若い宮崎駿動画サイト「You Tube」に宮崎駿監督が若いころの貴重なインタビューが上がっていました。
1989年5月に行われたインタビューなので、『魔女の宅急便』の公開を控えた時期のようです。
インタビュアーは、ジャーナリストの木村太郎さん。この当時は、NHKを辞めてフリーになった頃でしょうか。若い木村さんというのも、レア映像ですね。
動画が消えるといけないので、文字に起こしておきました。ファンからの質問に、宮崎監督が答える形式で行われたインタビューです。



宮崎駿監督インタビュー

宮崎:
コンプレックスがずっとあるんですね。例えば、一緒に絵を描いてますとね、北海道から出た人は北海道の空気を、ちゃんとその絵の中に描きますからね。昔の下町でしたら違うんでしょうけど、いまの東京で育った人間っていうのは、なにも無いんです。だから、自分で見たものとか、調べたものとか、読んだものとかっていうとこから、自分の風景を作るしかないんですね。
それで、自分には何もないなって思うものですから、ジタバタしてますけれど。

――『ナウシカ』が大好きです。原作の方はずいぶん長いようですが、映画の続編を作る予定はないでしょうか?

宮崎:
あの、原作が3回も中断してまして。映画を作るために中断するものですから。それを完結させないことには、映画の続編というのはあり得ないと思うんです。ただ、完結させたらですね、もうエネルギーは残ってなくて、映画は作らないってことになるかもしれないです。それは、分からないですね。

アニメーションっていうのは、人間が集まって作りますから。ですから、最初に『ナウシカ』をやったときには、なんだかよくわからない虫がいっぱい出てくるものやるんだっていうんで、かなり騙されてやった人もいるわけですけど。入ってみたら大変だったっていう、悲鳴をあげたりですね。もう騙しはききませんから、『ナウシカ』をやるから集まってくださいっていうときに、ほんとに人が集まるかっていうのは、分からないです。そういうことがありますから、そういう情勢のなかで考えないと。

――宮崎監督の作品には可愛らしい少女がたくさん出ますが、モデルはいますか?

宮崎:
いやぁ……、妄想の産物だと思うんですけど。

木村:
初恋の方とか。

宮崎:
いやぁ、そんなシャレた人には出会わなかったですけど。……怒られるな(笑)。
あの、何十人かの人間で一年間か、もっと掛かったりして、ジタバタしながら作るわけですから、描くに足る人物じゃなかったら描きたくないですね。
ですから、モデルがいるとかいないじゃなくて、この娘なら努力しようじゃないかって娘じゃないと、ヒロインにしたくないんです。
そういうことがありまして。だから、理想とかなんとかっていうよりも、この子の気持ちがよく分かるとか、そういうことを基礎にしてやってるつもりですけど。

木村:
みんなから愛されるような、ってことですよね。

宮崎:
いやぁ、それはだから、かなりクセがあるんじゃないかと思いますけど。
ほんとうにそういう娘が目の前にいたら、みんな逃げ惑うんじゃないかっていう。そういうキャラクターもいますから。

――よく私は物語とか小説を作るんですけど、アニメを作るときに物語のうえで気を付けるのはどんなとこですか?

宮崎:
ジグソーパズルなんですね。いろんなことをやりたいんです。これもある、あれもあるって。これは名シーンになるぞとか、いろんなことを思うわけです。
どれもやりたいんだけど、それを組み合わせてみると、一枚の絵にならないことが多いんですね。他のパズルのやつが混ざってるんです。それを残念ながら抜いていかなきゃいけないんです。
一本の映画のなかで表現できるものっていうのは、僅かなものですから、その中に何もかも入れないで抜いていって、それから自分にとって魅力がないと思うような、ジグソーパズルの隅っこのほうの、空だけ地面だけ、っていうのもきちんとはめ込まないと、物語にならないと思うんですね。だから、その作業だと思うんですけど。

木村:
ようするに、丁寧に考えて、そして惜しみなく切り捨てていくと。こういうことになるんでしょうか?

宮崎:
カッコいい言い方ですね(笑)。そうできれば良いんでしょうけど、なかなか。