『なつぞら』第12週となってアニメーション編も徐々に濃い内容になってきました。
アニメーション作りのディテールが凝っているのは、やはり“アニメーション時代考証”に小田部羊一さんがいらっしゃるのが大きいのでしょうか。子供のためにつくるという志の表現から、アニメーションにおけるリアリティ論争まで、ほんとうにこうやってきたんだろうな、と思わせる内容でした。
第67話「節子と清太」
第67話で、なつと咲太郎のふたりは、生き別れの妹・千遥に会いにいきます。しかし、千遥が引き取られたはずの親戚の家にはもう、千遥はいませんでした。死んでいたというオチではなく、親戚のおばさんの執拗な嫌がらせに耐えかねて、子どもの頃に家出をしていたという、まさに『火垂るの墓』のごとき展開。やはり、なつと咲太郎は良縁に恵まれた節子と清太で、千遥は叔母さんの家に残った末の節子のようです。千遥ちゃんは、どこかで生きていそうですけどね。
第68話「絵を描け」
第68話で、千遥が行方不明という現状に、なつはふさぎ込んでしまいます。すっかり落ち込んで、こんなんじゃもう絵を描けないというなつ。そこに咲太郎が、なつを励ますように声を掛けます。「漫画映画は子供の夢なんだろう。だったら、その夢を千遥に見せてやれよ。千遥の為に描け。絵を描け、なつ。おまえは絵を描け」と。普段は何かと心配になってしまう咲太郎お兄ちゃんですが、今回は良いことを言います。
宮崎駿監督が以前、東日本大震災のときに「パン屋はパンを作ってるんだ。絵描きだったら絵を描け」というようなこと言っていましたけど、咲太郎兄ちゃんも同じことをやんわりと伝えていますね。
第69話「子供のために」
第69話では、遅刻しながら出社します。既に『わんぱく牛若丸』のキャラクター検討会が行われていて、なつは常盤御前のキャラクター案を提出します。優しい表情をしたなつの絵に対して、マコさんは厳しい表情の常盤御前をプレゼンします。どちらも決定には至らないんですが、仲努さんが二人の絵から両方の特徴を取り入れた絵を描きます。やはり、魅力的なキャラクターとは、両方の側面をもっていなくてはいけない。
今回のキャラクター作りのエピソードは、とても面白かったです。『なつぞら』を通して、森康二さんたちが一貫して子供たちのためにアニメーションを作ってきたという志を垣間見ることができました。こうやって、一つひとつの作品を子供に向けて作ってきた歴史があるからこそ、宮崎駿監督は『紅の豚』や『風立ちぬ』で大人向けの作品を作ってしまったことに引け目を感じてしまうというのも理解できます。
仲さんが描いた絵に感心するなつは、『太陽の王子ホルスの大冒険』で森康二さんが描いたヒルダの優しそうな表情を見て、宮崎駿さんが涙したというエピソードを思い出しました。
第70話「プレストン・ブレア」
第70話で、なつは本屋の社長さんから漫画映画の教科書をプレゼントされていました。その本が、プレストン・ブレアの『ANIMATION Learn How to Draw Animated Cartoons』でした。プレストン・ブレアといえば、なつが北海道で天陽くんと一緒に観ていた『ファンタジア』にも参加していましたし、大塚康生さんも実際に読んでいた本ですし、『なつぞら』ではときどき実物をそのまんま使用してきますね。
さらに、『わんぱく牛若丸』ではライブアクションが採用され、亀山蘭子が常盤御前の役となって撮影が行なわれました。これは、東映動画の『安寿と厨子王丸』制作のときに、佐久間良子さんが安寿役で撮影を行なったものを再現しているように思いました。
最後にはイッキュウさんこと、坂場一久が登場しました。
第71話「リアリティ論争」
第71話は、ほとんど坂場一久くんのキャラクター紹介のための回となりました。坂場くんは、なつが描いた馬の動画に疑問を抱き、作画室に質問にやってきます。演技の意図がわからず、完全に理詰めで質問をしてくる坂場くん。それでいて博識で隙がありません。坂場くんは、予想以上に高畑勲さんを想起させるキャラクターに仕上がっていて、ドラマもギアが1つ上がった感じがします。アニメーションにおけるリアリティ論争が繰り広げられ、アニメーションファンにとってはとても面白い回でしたけど、一般の朝ドラファンの人は、このマニアックな展開についてこれるでしょうか。ちょっと心配になりました(笑)。
ちなみに、史実では『わんぱく王子の大蛇退治』で高畑さんは演出助手を務めていて、この作品でアニメーターの小田部羊一さんと演技を巡って論争になっています。
小田部さんの認識では、かんしゃくを起こして喧嘩しただけだったそうですが、それを見ていた奥山さんは、高畑さんと対等に言い合っている小田部さんが凄いと思ったそうです。結果的に、この論争が馴れ初めとなったわけですが、ドラマではなつが論争を起こしていました。さて、この先、何が起きるのでしょうか。
第72話『やぶにらみの暴君』
第72話では、初っ端から雪次郎くんが劇団「赤い星座」のオーディションを受けています。前々から演劇に対して熱い想いを抱いていた雪次郎くん。まだ合格が決まったわけでもないのに、川村屋の仕事はやめると言ってききません。雪月を継いで、夕見子と一緒になって切り盛りしていく未来を想像していたので、雪次郎くんも雪月も心配になってしまいます(笑)。
それから、今回も坂場くんのキャラクター紹介の比重が大きかったですね。坂場くんがアニメーションの世界に進むことになったきっかけの作品も語られました。アンデルセンが原作のフランスのアニメーションと語られていたので、『やぶにらみの暴君』を指しているようです。本作は、高畑勲さんが大学生のときに観賞し、アニメーションの世界に入るきっかけとなった作品でもあります。
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