米林宏昌監督と西村義明プロデューサーによる新作が、ついに発表されました。二人は、2014年末にスタジオジブリを退社しており、西村さんが設立した新会社スタジオポノックで、長編アニメーションを制作していました。
この度、その新作が発表され、メアリー・スチュアートの児童文学を原作とした、『メアリと魔女の花』であることが明かされました。
原作の『The Little Broomstick(小さな魔法のほうき)』は、何をやってもうまくいかず、不満や不安を抱いて暮らす11歳の平凡な女の子・メアリが、ひょんなことから魔法が渦巻く奇想天外な世界で冒険を繰り広げる、王道ファンタジー。
公開された特報映像には、高畑勲監督の『赤毛のアン』を想起させる女の子や、宮崎駿監督作品に登場しそうな奇妙なキャラクターが映し出されています。
会見では、スタジオ設立の経緯や、同作への思いが語られ、宮崎駿監督、高畑勲監督、鈴木敏夫プロデューサーから受けた言葉が明かされました。
西村プロデューサーが「麻呂さん、もう一本映画をつくりたいですか?」と質問したところ、普段は思慮深い米林監督が、「もう一本つくりたい」と即答したことで、この企画が動き出したといいます。
スタジオジブリで企画を考える際、宮崎監督や鈴木プロデューサーが中心となってきましたが、今回は初めて2人で企画を決定したといい、「だから企画は行ったり来たりだったし、ある時は口論することもあった。これは監督には失礼な話だが、ハローワークに行ったこともある。結局は応募しなかったけど、世の中にはいろんな仕事があるんだなと思った。でもハローワークに行った当日に『かぐや姫の物語』がアカデミー賞にノミネートされ、それが転機となった」と西村プロデューサーは語ります。
アカデミー賞にて、アニメ制作に情熱を傾けるクリエーターたちと接した西村さんは、彼らが持つ「子どもたちが初めて観る映画であるアニメーションを作る者の責任」に触れ、そしてその哲学がスタジオジブリにも流れていたことを再認識したといいます。「そんな彼らの志を誰が受け継ぐんだろうと思ったら焦りが出てきた。そこでホテルに戻って自分たちのスタジオをつくろうと決意した」とスタジオ設立の経緯をふり返りました。
しかし、「現場作りをするにも、ジブリと言う名前がないなか、お金やスタッフが集まるのか。クオリティが下がってしまうのではないかと、不安ばかりだった」と告白。それでも、西村さんは「今後どうなるかわかりませんが、やっぱり米林監督とつくりたいのはジブリの血を受け継いだ映画だ」と米林監督に告げ、その想いに米林監督も「困難はあるが、やるかやらないかだったら、やるために苦労していこうと思った。だから西村さんが新会社をつくると聞いて大賛成しました。僕たちがジブリで制作していたものを新しくつくるなら、ゼロから、志をもって作った方が自分たちの作りたいモノをつくれるんじゃないかと思ったんです」と語りました。
スタジオポノックの第一回長編アニメーション作品として“魔女”を選んだ理由は、「『思い出のマーニー』とは真逆をやろうと思った」と西村プロデューサー。「前作であえて封じていた米林監督の得意ワザである、ダイナミックなアニメーションを見たかった。広がりある世界で、元気な女の子が動き回る……。子どもの頃、『魔女の宅急便』で幸福な経験をした僕ら世代が、いまこそ、宅急便とは違う21世紀の魔女の物語を作れたら」と意気込みを語っています。
また、再び長編作品に取り組む米林監督は、「魔女という題材や原作は、とても面白い作品になると思った」といい、「『マーニー』が“静”だとすれば、今回は“動”。主人公が自分の意思で動くような、躍動的なアニメーションを目指し、いい意味で予想を裏切れたら」と意気込み。「何を見て、何を感じて、どう行動するか。ご覧になった人が、メアリとともに一歩進んでみようと思ってもらえる作品になれば」と、『メアリと魔女の花』にかける思いを語りました。
ちなみに、米林監督のことを気にかけていた宮崎駿監督の元へ、スタジオの設立を報告するためアトリエに行くと、最初はコーヒーを淹れて好意的に迎えてくれた宮崎監督だったけれど、長編を作ることを聞くと、顔色がパッと変わり、「だったらこんなところに来るな。今すぐ帰れ。長編アニメーション映画を作るとしたら、覚悟をもってやれよ」と追い返されたそうです。
その後、米林監督がアニメ制作中に宮崎監督と会った際には「『うれしい』と言っていただいて、逆にそれがプレッシャーに感じた。『うれしい』って期待してもらえる作品を作らないとって、改めて気を引き締めました」と背筋を正しました。
また、鈴木プロデューサーに報告した際には「今までは何でも鈴木さんに相談してやってきましたが、今回は脚本もコンテもコピーも見せなかった」と西村さん。「相談すれば鈴木さんはきっと正解を言ってくれるだろう。だけど今回は、僕らを応援してくれる宣伝チームもいる。そこの中心にいる僕が、鈴木さんの言葉に揺らいだらおかしくなる。だから相談しません。と言ったら、『それはいい。と長編アニメを作るなら覚悟を持ってやれ』と。くしくも宮崎さんと同じ事を言われました」と付け加えました。
さらに、高畑勲監督には、別件で喫茶店で打ち合わせをしていたときに、「どんな企画か教えてください」と言われたといい、「これは本当に怖い言葉で」と笑う西村さんは、「高畑さんの嫌いなファンタジー作品ですから。でも企画の骨子を説明したら、『面白いな。その映画の話を聞く限り、僕と宮さんが『NEMO/ニモ』という映画でやろうとして実現できなかったことを君たちがやろうとしている』とおっしゃったんですよね」と明かしました。
西村プロデューサーは、「ポノックは、ジブリの血を受け継いでいる」と語り、「米林監督には、約20年にわたるジブリ人生のすべてを注いでもらいたいと期待している」と期待を煽り締め括りました。
スタジオジブリの遺伝子を受け継いだ、スタジオポノックの船出が、ついに始まりました。
作品情報
『メアリと魔女の花』(2017年夏公開予定)
英題:Mary and The Witch’s Flower
原作:メアリー・スチュアート「The Little Broomstick」
脚本・監督:米林宏昌
脚本:坂口理子
音楽:村松崇継
プロデューサー:西村義明
制作:スタジオポノック
製作:『メアリと魔女の花』製作委員会
- 「スタジオポノック」公式サイト
- 『メアリと魔女の花』公式サイト
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