安藤雅司『千と千尋の神隠し』や『もののけ姫』で作画監督を務めた安藤雅司さん。今や、アニメーション界のレジェンドと呼ばれる存在になっています。最近では、新海誠監督の『君の名は。』に参加したことでも話題となりました。
スタジオジブリには研修生として入社し、宮崎駿監督のもとで鍛えられてきた、ジブリ生え抜きのアニメーターです。



安藤さんは、『おもひでぽろぽろ』から『千と千尋の神隠し』まで、スタジオジブリで獅子奮迅の活躍をしてきました。

実力もあり、ジブリからも必要とされてきた安藤さんは、なぜ退社の道を選んだのでしょうか。そこには、才能が高い故の悩みもあったようです。

ラジオ「ジブリ汗まみれ」のなかで鈴木さんが、退社の理由を語っています。

『千と千尋の神隠し』は、宮崎駿が修正したカットを、安藤雅司がすべてやり直している

鈴木:
『千と千尋の神隠し』において特筆すべきは、安藤雅司。あいつの頑張りは、凄かったです。

――『もののけ姫』でも作画監督をやられて。

鈴木:
これ、時効だと思うから話しちゃおうと思うんですけど。『もののけ姫』のとき、当時26歳かな? 彼を抜擢。それで、彼は『もののけ姫』で頑張るわけですよ。ところが、なんていったって大作の長編映画。彼だって、初めての体験。『もののけ』においては、簡単に言うと芝居は宮さんが決める。それで、彼がキャラクターの整理と、線の統一。そういうことをやっていって、宮さんだって迷うときがあるから、安藤に確認。で、安藤がそれに対して意見を言う。というので、2年やったわけですよ。で、2年間やって、安藤がぼくのところに来るんですよね。「辞めたい」と。
辞めたい理由は、「疲れた」じゃないんですよ。やっぱり、自分が思うアニメーションと違う。だから、自分が何処かへ行って、自分の可能性を試したい。そのころ、真ん中に『となりの山田くん』が入っているんですけど。彼が辞めたいって言ったのは、『山田くん』の途中だった気がするんですけど、ぼくが引き止めるんですよね。でも、彼としては納得しない。それで、彼と密約を結ぶんですよ。それは何かと言うと、「芝居も全部やります」と。

――次の作品では?

鈴木:
で、『千と千尋』でしょう? その密約を「鈴木さん、補償してくれるか?」でしょう? ぼくとしては、安藤がいなかったら出来ない。それでやるわけですよね。これ、宮さん知らないんですよ。

――宮崎さんが知らずに、それをやらせることは可能なんですか?

鈴木:
だから、事件が起こるわけですよ、さまざまな。なんていったって、安藤は若いでしょう。宮さんは、還暦ですから。年取ってきたでしょう。そうすると、宮さんだってふんばって頑張る。夜の12時までかけて、宮さんは、みんなが描いたあらゆるカットに、修整を入れるわけですよ。そうすると、その修整を、安藤が全部やり直しちゃうんですよ。朝までかかって。
そうすると当然、最初のうちからあからさま。要するに、ラッシュになったらすぐにわかる。そこで、宮さんがどうするかでしょう。宮さんも、最初のうちは我慢しますよね。だって、ここで一言いったら、どっか行っちゃうんだもん、それは、なんとなくわかるわけですよ。それで、それをやりきったあと、結局は辞めるんですけどね。

――宮崎さんは、最後まで我慢したんですか?

鈴木:
途中、揉めてましたけどね。でも、宮さんも、それを言っちゃったら……ねぇ。

――安藤さんを失うわけにはいかないと。

鈴木:
いったい、どういう思いでやったかですよね。

――安藤さんは、自分で直し切ったことに、ひとつの満足があるわけですか。

鈴木:
そう。なにしろ、髪の毛が全部抜けちゃいましたからね。

リアリズムで描かない宮崎駿と、デッサンの狂いが許せない安藤雅司

――安藤さんが、完全に自分の芝居でアニメーションを作りたいっていうのは、監督をやりたいって欲求よりは、アニメーターとして、それをやりたいということなんですか?

鈴木:
そう。元々は、監督志望だったんですよ。
監督志望だったんだけれど、監督をやるには、やっぱりちょっと問題もある子で。どういうことかって言うと、面白いことより、正しいことを優先させる人なんですよ。

――正しい?

鈴木:
漫画って、デッサンでいったら、くるってるわけですよ。それを安藤は許せないですよ。ちゃんとしたいんですよね。宮さんって、カットごとに人間の背の高さなんて、ころころ変わるわけですよ。そうすると、『千と千尋』なんか、全部彼がそれを修正するし。なおかつ、芝居も宮さんの言うことを受け入れつつ、しかし、アニメーションとして自分流のものを持ち込む。それは、熾烈な戦いですよ。だから、宮さんが衰えを知ったのは、このときでしょうね。

――ある意味では、安藤さんが作ったもののほうが良い部分が?

鈴木:
だって、自分に体力があり、力がみなぎってたら、絶対許さなかったですよね。でも、それを認めざるを得なかった自分がいるんですよ。だから、非常に複雑なことが起きたんですよ。要するに、『もののけ姫』ではアニメーションとしても、自分が今までやっていない、いろんな芝居にチャレンジ。それは、上手くいったシーンもあれば、上手くいかなかったところもある。
ところが、『千と千尋』って、自分がこれまでに培った、あらゆる技術をぶち込んだんですよ。そういうことで言うと、集大成なんですよ。ところが、そうはさせなかったのが、安藤。その火花が、この作品に、ある迫力を与えているんですよ。そういう意味では、傍から見ていて面白かったですよね。
でも、ぼくはなんていったって、安藤とそういう密約を交わしているんで、それを守る側に入ったんですよ。

――なるほど。流石ですね。

鈴木:
ぼくもプロデューサーやってますね(笑)。

結果として、『千と千尋の神隠し』を作り終えた安藤さんは、スタジオジブリを退社してしまいます。
その作品の出来栄えには、どう感じていたのでしょうか。『千と千尋の神隠し』ロマンアルバムの中で語られています。

宮崎アニメの動きに現実味を加えたかった

安藤:
作品に関わる前は、宮崎さんの作品でありながら、自分にとっての作品にもなり得るようにしたいと思っていたし、今までと比べても一番深く関わるつもりでいた作品だったんですけど、結果的に距離をおいた関わり方になってしまったかな、と。スタッフとしての役割は果たしたつもりではいるんですが、この作品はやっぱり宮崎さんの作品だったと思うんです。

(中略)

――千尋の動きに関してはどうでしょう。作画監督として、宮崎さんが描かれたものにも、若干の修整を加えられたりしたという話を聞きましたが、安藤さんの目指した動きは、どれだけ千尋に入っていますか?

安藤:
単純に宮崎さんだったらこうはしないなというところが、どこかにでているとは思います。

(中略)

宮崎さんの動かし方というのは、やっぱりどこか漫画映画的なんです。例えば、キャラクターを速く走らせたいと思ったら、それが最優先されて現実的な動きではなくなっていく。しかし、今回は、普通の少女を描く映画として始まった作品ですから、速く走れちゃうというより、速く走ろうとしている感じが出ているほうがいいと思ったんです。

(中略)

――宮崎さんの動かし方に、さらに現実味を付加していくという感じでしょうか?

安藤:
そうですね。初めのうちジブリ以外のアニメーターの方を多く誘ったんですが、この話をすると「宮崎作品でそれができたら面白いですね」という反応がけっこう返ってきたんです。そういうことからいっても、今回宮崎アニメを新しい形に持っていける可能性はあったんだと思います。ただ、入っていただく時期が遅かったということもあって、その方々の持ち味を十分発揮できるところまでフォローできませんでした。今は申し訳なく思っています。

(中略)

俺は、ジブリ的なアニメーションを作っているだけでは、ジブリ的なアニメーションのレベルを維持できないんじゃないかと思うんです。同じところしか見ていないと、クオリティは落ちていく一方だと。

(中略)

フリーで活躍されているアニメーターの方々は、自分が確立した方法論以外の表現を求めて、試行錯誤しながら技術に磨きをかけていくことを、自ずとやっているわけです。それに比べるとジブリは、宮崎アニメという手本があって、それに使づいていくことが目標だと、作り手が思ってしまうところがある。それではいけないんだろうなと。

才能が高い故に、宮崎アニメの枠組みだけでは収まりきれず、安藤さんは本作を最後に退社します。フリーとなり、マッドハウスや、プロダクションIGの作品を中心に活躍していきます。
その後、高畑勲監督の『かぐや姫の物語』で原画を担当。米林宏昌監督の『思い出のマーニー』では、作画監督を務めてジブリ作品に復帰。スタジオジブリを飛び出した、その才能は、さらに大きくなってスタジオジブリ作品に戻ってくることになりました

現在、安藤雅司さんは、神山健治監督の『ひるね姫』や、米林宏昌監督の『メアリと魔女の花』などに参加されているようです。

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