来年、歌手デビュー50周年を迎える歌手の加藤登紀子さん。長い経歴の中で、今の子供にも広く知られるようになったきっかけは主題歌とエンディング曲、そして声優を務めた宮崎駿監督の『紅の豚』。本作で、宮崎監督から得たものとはなんだったのでしょうか。
宮崎駿監督は一番の理解者
加藤:
早いもので、「紅の豚」の公開からもう22年になるんですね。
あの作品で宮崎監督と初めてお仕事させていただいたのですが、思い出がたくさんあり過ぎて、どれから話したらいいのか迷うほどです。
ただ、主題歌の「さくらんぼの実る頃」、エンディング曲の「時には昔の話を」を歌ったことが、私の音楽の原点であるシャンソンを改めて見直す、いい機会になりました。そして、安心して身をゆだねられる場所はどこかを教えてもらったのではないかと思います。
91年の夏ごろだったでしょうか。表参道にあったライブレストラン「テアトロスンガリー青山」で、「さくらんぼの実る頃」の録音と、アニメを描く参考にするための実写収録をしたのが、宮崎さんとの初対面でした。
(略)
エンディング曲「時には昔の話を」は、もともと87年2月にリリースしたアルバム「MY STORY~時には昔の話を~」に収録されていたオリジナル曲です。この年の4月に、このアルバムの中の「百万本のバラ」とカップリングでシングル発売しています。お会いする4年も前の曲をちゃんと聴いて、選んで下さったのも、歌手冥利に尽きますね。
宮崎さんは「あの歌の中の『あの日のすべてが空しいものだと それは誰にも言えない』という歌詞が僕はうれしかったですね」とおっしゃってましたから、作品のテーマにピッタリだったようです。
(略)
作品の中では政治的な主張はまったくないのですが、「さくらんぼの実る頃」「時には昔の話を」を選んだ宮崎さんと私には、考え方や感性に相通じるものがあるんです。
ですから、私の一番の理解者であり、ボーイフレンドのひとり。それが宮崎さんだといえますね。
時には昔の話を 著者:宮崎駿・加藤登紀子 『紅の豚』のエンディング用に描き下ろされた宮崎駿監督のイラストに、加藤登紀子によるジャン・バチスト・クレマンの詩が加えられた絵本。 また映画音楽の作曲依頼用に、曲のイメージを伝えるために、宮崎監督が書いた詩も数編掲載。大人の絵本としておすすめです。 |