NHKの朝ドラ『なつぞら』も第10話となり、主人公・なつがついにアニメーションと触れることになりました。
なつが初めて観る作品は何になるのか注目していましたが、それはフライシャー兄弟の作った『ポパイ アリ・ババと40人の盗賊』でした。
なつのモデルである奥山玲子さんは、東映動画時代に『アリババと40匹の盗賊』で原画マンとして参加していることもあって、このチョイスになったのでしょうか。
なつが子供時代を過ごした昭和21年というと、ディズニー作品が浮かびがちでけど、フライシャー兄弟を持ってきたことに好感を持ちます。ミッキーマウスに対抗するように『ポパイ』シリーズを制作されており、ディズニー黄金時代に一石を投じたのがフライシャー兄弟です。
1921年にマックス・フライシャーとデイブ・フライシャーの兄弟によって、フライシャースタジオの前身となるスタジオが設立され、現在でも人気のある『ポパイ』や『ベティ・ブープ』、『スーパーマン』などが作られました。
宮崎駿監督はフライシャー兄弟が好きなことで有名で、『スーパーマン』に登場したロボットは、『天空の城ラピュタ』のロボット兵の元ネタになっていますし、『紅の豚』では劇中で上映されている映画に『ベティ・ブープ』が元ネタのアニメが登場します。
宮崎駿監督がフライシャー兄弟に注目するようになったのは、フライシャーの長編2作目となった『バッタ君 町に行く』が切欠です。アニメーターになったときに『バッタ君』を観賞し、その描写に驚いたと言います。
後にこの作品は、三鷹の森ジブリ美術館ライブラリーとして配給されることになりました。
そのときに宮崎監督が寄せたコメントがあるのでご紹介します。
宮崎:
アニメーターをやるやつは見ておくべき。時代のせいでおもしろくないものと、時代を超えておもしろいものがあるはずで、その時代を超えるものをやっぱりフライシャーは持っているんです。
アニメーターになった時に「バッタ君」を見て、そのワーッって沸き立って動いているのがどれほど描くのが大変かと思い、すごいエネルギーだなあとフライシャーに注目するようになりました。僕はフライシャー風のばかばかしいのも好きな人間ですから。
沸き立つような動きというのは、同じ絵の繰り返しではできないんです。やっぱりどこかでばかなアニメーターがお祭りみたいな気分とか、仲間に自慢したいとか、羽目を外して勢いで延々と描いたものは、見ている方にも何か喜びとして伝わってくるんですよ。そうじゃないとアニメーションの、初源の何とか動かしたい、世界は動いているから動かしたいんだという、そういうエネルギーを発揮することができないと思っています。
東映動画から始まって、スタジオジブリへと続くその道には、フライシャー兄弟がいたのです。
宮崎監督に「アニメーターをやるやつは見ておくべき」と言わしめる作品。すこし観てみたくなってきませんか?
日本のアニメーションの源泉に、少しでも興味が湧いてもらえたら幸いです。
『バッタ君 町に行く』DVD フライシャー兄弟が描く、小さく、か弱き虫たちの物語。 |