなくなってくるんですよね、神経質になる親の気持ちが。
宮崎:
チビがね、目の前ではい回ってるの見ると、やっぱりこれはちょっと……。
鈴木:
だから観念的にはね、もう放射能とともに生きなきゃしょうがないんだったら、国も個人もそう覚悟を決めてやれって言いたくなるんですよ。
宮崎:
いやまあ、最期にはそういうことになっちゃうんだけど、でも払える努力は最大限払っておいたほうがいいって思うしかない。
(中略)
大西:
ただちに影響はないって、すごく罪な言葉だと思います。
宮崎:
ただちに影響あるはずないんです。これは時間のかかるものだから。たばこより害がないとか言う奴が出てきたり、もう頭にくるんです。たばこはやめろって言われたら、その場でやめれますからね。じゃあ放射能をやめろって言ったら、やめられるのかって思います。
計画停電はやる必要はなかった。
川上:
電力不足の真偽について、本当のところどうなんでしょう。そもそも計画停電ってやる必要があったんですか。
河野:
計画停電は間違いなくやる必要はなかったと思いますよ。そもそも電力供給が逼迫してきたときには、大手の事業者に通告して電力供給を切ることができるんです。いざというときに切らせてもらうから普段は安い電気代でいいんですよ、という契約になっている。計画停電のときっていざというときだから、当然そこは切ってるよねと確認すると、東京電力も経産省も、お願いはしてますけどって。いやいや違うだろ。契約だと最初にそっちを切るって書いてあるじゃないかと。家庭は普通に高い正規料金払ってるわけだから。
(中略)
宮崎:
僕は風力とか太陽光とか地熱とか波だとか、いろんなものが原発の穴埋め候補にあがってるけど、これをやればいいんだという決定打はまだないと思います。ないと思うけど、とにかくいろいろなことやって道を拓いていくしかない。現在の太陽光発電も、あんまり好きになれないんだけどね。
この事態の中で政治は何ができるのか?
鈴木:
素朴な質問をしてしまいますが、こういう状況下で政治は何ができるんですか。
河野:
社会の信頼感をつなぎとめるということです、ようするに情報はぜんぶ出す。政府としてはこうしたほうがいいと思うけども、最期は家族の判断、両親の判断で決めて下さい。
だけど信頼される情報を出しますというところが崩れちゃったから、家族や両親も判断しようがなくなった。
こうなったら外国から専門家を連れてきて、世界のトップクラスの専門家がこう言ってるからと、ある種の外圧によって信頼を回復していかないと……。
(中略)
宮崎:
やっぱり国民のことを信じられないんですよ。それもなんとなくわかるんだけどね。だから、それでも信じるように努力するか、ただの羊の群れだと思うかによりますね。羊の群れだと思うのも無理もないところもあるんですが。
大西:
その場合、一番パニックを起こして羊の群れになっていたのは東京ですよね。福島の周りだと、そんなにパニックは起きなかったと思います。今回だって東京が一番パニックを起こしかけていた。
宮崎:
うちの近所のスーパーではパンがなくなって、町のパン屋さんは朝早くから起きて、せっせと焼いてくれていたんです。その店にずいぶん助けてもらっていたんだけど、ところが、ちょっとスーパーに物が戻ると、さっさと見切りをつけてまた安いほうにいっちゃう。嫌な人たちだと思います。
消費者は信用できないですよ、やっぱり。どうして情報を出さないんだといえば、やっぱりパニックになると思ったら出さないんじゃないかと思う。
鈴木:
なんでも言えばいいってもんじゃないんですけど。ただ、やるなら、ちゃんと頭を使ってうまくやって欲しいですね。
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