東京・九段下のイタリア文化会館で開催中の「マルコの世界 小田部羊一と『母をたずねて三千里』展」を見に行ってきました。
同作は、高畑勲さんが監督し、小田部羊一さんがキャラクターデザイン・作画監督を務め、宮崎駿さんがレイアウト・場面設計を手掛けました。
展示されているのは、小田部さんの描いたキャラクター原案のスケッチや、水彩のカラーイラストなどが中心です。展示数は、それほど多くないですが100点ほどはあったでしょうか。ちなみに、写真撮影が行なえます。
ジブリファンとしても嬉しいことに、宮崎駿さんのレイアウトが展示されています。さらに、アニメーターに動きの支持を出したスケッチもあります。こちらは必見です。
『母をたずねて三千里』は今年で、放送開始から40周年になります。原作は、エドモンド・デ・アミーチスによって1886年に書かれた児童文学「クオーレ」の挿入話で、主人公の少年マルコ・ロッシが、アルゼンチンのブエノス・アイレスに出稼ぎに行ったっきり音信不通になってしまった母親アンナ・ロッシを探すため、自らアルゼンチンへ旅に出る物語。1976年1月4日から12月26日まで、一年間にわたり全52話が放送されました。
小田部羊一トークショー
12月10日には、小田部羊一さんのトークショーも行われ、作品について大いに語っていただきました。
『母をたずねて三千里』の原作は、十数ページしかないイタリアの児童文学。それだけ短い話を基にして、52話も作った高畑勲監督はすごいと小田部さんはふり返ります。しかも、まったく薄まっていないのだから、凄いことです。それと同時に、テレビシリーズで作るクオリティではなかったとも語りました。
まるで映画のような細かい演技をして、1年間通して作ることは相当過酷なことだったようです。開口一番、高畑勲監督の功罪を語りだして、笑いを誘っていました。ちなみに、会場には、高畑監督もいらっしゃっています。
小田部さんは同作のキャラクターデザインを手がけていますが、ロケハンには行くことが出来なかったのだとか。『アルプスの少女ハイジ』で、長きにわたり過酷な制作が続いていたため、腰を痛めてしまい、長時間のフライトを断念したそうです。
小田部さんは、『ハイジ』においてもキャラクターデザインを手がけており、このときはスイスにロケハンに行ったことで、ずいぶん参考になったと言います。もし、『三千里』でもロケハンに行くことができたら、キャラクターデザインは、変わっていたかもしれないと語ります。
ちなみに、『ハイジ』では主人公を丸顔にしたので、『三千里』のマルコは、ちょっと潰して楕円形にしたのだとか。
また、本作でレイアウトを手がけた宮崎駿さんが、ほんとうにすごかったとふり返ります。レイアウトという仕事でありながら、「自分だったらこう動かすぞ」という気概を持ち、アニメーターに支持を入れたレイアウトを切っていたそうです。宮崎さんの、この仕事ぶりがあったお陰で、小田部さんは作監作業に集中できたといいます。
そして、小田部さんも、宮崎さんも、高畑監督を100%信頼していた。『太陽の王子ホルスの大冒険』で培った土台があたからこそ、やり遂げる確信があったといいます。
しかし、現在の宮崎さんは、監督になってしまったので、『三千里』を自分の仕事と思っているかどうかわからないとも語ります。アニメーターとしての仕事と、自分が演出を手がけるようになってからでは、見え方が変わってしまうのですね。
客席からの質疑応答では、『フランダースの犬』に高畑さん、宮崎さん、小田部さんの三人が、1話だけクレジットされているが、どのような経緯で参加したのかを聞かれていました。しかし、ご本人はまったく覚えていないとのこと。『ハイジ』が終わってくたびれていて、参加した記憶はないと、驚いていました。
「マルコの世界 小田部羊一と『母をたずねて三千里』展」は、12月22日まで開催。17日には高畑勲監督のトークショーが、18日にはジャズコンサートが行われます。入場無料ですが、トークとコンサートは要予約となっています。
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