「少女の愛が奇跡を呼んだ。」このキャッチコピーとともに1984年に3月11日に公開された、宮崎駿監督の『風の谷のナウシカ』はスタジオジブリの出発点ともなった、重要な作品。凶暴な美しさを秘め、友愛を体現する主人公・ナウシカ。このヒロインの名前「ナウシカ」は、何が由来となっているかご存知でしょうか。
この名前については、『ギリシア神話小事典』に掲載されたナウシカアからとったことが、宮崎監督と高畑監督の対談で語られています。
ギリシァ神話に登場する「ナウシカア」
高畑:
『風の谷のナウシカ』というのはひじょうにいい題名なんですよね。最近そう思ったんじゃなくて、はじめからそう思っていたんだけど……。
(略)
宮崎:
いい名前ないかなあって辞典をひっくり返していたんです。バーナード・エヴスリンという人の『ギリシア神話小事典』を。そしたら、アリオンなんかもあるんですよね(笑)。で、ナウシカをみつけて、瞬間いい名前だ、と思ったわけ。読んだら中身もいいんですね。
高畑:
ナウシカというのはギリシア神話のなかで、どういう人だったのか? それで、マンガの主人公の少女に、その名前をつけたわけだけど、それは、その名前が気に入ったのか、それとも、いくぶんかはギリシア神話のなかでのナウシカという人のものをひきずっているのか、そのへんはどうですか?
宮崎:
そうですね。ひきずってますね。なんか、浮世からズレてる人なんですよ。パイアキアの国王の娘なんですが、結婚もせず、恋人もいず、それから化粧というものを好まないで、いやそれはよくわかんないけれど(笑)。とにかく、もういい年なのにあい変らず竪琴をひいてね、海岸を走りまわって。そのくせ、海岸に血まみれの男が打ちあげられて、みんな逃げまどうのに、それをかばって介抱するわけです。神の呪いをうけた不吉な男という神話があって、王はその男を殺そうとするんですが、失敗していく、この男がオデュッセウスなんだけど。ギリシア神話はこのあたりがいいかげんなんですが……(笑)、オデュッセウスがトロイ戦争の英雄だという話はもう伝わっていて、それを即興の詩にして、竪琴で歌うんですよ、ナウシカが宮廷でね。すると男ははらはらと涙を流して「じつはそれがおれだ」って名を名乗る、という構造なんです。
高畑:
なるほど。
ジブリの教科書1 風の谷のナウシカ 『風の谷のナウシカ』制作現場の様子を伝えるインタビューに加え、映画の魅力を立花隆、内田樹、満島ひかりら豪華執筆陣が読み解くジブリの教科書シリーズ第1弾。 |