アメリカ版『風立ちぬ』で、主人公・堀越二郎の声優を担当したジョセフ・ゴードンさんが、ウォール・ストリート・ジャーナルのインタビューで、宮崎駿監督の思いから、堀越二郎をどのように演じていたかを語っています。
「宮崎映画の映像はとても心を揺さぶられる」。ジョセフは宮崎監督の「もののけ姫」や「千と千尋の神隠し」に言及してこう表現した。「僕にとって演技のほとんどは映像が担ってくれていて、自分に必要なのは声でそれをサポートすることだけという感じだ」
今回の仕事では、もう1つうれしいおまけが付いてきた。やはり敬愛する監督であるベルナール・ヘルツォークと共演できたことだ。ヘルツォーク監督はキャラクターの1人で、高原のリゾート地で二郎と二郎の未来の義理の父、里見と酒を酌み交わすドイツ人、カストルプの声を演じている。里見の声はウィリアム・H・メイシーが担当している。
ベルナール・ヘルツォークとビル・メイシーとドイツ語で酒宴の歌を歌ったことは、僕にとってまさしく今回の仕事のハイライトの1つと言える」とジョセフ。
「風立ちぬ」の米吹き替え版は28日にディズニーの配給で全米公開される。ジョセフが演じるのは、第二次世界大戦で使用されたゼロ戦の設計者、堀越二郎をモデルにした人物。宮崎監督はこの作品を最後に引退することを表明しており、映画はアカデミー賞長編アニメ部門にノミネートされている。
全米公開を前にウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)はジョセフに「風立ちぬ」について話を聞いた。
(略)
WSJ:
二郎というキャラクターにどのように入っていったのか。
ジョセフ:
個人的に共感する部分がある。1つは仕事中毒なところ。僕もちょっとそういうところがあるから。もう1つは、ものを作ることが好きなところ。彼と僕とでは作るものは違うけどね。
「風立ちぬ」の中の飛行機作りのプロセスは、もの作りに生涯をささげている人全てに通じるものがあると思う。宮崎監督の個人的な思いについて特に決めつけるつもりはないけれど、この映画を見ているときに思ったのは「この偉大な才能あふれる監督は、この偉大な才能あふれる航空技術者を自分に重ね合わせたに違いない」ということだ。
僕がもう1つとても気に入っている部分は、二郎は飛行機作りを愛しているけれど、その飛行機は彼が賛成できない方法で使用される結果になったことだ。彼の設計した美しい航空機は戦争の道具にされてしまったけれど、彼は戦争には興味がない。そんな風に利用されたくはなかった。それに彼は銃の搭載されていない飛行機を作りたかった。その方が飛行機としては優れているからだ。
これはアーティストであれば誰もが共感できると思う。芸術とは利害があまり絡まないものだ。それが芸術の一種の美しさでもあるのだから。
WSJ:
二郎と菜穂子のラブストーリーが物語りの大きな部分を占めているが、2人の恋愛関係は欧米人のカップルの恋の落ち方とは異なっているように見える。その違いは感じたか。
ジョセフ:
それは英語に吹き替えるときに常に気をつけていた部分だ。特に「日本人っぽくなるようにしょう」と心がけることはなかったけれど、「フォーマルさが出るようにしよう」とは心がけた。フォーマルさは、恐らくあなたが指摘している点の1つだろう。
二郎は一貫して礼儀正しい態度を取っている。いつも思いやりがあり、とてもフォーマルだ。僕にはそうした点がとても際立って見えたし、キャラクターの非常に魅力的な部分でもある。でも、それを英語で演じるのは難しかった。例えば、日本語版を見ると二郎はいつも「はい」と言っている。僕が理解したところでは、その言葉が日本語で意味するところは時に「イエス」であり、時に「ありがとう」であり、時に「OK」だ。
彼は常に「はい」と言っていて、そこにはフォーマルさや礼儀正しさ、キビキビとした感じがある。そんな風に多くの意味を含んだ言葉は英語にはない。だから僕は場合に応じて「サンキュー」と言ったり、「イエス」と言ったり、「イエス、サー」と言ったりした。ただし、そのどの瞬間にもフォーマルさを注入することを常に心がけた。