『もののけ姫』が7月4日にテレビ放送されるということで、もののけネタをひとつ。
いまでは国民的作家として認知されている宮崎駿監督ですが、『もののけ姫』以前は、そこまで広く知られていませんでした。アニメーション業界のなかでは不動の大監督ではあったものの、社会的には現在ほど発言力が高くなかったと記憶しています。
それが、『もののけ姫』の爆発的なヒットによって、アニメーションの地位を高め、巨匠と呼ばれる現在の宮崎駿となりました。スタジオジブリというブランド力が高まったのも、この『もののけ姫』からです。
スタジオジブリ作品は、『もののけ姫』で初めてディズニーと契約を交わし、全米公開をしていくことになります。鈴木敏夫プロデューサーは、そこからのサクセスストーリーを目論んでいることが、『もののけ姫はこうして生まれた』のなかで語られていました。それもまた、当時メジャーリーグで活躍していた野茂英雄選手の活躍から発想を得た、思い付きなところが、とても鈴木さんらしいです。その当時のインタビューを文字起こししました。
自分のスタイルを貫き通して、宮崎駿監督を巨匠に導いた、鈴木プロデューサーの力に改めて驚きます。
ジブリ作品が全米公開されるまで
鈴木:
製作費が20億円だと、これで収支とんとんという、ペイラインが配給収入30億円なんですね。ジブリの場合、今までヒットしたっていっても、『紅の豚』の28億5千万円が最高なわけで、それだけ集めたとしても、映画の興行としてはマイナスになっちゃうわけなんですよね。そうすると、今までの宣伝をやってるだけではダメだと。なにか、もう一個大きいのをやらないといけないなと。そんな矢先、ディズニーさんがジブリに接触してきたんですね。スタジオジブリの過去の作品、これのビデオをぜひディズニーで発売させてくれないかと。
その話を聞いたときにね、ずうずうしいなと思ったんですよね。人の作品を売って、儲けようというのかと。いや、あなたも儲かりますよって言うんだけどね。
この話を持ち込んできたのは、当時のブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメント(現在のディズニー・スタジオ・ホーム・エンターテイメント)代表の星野康二さん。
このときから、ディズニーとジブリの関係が密となり、星野さんは現在スタジオジブリの社長に就任しています。
当時の星野さんは、次のように語りました。
星野:
テレビで放映するでしょう、ジブリの作品って。それを皆さん、家庭内録画されるんですよ。もったいないって。特に、『トトロ』とかなんか、あとで調べましたけど、おそらく500万世帯以上の家庭内録画で――。
せっかく、これだけのいいものを、いい品物として、商売としてもそうでしょうけども、たくさんの人に買ってもらいたい。
それをなんでやらないんだろう、っていうのをすっごく不思議だったんですよね。
星野さんの話を聞くうちに、鈴木プロデューサーは新たな宣伝戦略を思いつくことになります。
それは、当時メジャーリーグで活躍していた野茂英雄が切欠でした。
鈴木:
それをいろいろ聞いてて、ハッと思いついたんですね。
「どうせやるなら、大きい話にしませんか?」と。で、「なんだ?」って言うからね、「あんたにジブリのビデオの権利あげるから、その代り『もののけ姫』をアメリカで公開しないか」と。
そういうことを考えたっていうのは、非常に素朴なことで、野茂が大リーグに行って活躍してるなんていうのもあったんですけどね。それが日本に伝わってくると、すごい大騒ぎになるじゃないですか。
そういうことでいうと、この『もののけ姫』のグレードを上げるためにはね、これはアメリカに行って全米公開される作品だと。世界配給されるんだと。
そしたら、そういうことは、みんなの意識の中っていうのか、宣伝には大きな役に立つんじゃないかと。
星野:
わりとその提案自体、頭の半分では「そんなこと出来るわけないよな」っていうのと、もう半分は「行けー!」っていう、ここまで来たなら、その話に乗っちゃえと。あとはディズニーの内部をどう決めるかっていうのは、なんとでもなるわな、っていうふうに。鈴木さんと話しながら、その自信が出来てきたものがありましたから。
あとは、ぼくはディズニー側から言わせていただくと、ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメントっていう、うちの組織の長、マイケル・ジョンソンを筆頭とした、ディスニーの幹部社員のなかで、非常に意識が高い人がいたっていうことが、結果的にはこの交渉を最後に進める助けになったと思いますけどね。
紆余曲折を経て、1996年7月23日にジブリとディズニーの提携記者発表会が大々的に開催されました。
会見が行われた7月23日は、アトランタ・オリンピックの会期中であったにもかかわらず、日米のマスコミ関係者、総勢1000人が集まります。
本来は、ブエナ・ビスタの社長マイケル・ジョンソンは日本に来る予定だったが、怪我のため衛星回線を使っての中継で挨拶をすることになりました。
鈴木:
考えたテーマは、今まで日本で開かれた記者会見で、いちばん凄いやつにしたいなと思ったんです。
凄いっていうのは、どういうことかって言ったら、記者の方をはじめ、お客さんがいちばん多いってことだと思ったんですよ。
そういうことで言ったら、“1000人”の人に来てもらおうと。目標を立てたんですね。そのために、何をしたら良いかなってことをいろいろ考えて、出てきたアイディアが衛星中継ってやつだったんですけどね。
この提携の背景には、情報娯楽産業の国際的ネットワーク作りという、大きな潮流があったようです。
大盛況となった提携会見に、『もののけ姫』のグレードをこれまでとは違うものに引き上げたいと考えていた鈴木プロデューサーには大きな手ごたえを与えたはずです。
こうして『もののけ姫』を始めとして、ジブリ作品は全米公開されることになりました。
「もののけ姫」こうして生まれた。 約2年の歳月をかけて制作された名作アニメ「もののけ姫」のすべてに密着したメイキング・ドキュメンタリー。 |