『風立ちぬ』のエンディングが、土壇場で変更されたことは、宮崎監督の会見でも語られていて有名な話ですが、どのように変更されたのかは、本人の口からは語られていませんでした。
しかし、先日発売された、鈴木敏夫プロデューサーの著書『風に吹かれて』のなかで明かされています。以下の引用文は、ネタバレですので、『風立ちぬ』を観た後にお読みください。
変更されたエンディング
「宮さんの考えた『風立ちぬ』の最後って違っていたんですよ。三人とも死んでいるんです。それで最後に『生きて』っていうでしょう。あれ、最初は『来て』だったんです。これ、悩んだんですよ。つまりカプローニと二郎は死んでいて煉獄にいるんですよ。そうすると、その『来て』で行こうとする。そのときにカプローニが、『おいしいワインがあるんだ。それを飲んでから行け』って。そういうラストだったんですよ。それを今のかたちに変えるんですね。さて、どっちがよかったんですかね」
「だけど三人とも死んでいて、それで、『来て』といって、そっちのほうへ行く前に、ワインを飲んでおこうかっていうラストをもしやっていたら、それ、誰も描いたことがないもので。日本人の死生観と違うんですよ。そこが面白い。だから、最初の宮さんが考えたラストをやっていたら、どう思われたんだろうかと」
「もしやっていたら、いろんな人に影響を与えたかもしれないんですよ。それだけで一本の話をつくる人が出たかもしれない」
宮崎氏が構想していたエンディングとは、つまり、主人公の堀越二郎、妻の菜穂子、そして二郎の人生に多大な影響を与えるイタリアの飛行機設計家・カプローニ氏が、既に「死んでいる」という衝撃的なものだったというのです。
鈴木敏夫さんは公開された今も、エンディングを変えたことに悩んでいるようです。
庵野秀明が語る『風立ちぬ』のエンディング
このエンディングの変更について、堀越二郎の声優を務めた庵野秀明監督が高く評価しているのは有名な話です。
スポーツ報知のタブロイド版、「スタジオジブリ特別号」のなかで、以下のように語っています。
「年齢を考えると、ここ何作かはいつも「これが最後」と思ってやっていたと思います。今回もそうだったんでしょうが、途中で変わったんだろうと。それは、良かったですね」
その思いを強くしたのは、ラストシーン。二郎の“夢”に出てくる、菜穂子のセリフは当初、「きて」と2回繰り返されるものだった。
「そのセリフのままだと、死んで終わりみたいになっちゃうんです。『ポニョ』と同じなんです。それで「なんじゃこりゃ!?」と思ったんです。『ポニョ』という作品で、あのラストはいいんだけど、今回もそれを続けると厳しいな、と思っていたんです。違う答えを出すと思っていたんですが「また一緒か」と感じてしまって」
「最終的に(宮崎駿監督が)自分ではい上がって、生きていく方向になったので。それは、すごくうれしかったですね」
はたして、どちらのエンディングが良かったのか、評価は分かれそうですね。
死んでいたという終わり方のほうが、宮崎駿作品らしくもある反面、何が言いたいのか伝わりにくいかもしれませんね。
風に吹かれて インタビュアー渋谷陽一が、鈴木敏夫プロデューサーの足跡を辿り、その思想に迫った一冊。 |